ロフィルナ王国 > エルドラーム創約星教ティラスト派


概要

 エルドラーム創約星教ティラスト派は、ロフィルナ王国において成立した過激な宗教派閥であり、国家の精神的支柱として機能する。イドゥニア宇宙域(セクター・イドゥニア)の主要教派の一つであり、「常怒の国」として知られるロフィルナの闘争文化と不可分に結びついている。ティラスト派は古典古代のエルドラーム神話を厳格に守り、闘争と抵抗を至上の価値とする教義を掲げる。このため、穏健で世俗的なルドラス派や伝統主義のブルシェク派とは根本的に相容れず、歴史を通じて血生臭い衝突を繰り返してきた。信徒数はルドラス派に比べると少ないが、ロフィルナ国内では絶大な影響力を誇り、政治、軍事、社会のあらゆる面にその思想が浸透している。共立公暦1000年時点で、ティラスト派は国際社会から「危険な狂信集団」「テロ支援教団」として警戒され、文明共立機構による準備指定レベル4の対象とされている。教団の象徴である炎神ゲザッセルは裁きと再生の神として崇拝され、その名の下に信徒は命を賭けた戦いを厭わない。ロフィルナの混沌とした歴史と国民性がティラスト派を極端なまでに攻撃的な存在へと鍛え上げた。教団は単なる宗教団体を超え、国家そのものを体現する存在として、ロフィルナのアイデンティティを形成していると言えるだろう。ティラスト派の信徒にとって、闘争は生きる目的であり、信仰は戦場での血と炎を通じて証明されるものなのだ。

歴史

ティラスト派の起源とロフィルナ独立戦争

 ティラスト派の起源は、宇宙新暦1200年代のロフィルナ王国独立戦争に遡る。この時期、ロフィルナは外部勢力による支配に苦しんでおり、植民地化された国民は自由を奪われていた。抵抗勢力として結成されたレジスタンスは武装赤軍を組織し、抑圧者への反旗を翻した。この過酷な状況下で、人々は信仰の拠り所を失いかけていたが、古代神話の炎神ゲザッセルを「抑圧に抗う裁き手」として再解釈し、新たな希望を見出した。ティラスト(「炎の裁き手」の意)と名乗る指導者たちが教団を結成し、革命の精神を鼓舞する役割を担った。彼らは戦場で炎を手に敵を焼き払い、「闘争こそが魂の救済」と説いた。独立戦争は苛烈を極め、ロフィルナの大地は血と灰に覆われたが、ティラスト派の指導者たちは民衆を導き、勝利へと導いた。この時期、ティラスト派はまだ組織的な教団とは呼べなかったが、独立の達成とともにロフィルナ王国の精神的基盤として認められるようになった。戦後、教団は「抑圧への永遠の抵抗」を掲げ、武力による正義の追求を正当化する教義へと発展していった。独立戦争の記憶はティラスト派の核心となり、後の過激な行動の原動力となった。

第一次ロフィルナ革命と教団の確立

 新秩序世界大戦の最中、ロフィルナ王国はエルク朝と呼ばれる強権的な王朝に支配されていた。エルク朝はロフィルナの在地勢力として台頭した貴族層であり、外部からの支援を受けつつ国民を抑圧していた。第一次ロフィルナ革命はこのエルク朝に対する反乱として爆発し、ティラスト派はここで公式な教団としての地位を確立した。大戦の混乱の中、ロフィルナの国土は異形のキメラが徘徊する過酷な戦場と化し、民衆は生存のために絶え間ない戦いを強いられた。ティラスト派は「これらの試練は神の意志であり、闘う者だけが救われる」と説き、信徒に徹底抗戦を呼びかけた。エルク朝の貴族たちは豪奢な宮殿に籠もり、ロフィルナ人を奴隷化しようと画策したが、ティラスト派の指導者たちは軍閥と結託し、王朝の要塞を次々と焼き払った。革命の過程で、ティラスト派はエルク朝の支配者を「神への冒涜者」と断じ、その血を炎で清める儀式を行った。革命の勝利後、教団はエルク朝の残党を異端として粛清し、「炎による裁き」を国家の正義として定着させた。この時期、大敵(=侵略者)への憎悪が教義に組み込まれ、「外部の敵との戦いこそが魂の浄化」とする思想が広まった。ティラスト派は軍事的な成功を通じてロフィルナの国民性に深く根付き、国家宗教としての地位を確固たるものとした。

