ラヴァンジェ諸侯連合体 > 転移者星間戦争

転移者星間戦争(ロフィルナ語:Dooram Fea vi Parderannam Helfilistaliam)、通称DFPHとは、ラヴァンジェ諸侯連合体政府と転移者革命軍「アリス・インテンション」(AIn)による武力紛争。低強度紛争の一面があるため、正確な発生時期が国際法的に確定できないものの共立公暦590年頃であるとされている。591年にグランドウィンド停戦協定が締結され、転移者自治領が成立。後に安保同盟および黒丘同盟の成立へと繋がった。


概要

 ラヴァンジェ政府は各地に発生する転移者(特異難民)に関して、アポリアによるものであると認知していた。ラヴァンジェ政府現象魔法による世界への影響を重大視していたため、この転移者について管理と研究を行う必要性を認知していた。このため文明共立機構に対して転移者の移民枠を拡大して、大規模に各国から転移者を転居させた。これによって大規模に移動した転移者は、本国のコロニーや地上において受け入れることが出来ず、惑星シアップへ移動させた。現地において転移者は開拓の人を担うことになったが、殆どの転移者が若年層であったため開拓の過程で大量の死者が発生した。転移者の不満は貯まる一方であり、589年にはドラクミロヴァ・西崎・アリス率いる革命準備組織「アリス・インテンション」(AIn)が設立された。AInはラヴァンジェ政府に対して正式なルートを通じた抗議をしていたが、ラヴァンジェ政府は現象魔術師機関の圧力を受け、致死的状況における転移者の条件実験の名目でこれを無視してきた。
 590年、AInは各地で蜂起し、シアップにおける現地治安組織を襲撃して武器等を鹵獲し、ゲリラ的にシアップの政府機能を麻痺させることに成功した。それとともにラヴァンジェ政府に対して「転移者自治共和国」としての独立を宣言した。これを認めなかったラヴァンジェ政府は宙軍・機動魔術部隊を派遣し事態を短期的に鎮圧しようとしたが結果的に失敗した。これが転移者星間戦争の始まりである。

歴史と背景

転移者の起源と定着の経緯

 現代の法律用語で、特異難民とも呼ばれる転移者の存在自体は旧暦時代の遥か以前から知られていた。その発生起源については諸説あるものの、古典古代にまで遡る説が有力視された。更に近古代末期の大災厄でも複数の発生例が認知されて久しく、または空間系に作用する転移実験であったり、何らかの法則異常に伴う事象災害アポリア等)によって生じたとする記録も認められた。一方、後に調査対象となった人物・国家・その他のコミュニティの数は全てのセクターに跨る複雑な国際問題とされて久しく、それらを全て調査し、規制のふるいにかけることは現実的ではない事情も否めなかったわけである。見方によっては被害者とも考えられる転移者への社会支援策もまた国によって異なる様相を見せており、内容の良し悪しを問わず黙認されてきた経緯も指摘された。多くの転移者が新世界での適応に必死となる中、一部が暴徒化し、抗争を繰り広げる負の連鎖も続いたという。元いた世界の優越的な技術を認められ、大国の支配層にまで上り詰めた事例も報告された。そうした転移者の活動は良くも悪くも「この世界」に大きな影響を与え、認知ケースの増加とともに多くの者が事の真相を追求するようになった。

転移者の処遇を巡る国際社会の混乱

 共立公暦459年。ラヴァンジェ諸侯連合体との接触に端を発する世界的な異能技術の発展は多くの社会に激烈な変化をもたらすと同時に、法整備が追いつかない新たなテクノロジーの問題も告発されるようになった。人類の認知機能が世界を滅ぼす兵器になり得ることが知れ渡るにつれて、強力に対抗しようと試みる勢力が相次いだためである。文明共立機構は、旧暦時代のような戦渦を避けるために問題の当事国に対して技術提携による相互抑止を図るよう迫った。それには近年争点化して間もない転移者問題の解決も含まれており、クラック対処協定の締結を起点に多くの国が特異難民への定着支援策に同意した経緯も確認された。同550年、国際的な緊張緩和の秩序が形成され、自国の力に自信を深めた時のラヴァンジェ政府は、より多くの転移者を受け入れる意向を表明。強力な異能を持つ転移者の扱いに手を焼いていた多くの国が便乗する流れとなり、星間史上において初となる大規模な移送事業の進展へと繋がったのである。かねてからの国内問題で揺れるオクシレインもまた諸侯連合の受け入れ策に期待し、多くの難民を送り届けた国の一つとなった。しかし、主な受け入れ先となったシアップ当局の統治が想定外に劣悪で、ラヴァンジェ本国の対応能力に疑問符が付き始めると反対運動が激化。オクシレイン政府としても改善を求める姿勢に転じたが、一向に動こうとしない国際社会の現状に痺れを切らし、同590年、問題の争点化を目的とする軍事行動の決断に至った。当然のことながら、そのような試みは国際社会の原則に反するもので、反戦を命題とする共立諸国は現実と正義を秤にかけた究極の決断を迫られたのである。一方のラヴァンジェ側も事象災害アポリア)に端を発する転移者の扱いに苦心しており、文明共立機構は建設的解決策を模索していた。

