けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

Two of us8

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mioritsu

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 授業中にこっそりメールで律とやり取りした。
 私は真面目な生徒だったから、授業中に携帯を構っていること自体希有だ。
 皆の心配を煽りかねない。
 でも、そんな心配があっても、私はやっぱり律を差し置くことはできないし、律との交流を望んでいたんだから。
『先生にバレないように気をつけろよな』
『わかってる』
『もし取り上げられたらホラーだぜ』
 私のメールの相手は『田井中律』だ。つまり、他人がこの画面を覗きこんだら、なぜ入院して寝たきりの律とメールができているんだ、と問題になる。
 だから可能なら、誰にもこの画面を見られたくない。
 先生に見つかると、画面を見られる可能性がある。
 メールの相手が田井中律だと知ったら、先生は驚くに違いない。律の言うように、ホラーだ。
『何やってるんだ?』
『寝てる。何にもやる気になんないし』
『そっか。それがいいよ』
 別に病気でもなんでもないのに、寝てるのがいいとは我ながら根も葉もない言葉で呆れる。
 でも、結局のところ私と律は依存関係にあって、距離が離れたり悲しいことがあったら、熱を出したり病気になる傾向にある。
 そういう意味では、私と律はお互い病気なのかな。
 病は気から。つまりは、精神的な面が体調に出やすい。
 そうなると、お互いのことが精神の大抵を占めていて、距離が開けば体調を崩す。
 やる気をなくす。
 依存以外の何物でもないし、ある意味で熱だなと思った。


 それからはずっと、他愛もない話をした。今暇だとか、ノートちゃんと取ってるとか。
 唯とかムギ、梓、和の様子とか。皆にすっごく声を掛けられてるとか。
 本当にどうでもいいことばかりメールした。
 律も普段は言わないようなことをたまに送ってくるけど、でも、本当に交わしたメールは、とりとめもなく内容で。
 他の人が見たら、こんなのメールする意味あるの、と言われるぐらいの勢いのものばかりだった。
 でも、それすらも大事で、愛おしかったんだ。
『やっぱり澪がいないとつまんない』
 律がそう送ってきた。
 私はちょっとだけ嬉しくて顔が熱くなる。でも、素直に喜べないんだ。
 早くこの言葉を、律の顔を見て、ちゃんと触って、律の声で聞きたい。
『私も。今日は授業終わったら、すぐに帰るから』
 そう返した。
 それとほぼ同時だった。
「じゃあ、この問題を秋山さん」
「えっ、あ、はい!」
 いきなり指名が飛んできて、私は携帯を落としそうになった。
 だけどなんとか踏みとどまって、こっそり閉じてポケットにしまう。
 どうやらバレてはいないようだった。
 でも、厄介なことになったぞ。
 黒板に書かれているのは面倒な数学の問題。
 授業をまったく聞いていなかったから、よくわからない。
 解けるのだろうか。私はゆっくり立ち上がって黒板に向かう。
 最初は基本的な公式を使えば解けそうだけど、その続きからがわからない。
 何か応用的な考え方が必要なのかな。
 私のチョークを持つ手が止まった。焦る。
「授業を聞いてました? そこはさっき教えた定理の式変形を応用して……」
 先生が私のチョークを奪い取り続きを書き始めた。私は溜め息を吐きながら席に戻った。
 多分、私以外の皆は分かった問題なんだろうな……私、一人だけ授業聞いていなかったから。
 目立つことが嫌いだから、恥ずかしかった。
 帰り際に、和が私を心配そうに見ていた。私なら解けると思ったんだと思う。
 でも、ごめん。私は、律の方が大事だったから。
 だから授業をすっぽかしてでも、今は律の方が大事だ。
 でも、どうしよう。先生が私を当てて、授業を聞いていないことがバレた。
 だってもしちゃんと授業を聞いてたらわかる問題みたいだから。
 それをわからなかった=聞いてなかったってことになる。
 そうなると、先生は私の方に意識を向けるだろう。携帯は構えないかもしれない……。
『ごめん、先生に注意された。休憩時間にまた送る』
 そう送った。




