百詩篇第6巻99番

原文

L'ennemy1 docte se tournera2 confus,
Grand camp3 malade, & deffaict4 par embusches5:
Monts6 Pyrenees7 & Pœnus luy8 seront9 faict refus10,
Proche11 du fleuue12 descouurant13 antiques14 oruches15.

異文

(1) ennemy : Ennemy 1672
(2) tournera : trouuera 1590Ro 1592JP 1600 1610 1644 1650Ri 1653 1660 1716 1840, treuuera 1627
(3) camp : Camp 1644 1650Ri 1653 1665 1672
(4) deffaict : de faict 1605 1611 1628 1649Ca 1649Xa 1650Le 1660 1667 1668 1672
(5) embusches : empusches 1590Ro, embusch 1605
(6) Monts : Mont 1665
(7) Pyrenees ou Pyrenées : pyrenees 1557B, pyrenées 1590, Pyrennées 1665 1840
(8) & Pœnus luy : & pœn' luy 1557B, luy 1672, & Pernus luy HCR
(9) seront : feront 1653 1665 1840
(10) faict refus 1557U 1557B 1568A 1590Ro : refus 1653 1665 1840, faicts refus T.A.Eds.
(11) Proche : Roche 1672
(12) fleuue : Fleuve 1672
(13) descouurant : descourant 1557B
(14) antiques : antique 1672
(15) oruches : cruches 1592JP, roches 1600 1610 1644 1650Le 1650Ri 1653 1665 1716 1840, ruches 1672

(注記1)1627は3行目で途切れて次のタイトル(愚かな批評家に対する法の警句)に直結している
(注記2)HCR はヘンリー・C・ロバーツが掲載している異文のこと。興味深いので1箇所だけ紹介した。

校訂

4行目の oruches は cruches と読まれるべきか。

日本語訳

博学な敵が混乱に転じるだろう。
大いなる陣営が病み、待ち伏せによって崩される。
ピレネー山脈もポエヌスも、彼に拒絶されるだろう、
その川の近くで古い甕が発見されるから。

訳について

 山根訳はおおむね許容範囲。大乗訳の場合、ロバーツの英訳で省略されている部分を補おうとしている苦心のあとは見られるが、もとにした原文が特殊な異文を含む信頼性の低いもののため、訳としては不適切。

 1行目については、「博学な敵は混乱して向きを変えるだろう」などとも訳せるが、docte と confus が対比的に用いられているとするジャン=ポール・クレベールの読み方に従った。
 3行目ポエヌス(Poenus)は「フェニキア人、カルタゴ人」という読みと、「アルペス・ポエニナエ」(ペニン・アルプス)という読みの2通りがある。

信奉者側の見解

 セルジュ・ユタンは、この詩の「博学な敵」がナポレオンのことではないかとしていた*1ジョン・ホーグも同様の推定を行い、1800年前後の状況と解釈をしていた*2

同時代的な視点

 ピーター・ラメジャラーは、ティトゥス・リウィウス(未作成)の『ローマ建国史』に描かれた紀元前3世紀初めのハンニバル(未作成)によるイタリア侵攻が土台になっていると指摘している。ただし、甕(アンフォラ)の発掘は、『ローマ建国史』の全く別の文脈から借用されたものだろうとしている*3
 ラメジャラーの読みは、Poenusをカルタゴ人の意味に取った場合、一定の説得力を持つように思える。


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百詩篇 第6巻
最終更新:2009年09月20日 12:21

*1 Hutin [1978], Hutin [2002/2003]

*2 Hogue [1997/1999]

*3 Lemesurier [2003b]