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共立世界 > 転移者


概要

 転移者は、異世界に出自を持ち、何らかの経路を経て現世界に転移もしくは転生した存在の総称である。
社会一般での通称は、『特異難民』とされる。
旧世界を災厄によって失った被害者の側面と、現世界の物理法則に齟齬を抱える異物の側面が、一つの身に同居している。

対策

 転移者を巡る対策では、出現の検知から長期の追跡までが、一続きの工程に組まれている。出現は事象観測網の記録に付随して捕捉されるため、対応の出発点は災害の観測と一体をなす。検知された個体の多くを引き取るのは、近接する勢力の専門部局である。部局の手で由来空間の特定が進むあいだ、身体と認知の状態にも精査が入る。精査の結果は、旧世界の物理法則と共立世界の物理法則との隔たりを示す乖離度に換算され、処遇の分岐を決める値になる。乖離の小さい個体は社会に編入される過程に入り、旧世界で培った技能を現世界の労働体系に繋ぎ直す翻訳作業が並行する。生活基盤の確保に向けた支援も、同じ期間を通じて続けられる。乖離の大きい個体の場合、身体の維持に特殊な環境を要しており、専用の保護施設で段階的な順化を重ねる例も見られる。意思の疎通が成り立つ個体からは旧世界を失った経緯の聴取が進められ、得られた証言は事象災害の発生機序を解き明かす資料に加わる。既存の言語体系を欠く個体には、認知の特性に合わせた言語接続の補助が個別に組まれてきた。時間感覚の不整合を原因とする認知障害の診断も散見され、記憶の補正に環境の固定を組み合わせる処方が、現在の標準となった。古典古代に由来するとされる系統の中には、同世界の因果構造と直に繋がる経路を欠く個体があり、処遇の方針は今も研究の段階にある。

 処遇の分岐のうち、現世界の生態系もしくは住民に直接の危害を及ぼしうる個体は、隔離措置の対象に振り分けられる。
意図して敵対行動を取る個体に加え、本人の意思と関わりなく周囲の物理環境を歪める個体も、同じ対象に入る。
後者は事象災害の局所的な発生源と化す危険を抱えており、隔離の措置には、周辺に加えて個体自身を保護する目的が含まれる。
封じ込めが一勢力の手に余ると判断された個体については、文明共立機構(後に共立銀河連邦)の枠組みの下で、複数の勢力が共同の対処にあたる。
出現が集中した地域で対応の手段が手薄な場合、支援の要請は同機構を通じて処理されてきた。

転生者

 転生者は、旧世界で生涯を終えた者が何らかの形で再び生を得た転移者の総称であり、既知の形態の外側に置かれる例も報告が続いている。

胎内出生

 生誕の地としては、共立世界の内側に加え、旧世界から見て第三の位置にある異世界も、胎内から生まれ直した転生者の記録に残る。共立世界で生を受けた者の身体は、胎内にいる段階から現世界の物理法則に沿って形づくられており、出生の記録も現地の住民と同じ形式で残る。今生の始まりが出生そのものである以上、事象観測網に出現の瞬間が記録される余地は皆無であり、転生の事実は、本人か周囲が前世の存在に気づいた時点で初めて表に出る。第三の異世界に生まれた者については、当地で一生の半ばまでを過ごしたのち、事象災害に巻き込まれる形で共立世界に運ばれた例が知られる。この経路では通常の転移者と同じく出現が観測網の記録に残り、乖離度の精査も、直前まで暮らした世界の物理法則を基準に行われる。旧世界での前世は、乖離度の値の外側に置かれる。転生を招く機序は解明の途上にあり、古典古代の時空の残痕が及ぶ土地で死を迎えた者は別の世界線で生まれ直す、との仮説が魔法考古学の研究者から示されている。

再現個体

 出生の過程を省き、前世を終えた時点の姿と年齢のまま現れる転生者は、肉体を再び生を受けた先で新たに組み上げており、旧世界で死を迎えた身体は元の世界に残るとされる。出現の瞬間を伴う以上、事象観測網の記録には通常の転移者と同じ形で痕跡が残る。両者の判別には、旧世界で当人の死亡が確かめられているかを照合する手順が要る。前世の名を名乗る個体が多く、照合は名前の一致から着手される場合が大半を占めた。本人が前世の死の経緯を語れる場合、その証言も照合を補う材料に加えられた。組成の面では、異界の姿を保ちながら乖離度の値が低く出る食い違いが生じ、精査の場で転生を疑う手がかりになった。書類上の年齢は、出現の時点で外見から推し量った値を起点に置く扱いが見られる。前世の死因となった傷病が新たな肉体に引き継がれるかどうかは、個別の事例による。

憑依個体

 魂だけが世界を渡り、現地に生きる者の身体に宿る形でも、転生は成立する。宿る先の身体は共立世界の住民のものであり、肉体の組成も身分の記録も宿主の側に属している。観測網の記録に残る出現の瞬間を欠き、乖離度の精査に回された場合も、値は現地の住民と同じ水準に収まる。発覚の糸口は周囲の目に映る言動の変化にあり、宿主の経歴に照らして説明の付く範囲の外側にある言語が口をつく場面で、転生を疑う声が上がった例が伝わる。宿主の人格が退いて前世の人格が表に立つ例に加え、二つ(または複数)の人格が一つの身体を交代で用いる例も報告されており、宿主の意思を確かめる手順は、宿主の人格が表に出る時間の長さに左右される。家族の側から見れば、身近な者の内側に未知の生涯が入り込んだ形になり、呼び名一つを決めるにも本人たちの話し合いが要る。

