「澪ちゃーん!」
病院の入口で、唯が私に手を振っているのが見えた。
もうちょっと静かにしろって……いや、今はそんな突っ込みをしている場合じゃない。
随分急いできたけど、それでも二十分の遅刻だ。
唯の横にはムギも梓もいる。
待たせて悪かった、という余裕もないぐらい息切れがすごかった。
私は三人の元に辿り着くと、膝に手を突いて肩を上下させながら息を整えた。
「来ないのかもって、心配したわ」
「そうですよ。メールしてくれてもよかったのに」
私の頭上から、ムギと梓の声が掛かった。そっか、完全に忘れてた。
どうも昨日から、私は頭がうまく回ってない。
遅刻することをメールする行為すら忘れてた。
いろいろ混乱してるし、一生懸命だったから。
「間にあってよかったなー澪」
私がちょっと顔を挙げると、当たり前のような顔で律がそこに立っていた。
だけど、唯もムギも梓も、律に気付いていない。
三人とも私を見ている。
律のお見舞いに来て、その律が隣にいるのに気付いていない。
不思議な図だ。
私も油断すれば、そこに律が普段通りいるように感じちゃうだろう。
私にしか見えてない……それを確信してしまった。
息切れは収まんない。でも、それ以上に、皆が律のことを認めていない。
どうしようもない痛みが胸に広がった。
「もう二十分の遅刻だよ澪ちゃん。何してたの?」
唯の呑気な声が降ってくる。私は膝に手を突くのをやめて、体を起こした。
息を整えながら返す。しかし、視界の端に映る律の存在が気になりすぎて仕方ない。
「ごめん、寝てたんだ。どうにも、ぼーっとして」
「まあ律先輩が事故ですからね。澪先輩ならそうなるだろうと思ってました」
「うん」
梓が言って、三人が頷いた。
それはつまり、律が大変な時=私もいろいろとおかしくなる、ということを表しているし、
私もそれは承知してるけど……でも、言われると恥ずかしいことだった。
律もちょっと照れている。これが幽霊だなんて、ホント信じれない。
「それより行こうよ。もしかしたらりっちゃん、起きてるかもしれないよ」
唯が言った。
私と律の表情が、さっと冷めた。
起きて、ないよ。
私と律は、それを嫌なほど知ってるんだ。
だけど、皆は知らないんだ。
だから、痛いのかな。
自動ドアをくぐり抜ける三人の後姿を、私は見つめた。
私と律ははゆっくりついていく。
「……やっぱり、皆には律の姿、見えないんだな……」
ロビーを歩いていく皆を見つめながら、私は言う。
三人は、私の声に気付かずに歩いていく。
私の隣には、律がいる。
でも、誰も律のこと見向きもしないんだ。
人気者の律だから、誰にも見られないの、辛いんだろうなって。
意外にも構ってちゃんな律は、きっと今、悲しいんだろうなって思ってしまうのだった。
「……別にいいよ。皆が見えなくても」
「でも……」
「澪だけで十分だよ」
律は笑ってくれた。
ホント、なのかな。
私だけでいいわけがない。
病院の入口で、唯が私に手を振っているのが見えた。
もうちょっと静かにしろって……いや、今はそんな突っ込みをしている場合じゃない。
随分急いできたけど、それでも二十分の遅刻だ。
唯の横にはムギも梓もいる。
待たせて悪かった、という余裕もないぐらい息切れがすごかった。
私は三人の元に辿り着くと、膝に手を突いて肩を上下させながら息を整えた。
「来ないのかもって、心配したわ」
「そうですよ。メールしてくれてもよかったのに」
私の頭上から、ムギと梓の声が掛かった。そっか、完全に忘れてた。
どうも昨日から、私は頭がうまく回ってない。
遅刻することをメールする行為すら忘れてた。
いろいろ混乱してるし、一生懸命だったから。
「間にあってよかったなー澪」
私がちょっと顔を挙げると、当たり前のような顔で律がそこに立っていた。
だけど、唯もムギも梓も、律に気付いていない。
三人とも私を見ている。
律のお見舞いに来て、その律が隣にいるのに気付いていない。
不思議な図だ。
私も油断すれば、そこに律が普段通りいるように感じちゃうだろう。
私にしか見えてない……それを確信してしまった。
息切れは収まんない。でも、それ以上に、皆が律のことを認めていない。
どうしようもない痛みが胸に広がった。
「もう二十分の遅刻だよ澪ちゃん。何してたの?」
唯の呑気な声が降ってくる。私は膝に手を突くのをやめて、体を起こした。
息を整えながら返す。しかし、視界の端に映る律の存在が気になりすぎて仕方ない。
「ごめん、寝てたんだ。どうにも、ぼーっとして」
「まあ律先輩が事故ですからね。澪先輩ならそうなるだろうと思ってました」
「うん」
梓が言って、三人が頷いた。
