けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

イノセント11

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<第二部・登場人物>




秋山澪……N女子大学一年生・第二部の主人公
田井中律……N女子大学一年生


××……N女子大学一年生・律の友人の一人
曽我部恵……N女子大学二年生・律と澪の高校時代の生徒会長

平沢唯……N女子大学一年生










<第二部>




 律と出会って、十か月が経った。




 私はバスに乗った。
 同じように乗っていく人たちは、大抵私と同じぐらい若い。
 イヤホンを耳にしている女の子もいれば、友達と楽しそうに談笑している子たちもいる。
 このバスは女子大行きだから、ほとんどの乗客は女の子だった。
 おそらく大抵はN女子大の学生だろう。だけど案の定私と交流がある人はいない。
 いや、いる方がおかしいのだ。
 私は冷えた指先を撫でた。
 席は空いていなかったので、仕方なく吊革に捕まる。
 片手が吊革を掴むと手を温めることができないので厄介だ。
 それも手袋を忘れてしまった今日に限って席が空いていないなんて。
 今日の運勢は最悪かもしれなかった。
 マフラーに顎をうずめる。お気に入りの白いマフラーだ。
 もう冬を感じるようになって二か月余り。
 暦は二月。
 大学の講義にも慣れきって、友達がたった一人しかいないという状況にも慣れた。
 今年度の手帳は埋まりつつあって、それとはもう一月ほどでお別れだ。
 手帳にはいろいろお世話になった。
(……寒い)
 だけどこれでも、もう少しで冬は終わるんだ。


 でも、まだ冬は長かった。











「そういや澪ー、試験の課題終わった?」
「なんだよ律。まさかまだ終わってないのか?」
 私たちはいつもの窓際の席で昼食を食べていた。
 律はいつもここの麺類は安いんだ言ってうどんだったり蕎麦だったりを食べていたけれど、今日はハンバーガーだった。
 どうやら今月はあまりお金がないらしい。さては先週買ったあれか。
 律はハンバーガーを手に持ったまま、ちょっと恥ずかしそうに目を逸らす。
「だってさー、フロアタム買ったんだから練習に気合が入っちゃって」
「私だってこの前ワウ買ったんだからな。だけどちゃんと課題したんだぞ」
「なんでバンドメンバーいないのにワウなんだよ!」
「だって欲しかったし。律だってバンド組んですらないのにフロアタムなんて」
「し、仕方ないだろ欲しかったんだし。それでさあ澪」
「なんだ?」
「課題、手伝ってくれないかなーなんて……」
 律がハンバーガーを置いて、合掌した。
 私は別に怒っているわけじゃないのだけど、とりあえず泣き喚いて懇願してくる律の姿も見てみたい。
 なによりここですぐに折れてしまうと私らしくはなかった。
 昔はもっと単純だったんだけどなあ。
「自分でやらないと力がつかないだろ? テストもあるんだから」
「だって課題難しいじゃん。あの問題集の答え配らないとはなんて教授だ」
「答え配ると答えだけ見て提出するだけの人が増えちゃうからじゃないか? お前みたいにさ」
「失敬な! 一度でも答え見たことあるかよ私が」
「……ないけど」
「ほら見ろ! 澪がいれば答えなんて必要ないのさ」
「そこに誇ってどうすんだよ」
 そんなやり取りをしていたら、私たちのテーブルに誰かが近づいてきた。
「二人とも仲いいわね」
 そう言ってやってきたのは、律の友達だった。
 確か、××さんと言ったかな。
 私も一応、その人の名前だけは知っていた。
 律は彼女のことを友達だけどさん付けしていた。どうやらうまい呼び方がないらしい。
 律が大学に入って最初に仲良くなったというグループのうちの一人である。
 私は彼女……それでなくとも律以外の誰かとは全然仲良くなかった。
 だから彼女が話しかけてきたと同時に、さっきまで律に対して威勢を放っていたくせに委縮した。
 私は口を閉じて、両手を膝の上に揃えて俯いた。
「何? どうしたの?」
 律がハンバーガーを食べながら、その××さんに問うた。
「秋山さんの前じゃあれだから、ちょっと来てくれないかな?」
 私の名前が出たので、上を向いた。律はよくわからないという表情で、彼女に連れて行かれてしまった。
 連れて行かれたといっても遠くではなく、私に会話が聞こえないぐらいの位置だった。
 食堂のほぼ真ん中だ。
 私に聞かれたらあれって、どういう意味だろう。
 二人は固まって何やら話している。私は食事のことなんかすっかり忘れて、その様子だけを茫然と見つめていた。
 律はなぜか照れるように後頭部を手で触っていた。
 その様子を見ていて、なんだかズキズキした。
 律と出会ってから、こういうことばっかりだな……。
 私は箸を持って、すっかり冷めてしまった味噌汁を飲んだ。









