けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

イノセント3

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 次の日講義室に入ると、澪ちゃんはすでに一番前の席に座っていた。
 いつもの綺麗な横顔を見せながら読書している。
「じゃあ、今日から澪ちゃんと講義受けるよ」
「りょうかーい」
 後ろにいた友達三人に了解を取る。
 私はそれから意気揚々と澪ちゃんに声を掛けた。
「おはよう、澪ちゃん」
「あっ……えっと、おはよう、ございます……」
 私の声に慌てて、途切れ途切れの挨拶をする澪ちゃん。
 やっぱり一瞬しか目をあわせてはくれないけど、でも充分だった。
 可愛いなあ。
「隣いい? 今日から、一緒に受けようかなって思ってさ」
「……はい」
 この反応。
 口でははいって言ってるんだけど、でも表情はやっぱり浮かばれない。
 今まで一人でずっといたんだ。澪ちゃんは一人がよかったのかもしれない。
 だから突然他人と一緒に講義を受けるのは気が引けちゃうだろう。
 私は、澪ちゃんに尋ねた。
「……嫌、かな?」
「そ、そんなことない……です」
 澪ちゃんは焦ったような口振りでそう返してくれた。
 どっちかわからないけど。
 でも。
 嬉しかった。
「……ありがとう。よろしく澪ちゃん」
 澪ちゃんの隣に座った。
 だけど会話は弾まなかった。
 私だけ一方的にべらべらと喋り過ぎじゃないのかと昨日反省したからだ。
 それにもうすぐ講義だ。
 澪ちゃんは講義に使われる教材をペラペラめくったり、手帳のようなものを取り出して何か確認しているような様子だった。
 私とは違って立派な優等生、という感じがする。
 私は頬杖を突いて、隣の澪ちゃんを見つめていた。
 澪ちゃんはそれに気付くと、恥ずかしそうに目を逸らして。
 だけどやっぱり私が気になっちゃうのかまたこっちを見たり。
 焦るように狼狽しながら、落ち着かない様子だった。
 申し訳ない気持ちもあるけれど、正直可愛い。
「その手帳、何が書いてあるの?」
 なんでもいいから、話しやすい話題。
 澪ちゃんは、自分の手の中にある手帳を見下ろした。
「これ、ですか……?」
「うん。さっきから開いてるけど」
「……よ、予定が書いてあるだけです」
 それで終わった。
 澪ちゃんは気恥ずかしそうに、手帳を閉じてそれをしまう。
 それから、両手を膝の上に乗せてじっとしていた。綺麗な横顔だった。
 切り揃えたような前髪も、後ろに伸びる綺麗な髪も、どこをとっても完璧だった。
 頬杖を突いたまま見つめる。
 たまに澪ちゃんがこっちをちらっと一瞥することもあって。
 会話もないまま、時間は過ぎて。
 教授がやってきた。








 一番前、というのは正直めちゃめちゃ辛い。
 昨日までは友達三人と後ろのほうの席に座っていた。
 この講義室はどの席に座ってもよく、気分で変えてもよし。
 仲良しグループで固まってもよしというそれなりに学生たちの自主性を重んじる、といえば聞こえはいいが、ただ単に自由だというだけだった。
 だから私たちも昨日までは『仲良しグループ』として後ろの方の席に座っていたのである。
 それが突然一番前に来たのだから、ある意味で縛られる。
 例えば後ろの席なら寝ようと思えば寝れたのだけど、一番前になるといかんせん教授が目の前で講義しているのだ。
 そうなると簡単に寝ることはできないし、寝たら教授直々にお叱りが飛ぶという事態を招く。それだけは避けたい。
 一番前は迂闊な行動ができなくて、暇だった。
 ただノートを取ったり、教材を見たり。
 だから暇になると、隣で真面目に講義を受けている澪ちゃんに目が行く。
 あんまり見つめすぎると集中できないだろうから、正面を向いているように見せかけて横目でちらっと見る程度にした。
 澪ちゃんのノートは、とても綺麗だった。国語の先生が書いたんじゃなかろうか、というぐらい筆記が乱れない。
 たかがノートにそこまで気張る必要があるのか、と思うけれど、澪ちゃんは別に気張っているわけでもなく平常がその字面であるというだけだろう。
 スラスラと教授の講義のポイントだとか、ホワイトボードに書かれた内容を書いていく。
 そこに気張っている様子は微塵もなかった。
 すげえなあ。
 高校時代の澪ちゃんの友達が羨ましい。
 だってテスト前にこのノートを見せてもらえるんだぜ。
 きっと誰よりもわかりやすいノートなんだろうなあって思う。
 もし私が澪ちゃんと友達だったら、多分テスト前は泣きついてたかもしれない。
 このN女子大ですらギリギリだったんだからなあ。
 誰かに頼るなんてせずに、部活も適当にやって、ただ漠然と勉強してたから。
 もし誰かに勉強を教えてもらえてたら、もっと点数伸びてたかもしれない。
 いや、それは甘えか。人に頼ろうなんて甘いぞ私。


