トリア共和国フローレンシア市、ガスペリ家の本邸のリリアーナの書斎にて、その主は一人のメイドを側に待たせながら、読書をしていた。
「カロリーナ」
「はい、お嬢様」
「貴方から見て正面の棚の最上段、そこに入っている『エルニア帝国のレガリア』の本を取って、私に渡しなさい」
「……今読んでいる本が良いところで。お嬢様、ご自分でやられては?」
「貴女の方が近いし、何より台を持ってくるのが面倒。貴女がやってくれた方が色々楽なの」
「であれば、そのように」
「はい、お嬢様」
「貴方から見て正面の棚の最上段、そこに入っている『エルニア帝国のレガリア』の本を取って、私に渡しなさい」
「……今読んでいる本が良いところで。お嬢様、ご自分でやられては?」
「貴女の方が近いし、何より台を持ってくるのが面倒。貴女がやってくれた方が色々楽なの」
「であれば、そのように」
そう、なんとも言えぬやり取りをする二人であったが、おおよそ姉妹のような距離感と言えばそうと言えなくもなかった。
結局のところメイドは動き、主人は本を読み続ける。そうして求められた本が置かれた時、メイドはふとした疑問を溢す。
結局のところメイドは動き、主人は本を読み続ける。そうして求められた本が置かれた時、メイドはふとした疑問を溢す。
「……そういえば」
「カロリーナ、何かしら」
「何故今、この本を?」
「カロリーナ、何かしら」
「何故今、この本を?」
顔色、表情ひとつ変えずに主人はこう答えた。
「本当にこの一つが抵当に入るとして、キチンと査定するための知識は必要でしょう」と。
「本当にこの一つが抵当に入るとして、キチンと査定するための知識は必要でしょう」と。
――『エルヴン帝国』女帝の下で各国が結集する暫く前のことである。