経過

初動

共立公暦590年1月2日
 AInは武器を取り、暴動を開始。これに反応したラヴァンジェ政府は、騎士団及びヴラッツァートによる制圧部隊を結成し、暴動を鎮圧しようとした。

1月12日
 ヴラッツァートが無能力者である転移者を手当り次第に虐殺するなど、統制力の低さが露呈

1月13日
 非武装市民の殺害について諸侯評議会でフラン公シュレターフ公ヴィヤンタート公が批判。しかし、内務担当のエーフ公がこれらの「理想主義的意見」に強く反対を示した。転移者問題を担当するヴラウラーンド公は「全力で対応中」として明確な立場を示さなかった。

1月15日
 一方、国際社会も黙ってはおらず、オクシレインは転移者の支援をいち早く表明。文明共立機構はラヴァンジェ政府による転移者の基本権保護に懸念を表明。国家元首であるフラウは「転移者の暴動鎮圧は、平穏に暮らしてきた市民たちの基本権保護に繋がるものと認識している」と、オクシレインと共立機構の懸念に回答した。

1月16日
 オクシレイン大衆自由国に次いでソルキア諸星域首長国連合が転移者に対する支援を表明。「アポリアに関する問題はその道に長けたラヴァンジェが責任を持って事態に対応するべきであり、それが出来ないのなら少なくとも国際社会からの援助を受けるべきではないのか。彼ら転移者は望んでこの世界に来たのではなく、それでいて生命を脅かされるというのは理不尽極まりない事だろう。彼らは我々と同じ文明人として権利を与え、保護されるべき存在であるはずだ。」として両者の即時停戦を求め、かつ人道的支援を申し出た。

シアップ軍事宇宙港強襲作戦

1月17日
 AInは全国に散らばっていた軍事系統を一本化、西崎が事前に計画していた「宇宙港強襲」を実行。騎士団は応戦したものの、鹵獲されていた現象魔法兵器への対策を疎かにしてたために敗走、撤退を繰り返した準軍事組織であるヴラッツァートは命令系統の違いから騎士団の撤退に遅れ、多くが転移者達によって殺害された。同日日没、シアップ軍事宇宙港は陥落した。

1月18日
 諸侯評議会は宙軍の出動を承認。地上軍派遣の準備が行われた。これに対してオクシレインが宙軍を稼働し、シアップへの強襲を試みたがラヴァンジェ宙軍の概念戦艦の起動により断念した。また、同国によっての文明共立機構『管理評議会・共立司法裁判所』に対して憲章違反の申立が行われた

1月19日
 ジェルビア防衛条約に基づくラヴァンジェ政府の要請を受け、セトルラーム共立連邦率いる共立同盟(heldo)連合宇宙軍が支援艦隊を派遣。対オクシレイン戦を想定したものであり、AIn鎮圧に関しては内政問題にあたるとして干渉しない意向を表明した。

1月20日
 オクシレイン軍による宙域侵入の試みに対して、共立機構国際平和維持軍が警告を宣言これに対し、ソルキア連合政府は「共立三原則に抵触する行為である事に違いないが、生命を守るには最善の行動であった筈だ。」と平和維持軍を非難した上で速やかに人道的措置を講じるよう求めた。

1月21日
 イドゥニア星系連合がオクシレインに対する共同非難声明を発信。『共立三原則に悖る行いであり、絶対に許されない』。

1月22日
 ツォルマリア星域連合直轄領オクシレイン政府に対する『金融資産』の凍結を表明。同企業に対して全ての取引を禁じる旨の呼びかけを行い、多くの国や団体がこれに続いた。ユミル・イドゥアム連合帝国政府は、それら一切の制裁措置に関して拒否する意向を各国に通達。セトルラーム政府が一定の理解を示したものの、キルマリーナ共立国をはじめ、メイディルラング界域星間民主統合体テラソルカトル王政連合がこれに猛反発し、オクシレイン、ツォルマリアとともに対処していく旨の共同声明を発した。『heldo諸国の殆どがセトルラームに従属しており、責任ある国際協調原則に反するものだ』。

シアップ上空の戦い

1月23日
 ラヴァンジェ宙軍の駆逐艦隊がシアップ軍事宇宙港を奪還するために強襲上陸を試みたのに反応して、AInの鹵獲艦隊と対峙、いずれも貨客船改装ミサイル駆逐艦であったため遠距離から熾烈な戦闘が行われたが、AIn側が宙間戦闘に慣れていなかった者ばかりであったため、次第に撃破され、撤退。ラヴァンジェ宙軍は最終的に宇宙港に強襲上陸することに成功した。シアップ港に上陸した地上軍は占拠していたAIn陸兵を殲滅し、奪還した。

1月24日
 平和維持軍の難民保護計画が実行される。ラヴァンジェ政府は「意図的に難民を保護する平和維持軍を攻撃することはないが、必ずしも安全を保障できない」と言及。

1月25日
 地上に戻ったり、燃料補給が出来なくなったAInの鹵獲艦隊がシアップ軍事宇宙港に投降目的で接近するも、ラヴァンジェ宙軍は襲撃と勘違いし、交戦を開始。鹵獲艦隊を殲滅した。

