概要
クラック対処協定は、共立公暦522年、
イドゥニア危機(クラック暴走事件)に端を発する安全保障上の脅威に備えるため結ばれた。共立機構主導の対処枠組み。
クラック対策の一環として各国政府による統一的な軍事協力が行われており、ラヴァンジェ側から
現象魔術師機関を受け入れるなどして当世界の安全を確保している。そうした任務の性質上、この協定はラヴァンジェ側に一定の執行権を与えているため、時に国境をフリーパスで超える特権も認められた。係る捜査の際には管轄権を巡る現地当局との摩擦を引き起こしており、度々政治マターに発展するなど、外交問題として争点化してしまうこともよくあるという。
経緯
共立公暦515年。
ある少女がラヴァンジェ国外へと脱出し、
セトルラームの防空網をすり抜ける事件が起こった。この一連の出来事は当時の共立世界に絶大な衝撃を与え、
現象魔法の脅威を認識したセトルラーム政府(フリートン政権)は該当の異能力者に対し、ただちに対処法の制定へと動き始めたのである。事態の悪化を憂いた時の最高評議会は、ラヴァンジェ側の協力を取り付ける形で対策の音頭をとるフリートン政権を説得し、同国議会における強硬法制(特別安全対処法)の緩和を約束させた。一方、
イドゥアム帝国においては、10km級戦艦が切断されたことを受けて防衛体制の見直しを迫られており、やむなく国境を閉じるなど大きな経済的打撃を被っていた。それは貿易を打ち切られたセトルラームにとっても危機的な状況として受け止められるものであったが、ラヴァンジェ側が一定の技術共有を認めたことによって事態の収束を図る流れとなり、本協定の締結へと至った経緯がある。
内容
共立機構の仲介により、締結された本協定の内容は概ね以下の通りである。
- 当事国を含む関係各国は当該事件を教訓とし、係る対処法の内容を履行すること。これは共立機構の主導で取り組み、内政不干渉の原則と両立させる形で国際秩序の維持に務めなければならない。
- 係る対処法の立案にあたっては、現象魔術師機関の指揮のもとに策定し、必要に応じて各国間の越境を認めることとする。
- 各国政府は、その利害関係を問わず緊密に連携すること。また、該当の暴走クラックに対して防衛措置を講じなければならない。
- クラック関連事案において認められる特異危険物の接収と、共立機構による管理を義務付ける。
- 上の履行にあたっては、クラック個人の基本権を保障し、公的登録の促進に務めることを前提とする。
備考
- セトルラーム政府は特別安全対処法を改定。自主的に憲法改正を進め、基本的人権に係る諸条項の補強を行った。
- ラヴァンジェ政府は当該クラックの基本権を保障しつつ、対魔措置を含む最大限の協力を各国政府に対して約束。
その一環として同国内に
現象魔術研究所
(文化・技術交流部門)を設置し、留学生の受け入れを進めた。
主な批准国
課題
以上の内容は、その後、特に大きな混乱もなく履行されたが、一方で未登録のクラックが難民として認定された場合に、ラヴァンジェ側の引き渡し要求をどのように受け止めるのか不明瞭とされた。共立公暦523年。フリートン大統領は、引き続き有効な解決手段の策定にあたるよう関係省庁に指示。その結果、当該クラック(特に非合法出国クラック)に対して軍による保護プログラムの適用も可能とする。このような試みは、表面上、『内政干渉にあたらない国内基本政策の一環として制定されたものである』と説明されるが、一方のラヴァンジェからは終了措置に対抗する挑発行為と受け止められかねず、現在、解決法を巡る国際社会の議論が継続している。
影響
この一連の事件を教訓として、セトルラーム政府は進歩的シンギュラリティ構想を打ち出し、以後、更なる科学兵器の開発をもって失われた国威を取り戻す路線に傾倒した。同時に現象魔法の研究も共同で行われ、現在、多くの学生をラヴァンジェ系列校に入学させている。一方のイドゥアム帝国は、ラヴァンジェ側と様々な裏取引を交わし、敵対行動を取る自由主義勢力に対して共同戦線を張るなど、後の
安保同盟に繋がる強力な防衛体制を構築した。なお、世界を混乱させた
当の本人は何故か処されることなくラヴァンジェ中枢と絡んでおり、同国による陰謀説も浮上しているが、事態の悪化を望まぬ最高評議会(共立機構)が箝口令を敷いているのが現状で、真相は闇の中である。
セトルラーム政府独自の施策として、
自国産ネットワーク・システムの普及に努めている。ラヴァンジェ政府に対しては、定期的なライセンス利用料の支払いと引き換えにセトルラーム国内における
現象魔法関連事件の捜査権限を広く認めた。一方、上述の非合法出国クラックに対する保護プログラムの適用可能性に関して留保しているのが実態で、外交の駆け引きに用いている疑惑もある。ラヴァンジェ政府がセトルラームの安全保障を損ねるようなことがあれば直ちに一連の合意は取り消され、国際レベルにおける強行法制の再検討に踏み切る可能性すら指摘されて久しい。無論、このような脅しをセトルラーム政府が直接的にかけているわけではないが、こと現象魔法分野において強度のパターナリズムを掲げるラヴァンジェが上述の保護プログラムを見過ごすはずもなく、連邦議会の内側からロビー活動を展開するなど、
フリートン大統領にとって揺さぶりとも取られかねない工作説が問題視された。そうした両国のアキレス腱は今のところ争点化しておらず、差し迫った脅威としては認識されていない。この問題はラヴァンジェにとって絶対に譲れない懸案事項の一つであり、非合法出国クラックを巡る水面下の衝突が繰り返されている可能性も指摘された。
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最終更新:2025年02月14日 22:51