その2.緋い怪しい店(魔法都市の緋い人)

魔法都市ディズルアージュ…
そのメインストリートの裏通りに堂々と『レン一族の店』の看板を掲げた一軒の怪しい店がある。
ま、各国首都や他の魔法都市でも同じように裏通りに堂々と店を開いてたりするのだが。
売っているのは怪しい護符や怪しい紋章の描かれたバンダナや怪しいペンダントなどの怪しいアクセサリーと、怪しい置物や怪しい絵画なんかの怪しいインテリア。
これらはみんな魔道具っぽいが全然魔法は使われてない「呪物(まじもの)」である。
魔術師たちには『魔術師でもないのに魔術みたいな効力のあるもの売りやがって』と思われているのだが、まったく気にした様子もない、ついでに遠慮も配慮もしてない。
『買ってくださるのはお客様。どっちを選ぼうとそれはお客様の自由でございます』と言う姿勢を貫いており、それはまぁ一理あるだろう。
店員はフード付きの緋色の長衣(下には短衣を着けている)をまとい、足には革製のサンダル、左腕には何かいわくありげな精緻な彫刻を施された銀の腕輪、顔上半分を奇妙な意匠が刻まれた仮面で覆っている。
少々不気味、はっきり言って怪しい。
店に入るとこの怪しい店員は一応「いらっしゃいませ」とは言うがそれ以外は黙っている。
商品について説明を求めると答えるがそれ以外はまったくだんまり。愛想の一つもない。
会計を済ませていない商品を持ち出そうとするとなぜか外には出られない。などなんか怪しい噂もある。そんな店である。
営業時間は日没から日の出まで、怪しいものを買いに来る客は怪しい時間にしかやってこないから。
夜明けには『閉店』の札をかけ、何か店の前でボソボソ言ってから帰って行く店員の姿を見ることができる。
一度好奇心の強いものが店員の後をつけたことがあるのだが、明るいというのに裏通りの裏路地をあっちこっち引き回され、挙句に地元民なのに自分がどこにいるのか判らなくなってしまったこともある。

そういうわけで、店員の本当の姿を見たものは誰もいない。

こんな怪しい店が世界中の大きな町には最低一つはある。
まことにもって怪しい世界である。
最終更新:2007年06月19日 05:33