1月26日
 エルカム交通公団の情勢。ツォルマリアの要請を受けたルフィアム・アリアンナ総帥がオクシレインに対する制裁措置を表明。事が収束するまでイェルサ―行きの全ての運行を停止とする措置に踏み切った。セトルラーム政府は、双方ともに事態をエスカレートさせないよう強く求めたが、一切聞き入れられず、逆にheldo諸国の中途半端な制裁について詰められる事態に直面する。この出来事は、ヴァンス・フリートン大統領を激怒させ、後にエルカム本社の体制改革(株式保有率の変更)を促す大きな原動力の一つとなった。→ 第2回テレステG9首脳会議

1月3日~1月27日ユミル・イドゥアム連合帝国の支援)
 1月3日。ラヴァンジェと友好関係を結んでいるユミル・イドゥアム連合帝国でも皇帝トローネ・ヴィ・ユミル・イドラムが声明を発表。ラヴァンジェに住む帝国民間人の保護のために、同1月5日、輸送艦や護衛の仮装巡洋艦で編成した救援艦隊と、工作艦や給糧艦で編成した特殊艦隊をラヴァンジェに向けて出航させた。当初は主力艦隊による防衛のもと、全民間人の保護を目指していたが、武装の用途に関する厳しい追求を受け、主力艦隊は同1月25日、セトルラーム領内のアリーレ・セル星系において待機を余儀なくされた。計画では駆逐艦の護衛を付ける予定だったが、同1月26日、『戦争』に巻き込まれることを恐れて重武装化した仮装巡洋艦を護衛に付け万全の体制を整えた。この間にも地上戦が激化し、多くの民間人が犠牲になったため、帝国政府は平和維持軍の対応を非難した。

2月28日
 帝国政府の非難に対し、文明共立機構最高評議会が反論。平和維持軍が民間人の保護を妨害したかのような言説であり、分断を企図した不当な工作活動にあたるとして強力な措置を取る可能性があることに言及した。

2月30日
 連合帝国宙軍は第二主力艦隊(旗艦ユミル・イドラム・3世級超重戦艦以下200隻)をセトルラーム領内・アリーレ・セル星系において待機させ、ラヴァンジェ政府や共立機構との調整を進めつつ前線に派遣する準備を整えた。

軌道エレベーター爆破

2月3日
 シアップ軍事宇宙港を占領されたAIn軍は宙軍戦闘の手立てもなくしてしまった。一方でシアップ港からの軌道エレベーターで上陸は容易になってしまったため、それを戦略的不利と考えた軌道エレベーター付近の師団が独断で軌道エレベーターを爆破する作戦を行った。シアップ港は地上に落下し、空中分解。落下した部品が地上に甚大な被害をもたらした。このときの死傷者数は惑星全体で10万を超えるという。平和維持軍の難民キャンプと兵士にも多大なる影響を与えた。

 西崎は、師団長コリン・メグスドッティルを譴責処分として、すぐに職務復帰させた。

2月4日
 heldo加盟艦隊がAInに対して威嚇射撃。相互不可侵の徹底を求めるものだが、時のheldo総司令は参戦の意図を否定した。

2月5日
 heldoロフィルナ艦隊にAInの流れ弾が複数着弾し、これに怒ったティラスト派指揮官がheldo総司令部の命令に反して苛烈な報復を加える事件が勃発。続いて、ロフィルナ航空宇宙軍陸戦部隊の7万人が強襲降下作戦へと踏み切り、事実上、正式に参戦するという暴挙に及んだ。彼らは時のレルナルト・ヴィ・コックス大宰相をして『始末に負えない猛獣』らしく、戦うことしか能のない無頼の集団であったという。別働隊のロフィルナ諜報機関は、ラヴァンジェ政府に対し、これを容赦なく利用し皆殺しにするよう助言したらしいが、僅かでも戦力が欲しい騎士団側の圧力もあって大々的な取り締まりに踏み切ることが出来なかった。時の主戦派エーフ公領の主いわく、『ならず者だろうが、なんだろうが、援軍は援軍。しかも、自ら勝利の礎(肉壁)になることを恐れない……練度が高い男達だ。事と次第によっては、外交のカードにもなり得る。これほど安くて価値のある駒を締め出せというのか?』。

heldo各国の温度差

3月1日
 暴走するAIn過激派に対し、heldo総司令が抗議。「これから執行される全ての責任はAInにある」として陸戦部隊による限定的な交戦を承認した。

3月2日
 セトルラームを始めとする複数国が保護活動に限定した戦力投入を表明。平和維持軍に対して必要な支援措置を講じることで一致した。

3月3日
 ロフィルナ政府はAIn過激派に対し、徹底的な制裁を加える意向を通達。実際には一切の区別なく砲撃するなどheldo全体の対応が問われる事態に発展した。ヴァンス・フリートン大統領『おいおいおいおい。何をやってくれてんだ……作戦司令部に次ぐ。最優先事項だ。奴らを止めろ!』(阻止作戦発動)

3月4日
 難民を乗せた護送車列にAIn陸戦部隊が接近。強制的に停車させた後、中の者を引きずり下ろす暴挙に出たがフィンスパーニア陸軍による威嚇射撃をもって救出されるという事件が起こった。