それはつまり、律が大変な時=私もいろいろとおかしくなる、ということを表しているし、
私もそれは承知してるけど……でも、言われると恥ずかしいことだった。
律もちょっと照れている。これが幽霊だなんて、ホント信じれない。
「それより行こうよ。もしかしたらりっちゃん、起きてるかもしれないよ」
唯が言った。
私と律の表情が、さっと冷めた。
起きて、ないよ。
私と律は、それを嫌なほど知ってるんだ。
だけど、皆は知らないんだ。
だから、痛いのかな。
自動ドアをくぐり抜ける三人の後姿を、私は見つめた。
私と律ははゆっくりついていく。
「……やっぱり、皆には律の姿、見えないんだな……」
ロビーを歩いていく皆を見つめながら、私は言う。
三人は、私の声に気付かずに歩いていく。
私の隣には、律がいる。
でも、誰も律のこと見向きもしないんだ。
人気者の律だから、誰にも見られないの、辛いんだろうなって。
意外にも構ってちゃんな律は、きっと今、悲しいんだろうなって思ってしまうのだった。
「……別にいいよ。皆が見えなくても」
「でも……」
「澪だけで十分だよ」
律は笑ってくれた。
ホント、なのかな。
私だけでいいわけがない。
■
病室に行くと、すでに三人は律を囲って見下していた。
「寝てますね」
「意外と大丈夫そうだねー」
それはそうだった。
律は右手の小指の骨折と、足の捻挫、擦り傷という、事故に遭ったにしてはかなり無事な域にある。
事故に遭ったのは律だけじゃないけど、ここまで怪我が軽いのは律だけだったらしい。
幸い亡くなった人はいないし、皆二週間前後で退院できる程度だったらしいけど。
律もその一人。すぐに退院できるはず……だけど、律は静かな寝息を立てて起きる気配が全くないのだった。
お医者さんは、すぐに目が覚めるって言ったのに。
でもその原因はすでに分かってた。なんで目覚めないのか、その理由も。
「澪ちゃん澪ちゃん、りっちゃん全然大丈夫そうだよ」
病室の入り口で佇んだままだった私に、唯が手招きした。
だけど、動けないまま、入り口に立ち止まっている。
病室に入るのが、なんだか怖かった。
大丈夫そうだよ。
そんなの知ってるよ。
律は死なないよ。全然平気だよ。
だって、横に律の幽霊がいるんだから。
なのに、全然嬉しくならないのはなんでだろう。
「うん」
私は笑って声を掛けてくれた唯に、そう返すだけに留まった。
何が、うんだ。意味がわからない返事。
少なくとも、私は随分動揺しているようだった。
もちろん律が寝ている病室にやってくると、事故に遭った事実とか、眠ったままで笑ってくれない名前も呼んでくれない、っていう事実が私の首を絞めるから……。
だけど、やっぱり律の幽霊が私の隣にいることが、心にわだかまりとして引っかかっていた。
普段と違う。全然違うから。この幽霊の律は、笑ってくれるし名前だって呼んでくれるけど……。
「ほら澪ちゃん。りっちゃんに声掛けてあげて」
ムギも手招きする。私はチラッと隣に立っている律に目配せしてみる。
なんか照れるなあ、と微笑んで私を見ていた。
確かに、律が意識を失っているのなら声を掛けてあげるのも悪くはない。
でも、ちゃんと意識を持った律の幽霊が私の隣にいるんだ。
なんて声を掛けるにしても、本人に聞こえていたら恥ずかしいったらありゃしない。
言えないよそんなの。
もし律が寝たままだったら、何度だって言ってあげたし、二人っきりなら声を掛けるぐらいわけないのに。
「い、いいよ私は」
律が私の耳元にすり寄ってきて、細々と声を出す。
「澪ちゅあん! りっちゃんが悲しむぞそれじゃ」
「自分で言うな!」
「寝てますね」
「意外と大丈夫そうだねー」
それはそうだった。
律は右手の小指の骨折と、足の捻挫、擦り傷という、事故に遭ったにしてはかなり無事な域にある。
事故に遭ったのは律だけじゃないけど、ここまで怪我が軽いのは律だけだったらしい。
幸い亡くなった人はいないし、皆二週間前後で退院できる程度だったらしいけど。
律もその一人。すぐに退院できるはず……だけど、律は静かな寝息を立てて起きる気配が全くないのだった。
お医者さんは、すぐに目が覚めるって言ったのに。
でもその原因はすでに分かってた。なんで目覚めないのか、その理由も。
「澪ちゃん澪ちゃん、りっちゃん全然大丈夫そうだよ」
病室の入り口で佇んだままだった私に、唯が手招きした。
だけど、動けないまま、入り口に立ち止まっている。
病室に入るのが、なんだか怖かった。
大丈夫そうだよ。
そんなの知ってるよ。
律は死なないよ。全然平気だよ。
だって、横に律の幽霊がいるんだから。