第二次ロフィルナ革命と過激化

 共立公暦4900年代、第二次ロフィルナ革命が勃発すると、ティラスト派はさらなる過激化の道を歩んだ。長きにわたるセトルラーム共立連邦の経済的搾取と軍事的圧力に耐えかねたロフィルナ国民は、再び武装蜂起を起こし、コックス大宰相が復権を果たした。この革命は、外国資本の撤退と国内の混乱を背景に、ティラスト派が主導する形で進行した。教団は異端審問や「革命記念デスパレード」を通じて内部の反対勢力を容赦なく排除し、「神の意志に背く者は全て炎で裁く」と宣言した。革命の最中、ティラスト派は核兵器の使用を正当化する教義を打ち出し、国際社会への挑戦姿勢を鮮明にした。コックス政権と教団は一体化し、ティラスト派はロフィルナの政治を裏から操るほどの影響力を手に入れた。穏健派のルドラス派やブルシェク派を「裏切り者」と断じる声が高まり、教団は「世界を敵に回しても神の裁きを下す」とする極端な立場を固めた。共立公暦590年の転移者星間戦争では、ティラスト派主導の暴走が目立ち、特に異世界転移者への迫害が国際社会の不信を決定づけた。この事件を機に、ロフィルナは孤立を余儀なくされ、ティラスト派は自らを「神の最後の裁き手」と位置づけるに至った。教団の過激化は、ロフィルナの崩壊を加速させる要因ともなった。

教義

 ティラスト派の教義は、闘争、抵抗、浄化を核とする過激な思想体系であり、ロフィルナの混沌とした社会と国民性を色濃く反映している。以下にその詳細を述べる。

基本理念

 闘争は神の意志:すべての苦難と戦いは創造主イドルナートが与えた試練であり、闘うことで魂が浄化され、神の列聖に近づく。平和は停滞と堕落の象徴であり、永遠の闘争こそが真の秩序。戦いを避ける者は神に見放される。
 抵抗は美徳:抑圧や外部勢力への服従は最大の罪であり、死を賭して抵抗することが信仰の証。敵を倒すか、自らが倒れるかの二択しかない。屈辱を受け入れることは魂の死を意味する。
 炎による裁き:炎神ゲザッセルは裁きと再生の象徴であり、敵を焼き尽くし、自らを鍛える炎が神聖な力。炎を恐れぬ者は神に選ばれた戦士とされ、炎を操る者は神の意志を体現する者とみなされる。

主要教義

 世界観:この世は強者と弱者が互いに喰らい合う闘争の場であり、イドルナートの意志により選ばれた者が裁きを下す。弱者は淘汰され、強者は神の御許に昇る。戦争と混乱こそが自然の摂理であり、調和を求める者は神への冒涜者である。世界は炎で清められ、新たな秩序が生まれる。
 死生観:死は敗北ではなく、闘争の果てに神の御許へ還る栄誉。敵を道連れに死ぬ者は列聖され、永遠の炎に守られる。命を惜しむ者は神に見放され、永遠の闇に堕ちる。戦場での死は最大の祝福であり、死に様こそが信徒の価値を決める。
 生活観:肉体と精神を戦士として鍛えよ。休息や享楽は敵に隙を与える罪であり、日々の鍛錬が信仰の証。武器を手に持たぬ者は信徒にあらず。痛みを喜びとし、苦難を糧とする生活が求められる。信徒は常に戦闘準備を怠らず、敵の襲来に備える。
 労働観:労働は闘争のための力を蓄える手段であり、搾取や怠惰は神への冒涜。戦利品を奪うことは神の恩寵であり、敵から得た富は神への供物として正当化される。弱者を養う義務はなく、強者がすべてを支配する。労働の成果は戦場で証明される。
 社会観:強者が弱者を支配するのは自然の摂理。慈悲は敵に与えるものではなく、味方を守るための力に還元されるべき。裏切り者や異端は炎で裁かれ、社会の純粋性を保つ。共同体は闘争を通じて結束し、敵を排除することで繁栄する。社会は戦士の集団として機能する。