3月5日
 孤立した市内のキャンプにセトルラーム陸軍が到着。過激派に対する抑止力の向上が期待されるも、実際にはheldo国籍を持つ一部の民の救出を目的としており、大多数の難民が捨て置かれる事態に。 この状況に絶望した平和維持軍大佐が自殺した セトルラーム陸軍が撤退した後に、AInの戦闘員がキャンプを襲撃。このキャンプに配属された平和維持軍部隊は大佐の自殺の影響もあり、戦闘指揮系統に混乱が生じて壊滅した。AIn構成員が自殺した大佐の死体を引き回して、あざ笑う動画を公開し、国際的な非難を集める。西崎は当地を担当した師団長を更迭したが、意味がないことは明らかだった。この際の師団長は、軌道エレベーター爆破を起こしたコリン・メグスドッティルであった。

3月6日
 ロフィルナ遠征空兵による局所的な攻勢。拘束されたAInの構成員が軒並み吊るされ、焼却または切り刻まれる事件が多発する。同時に難民救出のプロパガンダも流されたが、この事は「戦場におけるheldo各国の責任を問うもの」として強調された。セトルラーム陸軍特殊部隊がロフィルナ軍に対する制裁措置斬首作戦を開始。ラヴァンジェ政府の主戦派にとっては利敵行為に等しい過ちであり、エーフ公率いる騎士団精鋭の妨害工作を受けて退却を余儀なくされた。事態の過激化を受け、ソルキア連合政府はAInをテロ組織指定し、同時にラヴァンジェ、ロフィルナに対する経済制裁を実行。heldo諸国に対しては平和維持軍と共に難民保護活動を第一に努めるよう強く要請し、共立三原則の悪用で当事者による都合のいい解決をする事のないよう求めた。オクシレイン政府がheldo艦隊の対応を非難。『足並みの揃わぬ抑止力など害悪以外のなにものでもない!ただちに悔い改めよ!そして、その下劣な連中(連合帝国&ロフィルナ王国)と手を切るべきだ!』。セトルラームもオクシレインによる『侵略的策謀』を非難し、無限の応酬が続いていく……ヴァンス・フリートン大統領は、オクシレイン政府に対してツォルマリア主導の経済制裁に乗る可能性を示唆。オクシレイン政府も友好国とともに同レベルの措置に踏み切る可能性について警告した。

通信途絶

3月7日
 シアップ・ベルディン間との通信が突如途絶した。ラヴァンジェ政府側はAInによるジャミングではないかと考えていたが、一週間以内にこれは回復した。
AIn側はECM兵器を起動させたこともないため、恐らく近隣恒星の大規模フレアの影響だと考えられている。
この間にAInは、ラヴァンジェ政府の攻撃だと決めつけて、政府シンパ探しを始めており、難民キャンプが「検査」されることになった。平和維持軍との睨み合いになることはあったが、直接的な衝突は避けられた。

3月8日
 セトルラーム率いるheldo諸国の大半がソルキア連合に対する経済制裁を発動。『平和維持ミッションの内実を曲解し、徒に国際秩序を乱している』として同企業との取引を一切禁ずる措置を講じた。これをもって、ソルキア船舶はオクシレインとの交易路を絶たれ、同国政府の怒りを誘う。相応の経済的報復を受けたセトルラームの株式市場は過去最低と評される記録を叩き出し、その後の大不況を誘った。連合帝国政府がセトルラームに対する貿易拡大を宣言し、世界経済のブロック化を促してしまう。これを受けて、ツォルマリア政府もまたオクシレインに対する経済制裁のレベルを引き上げ、国際金融機関からの締め出しを図った。この一連の流れにカルスナード教王国が激怒。ソルキアに対して即時封鎖を解くようツォルマリアに要求したが、聞き入れられず、一切の外交窓口を断ち切った。

3月9日
 ロフィルナおよびラウァンジェ軍共同での制圧作戦が本格化する。シアップ内における複数の大都市が武力解放され、多くの切断された首が吊るされる深刻な人道危機を迎えた。AIn構成員の多くがロフィルナ軍によって生きたまま切り刻まれるか、焼き殺されるか、ラヴァンジェ軍に投降し、合法的に処刑されるかの選択を迫られたという。酷い場合は、ラヴァンジェ軍であっても、その場で嬲り殺しの憂き目に合い、女子供を含む大勢の命が失われた。一部のAIn構成員は命からがら平和維持軍が駐留する難民キャンプに駆け込み、軍事的な支援を懇願。法的な縛りで武力行使に踏み切れなかった平和維持軍の指揮官は、この時が最も辛く困難な時期であったことを後に明かしている。この戦争での無力感を鮮明に記憶する、この指揮官は、後に改編される 中央総隊 の総司令官に就任。『キューズ・アライアンス』と称されるFT2主戦派将校の団結を徹底的に推し進める流れを辿った。

3月14日
 通信回復したベルディン側からの第一次停戦交渉提案。具体的な交渉にあたっては文明共立機構が仲裁を担う流れとなり、オクシレインとの「講和」も含めて当事者間の緊張緩和に努めた。