「なんだったんだ、さっきの話?」
 午後の講義へ行く途中の廊下で、私は尋ねた。
 律は天井を見ながら唸った。
「んー……澪は特に関係ない、けど」
「でも気になるだろ」
 気になるんじゃなくて、隠されているような気がして嫌だからだ。
 律は私の目をチラッと一瞬だけ見て、唸った後言った。
「いや、なんか……友達の友達に食事に誘われたというか」
 律の濁らすような言葉が、少しだけ胸に刺さった。
 何かを誤魔化そうとしてるのかな。
「友達の友達? お前の友達じゃないのか?」
「会ったことない人らしいよ。なんか別の学科の人なんだけど……」
「なんでそんな会ったこともない人が食事に律を誘うんだ?」
「……」
 律は黙った。
 私は気になって仕方なくて。
 だけどこれ以上深追いすると、なんか律に踏み込んでるように思われるかもしれなかった。
 律が誤魔化すように言ったり、黙ったり間があったりするのは、私にその事を話したくないからなんじゃないのかって。
 そんな風に思ってしまった。
 だから、これ以上話をするのはやめようかと思った。
 律が嫌なら、私はそれをしたくない。
 出会ってからずっと、私は律に嫌われたくない一心で動いてきた気がする。
 もちろん最近は少しばかり律に突っ込んで話するようにもなったし、律と訓練して言葉遣いも強くなった。
 ちょっとだけ律をあしらってみたりでもできる。課題ぐらい自分でやれだとか。
 そういう風に律に言えるようになったのは進歩だろうか。
 だけどいつだって私は律に嫌われたくなんかないのだ。
「言いたくないなら、いいけど……」
「言っていいの?」
「私に教えられないようなこと?」
 午後の講義に向かう人の波。その中にいる私たち二人。
 律は、どこか辛そうな表情をしていた。何か良くないことがあったんだろうか。
 でもさっき二人で昼食を食べていた時はそんなことなかった。
 表情が後ろ暗くなったのは、やっぱり××さんに連れて行かれた後からだと思う。
 何か嫌なことでも言われたのか。そんな様子はなかったのに。
「……じゃあ、言うよ」
「うん」
「……私のこと、好きな奴がいるんだって」
「――」
 え?
 突風が私を吹き抜けるように、冷たい感覚がまず頭を殴った。
 それから、じわじわと心の中から水が溢れ出す様にモヤモヤし始める。
 お腹のあたりがぐるぐる痛んで、もう頭も痛くなって。どこも痛いだけになった。
 だけど、いたって冷静だった。
「そ、そうなんだ……なんて子?」
「理学部の子らしいけど……さっきも言ったけど会ったことはないし、名前も教えてくれないんだ。××さんと同じ高校だったんだって」
 ××さんのことはよく知らないけど、私と律とは違う県出身だと言っていたような気がする。
 だとすると、やっぱり私と律は『その子』のことを知らないことになるだろう。
「へ、へえ……そうなんだ」
 ズキズキ。
「それで?」
「……その理学部の子がさ、今度のバレンタインの食事に誘いたいんだって私を」
 律は今度は下を向いて、告げた。長い横髪が律の横顔を隠す。
 つまり、その『理学部の子』は律が好き。
 バレンタインに食事に誘いたい。
 でも話しかけるのは恥ずかしい。
 だから高校から一緒の友達である××さんに頼んで、律への気持ちを伝えてもらった……。
 そして律とバレンタインに食事をすることも言伝たと。
 そういうわけかな。
 講義室に辿り着いて、私はドアを開けた。すでに何人か人はいたけど、みんな友達と談笑していて少しばかり騒がしさがある。
 まだ一応お昼休みみたいなものだったし、見慣れた光景でもあった。
 私と律はいつもの一番前の席に向かって歩む。
「で、なんでそれが私に聞かれちゃまずいんだ?」
「どういうこと?」
 私は鞄を机の上に置いて、律に問うた。
「だって言ってたじゃないか。私の前だとあれだからって」
「あー……それは、あれじゃない? 色恋話だし……澪は一応関係ないし」
 私はその一言が微妙にショックであった。
 律の色恋話に私が無関係。
 確かにそうだ。私はただ単に律の友達ってだけだし、家族でも幼馴染でもない。
 だから律のプライベートな会話に入り込んだり割り込む権利や理由なんてものは存在しない。
 そこは律が決めることだし、私がどうこう口出しする問題じゃないだろう。
 じゃあなんでショックなんだ私。
 さっきからキリキリと胸が痛むのはなんでだよ。
 私は席について鞄を開けた。
 律も隣に座る。
 鞄の奥を見つめながら、私は言った。
「それで……受けたのか」
 一番重要で、聞きたいのはそこだった。
「返答はまだいいってさ……私も、考えたいし」
 律はいつになく憂いた表情でそう言った。
 律のことを好きな誰かがいる。
 それを聞いて律が舞い上がらないのが、せめてもの救いだった。