なのに、全然嬉しくならないのはなんでだろう。
「うん」
私は笑って声を掛けてくれた唯に、そう返すだけに留まった。
何が、うんだ。意味がわからない返事。
少なくとも、私は随分動揺しているようだった。
もちろん律が寝ている病室にやってくると、事故に遭った事実とか、眠ったままで笑ってくれない名前も呼んでくれない、っていう事実が私の首を絞めるから……。
だけど、やっぱり律の幽霊が私の隣にいることが、心にわだかまりとして引っかかっていた。
普段と違う。全然違うから。この幽霊の律は、笑ってくれるし名前だって呼んでくれるけど……。
「ほら澪ちゃん。りっちゃんに声掛けてあげて」
ムギも手招きする。私はチラッと隣に立っている律に目配せしてみる。
なんか照れるなあ、と微笑んで私を見ていた。
確かに、律が意識を失っているのなら声を掛けてあげるのも悪くはない。
でも、ちゃんと意識を持った律の幽霊が私の隣にいるんだ。
なんて声を掛けるにしても、本人に聞こえていたら恥ずかしいったらありゃしない。
言えないよそんなの。
もし律が寝たままだったら、何度だって言ってあげたし、二人っきりなら声を掛けるぐらいわけないのに。
「い、いいよ私は」
律が私の耳元にすり寄ってきて、細々と声を出す。
「澪ちゅあん! りっちゃんが悲しむぞそれじゃ」
「自分で言うな!」
――あ。
唯とムギ、そして梓の三人が私の方を一斉に向いた。
しまった、と思った。
私は律が言った言葉に反応しただけなんだ。だけど、三人には律は見えていない。
でも私には見えてる。だからいつも通りに突っ込んでしまった。
三人の目が、えっ? という目でこちらに向いている。
私は何も言えなくて、しかも結構大きな声で言ったから取り返しも付かないことを悟った。
「自分で言うなって、えっと、どういうこと?」
ムギがちょっと苦笑いながら言った。
最後に発言したのはムギだ。だから、ムギは私の言葉が自分に向けての物だと勘違いしているようだった。
違う、ムギじゃないんだ。今横にいる律に向けて言ったんだよ。
そう言いたいのに、私はそれを言ったら駄目だと感じ取っていた。
だって、律は皆には見えないんだ。虚言だと思われても仕方のない言葉だからだ。
「あ、ち、違うんだえっと……」
何も違わないのに、弁解のしようもないのに、私は慌てて言葉を紡ぐ。
「自分に対するひとり言だよ!」そう言った。
三人はそれでも釈然としないのか、首を傾げたりして私を見ていた。
皆には関係ないんだ。私は笑うしかなかった。
別の話題が提供されるのを待った。三人がまた、寝ている律を見下すのを待った。
案の定、三人はまた律についてと、あと部活について話し始めた。
それでも、妙な疎外感を感じずには居られなかった。
「ご、ごめん澪」
律が謝った。そのしょぼんとした顔に、私は怒る気もなくなった。
私だけじゃなくて、律もなのだ。
律も、律も油断したら自分が幽霊だということを忘れてしまっている。
だから、私と律が一緒にいると、いつもみたく会話してしまう。
だけど皆には見えないから、私がひとり言を言ってるように見えちゃうのだった。
また、そうやって謝る。
それに私は、返事ができないんだよ。
ごめん澪って言われても、別にいいよとも言えない。律は悪くないとも言えない。
だって言ったら、三人が私のこと変だと思っちゃうだろうから。
律との会話に制限があることに、私は戸惑いと悔しさを感じずにはいられなかった。
しまった、と思った。
私は律が言った言葉に反応しただけなんだ。だけど、三人には律は見えていない。
でも私には見えてる。だからいつも通りに突っ込んでしまった。
三人の目が、えっ? という目でこちらに向いている。
私は何も言えなくて、しかも結構大きな声で言ったから取り返しも付かないことを悟った。
「自分で言うなって、えっと、どういうこと?」
ムギがちょっと苦笑いながら言った。
最後に発言したのはムギだ。だから、ムギは私の言葉が自分に向けての物だと勘違いしているようだった。
違う、ムギじゃないんだ。今横にいる律に向けて言ったんだよ。
そう言いたいのに、私はそれを言ったら駄目だと感じ取っていた。
だって、律は皆には見えないんだ。虚言だと思われても仕方のない言葉だからだ。
「あ、ち、違うんだえっと……」
何も違わないのに、弁解のしようもないのに、私は慌てて言葉を紡ぐ。
「自分に対するひとり言だよ!」そう言った。
三人はそれでも釈然としないのか、首を傾げたりして私を見ていた。
皆には関係ないんだ。私は笑うしかなかった。
別の話題が提供されるのを待った。三人がまた、寝ている律を見下すのを待った。