 あれ?
 私さっき、律に返信したよな。
『すぐに帰るから』って。
 それの返事が、返ってきてない。










 私は授業が終わると、すぐにトイレに駆け込んだ。
 休憩時間に教室で携帯を構っていると何か言われそうだし、トイレの個室の方が人目を気にせずメール出来ると思ったからだ。
 それに、さっき授業中に感じた小さな不安が気になっていた。
 個室に入って、壁にもたれかかり携帯を開いた。


 メールが、返ってこない。
 返ってきてない。


 別に律なら、突然止めることだってあるだろう。
 でも、ちゃんときっぱりやめるって宣言してないじゃないか。
 律はそうところ真面目だから、メールをやめるならやめるって言う。
 それに。
 私たち、メールをやめる気なんてなかったはずなのに。
 今日一日は、授業すっぽかしてでも、なんでもいいからメールでやり取りし続けようって一番最初に決めたのだから。
 だから何の前触れもなく、律がメールを送ってこないわけがないんだ。
 じゃあなんで、返ってこないんだよ。
『どうしたんだ? もしかして寝てるのか?』
 そう送った。もし律がバイブ機能を付けているのなら、このメールで起きてくれるはず。
 ……返ってこない。
『律?』
 それだけ、送った。
 ……返ってこない。待ってても返ってこない。
 試しに電話を掛けてみる。もし律が起きていたら無言だとしても電話に出てくれるし、寝ていたら着信の音で目が覚めるはず。
 そうだ、メールのバイブ程度で起きるわけがないもんな。
 この着信音で目覚めるだろう。



 ……出ない。寝ていたとしたらこの電話の着信で目が覚めて、出てくれるはずだ。

 なんで出ないんだ?
 そこにいないのか?

 それとも、事情があってメールも返せないし、電話を取ることもできないってこと?
 私は言いようのないモヤモヤが、黒々しく全身に広がるのを感じた。


 メールができない?
 電話が取れない?




 まさか。











 私はトイレを飛び出した。
 廊下を駆け抜けて、靴に履き替えて、走った。
 走って走って、走った。


 もう授業なんてどうでもいい。そんなのどうだっていいんだ。
 なんでそんなの、律を差し置いて受けてたんだよ。
 何が距離を置くだ、一人になって考えるだ。

 そんなの、どうだっていいのに。


 悲しくなったって悔しくたって、一緒にいなきゃ駄目なのに。
 馬鹿だ私。


 一目散に、何にも気にしないでとにかく走った。
 息切れ切れになっても、関係ない。こけそうになっても関係ない。
 律に会いたい。
 律がそこにいるんだってことを、きちんと確かめたい。
 律の目の届く位置にいなきゃいけない。
 私の目の届くところにいて欲しい。
 そうじゃなきゃ、生きてけない。
 何にも駄目なんだ。



 家への道を駆け抜けている途中、脳裏に光景が過る。





 日曜日。律が事故に遭った。
 私はすっごく不安で、何にも手がつけられなくて。
 でも、お医者さんにはすぐに目が覚めるって言われたから安心してたんだ。
 安心したけど、でも、やっぱり不安だったから。
 家に戻っても泣いたし、ベースだってまともに弾けないし、ご飯だって喉を通らなかった。
 もうあの時点で、私が律なしにやっていけないことは簡単に証明されてたじゃないか。



 月曜日。律が幽霊になって現れた。
 私は学校を休んでいて、やっぱりベッドに潜って寝たり起きたりを繰り返して、寂しくて何度も律の名前を呼んでた。
 そこに、律が現れた。幽霊になって。
 死んではいないし、これからも死なないって言ってた。
 だけど、幽霊である限りは目覚めないなんて言って、変な生活になった。
 悲しかったけど、でもやっぱり律といれるのは嬉しかった。