3月17日~
 ユピトル学園主権連合体は沈黙を維持。対オクシレイン制裁に加担すると仮想敵国たるセトルラームを利することになり、対ラヴァンジェ制裁に踏み切るとheldo諸国の報復を招きかねず、慎重な検討を要するため。中立を貫くと両陣営から制裁を受けるであろうことが容易に想定でき、比較的穏健と目されるツォルマリアとの交渉に活路を見出した。しかし、ツォルマリア政府の反応は冷たく、対オクシレインの制裁に乗らないのであれば如何なる支援も提供しない方針をユピトル政府に叩きつけた。このことを予め想定していたユピトル政府は、ツォルマリアの投資部分に対する将来的な技術提供の優遇措置を最大限に講ずる旨を打診し、連合直轄領のフィクサーたる『ナスーラ・ヴィ・ラッフィーア』企業有志連盟評議会議長の興味を引き付けたという。財界の圧力に屈したツォルマリア政府は、対ソルキア制裁を一部解除し、ユピトルによる仲裁のもとでカルスナードとの関係改善に努める意向を示した。ユミル・イドゥアム連合帝国官房が一連の合意内容をセトルラーム政府に通告し、ヴァンス・フリートン大統領の怒りを誘発。heldo諸国の矛先はオクシレイン率いる民主主義陣営のみならず、ツォルマリアに対しても向けられた。制裁に次ぐ制裁の応酬で最悪の大恐慌を迎えた世界経済を前に各国政府は交渉を余儀なくされる。

第一次停戦交渉

3月19日
 AIn上層部は停戦交渉を受け入れた。ラヴァンジェから送られたのは国民議会議長であり、AIn側も西崎を出すことはなかった。
その後、複数回にわたる交渉を続けたが、先のジェノサイドを巡る責任の所在に関して合意が取れず、停戦協定の締結には至らなかった。

3月24日
 共立機構が提示した当事国間の相互の攻撃可能性の解除に関する協定に関して、オクシレインが拒否。難民キャンプでのAInの虐殺は、平和維持軍とheldo諸国が不要な刺激をしたことによるものであるとして、撤退すべきとの意見を表明した。ソルキアはオクシレインに対し、「今後一線を超えるという予告になってしまう」として、協定案への署名を強く要請。軍事的エスカレーションの回避に努めるよう繰り返し強調した。『責任追求に関しては、ひとまず先送りとし、今は事態の改善を第一にすべきである。』

4月1日
 セトルラーム政府の公式表明として、『難民キャンプでの虐殺行為はAInの現地部隊が率先して行ったことであり、AIn側に責任がある』との見解を改めて強調した。以降、AInの末端によるheldo軍や、難民キャンプへの襲撃が増える。市民の護送を担う平和維持軍も応戦せざるを得ない事態へと推移した。

4月2日
 平和維持軍の保護活動において、一連の虐殺を防げなかったことの非難が高まった結果、最高評議会は第二行動規則に基づく応戦を許可。以降は現地戦闘エリアにおける本格的な武力行使を可能とし、該当区域に更なる人員と兵器が投入された。

4月3日
 平和維持軍地上部隊による哨戒活動が本格化する。全ての難民キャンプの通行審査を強化し、戦争犯罪に関する真相究明にあたった。

4月4日
 オクシレインの追求に対するロフィルナ政府の回答。「民衆の敵となったテロリストは保護に値せず、殲滅すべき存在である。よって、我が軍が虐殺を行っているという指摘はあたらず、テロ支援国家に相応の報いを与えなければならない」。平和維持軍本隊の威圧を前に一定の交渉を余儀なくされたロフィルナ軍地上部隊は、AInに対する殲滅作戦を一時停止する旨を表明。拘束したAIn構成員を纏めて移送し、その身柄を『平和維持軍』ではなく、ラヴァンジェ当局に引き渡した。

四月攻勢

4月5日
 平和維持軍によるAIn捕虜救出作戦。ロフィルナ軍のもとで拘束されている捕虜数千人を対象として、無通告での強襲作戦をシアップ各地において実行した。突然の奇襲に怒ったロフィルナ軍大佐ディース・ヴィ・ティラストは、前線にて待機中の地上部隊主力を難民キャンプに転進させ、これを妨害したセトルラーム他heldo兵士数百名を討ち取った。作戦行動をともにするエーフ公領の騎士団複数部隊が平和維持軍と反目し、睨み合う事態に。難民キャンプに到達したロフィルナ軍は必死で逃げ惑う大勢の難民を肉の壁として拘束し、平和維持軍指揮官( 後のFT2執行議長 )との交渉を要求した。

4月6日
 ユミル・イドゥアム地上部隊が撤収を表明。『既に自国民の保護を完了し、難民の保護活動についても漸く平和維持軍が重たい腰を上げたため』。これに対し、時の文明共立機構最高議長は不快感を露わにした。『つまらない妄言を吐き散らかして、不愉快な連中です。……まあいい。奴らの処理は後にしましょう』。

4月7日
ヴラッツァートによるシアップ地方都市解放作戦が本格化する。『heldo軍と交戦中のロフィルナ軍には、もはや利用価値がなく、彼らがどうなろうと知ったことではない』。(エーフ公領主の談)