案の定、三人はまた律についてと、あと部活について話し始めた。
それでも、妙な疎外感を感じずには居られなかった。
「ご、ごめん澪」
律が謝った。そのしょぼんとした顔に、私は怒る気もなくなった。
私だけじゃなくて、律もなのだ。
律も、律も油断したら自分が幽霊だということを忘れてしまっている。
だから、私と律が一緒にいると、いつもみたく会話してしまう。
だけど皆には見えないから、私がひとり言を言ってるように見えちゃうのだった。
また、そうやって謝る。
それに私は、返事ができないんだよ。
ごめん澪って言われても、別にいいよとも言えない。律は悪くないとも言えない。
だって言ったら、三人が私のこと変だと思っちゃうだろうから。
律との会話に制限があることに、私は戸惑いと悔しさを感じずにはいられなかった。
■
お見舞いを終えて、私たちは玄関で別れることになる。
「澪先輩、部活はしばらく無しにしましょう」
別れ際に梓がそう言った。
理由を聞いてみた。
「やっぱり、律先輩があれですし、澪先輩だって律先輩が心配でベース弾けないでしょう」
図星だった。
律が入院して、目覚めないと聞いてからベッドに籠って学校をさぼるような私だ。
今でさえ幽霊として現れたけど、それでも不安はなくなったわけじゃない。
解消された不安もあれば、新しく現れた不安もある。
それに、やっぱり私は律のことで頭が一杯で、何にもやる気が起きなかった。
だから、もし部活をやると言われても、行くのはしばらく断ろうと思っていた。
だけどまさか部活自体中止になるなんて思ってなかった。
「皆は部活やりたいんじゃないの?」
私は、梓だけでなく、唯とムギにも言った。
「その、別に私に気を遣わなくても……えっと、私抜きで部活やってくれたらいいんだよ。律は無事なんだ。だから、皆はいつも通りでいいと思う」
実際私が落ち込んでて、そんな時に部活をやったら私に対して不謹慎、というか失礼だと三人は思ったのかもしれない。
でも、どちらかといえば私も、私の所為で三人も大好きな部活をしばらく中止にするのは嬉しくないと思ったのだ。
唯なんかムギのお菓子が食べたいだろうし、ムギも同じ。
梓だって部活をやりたいに決まってる。
だったら、私と律なんかに気を遣わないで、いつも通り部活をやってくれた方がいいと思った。
「でも、ベースとドラムがいなきゃ何にもならないわ」とムギ。
「パートで個人練習もできるし、なんならお菓子ばっかり食べててもいいよ。私としては、私のために部活しないの、ちょっと申し訳ないんだ」
今、私の隣に律はいない。
私と三人の話が終わるまで、その辺りをぶらついてくるようにあらかじめ言っておいたからだ。
会話の途中に割り込んだり、私が律に突っ込んじゃうから。
だから今だけは近くにいない方がいいと思って。
でも、律が幽霊となって隣にいることを少しずつ受け入れてしまっている私には、ちょっとでも律の姿が見えないと酷く不安になるのだった。
そんな不安をよそに、会話は続いていく。
「そう? 澪ちゃんは来ないの?」
唯が尋ねてきた。
「ごめん、私は部活できないかな。申し訳ないけど、三人で」
部活をいつも通りやってほしいと考案した私自身が、部活に参加しない。
それはずるいというか、逃げなのかもしれない。提案者が入らないなんて馬鹿げてた。
でも、やっぱり私に部活は無理だ。
それに、学校に行くことさえ今は難しいかもしれない。
それなのにベースなんて弾ける気がしない。
私の言葉に唯は何か返そうとしたけど、口を開いてすぐに閉じ委縮した。
「そうだよね」と言った。
「りっちゃんがああだもんね。澪ちゃんは部活より、りっちゃんのことだけ考えてた方がいいよ! というよりも、もう考えてるよね」
「うん……律のこと、心配だから、多分部活に行っても楽しめないし、私がいると空気も沈んじゃうと思うんだ。だから、三人でやってて欲しい」
結局三人で部活することが決まり、私たちは別れた。
最後は、唯と梓がやたらと絡んで、そこをムギが微笑むという、いつもの日常みたいなやり取りが見られた。
私はホッとした。あまり深刻になってもらいたくなかったから。
皆には、いつも通りでいて欲しい。
それはなぜかって、皆が深刻にしてたら、私はもっと律のことに意識が向いて、悲しまなきゃいけなくなるから。
幽霊となって一緒にいることで、それは少しは緩くなったけど。
でも、私はやっぱりまだ心細いままなのだ。
私は近くを歩いて、入り口の横の花壇を見下している律を見つけた。
「律」
「おお澪、話終わったか」
「うん。三人には、部活やってもらうことにした」
