V.S.C.

 V.S.C. は意味が特定されていない略語。
 S.C.V. と並べ替えて「カール5世の後継者」(Successeur de Charles V)つまりフェリペ2世を指すと解釈されることがしばしばである。この解釈は19世紀初頭のベローや匿名のパンフレットによって提示された読み方らしいが*1アナトール・ル・ペルチエエドガー・レオニらも踏襲した*2
 ただし、ノストラダムスがこの語を公表した段階では、カール5世は神聖ローマ皇帝の座にあった。皇帝位を弟フェルディナントに、スペイン王を息子フェリペ2世に譲るのは2年ほど後のことである。

 ベルナール・シュヴィニャールによれば、エリゼ・デュ・ヴィニョワ(未作成)はラテン語の墓銘碑に見られる言葉 Voto Suscepto Curavit(誓いを果たすためにこの碑を建てた)としたようである*3。ただし、何らかの文章や名詞句などである場合、これら以外にも無数の可能性がありうるだろう。例えば、「カール(5世)に対する勝利」(Victoire Sur Charles)といった具合である。

 ほかの解釈としては、在野のノストラダムス研究者森近真司による読み方として、Votre Sainteté Carafe(カラファ聖下)の略とする説がある*4。カラファとはこの場合、1555年5月23日に教皇パウルス4世となったジョヴァンニ・ピエトロ・カラファを指す。この詩の発表は1554年の事であったので、カラファ家からの教皇選出を願って織り込んだのかもしれない(教皇名でなく世俗名に「聖下」をつけているのは、教皇名を予見できなかったからであろう)。V.S. がVotre Sainteté(聖下)やVotre Seigneurie(閣下)の略だというのは、現代の仏和辞典などでも確認できる。

 数字の略という可能性もあるかもしれない。1555年向けの予兆詩には日付を羅列したと思われる詩句が頻出しているからだ。Vは vingt(20)もしくは20番台の数字のいずれか、Sは six(6)、sept(7)、seize(16)のいずれか、Cは cinq(5)という具合である。

 なお、現代ではバチカン市国の略称がS.C.V. (Status Civitatis Vaticanæ)であるが、この国の成立は20世紀の事なので、さすがに無関係だろう。


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最終更新:2009年09月20日 11:36

*1 Chevignard [1999]

*2 Le Pelletier [1867b], Leoni [1982]

*3 Chevignard [1999]

*4 森近真司「ノストラダムスの予言集123の考察」(インターネットサイト『ノストラダムス研究室』内のコンテンツだったが、現在はリンク切れ)