4月8日
 AInに雇われた一人の傭兵が未登録の人型機動兵器を駆ってロフィルナ宇宙艦隊を強襲。『現着―――これより、目標の殲滅に取り掛かる』。同国指揮官が命令違反を犯しているとはいえ、一応の同盟関係にあるheldo司令部としては座視するわけにもいかず、応戦した。無論、ロフィルナ艦隊も凄まじい攻撃をもって件の機動兵器に集中砲火を浴びせたが、全て回避され、ついに大型戦闘母艦3km級を失った。その駆動巨槍の一振りをもって、作戦目的を完全に果たした傭兵(後に闘争競技上位ランカーの『ジクリット・リンドブレイム』であることが判明)は、残るheldo艦隊を完全に無視して作戦領域からの離脱を果たした。『ははっ……地上のティラストさんよお!見てるか!?銀河中をしょんべん塗れにできるらしい、テメーの家を、たった今、ぶち壊してやったぞ!』。―――オクシレイン国内でこの一連の戦いが報じられると、多くの市民が狂気乱舞し、国中が祝福の声で満たされたという。一方のセトルラーム・ヴァンス・フリートン大統領は机に溜まった書類ごと全てを引っくり返し、怒りの雄叫びを上げた。

4月9日
 傭兵の行いにキレたティラスト大佐が、眼前の捕虜複数人を射殺。『あいつら雁首揃えて何も出来なかったのか!?信じられねえ!!』。ラウァンジェ地上軍による侵攻作戦が大詰めを迎える中、一方的に連携を絶たれたロフィルナ軍は本来の目的を見失い、ただ殺戮を繰り返すだけの犯罪集団として追い回される状況へと追い詰められた。エーフ公領主がティラストに囁く。『せめてもの温情である。私の気が変わらないうちに国へ帰れ。……お前達は英雄として遇されることだろう。この私もまた、不愉快な連中を叩き潰し、英雄になるのだからな』。殺意を抱く二人の視線が衝突した。

4月10日
 シアップ首都圏を巡る攻防戦で、エーフ公領騎士団第7師団を主力とするラヴァンジェ地上軍の優勢が確実となる。『勝利は近い!このまま押し切るんだ!ロフィルナのマヌケどもは放っておけ!そのうち居なくなる!』

4月11日
 ラヴァンジェ宙軍による地上治安維持追加部隊の輸送。AInは、残存の艦艇での抵抗を試みるが修理が不完全であったうえに練度の低い艦隊は防衛に失敗し、AInは制宙権を失した。宇宙港の墜落により、大気圏下降下はできないものとされていた*1が、帝国型の改装貨客船を利用したため、強襲降下に成功。一方のロフィルナ国軍は戦争犯罪の責任を問われたが、「力による問題の早期決着が最善である」として引き続きシアップに留まる意向を表明した(本音の部分では早々に引き上げたいが、メンツの問題としてエーフ公領主の逆鱗に触れない程度の活動を継続。一方のラヴァンジェ政府全体としては本件に関して沈黙を貫いており、ロフィルナ軍に対する敵対行動こそしないものの、逆に支援もせず、連絡も取らないという冷徹な対応を取リ続けた。ロフィルナ軍にとって障害となるものは、AInからheldo軍に。最大の脅威認識として平和維持軍との正面衝突を恐れており、事実上のゲリラ戦へと移らざるを得ない局面に推移しつつあった。)

4月12日
 平和維持軍の増派を理由にロフィルナを除くheldo各国が紛争エリアからの撤収を表明。以後はオクシレインへの軍事的牽制に留める方針が伝えられた。

4月13日
 ヴィヤンタート公領騎士団第7師団に追い立てられ難民キャンプに転がり込んだAIn構成員を平和維持軍が保護。逆方向からキャンプに踏み込もうとしたロフィルナ兵を複数射殺し、銃撃戦に発展したが、双方上層部の合意によってロフィルナ側の撤退を確認した。平和維持軍部隊に3名の犠牲者。


度重なる命令違反

4月21日
 ヴィヤンタート公領騎士団第12師団は指揮官命令に違反し、難民キャンプを襲撃した。第12師団所属第一歩兵大隊と第二歩兵大隊は、難民キャンプを護衛していた平和維持軍部隊と交戦し壊滅した。

4月22日
 フラウ代表は文明共立機構に対して「先日の弊騎士団による愚行の謝罪」を表明。フャウ最高指揮官は、ヴィヤンタート公に対する重大な抗議を行うも、ヴィヤンタート公側近は「現地部隊による単独行動であり、こちらの責任ではない。命令違反者は処刑する」と宣言する。

 以降も、騎士団による命令違反が続く。

AInによる最終反攻作戦

5月25日~
 シアップ首都ニウエの奪還に向けたAInの反撃が始まる。山奥や地下トンネルを駆使したゲリラ戦法を敢行しつつ、それ自体が風前の灯火であるかのように装っていた。同じく地下に潜って待機中のロフィルナ軍が襲われ、油断した数百人のならず者が『相応の戦死』を遂げた。神出鬼没の精鋭ゲリラを前に多くの騎士団駐留部隊が苦戦を強いられ、そこにAInの本隊が襲いかかった。―――再びのニウエ陥落!この知らせを聞いた公領主の多くが自分の耳を疑い、驚愕する。この時のラヴァンジェ政府の内実として、必要な権限を持たないフラウ代表に出来ることは限られており、暴走する諸侯らを抑えるための『計算』を繰り返していた。しかし、そうした反意を表に出すことはなく、ただ静かに事の成り行きを見守っていたという。『あと、もう少し……まだ、その時ではないようですね』。