伝統

 ティラスト派の伝統は、闘争と炎を軸にした過激な儀式や祭事に特徴づけられ、ロフィルナの暴力的な文化を強化している。

炎の宣誓

 毎週熱曜に行われる贖罪の儀式。信徒は自らの誠実さと勇気を証明するため、燃え盛る炎の中を歩き、あるいは手に持った火を握り潰して誓いを立てる。火傷や死者が頻発するが、「恐れを知らぬ者こそ神に愛される」とされ、参加は名誉とされる。この儀式はロフィルナの街角で日常的に行われ、燃える炎と信徒の叫び声が響き渡る。参加者は事前に身体を清め、武器を手に持って臨むことが慣例だ。国際社会からは「野蛮な慣習」として非難されるが、ティラスト派にとっては信仰の核心であり、信徒の結束を強める重要な行事である。

聖イドルナート祭

 年に一度開催される血塗られた祭り。軍閥の承認のもと、全国から集まった武装民兵が精鋭部隊と戦い、血と勇気を神に捧げる。戦場は都市全体に広がり、勝者は「列聖の候補」として讃えられ、敗者は「神の試練に耐えられなかった者」として記録される。蘇生技術の使用は禁じられ、純粋な生存競争が求められる。祭りの期間中、街は血と硝煙に包まれ、民衆は戦士たちの戦いを観戦しながら歓声を上げる。最後には戦死者の血で染まった旗が掲げられ、ゲザッセルへの感謝が捧げられる。国際社会はこの祭りを「人道に反する狂気」と批判するが、ティラスト派にとっては神聖な伝統であり、ロフィルナの闘争心を象徴する最大のイベントである。

革命記念デスパレード

 革命の再現を目的とした年に一度の祭りであり、ティラスト派の闘争精神を最も象徴するイベント。完全武装した暴徒が警官隊を蹴散らし、軍隊がこれを制圧する中で、国会議事堂が派手に爆破される。信徒はこの混乱を「神への忠誠と敵への警告」とみなし、参加を義務と考える。沿道では戦利品や武器を売る露店が立ち並び、観光客すら巻き込む大規模な騒乱となる。デスパレードのクライマックスでは、爆発とともに炎が空を染め、信徒たちがゲザッセルの名を叫ぶ。この祭りはロフィルナの国民が暴力と破壊を愛する心を映し出し、ティラスト派の教義が社会に根付いている証でもある。参加者の中には子供や老人も含まれることがあり、家族総出で闘争を楽しむ姿が特徴的だ。

組織構成

 ティラスト派は、ロフィルナ王国の軍閥と密接に連携した階層的な組織を持ち、中央集権的な指導部は存在しない。地域ごとの自治が特徴で、軍閥間の妥結によって運営される。以下に主要な役割を詳述する。

 裁きの炎長:各軍閥に属するティラスト派の最高指導者。教義の解釈と儀式の執行を担い、同時に軍事指導者として戦場で指揮を執る。炎長は自ら戦士として前線に立ち、信徒を鼓舞する役割を持つ。彼らは炎を操る技術に長け、戦場で敵を焼き尽くす姿が伝説となっている。裁きの炎長は教団内での絶対的な権威を有し、コックス大宰相とも対等に渡り合うほどの影響力を持つ者もいる。
 異端審問官:教団内の規律を維持し、異端や裏切り者を裁く役職。異端審問官は高位の権力者として遇され、政府からも一目置かれる存在。炎を用いた公開処刑を行い、信徒に恐怖と忠誠を植え付ける。彼らは独自の諜報網を持ち、アリウス女大公の動向すら監視するとも噂される。審問官の裁きは容赦なく、裏切り者は家族ごと炎に投じられることもある。
 戦士僧団:ティラスト派の武装勢力で、軍閥の戦闘員として聖戦を遂行する。信徒の中でも特に過激な者が選ばれ、戦場での無謀な突撃や自爆攻撃を厭わない。戦士僧団は「神の炎の使徒」と呼ばれ、ロフィルナ軍の主力として恐れられている。彼らは赤と黒のローブを纏い、炎を象徴する紋章を胸に刻む。戦士僧団は軍閥間の争いにも介入し、教団の意志を強制する役割も担う。
 民衆信徒:一般のロフィルナ国民からなる信徒層。日常的に闘争に参加し、教団の基盤を支える。彼らは軍閥や戦士僧団に従い、暴動や略奪を通じて信仰を実践する。民衆信徒の中には、家族全員で儀式に参加する者も多く、教団の思想が社会全体に浸透していることがうかがえる。信徒たちは自らの家に小さな祭壇を設け、毎日の祈りで闘争の成功を願う。
 組織運営は軍閥間の力関係に依存しており、アリウス女大公やコックス大宰相の政治的意向が間接的に影響を与える。教団自体が国家と一体化しているため、政治的動乱が教団の分裂を招くこともあり、共立公暦1000年時点では内部の緊張が高まっている。特に、サンリクト公国の反乱が教団内の派閥争いを激化させているとの報告もある。