変容個体

 転生の過程で人の姿を失い、異形の怪物となって現れる事例では、転生者本人の意識が異形の内側に残るかどうかで扱いが大きく分かれる。肉体の組成は、旧世界の物理法則にも現世界の物理法則にも噛み合う箇所が少なく、乖離度の精査では高い値が出る。周囲への危害が見込まれる個体は、出現の直後から隔離措置の対象に入った。前世の意識を異形の内側に保つ個体であっても発声の器官を欠いており、感応エコーラを含む様々な方法で意思の疎通が図られてきた。意識の残る個体に限っては、隔離の内側で本人の意思を汲み取る工程が、処遇の手順に書き加えられた。意識そのものが変容に呑まれた個体の場合、振る舞いの上で野生の生物と見分ける手がかりを欠く。怪物として処理された個体が、後の照合で転生者と判明した例もある。変容を招く条件は解明の途上にあり、変容の後に人の姿へ戻れるかどうかも、答えを待つ問いとして残る。

記憶保持者

 前世の記憶を抱えたまま胎内から生まれ直した場合、物心のつく頃には旧世界での生涯を自覚しているケースが最も多い。前世の姿で現れた個体であれば、記憶は死の直前から途切れなく今生に繋がる。幼い身体に成人の判断力が宿った状態で育つため、発語の段階から旧世界の言語が口をつく場合もある。旧世界で得た知識は記憶とともに持ち越される一方、身体を使う技能は今生の鍛錬を待って追いつく。自覚の早さが本人による申告を可能にしており、専門部局に出自を申し出て、旧世界を失った経緯の証言に加わる道が開かれる。胎内から生まれた者の身体は生誕地の物理法則に沿って形づくられ、乖離度の精査を経ても、隔離もしくは順化の措置に回る事例は稀である。負担の集まる先は、心の側にある。前世の享年と今生の年齢とが同じ意識の内側に並ぶことから、自らの年齢をどちらで数えるかに迷う者が多い。共立世界で生まれた者の場合、出生の記録上は現地の住民と同じ身分を持ち、旧世界の出自を裏付ける材料は本人の申告ただ一つである。

記憶欠落者

 記憶を伏せられた転生者の今生は、旧世界の出自が本人の意識から隠れたまま営まれる。前世の姿で現れながら記憶を欠く個体は、来歴を空白とした転移者の扱いで精査の工程に入った。記憶が伏せられた経緯について、上位の存在が本人のために前世を封じたと当人が語る例も伝わる。前世で身につけた判断の筋道は伏せられている間も人格の底に残るとみられ、自覚の外側から今生の選択を方向づけた例が複数残る。帰還の契機として知られるのは、前世に縁のある品に触れる行為と、時間の揺らぎが残る空域を通過する行為である。帰還の速さには事例ごとの開きが生じており、数日の昏睡を経て一挙に戻る者がいる一方、前世の輪郭が幾夜にもわたって今生の輪郭に重なり、少しずつ定まっていく者もいる。戻った記憶は今生の人格の上に重なる形で定着し、二つ(または複数)の生涯の視点が一人の内側で並び立つ。生涯の終わりまで記憶が伏せられた転生者の場合、本人も周囲も現地の住民として一生を見送る形になる。総数を見積もる手がかりは、現在も欠けた状態にある。

影響

 転移者の出現は、共立世界の自己理解から勢力の運営にまで、継続的な揺さぶりを加えてきた。外部からの跳躍を阻むと考えられている神々の防壁の内側に異界の個体が現れる以上、出現そのものが世界の理からの逸脱と見なされる。出現は事象災害の発生と連動しており、転移者を検知した記録は、時空の歪みを測る指標を兼ねる。地域ごとに出現頻度の偏りを追えば、時空構造の脆い空域が浮かび上がる。古典古代に由来する系統が確認されて以降、時空構造を巡る従来の理解は揺らいだまま今日に至った。世界の輪郭をどこに引くかを巡る問いが、学術の議論の場に繰り返し持ち込まれた。共立世界が独自に辿るはずだった発展の経路は、転移者を介して幾度も短絡させられてきた。数世代を要したはずの技術知識が一度に流入した例は数多く、流入の不規則さが産業構造と労働体系に断続的な再編を強いる。生命科学の前提を書き換え、臨床の体系を更新した成果も、同じ流入から生まれている。社会の側では、処遇を巡る政策の立場の差が、勢力間の調整課題として恒常化した。受け入れと封じ込めの均衡点をどこに置くかは、各勢力の自己規定に直結する論点となっている。

 言語の面では、転移者の持ち込んだ語法が既存の言語に混じり、独自の変化を遂げた共立英語が複数の文明圏に広まった。
令咏術の属性名にも旧世界の言語から採った通称が定着しており、術理の用語の一角に異界の語が組み込まれた。
移民の受け入れを発展の原動力に据えたユピトル学園主権連合体では、転移者が総人口の4割を占めるに至った。旧世界の都市が区画ごと運ばれた例もあり、複数の転移者由来の領域(都市、自治体、勢力等)が存在する。
前世の記憶を伏せた転生者の存在が明らかになると、住民の出自を出生の記録だけで確定させる前提にも疑問が向けられた。

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最終更新:2026年09月21日 17:33