「そっか……その方がいいよな。で、澪は?」
私たちは並んで歩きだした。もう時刻は五時前で、オレンジ色が視界を見たしていた。
夕暮れが道を照らしてる。
道を歩いていると、買い物帰りの主婦の人や、学校帰りの小学生だっていた。
誰も私を気にしてる人なんていない。だから堂々と律と喋ってもよかった。
気にしないで喋っていられるって、気が楽だ。
「私は、行かないよ」
「ふーん、なんで?」
「わかんないのかよ、馬鹿律」
「私がそんなに心配か、澪しゃん」
「当たり前だろ」
私は一呼吸置いた。なんだ、わかってるじゃないか。
だけど余計に恥ずかしかったから、私は律の方を見ないで、ただ自分の爪先を見つめて歩くだけだった。
「心配だし……それに、もう何もやる気にならないよ。やれって方が難しいかな」
だからこそ、学校をさぼって家で寝てたわけだし。
すっと律を一瞥すると、目があって数十秒を見つめあっていた。
しばらくして、恥ずかしくなって二人して目を逸らしたけど
目を泳がせて、言葉もなくなって。
もう一度律を見たら、律は照れくさそうに後頭部を撫でながら返してきた。
「その、なんか不思議だな。澪がそんなにも、私のこと心配してくれてるなんて」
「……不思議か?」
「知ってるよ、澪が私のこと好きなの。でも、言葉で言ってくれることとか、あんまりないからさ……」
私は恥ずかしがり屋だし、臆病だし、人の目も気になるし。
普段から律にそういう言葉を投げかけないのは、皆が見てるからだ。
唯やムギ、梓にからかわれるのがちょっと照れくさいからだ。
だから、普段はあんまり律に対する好意を大っぴらに見せることはなかった。
本当は大好きだし、もしかしたら随所で律に対する好意を見せちゃうような行動をとったりしてたかもしれないけど……。
「いっつも心配はしてるよ。だからいっつもお前に怒ったりするんだよ」
「それも知ってる」
「だから今回は……弱々しい方の心配だ」
怒ったりできないし、殴ったりもできないんだ。
それが、結構堪えてる。
心配とかそういうの差し引いても、私は、怖くてたまらない。
多分、二年生の時に律と喧嘩し時ぐらい、私は今、弱い。
もう、簡単に心が壊れそう。
それぐらい、今の私、繊細だった。いっつもそうかもしれない。
でも、今はもっと細いよ。ちょっとでも傷つく言葉言われたら、壊れちゃうかも。
引き籠るかもしれない。
泣いて泣いてベッドに潜りこんでずっと出てこれないかもしれない。
だって、泣いて抱きつけるのはいつも律だけだったけど、今は抱きつけないから。
「澪先輩、部活はしばらく無しにしましょう」
別れ際に梓がそう言った。
理由を聞いてみた。
「やっぱり、律先輩があれですし、澪先輩だって律先輩が心配でベース弾けないでしょう」
図星だった。
律が入院して、目覚めないと聞いてからベッドに籠って学校をさぼるような私だ。
今でさえ幽霊として現れたけど、それでも不安はなくなったわけじゃない。
解消された不安もあれば、新しく現れた不安もある。
それに、やっぱり私は律のことで頭が一杯で、何にもやる気が起きなかった。
だから、もし部活をやると言われても、行くのはしばらく断ろうと思っていた。
だけどまさか部活自体中止になるなんて思ってなかった。
「皆は部活やりたいんじゃないの?」
私は、梓だけでなく、唯とムギにも言った。
「その、別に私に気を遣わなくても……えっと、私抜きで部活やってくれたらいいんだよ。律は無事なんだ。だから、皆はいつも通りでいいと思う」
実際私が落ち込んでて、そんな時に部活をやったら私に対して不謹慎、というか失礼だと三人は思ったのかもしれない。
でも、どちらかといえば私も、私の所為で三人も大好きな部活をしばらく中止にするのは嬉しくないと思ったのだ。
唯なんかムギのお菓子が食べたいだろうし、ムギも同じ。
梓だって部活をやりたいに決まってる。
だったら、私と律なんかに気を遣わないで、いつも通り部活をやってくれた方がいいと思った。
「でも、ベースとドラムがいなきゃ何にもならないわ」とムギ。
「パートで個人練習もできるし、なんならお菓子ばっかり食べててもいいよ。私としては、私のために部活しないの、ちょっと申し訳ないんだ」
今、私の隣に律はいない。
私と三人の話が終わるまで、その辺りをぶらついてくるようにあらかじめ言っておいたからだ。
会話の途中に割り込んだり、私が律に突っ込んじゃうから。
だから今だけは近くにいない方がいいと思って。
でも、律が幽霊となって隣にいることを少しずつ受け入れてしまっている私には、ちょっとでも律の姿が見えないと酷く不安になるのだった。