 なんで、律が喜ばないのが救いなんだ?
 おかしいだろ。自分のこと好きって言ってくれたり、食事に誘ってくれたら喜んじゃうのは当たり前だろ。
 律はたまたまそうじゃなかったけど、律のこと好きっていう子がいたら、律は……律は、ちょっとだけ嬉しいんじゃないのか?
 だけど私は微塵も嬉しくなんかないんだよ。
 そこに私は、私自身に対して疑問を抱かずにはいられない。
 なんでこんな気持ちになるんだよ。
 律が、律を好きな子の誘いにすぐに乗っからなかった。
 そこに、喜んでるだなんて……。
 無性に、苛立った。
 怖かったのかもしれない。
「……行けばいいだろ。せっかくなんだし」
 私は、勢いでそう言ってしまった。
 ここで行ってほしくないとは、言えなかった。
 だけど。
「……本当にそう思ってるのか?」
 律の、少しだけ低い声が返ってくる。
 私はそれがあまりにも予想外の反応だったので、声をあげて律を見た。
「えっ?」
「……なんでもねーよ」
 律はぷいっとそっぽを向いてしまった。
 ……なんなんだよ。そうしたいのはこっちなのに。
 でも、律は何にも悪いことしてない。
 それなのに、なんだか律を責めたい。











