六行詩10番

六行詩集>10番*

原文

Ambassadeur1 pour vne Dame,
A son vaisseau2 mettra la rame,
Pour prier le grand3 medecin4:
Que de l'oster5 de telle peine,
Mais en ce6 s'opposera Royne7,
Grand peine auant qu'en veoir8 la fin.

異文

(1) Ambassadeur : Embassadeur 1672Ga
(2) vaisseau : Vaissau 1672Ga
(3) grand : Grand 1628dR 1649Ca
(4) medecin : Medecin 1600Mo 1627Ma 1627Di 1644Hu 1672Ga
(5) Que de l'oster : Que de l'hoster 1600Au, Pour loster 1600Mo, Que de l'Oster 1672Ga
(6) en ce : en fin 1600Mo, en 1627Di, a ce 1672Ga
(7) Royne : la Royne 1600Mo, Reyne 1627Ma 1627Di 1644Hu
(8) veoir : voir 1600Mo 1627Ma 1627Di 1644Hu 1649Xa 1672Ga

日本語訳

婦人のための大使は、
その船で櫂を置くだろう、
偉大な医師に祈るために。
(その医師は)そんな痛みを取り除いてくれる。
しかし、王妃はそのことに反対するだろう。
その終わりを見る前の大きな痛み。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは、エリザベス1世にメアリー・スチュアートが幽閉されたことの予言とした*1

同時代的な視点

 詩の意味は読んだとおりで、何らかの痛みを抱えている王妃が、それを治しうる医者の治療を拒むということだろう。
 「終わりを見る前の大きな痛み」という表現は「死ぬ前の痛み」を意味しているのかもしれないが、その一方、「出産を終える前の痛み」、すなわち「産みの苦しみ」を意味しているのかもしれない。
 だとすると、この詩もまた世継ぎであるルイ(13世)が誕生したこと(1601年)を踏まえた事後予言なのかもしれない。

 ただし、「医師」(medecin)は「メディチ家」(medici)との言葉遊びになっている可能性も想定できる。
 つまり、フランス王家は苦境を救ってもらうような要請をメディチ家に行うが、メディチ家出身の王妃マリーはその問題で消極的な姿勢を示すということである。

 17世紀初頭のフランス財政はかなり厳しく、財務卿シュリーが大胆な財政再建に当たっていた。
 当時のフランス王家の債権者には、トスカーナ大公(フェルディナンド・ディ・メディチ)も含まれており、シュリーは債務引き延ばしの交渉などを行っていた*2
 マリーがこれにどのような姿勢を示したのかは未調査だが、この詩は当時の財政状況を元に偽作された詩の可能性もあるのかもしれない。


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最終更新:2019年12月10日 02:50

*1 garencieres [1672]

*2 柴田・樺山・福井『フランス史2』pp.145-147