けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

イノセント12

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mioritsu

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 私はベースを買った。
 この十カ月、私はいつも律と一緒にいて、律といろんなものを共有して……好きなものまで一緒になって。
 結局楽器を始めることになったのだ。
 初めて律の家に遊びに行った時、律にザ・フーというバンドのDVDを見せてもらった。
 その時、ちょっとだけ興味を持った。
 というのは嘘だ。
 音楽に最初から興味があったわけじゃない。ただ単に、律が好きなら私も、という軽い気持ちだったのだ。
 だからこっそり律の音楽雑誌を読んで私も楽器をやろうと思った。
 でもギターはなんか目立つから嫌だった。だから悩んだ末にベースを購入したのだ。
 私もベースやろうかな、と言った時の律の喜びようと言ったら……。
 私の名前を何度も呼んで、抱きついてきた。
 あの時の律は、どこか変だった。
 喜んでくれるかと思ったけど、律は泣いたのだ。
 それがよくわからなかった。


 律の部屋で、セッションをした。
 あいにくバンドを組んでいない……というか元よりバンドを組むつもりはさらさらなかったので、二人だけでずっと演奏するのが普通だった。
 ベースとドラムはリズム隊という一つの括りなので、一応はセッションが可能だった。
 『ベースとドラムは一括り』というのは、なんとなく嬉しかった。
 律はというと、あまり盛大にドラムを弾けないのが悩みだった。
「隣に迷惑なんだよなあ……音がすごいから」
「ベースも同じだよ。まあただのアパートでセッションすること自体いろいろと間違いなんだけど……」
 律はドラムセットのシンバルに触れた。私はベースを担いだまま立っていて、その律の様子を見ていた。
「はあ……やっぱり、軽音サークルに入ったほうがいいのかなあ」
 律が溜め息混じりにそう言った。
 一瞬喉が詰まった。
「サークル……」
 無意識にそう呟いていた。
「澪?」
 名前を呼ばれたけど、私は反応できなかった。
 サークルに入れば、思いっきり演奏はできるだろう。
 防音もなされていないアパートの一室でアンプに繋げてベースを鳴らすのも、勢いよくドラムを叩くのにも限界はある。
 他の住民の方に迷惑だし、何より目立ってしまう。
 だから、サークルに入れば思う存分演奏はできる。
 それはいいことだろう。
 でも、私は釈然としなかった。
 サークルに入るなんて……。
 すでに出来上がっているサークルの輪。どのくらい人数がいるのかわからないけれど、でもすでに四月から十カ月だ。
 もうメンバーは仲良くなっているだろう。
 そんなすでに出来上がっている仲良しサークルに、今更入るなんてことは私にとって怖くてたまらなかった。
 ただでさえ人と話すの苦手なのに、サークルだなんて。
 しかもすでに出来上がった仲良しの中に入り込むなんて。
 頭の中でサークルに入った私を想像してみる。
 でもどうやったってオロオロして、どぎまぎして、律の傍にずっといて……話しかけられたって全然会話は繋がらなくて。
 それで皆に呆れられて、嫌な思いさせて、それで一人になっちゃうんだ。
 律も、私を放ってサークルの人と――。
 律?
 律は私と違って、明るくて、友達を簡単に作れて……。
 律がサークルの人たちと仲良くやっている姿が浮かんでくる。
 それが頭で再生されると、胸が一杯になった。
(……律に嫉妬してるのかな)
 私なんかと真逆で、太陽みたいに明るくて、皆を笑顔にする。
 だから、律のことを好きな子がいたって不思議じゃない。
 律が誰かと仲良くしたりする姿を想像したり、実際律が誰かと仲良さそうにしたり……私にはできないことを平気で律はやってのける。
 私はそんな律が、羨ましいと思っているのかもしれない。
 だから、こんなにも痛いんだ。
「澪、どうかしたのか?」
 律が私に声を掛けた。
 私の気持ちも知らないで、呑気に構えて。
 なんだよ……。
「なんでもないよ……今日は終わりにしよう」
 私はベースを下した。
 律は私を見て怪訝な顔をするけど、そうだなと返して立ち上がった。