「あ、曽我部さんじゃないかあれ」
 その日の講義が終わって廊下を歩いていると、律が声を上げた。
 視線の先には、桜ケ丘高校時代に生徒会長をやっていた曽我部さんが確かにいた。
 相変わらずだと思うけど、私が高校時代に先輩を見た時より数段綺麗になっている印象だった。
 大学生ってこんなにも変わるものなのかな。私はまったく変わっていないなあ。
 すれ違い様に、二人は立ち止まった。
「あら、田井中さん」
「どーもっす」
 律は知り合いなのかよ。
 そう突っ込もうとするけど、人前だから言えなかった。
「澪は知ってるよな。生徒会長やってた曽我部さんだよ」
「……こんにちは」
 初対面の人との会話は本当に弱い私だ。
 律以外は大抵初対面になるのだけど、人見知りはほとんど直っていない。
 少しぐらいそういうの直せるかもと期待して律の口調を真似る特訓を二人で半年ほどしたけど、結局似たような口調になるだけで性格は直らなかった。
 しかもその口調を使えるのは律の前だけで、他の人には敬語で接してしまう。
 初対面の曽我部さん。私は委縮して緊張した。
 でも、一応挨拶だけはできたぞというわずかな達成感はあった。
 それだけで達成感なんて本当に弱い。
「こんにちは。えっと……?」
 曽我部さんは言いながら首を傾げた。
 私の名前がわからない、のだと思う。曽我部さんは律を見た。
 律は私を見て一瞬呆れると、私の肩に手を置いた。
「こっちは秋山澪です。私たちと同じ桜高だったんですよ」
「そうなの。じゃあ私の後輩ってわけね」
「……」
 喋りたいのに喋れない背徳感。
 それは律と出会った最初の頃からひしひしと感じていた。私は喋りたくないわけじゃないんだ。だけど喋りたくなんかないんだ。
 私が喋ったって、どうせおどおどして途切れ途切れで……相手に迷惑を掛けちゃうだけだから。
 だから極力あんまり話したくないといつも決めているのに。
 曽我部さんは私に何も言わずに、律に話しかけた。
「どう? もうすぐテストみたいだけど」
「え? は、はい。まあなんとかやれてますよ」
 律は取り繕うような笑いを見せた。
 嘘つけ。さっきまで私に困ったように懇願してきたくせに……。
 私は苛立ちを感じずにはいられなかった。
「おーい恵! サークル遅れるよ!」
 先を歩いていた曽我部さんの友達が、声を上げた。
「あ、ごめーん! それじゃあ二人とも。またね」
「お疲れ様ですー」
 律は駆けていく曽我部さんの後ろ姿にそう言った。
 私はなんだかそわそわして落ち着かなくなって、何も言わずに胸の前で手を握りしめていた。
 初対面とはつくづく相性は悪く、結局変われていない自分の情けなさを痛感するばかりだ。
「はあー、すげーな大学生って」
「……うん」
「大学入って二年であんなに変わるのかねー」
「律は、大学入る前の曽我部さんを知ってるのか?」
 知っているかのような口ぶりの律に、私は聞くしかなかった。
 律は両手を後頭部に回して、呑気に返す。
「私バスケ部の部長だったからなあ。生徒会室とか行く機会があったんだけど、その時に知り合いになったんだよ」
「あ、そう……」
 バスケ部の部長、か。
 その話は会った時からよくする。律は快活で元気な、運動神経のよい女の子だ。
 バスケをする姿はよく映えるだろう。部長になっても不思議じゃない。
 となると部長会議なんかに出てても普通だから、その関係で曽我部さんと知り合いになったんだな。
「私は全然変わってないよなあ、一年なのに」
「そうだな」
「澪は変わったけどな。口調なんて、四月と比べるとさ」
 律は無邪気に白い歯を見せる。
 もう曽我部さんの話題は終わったのに、なぜかモヤモヤは尾を引いた。
 心の中の私は、なんとか振り切って律の言葉についていく。
「口調だけしか変わってないけどな……」
「それでも、強そうに見えるよ」
「見えるだけで、中身は……」
「でも少なくとも、私に対しては前よりも自信持ってくれるじゃん」
 それは律に、心を許しているからだ。
 律は私を、どんどん崩していく。
 今まで頑なに誰かと一緒にいることを拒み続けて、逃げて逃げて逃げまくった私を簡単に捕まえて。
 優しい笑顔で、ずっと話しかけてきたのだ。
 それが私にとって最初は大変でも、いつからかそれだけが安らぎに変わっていて。
 律にだけ、私は……――。
「それより、帰ろうぜ」
「この後は何するんだ?」
「とりあえずセッションだけしない?」
 講義を終えてから、律の家で一時間ほど楽器をつつく。
 それで六時くらいになって、私はやっと家に帰るのだった。
 それが去年の十月ぐらいから続いていた。
「ああ」
 ただ今日は、ちょっとだけ乗り気になれなかった。
 律のことを好きな子が理学部にいて、その子が律を食事に誘ったこと。
 それがバレンタインの日だということ。
 私以外の人と、律が以前より知り合いだったこと。
 律には、私よりもたくさんの友達がいること。
 いろんなことが、引っかかりすぎている。
「行こっか」
「……うん」
 こんなこと、なかったのに。
 最近律を意識することが、顕著になってきた。
 それは。
 どういうことか、よくわからないけど。


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