 でも。
 でもさ。
 テスト前や受験の時に、勉強教えてもらってたり、ノート見せてもらったり。
 そういう友達、私にはいなかったなあ……。

 私は澪ちゃんを通り越して、窓の外を見た。
 緑黄のある木々。
 春はまだ始まったばかりだった。







「澪ちゃんは部活何かやってた?」
 私は昼食のうどん(昨日は蕎麦だったけど、ここの食堂は麺類が安い)を食べながら、日替わりランチセットを食べている澪ちゃんに尋ねた。
 桜高という共通点があるので、高校時代の話題は会話が繋げやすいはず。
「文芸部、です……」
「文芸部! あの、小説とか詩とか発表する部だよな?」
「……まあ、はい」
 なんか似合うなあ。文芸部だなんて私とはまったく交わらないような部活だけど、学園祭で文芸誌を発表していたのを覚えている。
 私はあんまり読書はしないのでその冊子はパラパラ捲っただけだけど、同じ高校生かと思うぐらい完成していた。
 あの中に、澪ちゃんがいたんだ。
「澪ちゃんも何か書いてたりしたの?」
「少しだけ」
「小説とか?」
「……詩でした」
 どっちだとしてもイメージに合うななんか。
 それより意外と会話が続いていて嬉しかった。やっぱり共通点というのはいいものだ。
 相手しかわからなくて片方はわからない、という話題はすぐに終わってしまう。
 『はい』か『いいえ』で答えられる質問じゃないから、澪ちゃんも喋ってくれる。
 無理させちゃってるかもしれないけど、でもなんかホッとした。
「部長やってたりとか?」
 軽い気持ちで尋ねた。
「違いました……」
 だよなあ。
「実は私バスケ部の部長だったんだ。だから、もし澪ちゃんが部長だったら、部長会議で会ってたかもって思ったんだけど」
「はあ……」
「まあ部長じゃなくて当然だよな。だって部長会議で会ったことがあったら、そう簡単に澪ちゃんのこと忘れられそうにないし」
「えっ……」
 あっ、直球過ぎた。
 澪ちゃんは箸を止めて、私を見ていた。
 徐々に赤くなってる、ようにも見えるけど。
 それから、顔を隠すように俯いてしまった。
 もしかして結構恥ずかしいこと言ったかな私……。
「あ、えーと。つ、つまりそれだけ澪ちゃんが美人だってことだようん!」
 別に何か失言をしたわけじゃないのだけど、でもなんか弁解するように焦りつつそう言った。
 しかしまったく取り繕えていないのは私自身が一番分かっていた。
 澪ちゃんはしばらく下を向いたままだったけど、少ししたら顔を上げて、またぎこちない表情で答える。
「……美人じゃないですよ」
「いや澪ちゃんは美人だよ。綺麗な髪だし」
 外見だけが魅力じゃないと思う。
 私が澪ちゃんに話しかけようって思ったのは。た
 まに目で追っていたのは、別に澪ちゃんが美人だったからじゃない。
 それもあるかもしれないけど、でもそれが大きな理由というわけではなかった。
 一人ぼっちだったから。
 それが一番だった。
 だけどそれだけってわけじゃない。いろんな理由が――外見だけじゃなくて、
 雰囲気も瞳も、澪ちゃんのいろんな何かが、私に話しかけるように誘導させたような気がするのだった。
 『理由』が横並びしている。
 一番は外見かもしれないけど、でも同率一位の話しかけた理由がたくさんあるのだった。
 でもやっぱり、今は外見しか褒めれない。
 澪ちゃんの性格も、心のうちも、好きなものも趣味も、なんでも。私はまだ澪ちゃんのことを何も知らないのだから。
 だから褒めることができるのは、外見と綺麗な字ぐらいしかなかった。
 でも、外見だけ褒められるのなんてやっぱり誰だっていい気はしないだろう。
「別に美人だから声をかけたわけじゃないけどね」
「……そうですか」
 それで終わった。
 後は午後の講義の話とか、字が綺麗なことを褒めて昼食は終わった。
 褒めてばかりだし、話しているのは私だけだった。

 友達なのに名字っておかしい。
 だから澪ちゃんって呼ぶことにしたけど。
 一方的な語り掛けは、友達だといえるのかなあ。






 4月24日 晴れ


 今日から田井中さんと一緒に講義を受けることになった。
 嬉しい気持ちはあるけれど、でもやっぱり申し訳ないし緊張する。
 全然話ができないし話し掛けれない。なんで上手くいかないんだろう。
 困らせちゃってるかな。嫌ってるとかうるさいなんて気持ちはないのに。
 それもこれも、全部今まで逃げてきたからだ。

 今まで美人って褒められたことはあるけど、全然嬉しくなかった。
 でも今日田井中さんに言われたら、なんだか嬉しかった。
 何でなんだろう。

 晩御飯は、適当に食べた。
 人差し指しかキーボードが打てないけど、課題はそれなりに進んできた。
 計画通りに終わりそう。

 手帳には、課題の予定が書いてあるんだって言えばよかった。


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