6月17日
 戦いは泥仕合の様相を呈し、時のラヴァンジェ当局にとっては悪夢以外の何ものでもなかった。それもそのはず。戦線の約2分の1が押し戻され、降り出しに戻りつつあるのだから。フラウ代表いわく、『それでも援軍を投じ続ければ容易に覆せる』戦況であったが、錯乱状態に陥った公領主の『面目』を前に肩をすくめ、再びの沈黙へと落ち着いたのである。中でもエーフ公の狼狽ぶりは顕著だった。『バカな……どうしてそうなった?こんな……こんなはずでは……』前線にて指揮を取るエーフ公領のフャウ騎士団長がエーフ公に斬りかかり、その場で取り押さえられた。エーフ公領主がフャウ騎士団長に責を押し付けようとしているのは、火を見るより明らかだった。先の命令違反の件で立場を危うくしているヴィヤンタート公領主はエーフ公領主を庇い、『いまは仲間割れをしている時ではありません』などと嘯いた。

6月25日
 『あぁん?……知らねえよ。馬鹿野郎。な~んで俺が今更前線に出張らなきゃいけねえんだよ』―――『……そう言わずに頼むよ。私が悪かった。ほら、ここに立派な兵器の設計図がある!お前達?これ持って帰ったら下剋上の助けになるぞ?私は知ってるんだ!ティラスト、おまえの本当の目的はッ……』―――『口を慎むことだな。エーフ公?今すぐ、貴様を殺してトンズラこくところだが、せめてもの温情だ。俺の気が変わらないうちにそいつをよこし、さっさと失せやがれ』―――『……ははっはははは!』―――『……何がおかしいんだ?このクソが。頭を叩き割られてぇのか?』―――『お前達、やっぱり戦うしか能がないようだな?少しは頭を使えよ。坊や?その魔術戦車の使い方を、おじさんが懇切丁寧に教えてやるって言ってんだよッ!!……ぐはァッ』―――『ほう……そこで自分の腹にナイフを突き立てるとはね。根性あるな?おまえ。気に入ったぜ』―――『……抜かせ。それで?どうする?この私に再度協力してくれるのか?拒むのか?』

7月2日
 複数の主要都市において大敗北を喫し、撤退を余儀なくされた騎士団員複数名の命を救ったのは、この戦場において最も忌み嫌われる男達だった。『このままでは騎士団の名誉に関わる……おい。チンピラども。これ以上、我々の前に出てみろ?捻り殺すぞ』。フャウ騎士団長の鋭い眼光を前にティラストは肩をすくめ、『仰せのままに……騎士団長殿』と返した。『あなたの上司のエーフ公はとても愉快な男ですねえ。コロッコロッコロコロ手のひらを高速回転させて、まるでどこぞの国の大統領みたいだ』『……よく舌が回る奴だな』『へへ……すみませんでした。もう言いません』『あたしの目は節穴ではない。その設計図』『ああ……はい。ハイ。お返ししますよ。もちろん……』

8月19日
 敵味方を問わず、かんかんと照りつく夏の戦場において多くの兵士が警戒の姿勢を保っている。この世のものとは思えない腐臭の中、鼻歌を口遊ぶ男達の様子に一人の騎士が呟いた。『目を合わせるな。いかれてやがる』

8月24日
 この惨状に堪えられなくなった一人のAIn構成員が地下壕から飛び出し、逃げようとする。彼の命はそこで途絶えた。『奴らの所業を忘れたのか?敵前逃亡など許さんぞ』。

8月25日
 難民キャンプと、その周辺は平和維持軍によって固められており、両陣営とも一切の立ち入りを禁じられていた。逆に難民キャンプから出ていくことも禁じられ、多くの難民が戦況を見守る中、ついにAIn本隊が動き出し、多くの主要戦線において戦いの火蓋が切られた。最終決戦の幕開けである。守りを固める騎士団およびヴラッツァートも強力な魔法陣をもって応戦。アポリア現象によって生じた多くの重篤発狂者を汚れ役のロフィルナ軍が『処理』して回るという地獄絵図を描いた。

9月8日
 グラントウィンドの夜明けと称される、この戦いでは、双方ともに15万の死傷者を出した。転移者星間戦争全体の損失は総計にして100万を超えるものと予想され、ついに文明共立機構による本格的な強制停戦の方針が示されたのである。先の制裁合戦によって世界経済が大きく低迷した結果、厭戦感情が蔓延し、支援疲れも高まりつつある。ここに至って、ナスーラ企業有志連盟評議会議長が和睦に向けた努力を宣言。その呼びかけに応じた各界の有力者が動き出し、二度目の停戦交渉の場を設ける流れに傾いた。