 火曜日も学校を休んで、二人で外に行った。
 私は律が笑ってばっかりなのがなんだか嫌で、律に大声で怒鳴った。
 でも律は、私に泣きながら自分の想いを吐きだしてくれた。
 その日は、ずっとお互い想いを口にしあって、ずっと泣いてた。
 一日中泣いてたと思う。でも、それもなんだか悪くはなかったのかもしれない。
 だけどやっぱり、悲しさは付きまとってた。



「はあ……はあ……」

 なんだこれ。走馬燈なのかな。
 走りながら、息も辛いなのに、ここ数日間を、なんで私は振り返ってるんだ?
 わかんない。

 私の家は、まだ遠い。


 水曜日――昨日は、幽霊の律と一緒に学校へ行った。
 やっぱりたくさんの人に声を掛けられたし、違和感のある行動を取ったかもしれない。
 私たちはあんまり話せなくて、やっぱり学校に来るべきじゃなかったのかもって思ってた。
 筆談でしか話せなかった。でも、いろんな人に『澪は律と一緒じゃないと駄目』だと思われてるのは、恥ずかしいのか嬉しいのかよくわかんなくて。
 それでも、大丈夫? って問われ続けるのは辛かった。大丈夫なわけがなかったから。
 その日、律の声は私に聞こえなくなり、律の声は私に聞こえなくなった。
 幽霊と人間だから?
 今でもわからない。
 でも、本当に。
 どんどん距離が離れて行ってた。


 そして。



 そして……。




「っ……はあ……はあ」




 神様は、意地悪だ。



 律はこんなの望んでなかったし、私だって望んでなかった。
 ただのささやかな日常があれば、それで満足だったんだ。
 隣にいるだけで、一緒にいるだけで、触れるだけで、話せるだけで。
 私たちはそれで幸せだったんだ。

 なのに、なんでそれを奪ったの?
 気付かせたいから?
 何度も言うよ。


 失ってまで知る大切さなんて、全然大切なんかじゃないんだ!
 失ってまで知ろうなんて、私は――私たちは思わないんだよ!


 尊さも大切さも愛しさも幸せも。
 何かを失わなきゃ――その存在を失わなきゃ、気付かないのなら。
 一生気付かないままでいい。
 何より、失うことを前提にした感情なんて、これっぽっちも必要ないんだ。


 お互いを愛しく思わせたいから、神様がこんなことにしたのなら。



 私はそれを肯定なんかできない。



 それを知るために、神様はこんなことを仕組んでくれたんだなって。
 そんな風に、上手くまとめて全部よかったで済ませられるわけない!



 要らなかった、全部要らなかったんだよ。
 怖い思いして、なんでこんなになっちゃったんだ。

 嫌だ嫌だ。
 全部嫌だ。

 要らない!
 悲しみも悔しさも、切なさも寂しさも。
 そんなの、要らない。
 私の気付かなかった、愛しさも大切さも幸せも尊さも。
 要らないんだ!
 そんなの自分で気付いてる、とっくの昔に気付いてた。
 律が大好きだ。
 律だって、私を大好きだって言ってくれてる。
 だったらなんで、いまさらそれにもう一回気付かなきゃいけないんだ。

 失ってまで!
 失って、遠くなって、怖くなって寂しくなって、触れなくて喋れなくて。
 どんどん、お互いをお互いだって認める手立てがなくなって。
 それで泣くんだ。
 そんなになってまで、気付きたいことなんてなかったんだよ。


 ああ、もうわけわかんないけど。


 とにかく、返して。
 全部全部返してよ。
 失って気付かせたかったのなら、気付いたよ。
 だから返して。
 まさか、失ったままなわけないだろ!




 家に辿り着いた。律は二階にいるはずだ。
 私は靴も揃えず勢いよく玄関をくぐった。そのまま階段を駆け上がる。




「律!」




 部屋のドアを思いっきり開けた。


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