大キュエレンのハーン、セシズ・ハーンは死に瀕していた。何てことはない、寿命が他の種族より短いとされる獣人。運命に噛みつき続けた男でさえも、定めが訪れんとしたのである。
だが、それでもセシズ・ハーンはまだ元気だった。命が終わる寸前にも関わらず、この男はこう叫んだ。
だが、それでもセシズ・ハーンはまだ元気だった。命が終わる寸前にも関わらず、この男はこう叫んだ。
「息子どもを集められるだけ集めろ!遺言を告げる!」
それを聞いた従者が慌ててセシズ・ハーンの沢山いる息子を集めると、セシズ・ハーンは集まった顔ぶれに満足そうにしてからこう言った。
「数人おらんのが腹立つが、遺言を言うぞ!誰か書き留めろ!」
息子の数人が急いで紙と筆を用意するのを横目に、セシズ・ハーンは遺言を皆に聞こえるように大声で話し始めた。
「一つ!キュエレンはもう俺様の国じゃねぇ、お前らだけの国でもねぇ!民草の血が通う国だ!草原の遊牧民も、川沿いの農民も、都市の商人も皆キュエレンの民だ!ソイツらを舐めた統治をしたら俺が祟り殺しに行く!」
何人かの息子の顔から血の気が引ける。おおよそ正気ではないと思ったのだろう。
「一つ!心残りが幾つかある!ダチの死に目に遭えなかったこと、カリフに仕え続けられなかったこと、そして魔物をこの国から一掃できなかったことだ!
だがな、俺様はカリフを恨んじゃいねぇ!今も敬愛している!だから、偉大なる預言者様に、カリフに、ナッハール教団のカリフに兵を挙げた奴は俺が祟り殺す!」
だがな、俺様はカリフを恨んじゃいねぇ!今も敬愛している!だから、偉大なる預言者様に、カリフに、ナッハール教団のカリフに兵を挙げた奴は俺が祟り殺す!」
息子達は息をのみ、空気が冷える。
「一つ!俺様の墓標に魔物の首を置け!出来るだけたっぷりだ!いいか、お前らの子孫が絶えるか、この国から魔物の脅威がなくなるまでやれ!やらなかったら民を案じていないことであると見なしてソイツを祟り殺す!」
息子の一人は付き合いきれんとばかりに席を立とうとするが、セシズ・ハーンの眼光に負けて座り直す。
「一つ!後継者は坊、勿論お前だ!長男として下のクソガキどもをまとめろ!いいな!」
長男に目線が集まり、皆が祝福する。遊牧民たるキュエレンのハーンの子は、情に篤いのだ。
「最後に!キュエレンの外敵が現れたら俺の墓標にその首を置け!負けることは許さん!いいな!」
そう叫び、立ち上がり、息子達を睨む。
そしてそのまま仰向けに倒れーーセシズ・ハーンは事切れた。
息子達は皆、「父親らしい最期だ」と畏敬の念を露にしていたという。
そしてそのまま仰向けに倒れーーセシズ・ハーンは事切れた。
息子達は皆、「父親らしい最期だ」と畏敬の念を露にしていたという。