そんな不安をよそに、会話は続いていく。
「そう? 澪ちゃんは来ないの?」
唯が尋ねてきた。
「ごめん、私は部活できないかな。申し訳ないけど、三人で」
部活をいつも通りやってほしいと考案した私自身が、部活に参加しない。
それはずるいというか、逃げなのかもしれない。提案者が入らないなんて馬鹿げてた。
でも、やっぱり私に部活は無理だ。
それに、学校に行くことさえ今は難しいかもしれない。
それなのにベースなんて弾ける気がしない。
私の言葉に唯は何か返そうとしたけど、口を開いてすぐに閉じ委縮した。
「そうだよね」と言った。
「りっちゃんがああだもんね。澪ちゃんは部活より、りっちゃんのことだけ考えてた方がいいよ! というよりも、もう考えてるよね」
「うん……律のこと、心配だから、多分部活に行っても楽しめないし、私がいると空気も沈んじゃうと思うんだ。だから、三人でやってて欲しい」
結局三人で部活することが決まり、私たちは別れた。
最後は、唯と梓がやたらと絡んで、そこをムギが微笑むという、いつもの日常みたいなやり取りが見られた。
私はホッとした。あまり深刻になってもらいたくなかったから。
皆には、いつも通りでいて欲しい。
それはなぜかって、皆が深刻にしてたら、私はもっと律のことに意識が向いて、悲しまなきゃいけなくなるから。
幽霊となって一緒にいることで、それは少しは緩くなったけど。
でも、私はやっぱりまだ心細いままなのだ。
私は近くを歩いて、入り口の横の花壇を見下している律を見つけた。
「律」
「おお澪、話終わったか」
「うん。三人には、部活やってもらうことにした」
「そっか……その方がいいよな。で、澪は?」
私たちは並んで歩きだした。もう時刻は五時前で、オレンジ色が視界を見たしていた。
夕暮れが道を照らしてる。
道を歩いていると、買い物帰りの主婦の人や、学校帰りの小学生だっていた。
誰も私を気にしてる人なんていない。だから堂々と律と喋ってもよかった。
気にしないで喋っていられるって、気が楽だ。
「私は、行かないよ」
「ふーん、なんで?」
「わかんないのかよ、馬鹿律」
「私がそんなに心配か、澪しゃん」
「当たり前だろ」
私は一呼吸置いた。なんだ、わかってるじゃないか。
だけど余計に恥ずかしかったから、私は律の方を見ないで、ただ自分の爪先を見つめて歩くだけだった。
「心配だし……それに、もう何もやる気にならないよ。やれって方が難しいかな」
だからこそ、学校をさぼって家で寝てたわけだし。
すっと律を一瞥すると、目があって数十秒を見つめあっていた。
しばらくして、恥ずかしくなって二人して目を逸らしたけど
目を泳がせて、言葉もなくなって。
もう一度律を見たら、律は照れくさそうに後頭部を撫でながら返してきた。
「その、なんか不思議だな。澪がそんなにも、私のこと心配してくれてるなんて」
「……不思議か?」
「知ってるよ、澪が私のこと好きなの。でも、言葉で言ってくれることとか、あんまりないからさ……」
私は恥ずかしがり屋だし、臆病だし、人の目も気になるし。
普段から律にそういう言葉を投げかけないのは、皆が見てるからだ。
唯やムギ、梓にからかわれるのがちょっと照れくさいからだ。
だから、普段はあんまり律に対する好意を大っぴらに見せることはなかった。
本当は大好きだし、もしかしたら随所で律に対する好意を見せちゃうような行動をとったりしてたかもしれないけど……。
「いっつも心配はしてるよ。だからいっつもお前に怒ったりするんだよ」
「それも知ってる」
「だから今回は……弱々しい方の心配だ」
怒ったりできないし、殴ったりもできないんだ。
それが、結構堪えてる。
心配とかそういうの差し引いても、私は、怖くてたまらない。
多分、二年生の時に律と喧嘩し時ぐらい、私は今、弱い。
もう、簡単に心が壊れそう。
それぐらい、今の私、繊細だった。いっつもそうかもしれない。
でも、今はもっと細いよ。ちょっとでも傷つく言葉言われたら、壊れちゃうかも。
引き籠るかもしれない。
泣いて泣いてベッドに潜りこんでずっと出てこれないかもしれない。
だって、泣いて抱きつけるのはいつも律だけだったけど、今は抱きつけないから。
ああ、そっか。
私、何に悲しんでるって。
律が目が覚めないとか、幽霊になったからとか。
そういうのもあるけど。
律に触れないことなんだ。
私、何に悲しんでるって。
律が目が覚めないとか、幽霊になったからとか。
そういうのもあるけど。
律に触れないことなんだ。
■
家に帰って、律はベッドに寝転んだ。
私は勉強机について、回転椅子に座って律の方を見る。