国際関係

 ティラスト派は過激な教義と行動により国際社会で孤立し、他派や諸国との関係は軋轢に満ちている。以下に主要な関係性を詳述する。

ルドラス派との関係

 ルドラス派とは歴史的に敵対関係にあり、共立公暦998年の「イドルナートの大火」が全面対立の引き金となった。この事件で、ティラスト派の戦士僧団がセトルラームのルドラス派聖堂を襲撃し、数千人の信徒が犠牲となった。ティラスト派はルドラス派を「軟弱な裏切り者」と非難し、「神の炎で全てを焼き尽くす」と報復を宣言。一方、ルドラス派側も民間レベルで「ティラスト殲滅」を掲げる勢力が台頭し、ルドラス同盟軍が結成されるまでに至った。両者の対立は宗教戦争の様相を呈し、ロフィルナとジェルビア三国(ラマーシャ公国ファルランベルク王国フィンスパーニア王国)の国境地帯では小競り合いが頻発している。ティラスト派はルドラス派の穏健さを「神への侮辱」とみなし、全面戦争を厭わない姿勢を示している。

ブルシェク派との関係

 ブルシェク派とは教義の解釈を巡って対立しているが、直接的な衝突は少ない。ティラスト派はブルシェク派を「時代遅れの遺物」と見なしつつも、共通の敵であるルドラス派への対抗意識から、一時的な協力の可能性も否定されない。ブルシェク派側はティラスト派の過激さを「信仰の歪み」と批判するが、両者が手を組んだ場合、ルドラス派にとって大きな脅威となるだろう。過去には、ティラスト派とブルシェク派の指導者が秘密裏に会談したとの噂もあり、国際社会がその動向を注視している。ティラスト派にとっては、ブルシェク派との関係は戦略的な打算に基づくものに過ぎない。

文明共立機構との関係

 文明共立機構はティラスト派を「テロ支援教団」と認定し、ロフィルナ王国への制裁を強化している。共立公暦1000年の準備指定レベル4発動は、両者の対立が決定的となった証である。ティラスト派側はこれを「神への冒涜」とみなし、機構全体を敵視する姿勢を強めている。教団は「平和維持軍は偽りの正義を振りかざす異端」と断じ、機構の介入を阻止するための軍事行動を計画中とされる。特に、コックス大宰相の脱退宣言後、ティラスト派は機構への直接攻撃を正当化する声明を出し、国際社会を震撼させている。機構側もティラスト派の壊滅を視野に入れた軍事作戦を計画中だ。

その他の勢力との関係

 メイディルラングの闘争資本主義勢力とは一定の親和性があるものの、「略奪への抵抗」を重視するティラスト派の立場から完全な同盟には至っていない。メイディルラング側はティラスト派の戦力を利用しようと画策するが、教団は「我々は誰の道具にもならぬ」と独立性を強調している。セトルラーム共立連邦とは歴史的な怨恨から不倶戴天の敵とされ、ティラスト派は「セトルラームを炎で浄化する」と公言。両者の全面戦争は時間の問題と見られている。また、ユピトル連合とは潜在的な協力関係が噂されるが、ティラスト派の過激さが障害となり、具体的な進展はない。国際社会全体から見れば、ティラスト派は制御不能な脅威と映っている。

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宗教
最終更新:2025年03月31日 23:32