第二次停戦交渉・グランドウィンド停戦協定


影響

軍事行動に関する分析と評価

 この当時、ラヴァンジェ政府が既に共立同盟に加盟し、平和維持軍との連携を深めているにも関わらず介入の暴挙に踏み切れたオクシレイン政府の真意を驚きとともに分析する動きも加速した。セトルラーム政府所轄の軍事戦略研究所は、当のオクシレイン軍に全面衝突の意図を想定させる如何なる動きも確認していないことを表明。多くの政府とともに事態のエスカレーションを避けるための努力を求めた。オクシレイン側の思惑としては、共立機構に対する根源的な不信感をはじめ、内政不干渉の原則のもとで意図的に見過ごされてきた権威主義勢力の談合など、複合要因によるところが大きく、自立のための戦いを軽んじているわけでは断じてないとの声明も報じられた。いずれにせよ、今次紛争が激化した時点で如何なる国家も全面戦争を望んでおらず、問題解決に向けた理知的な交渉に期待する見方が優勢となった。仮に総力戦となれば、当時のオクシレインに勝ち目はなく彼らはそのような愚を侵さなかった。共立同盟としても戦って得られる益など期待できないため、必然的に人道主義への歩み寄りに転じたわけである。幸か不幸か、平和維持軍に限っては強硬的な改革が進み、主権の良し悪しを巡る別の問題も生じた。オクシレインは、ある意味で目的を達成したとする説、その後の人道主義の普及に繋げた実績が評価され、肯定的に捉える意見も出たわけだが。一方で危険な冒険を批判する見方も根強く、その功罪について語り継がれる時代を迎えた。

二大同盟の成立

 一連の紛争によって危機感を募らせた連合帝国は関係各国に独自の陣営創設を提案。セトルラーム政府は防衛同盟として留めることを条件に承認し、ラヴァンジェ政府もその流れに応じた。共立公歴620年。ルドラトリス安全保障盟約が成立すると、オクシレイン側の対抗措置も進められ同625年にネルヴェサ―民主同盟の発足へと至ったのである。この過程において、両陣営は互いに戦争回避の努力を継続。同630年に国際法たる民間人保護条約の成立を迎えた。同632年に至ってはトローネ皇帝によるオクシレイン親善訪問が実現し、後に双方の主戦派を抑制する大きな契機の一つとなった。

荒れるイドゥニア星系連合

 オクシレインは、ラヴァンジェへの介入を止められた上にロフィルナが救うべき民を虐殺することを指をくわえて見ているだけだったため、世論も政府も大激怒してheldo各国に責任を果たすことを迫った。heldo各国(特にセトルラーム)の視点から見て、指を加えるどころか止めに入ってるわけだが……。イドゥニア各国は戦後、ロフィルナ政府に対して独自の制裁を発動した。「転移者戦争における一連の暴挙は人道を理念とする星系連合の規定に反するものであり、ひいては国際交渉の理性を損なう破滅的な行為に他ならない」と総括。共立機構の圧力も重なった結果、ロフィルナはその軍事的影響に関わらず常任理事国の地位を手放すこととなった。一方で同国の代わりを担える新たな理事国を選出する必要に迫られ、イドゥニア諸国は以後長きにわたる調整を続けたのである。そもそも星系連合自体が惑星内での問題解決を目的とする以上、相応の地域大国に交渉の主導権を委ねることが理想とされたが、候補となる国家の資質に疑問符が付いたことで最終的にはheldo主導国のセトルラームが理事国入りを果たす結果となった。オクシレインが追求する戦争犯罪に関しては「人道にもとる行いで、ロフィルナ国軍による虐殺は如何なる論理をもってしても正当化できない」と回答。一方で「事前の通達にも関わらずAInの敵対的な行動があった」ことを指摘し、「不当な干渉をもって事態を拡大させたオクシレインに責任の一端がある」ことを強調した。双方の主張は平行線をたどり、一部関係者に対する処罰など一定の政治的決着をもって事実上うやむやにされてしまった。

heldo各国におけるロフィルナ問題の再燃

 かねてから、その暴力性を指摘されるロフィルナへの懸念は当紛争によって決定的なものとなり、セトルラームを始めとするheldo各国は同国に対して一切の武器輸出を禁じた。更にセトルラーム空軍115隻を始め、35万人相当の陸戦部隊が進駐。特別治安維持対象となった主要軍閥の暴発を防ぐために国境線の監視体制が強化され、これら一連の措置は共立機構による準備指定の可能性を予期して自発的に進められたものである。当のロフィルナ国内においては問題の戦争犯罪部隊を英雄として扱う論調が主流となっており、コックス政権の支持率も上々となったことから、これがアリウス女大公の逆鱗に触れて秘密裏に係る責任者が粛清される事態へと発展した。(当時の政治的事情に配慮して、この事実は国内世論が安定する50年後に公開された。)

平和維持軍行動規則の緩和

 当紛争における一連の損害に関して、共立三原則の問題を指摘された文明共立機構においては、時の最高議長による主導のもと平和維持軍の組織体制を一新する計画が立案された。具体的には指定評価の内容に関わらず、強度の反撃を可能とするもので、その判断は時の最高評議会を始め、現場レベルにおいても即座に決定できること。増援の要請がなされた場合は直ちに必要な戦力を投射し、敵性集団の早期殲滅を可能としたのである。いわば軍事上の行動規則を大幅に緩める内容となっており、強大な力を持つ平和維持軍の暴走を警戒する意見も聞かれたが、当紛争において有効な対処法を実行できず、想定以上の損害を被ったことが決定打となって実行された。

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最終更新:2025年08月21日 00:32

*1 ラヴァンジェ製の宇宙船は大気圏下での使用を想定しておらず、主に宇宙港への係留によって地上と繋がる。