だらだらと伸びた律は、本当にいつもの律にしか見えないのに。
だからこそ余計に、触れなかったり幽霊なことに残念さを感じちゃうんだろう。
「何しよっか、澪」
律は天井を見ながら言った。私は何にも思い浮かばなかった。
「うん……」
「触れないしな、お互いに」
「……」
「エッチなこともできないな」
「そうだな……」
「突っ込めよ澪」
「そんな元気、今の私にはないよ」
逆に、なんでそんなことを律が言えるのか不思議だった。
割と元気そうな律。一番辛いのは私じゃなくて律だって言うのは、私の邪推だったのだろうか。
人から構ってもらうことが好きな律が、私以外の人には見えないの、かなり堪えると思うのに。
そうじゃないらしい。私だけでも満足なんだろうか。
それはそれで嬉しいよ。でも、やっぱり変だよ。
いっつも律を独占してたいって思うし、律が他の人と仲良くしてて嫉妬もする。
だけど、いざ律が私だけにしか見えなくなって触れなくなったら、なんだかそれはそれで寂しくなってしまうなんて。
もしかして私は、『律』じゃなくて、『皆に人気の律』を一人占めしたかっただけなのだろうか……。
私は首を振った。
そんなことない。
私、律が大好きなんだから。
「これから、どうする?」
律は仰向けにベッドに倒れたまま、そう言った。
酷く穏やかな瞳が天井を向いたまま。その目を見つめているのも、なんだ物悲しくなって、私はすっと視線をずらした。
なんてことのない、床の一点を見る。
いや、見たというよりも視界に入っただけで、私は今、何も意識してみてはいなかった。
「私に訊かれても、わかんないよ」
「そーだな。誰にもわかんないよな」
「逆に、なんでそんなに律は普通でいられるの」
「普通に見える?」
ここで、やっと目が合った。
律は元気だ。
私はずっと寂しかったり悲しかったりして、いつも通り突っ込むことや笑って言葉を返すこともできないのに。
でも律は、なんだかそれほど悲しんでる様子はなかった。
冗談も飛ばすし、笑って声もかけてくれる。
なんでなんだろう。私は律のこと、すっごく想ってる。だから元気も出ない。
律は、私みたいに、今の状況をそれほど悲しんでないのかな。
自分が幽霊になったり、寝たままだったり、私に触れないこと、寂しく思ってたりしないのかな。
私だけ、私だけが悲しんでるのかな。
それはそれで、なんだか嫌だった。
好意のベクトルが私からしか伸びていないとしたら、拍子抜けを通り越して、なんだか自分が馬鹿らしく思えちゃいそうだった。
でも、律だってきっと辛いと思う。無理して笑ってるんだと思う。
それとも、私がそう思い込んでるだけなんだろうか。
ただ。
普通に見える? って言葉は、少しだけでも律は、この状況を悲しんでる。
私はゆっくりと返した。
「少なくとも、普通に見えるよ」
「そっか……まあでも、結構私も、何も思わないわけじゃないよ」
律がそんなことを言って、ちょっと安心した私がいた。
「そりゃそーだ。逆にこんな状況で、律が何も思ってなかったら驚くよ」
「そりゃいろいろ思うことはあるさ」
律はゆっくり体を起こして、あぐらをかいたまま息を吐いた。
ときどき律は、びっくりするぐらい大人な顔をする。
それをまた今見せた。
私はドキッとする半面、そういう表情をする律はきっと、何処か追い詰められたり、
さっきも言ったようにいろいろと思うことがあるんだろうなって思って、素直にその表情にときめくことなどできなかった。
「でも、明るくなきゃ私じゃないし、そうでもしないとやってられないんだよ」
律は私に笑顔を見せた。
そうでもしないと、やってられない。
無理に、笑ってるの?
律が辛い時、無理したり、あんまり弱いところ見せないようにしちゃう奴だってのは知ってるけど、
こんな時も、やっぱり無理してるんだろうか。
私に、本音を言ってはくれないのだろうか。また不安が増えた。
もういらないのに。
私は、私の中にあるいくつもの不安を抱えてるだけでもう零れそうなのに。
また増えて。どんどん零れそうになるよ。
「無理は、するなよ。泣きたかったら泣いてもいいし、言いたいことあるなら、言って。そのための私だって思ってほしい」
私だけ律を見ることができるのは、律を受け止められるのが私だけだから。
なのかな。いや、正直わからないよ。
でも、律を幽霊にしたのが神様だったら、私だけ律の傍に居させてくれるのも神様で、
幽霊になった律を見ることができるのも私だけにしたのも神様だった。
なんのために? 私が寂しがり屋だから?
律がいないと寂しくて何にも出来ないような子だから?
わからない。
それとも、律のことを面倒見させるため?
