けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

Two of us9

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mioritsu

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「律……?」




 嘘だ。




「律っ!」




 嘘だろ。


 部屋には誰もいなかった。
 静かなで痛々しい沈黙を貫いていて、私の荒々しい動悸の声が漏れてるだけ。
 なんで。
 なんで律がいないんだよ。


 私はベッドの上を見た。
 携帯電話だけが、ポツリと置いてあった。
 なんで。



 私はゆっくりベッドに近付いて、携帯を手に取った。



『早く帰ってこいよ。待ってるかr』




 打ちこんでる途中。
 どういうこと?
 何かあったの?
 打ちこんでる途中に、『打ちこめなくなる』状況になった?







「……嘘」



 嘘、だよね。
 そんなの、私、認めない。


 嘘でしょ、律。
 ねえ。
 返事しろよ。






 決壊した。
 泣くの、別に堪えてたわけじゃないのに。
 私は膝をついて、声を張り上げた。

 律――。




 嫌だ、嫌だよ。





 おいてかないで。消えないで。


 私、律の隣にいたいんだよ。一緒にいたいんだよ。
 だから、行かないで!



「りつ……りつっ……ひっく、っ……りつぅ……」



 名前を呼んだ。




 律。


 帰ってきてよ。


 律がいなきゃ、私駄目なんだ。
 別に、失ったから気付いたわけじゃなくて。
 律がいなきゃ駄目だから、幽霊になっちゃって悲しんだし、泣いたんだよ。



 律がいなきゃ、駄目なんだ。
 私はどうしようもなく駄目になるんだ。


 だから、いなくならないで。


 戻ってきてよ!
 後は何にも要らないから。
 もうそれ以外、何にも望まない。
 知りたいこともないから。



 律が傍にいれば。
 隣にいてくれれば。
 笑ってくれれば。
 話せれば。
 私はそんなささやかな日々が、本当に大好きだったのに。
 なんで、なんでこんなの――。



「律――」



 呼びかけは虚しく響いて、誰も返事はしなかった。
 私は、泣いた。恥なんて知らなかった。
 叫んで、もうわけがわからなくなるぐらい泣いた。














 床に寝転んで寝てしまっていたらしい。
 私はゆっくり体を起こして、目元を拭った。
 びしょ濡れだ……はは……。

 窓の外は、オレンジだった。夕方かな。


 どうでもいいのに。
 律がいないのなら、この世の全部、どうでもいいのに。
 こんな体もいらない。律がいないのなら。
 世界とかどうだっていい。


「律……」



 その時、階段を誰かが駆け足で上がってくる音が聞こえた。






 えっ?





 恥ずかしながら、私は律のなんでもを知ってる。
 手を見ただけで律だってわかるし、当然お互いそうだった。
 もちろん、足音も。
 それが例え、走ってたとしても。
 律の駆け足はわかる。
 例え、階段を上がる音でも――。



 まさか。




「律っ!」



「澪っ!」



 ドアを突き破って入ってきたのは。



 緑の患者服を着た、律だった。



「り、律――うわっ」



 私が立ちあがって何かを言おうとする前に、律は思いっきり私に抱きついてきた。
 その勢いで、私たちは倒れて。私は尻餅をつきながら律の抱擁を受け止めた。
 律はその両腕を私の肩の上から首の後ろまで回して、きつくきつく抱きしめた。


 私は、いろんなことが一気に頭に入ってきて、何も言えなかった。


「あっ……」


 私は気付いて、声を漏らした。









 ――触れてる。



 声も、聞こえてる。




「り、律……触れるの?」
「澪……澪……」


 私が呆気にとられてるのに、律は私の鎖骨の辺りに顔を埋めて、私の名前を呟き続けた。
 律は泣いていた。私は驚きすぎて、もう何にもよく掴めなかった。



「澪…………っ……う、ひっく……みおぉ……」


 律は喘いで、咳と嗚咽を漏らしながら、名前を呼び続ける。
 律の泣き声は、悲痛だったけど、でも安堵に満ち溢れていた気がした。
 ただの、悲しみじゃなくて。
 いろんな感情が混じった、律の本気の泣き声だった。




「り、律…………」
「……怖かった、澪……みお……っ……」
「――……馬鹿」




 震えてた私の指先が、ゆっくり律の背中に回る。
 律の背中を掴めた。
 撫でることができた。
 ほんのりと暖かい。

 私は、律の言葉に、声を震わせた。視界が滲む。



 触れる、声も聞こえる……!
 そのことが、私の琴線をゆっくり撫でた。




「ばか、ばか馬鹿律……私だって、怖かったんだからなっ……」




 ずっと、怖かった。
 私は、律との距離が離れていくのが。
 消えちゃうのかなって思うのが。
 いつだって怖かった。
 誰にも見えないことも律に触れられないのも。
 言葉が届かないのも。
 手を伸ばしても掴めないのも。
 怖かった。嫌だった、悲しかった。辛かった。
 だから余計に愛しくて、胸が苦しくて。


 だけど今。
 律の声、聞こえる。
 律を、この手で抱きしめられてる。



「律……っ」



 律が、帰ってきた。


 そう思うと、私も律の肩に目を押し当てて泣いた。
 もうこの数日で、涙をどれだけ流したんだろう。
 わかんない。
 でも、どうでもいいや。
 律が戻ってきた。
 触れる。
 抱き締められる。
 名前を呼んでくれる。



「澪……」
「律……」



 ずっとずっと、長い間、名前を呼び合って抱きしめあった。
 二人とも、ここにいて、お互いのこと、確認し合うように。


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