raffe ne riffe

 raffe ne riffe は、詩百篇第6巻49番に登場する、読み方に関する定説が存在しない句。

 エドガー・レオニはプロヴァンス語の de rifla ou de raffa のことで、by hook or by crook(是が非でも、何が何でも)の意味だとしている*1ピーター・ラメジャラーもこれを踏襲し、coûte que coûte(是が非でも)という現代フランス語訳まで添えている*2。訳し方の点ではリチャード・スモーレー(未作成)も同じである*3

 意味は異なるものの、成句と見るという点ではテオフィル・ド・ガランシエールも同じだった。彼は、topse-turvy(topsy-turvy, あべこべに、めちゃくちゃに)という訳語をあてており、これはヘンリー・C・ロバーツも同じだった。

 フランス語圏の解釈者や研究者は、別の見解を持っている。
 アナトール・ル・ペルチエ(1867年)は raffe をロマン語の raffla(掠奪、略取)とし、riffe もロマン語で「引っ掻き傷、擦り傷」の意味だとしている。これはシャルル・レノー=プランスミシェル・デュフレーヌもそのまま踏襲した*4
 ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌは、raffe を rafler(掻っ払う)の古い形、riffe を rifler(盗む)の古い形と見た*5
 ブリューノ・プテ=ジラールは、raffe は「掻っ払われたもの」、riffe は「火」または「引っ掻き傷」としている*6

 マリニー・ローズは、raffe はrafle(ブドウの空房、穀物の空穂)、riffe は rif(火)の綴り上の揺れという、現代フランス語辞典にも載っている通りの用法も載せているが、raffe ne riffe はむしろ通俗的な表現で「掠奪すべきものも掻っ払うべきものも何もない」ことを意味していると推測している*7。ローズの読み方は比較的文脈に当てはまりうるように思う。百詩篇第6巻49番のこの句の直前は十字架(キリスト教)が追い払われる話、句の後は捕虜や財宝などの奪い去られた(?)項目が並んでいるからである。

 正確な語義が何であれ、日本語でしばしば見られるような「カギ形に曲がった」といった訳は難しそうだという点を、とりあえずは確認しておきたい。riffe は griffe(カギ爪)の語頭音消失と見ることができるかもしれないが、直前に ne をとって否定してしまっているのは、「カギ形に曲がった」の支持者にとっては都合が悪いだろう。


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用語
最終更新:2009年01月12日 14:40

*1 Leoni [1982] p.294

*2 Lemesurier [2003]

*3 Smoley [2006]

*4 Reynaud-Planse [1940] ; Dufresne, Dictionnaire Nostradamus,1989

*5 Fontbrune [1980/1982]

*6 Petey-Girard [2003]

*7 Rose [2002c] p.302