もうわかんない、疑問ばっかり不安ばっかり。考えれば考えるだけ辛い。
「うん、その時は、頼むな澪」
今じゃ、ないんだ。
またモヤモヤしたのが広がってきた。
律はずるい。
なんで、そんなに笑ってばっかりなんだよ。
私は勉強机について、回転椅子に座って律の方を見る。
だらだらと伸びた律は、本当にいつもの律にしか見えないのに。
だからこそ余計に、触れなかったり幽霊なことに残念さを感じちゃうんだろう。
「何しよっか、澪」
律は天井を見ながら言った。私は何にも思い浮かばなかった。
「うん……」
「触れないしな、お互いに」
「……」
「エッチなこともできないな」
「そうだな……」
「突っ込めよ澪」
「そんな元気、今の私にはないよ」
逆に、なんでそんなことを律が言えるのか不思議だった。
割と元気そうな律。一番辛いのは私じゃなくて律だって言うのは、私の邪推だったのだろうか。
人から構ってもらうことが好きな律が、私以外の人には見えないの、かなり堪えると思うのに。
そうじゃないらしい。私だけでも満足なんだろうか。
それはそれで嬉しいよ。でも、やっぱり変だよ。
いっつも律を独占してたいって思うし、律が他の人と仲良くしてて嫉妬もする。
だけど、いざ律が私だけにしか見えなくなって触れなくなったら、なんだかそれはそれで寂しくなってしまうなんて。
もしかして私は、『律』じゃなくて、『皆に人気の律』を一人占めしたかっただけなのだろうか……。
私は首を振った。
そんなことない。
私、律が大好きなんだから。
「これから、どうする?」
律は仰向けにベッドに倒れたまま、そう言った。
酷く穏やかな瞳が天井を向いたまま。その目を見つめているのも、なんだ物悲しくなって、私はすっと視線をずらした。
なんてことのない、床の一点を見る。
いや、見たというよりも視界に入っただけで、私は今、何も意識してみてはいなかった。
「私に訊かれても、わかんないよ」
「そーだな。誰にもわかんないよな」
「逆に、なんでそんなに律は普通でいられるの」
「普通に見える?」
ここで、やっと目が合った。
律は元気だ。
私はずっと寂しかったり悲しかったりして、いつも通り突っ込むことや笑って言葉を返すこともできないのに。
でも律は、なんだかそれほど悲しんでる様子はなかった。
冗談も飛ばすし、笑って声もかけてくれる。
なんでなんだろう。私は律のこと、すっごく想ってる。だから元気も出ない。
律は、私みたいに、今の状況をそれほど悲しんでないのかな。
自分が幽霊になったり、寝たままだったり、私に触れないこと、寂しく思ってたりしないのかな。
私だけ、私だけが悲しんでるのかな。
それはそれで、なんだか嫌だった。
好意のベクトルが私からしか伸びていないとしたら、拍子抜けを通り越して、なんだか自分が馬鹿らしく思えちゃいそうだった。
でも、律だってきっと辛いと思う。無理して笑ってるんだと思う。
それとも、私がそう思い込んでるだけなんだろうか。
ただ。
普通に見える? って言葉は、少しだけでも律は、この状況を悲しんでる。
私はゆっくりと返した。
「少なくとも、普通に見えるよ」
「そっか……まあでも、結構私も、何も思わないわけじゃないよ」
律がそんなことを言って、ちょっと安心した私がいた。
「そりゃそーだ。逆にこんな状況で、律が何も思ってなかったら驚くよ」
「そりゃいろいろ思うことはあるさ」
律はゆっくり体を起こして、あぐらをかいたまま息を吐いた。
ときどき律は、びっくりするぐらい大人な顔をする。
それをまた今見せた。
私はドキッとする半面、そういう表情をする律はきっと、何処か追い詰められたり、
さっきも言ったようにいろいろと思うことがあるんだろうなって思って、素直にその表情にときめくことなどできなかった。
「でも、明るくなきゃ私じゃないし、そうでもしないとやってられないんだよ」
律は私に笑顔を見せた。
そうでもしないと、やってられない。
無理に、笑ってるの?
律が辛い時、無理したり、あんまり弱いところ見せないようにしちゃう奴だってのは知ってるけど、
こんな時も、やっぱり無理してるんだろうか。
私に、本音を言ってはくれないのだろうか。また不安が増えた。
もういらないのに。
私は、私の中にあるいくつもの不安を抱えてるだけでもう零れそうなのに。
また増えて。どんどん零れそうになるよ。
「無理は、するなよ。泣きたかったら泣いてもいいし、言いたいことあるなら、言って。そのための私だって思ってほしい」
私だけ律を見ることができるのは、律を受け止められるのが私だけだから。
なのかな。いや、正直わからないよ。
でも、律を幽霊にしたのが神様だったら、私だけ律の傍に居させてくれるのも神様で、
幽霊になった律を見ることができるのも私だけにしたのも神様だった。
なんのために? 私が寂しがり屋だから?
律がいないと寂しくて何にも出来ないような子だから?
わからない。
それとも、律のことを面倒見させるため?
もうわかんない、疑問ばっかり不安ばっかり。考えれば考えるだけ辛い。
「うん、その時は、頼むな澪」
今じゃ、ないんだ。
またモヤモヤしたのが広がってきた。
律はずるい。
なんで、そんなに笑ってばっかりなんだよ。