 夜、律と電話した。
 結局律が誘われたバレンタインのお食事会の話題になった。
 私は布団に寝転んで、律の声に耳を傾ける。


「食事会、どうしようかな」
「なんでそれを私に言うんだ? 律が自分で決めればいいだろ」
「そうだけど、でも……澪なら、どうする?」


 考えてもみない質問だった。
 私が律なら、どうするのだろう。
 私のことを好きだと言ってくれる子がいて、その子が一緒に食事しませんかと誘ってくる。
 でも、どうなんだろう。私は律と一緒にいたいから、断ってしまうかもしれない。
 だけどその子の気持ちもありがたいと思ってしまうかも。
 いや、私は何を言ってるんだ。
 律と一緒にいたいからってのはおかしいだろ。今私は『私が律だったら』の例えを考えているんだ。
 私が律だったとしたらの話だ。それなのに律と一緒にいたいからってのはおかしい。
 律が二人いることになってしまう。
 だとすれば、逃げる理由がなくなる。
 だって私が律なら……。
 私が律なら、澪と一緒にいたいから断るなんて選択肢はないんじゃないか。
 だって律は、友達がたくさんいて。
 私みたいに、『律だけ』っていうのがないから。
 律は私を特別な奴だと思っていないんじゃないのか。
 それが怖くて仕方がない。
 随分前に、私のことを特別だと言ってくれた律。
 でも、それが今でも続いてるのか。
 そう考えると、律じゃない私は何も言えない。

「おい澪ー、寝るなよ」
「寝てないよ」
「じゃあ答えろって。澪ならどうするの?」

 私が今ここで何を言えば、律はその子の元へ行かないのだろう。
 食事会を断る選択に律を導くことができるんだ?

 ……馬鹿澪。
 そこは律が決めることだって自分で言っておいて。
 結局、律のことが好きだというその子の恋路を邪魔しようとしてる。
 行けばいいだろって、昼間は言ったくせに。
 そう言って、律がそうするって言わなくてよかった。
 私は私の発言が一番わけがわからない。


 律に断ってほしい。その子との食事を。
 そう言うのは、間違いなのかな。

 でも、そうしたいんだ。
 律に、そっちに行って欲しくないんだ。


「断る、かな」
「……そうか。じゃあ私は、どうしようかな」
 律は普通の、波のない普通の声で言った。
 私は自分の馬鹿さ加減に呆れる通り越して怒りが高まってきた。
 自分勝手すぎるんじゃないのかよ。
 私は居た堪れなくなって……本当はもうこれ以上この話はしたくなくて。
 何より律がこの話題のことを考えているという事実から目を背けたくて。
「そんなことより、課題やれよ」
「そうだった! じゃあ、電話切るな。また明日」
「ああ……」

 私は携帯を枕に叩きつけた。

 ……もう、胸が痛くなるばっかりだ。
 私はどうにか時間が痛みを消してくれることを願って、さっさと寝た。


 私は、どうしたんだ。
 律と一緒にいたら、私は変になってるんだ。

 律が誰かと仲良くなること。
 律とすでに仲のいい誰かがいること。
 律のことを好きな誰かがいること。
 ……私は、そんな律に嫉妬しているかもしれないこと。


 ああもういいや、寝ちゃおう。
 そうすれば、また明日律に会えるんだから。
 こんな痛みとも、お別れできるはずなんだから。







2月7日 晴れ


澪に習って日記をつけ始めて、もう一カ月は経つ。
一回も澪は日記を見せてはくれないけど、日記って案外楽しそうだ。
面倒だけど、後で見返したらいろいろと面白そう。

今日、私のことを好きと言ってくれる子がいると友達から聞いた。
複雑な気持ちになった。嬉しいは嬉しいのだけど、応えられそうになかった。
しかもバレンタインに食事に誘われてしまった。

どうしよう。

そしたら澪の奴、行けばいいだろだなんて。
ショックと言えばショックだ。嘘かもしれないけど、でも。
断れって言ってほしかったなあ。
そんなのわがままか。


バレンタイン、澪はどうするのかなあ。


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