グリンガイア暦356年 魚心
北グラッドの西の街道、そこを少々離れた平原、フェミナは夕食を得るため、狩をしていた。
「すばっしこいわね……は!」
フェミナが狩猟用ナイフを投げると、逃げ回っていた野ウサギに命中、野ウサギは絶命し、その動きを止める。
「ふぅ……今日はこんなものでいいかしら? ザイト! 今日の夕食が獲れたわよ。」
すでに傍らに野ウサギを数兎しとめていたフェミナは遠方で狩りの邪魔になるからと微動だもしなかったブラストフォックスのザイトを呼び出す。
小規模な爆発を幾度となく起しつつ、ザイトはフェミナの元に駆け寄る。
「はい、これがあんたの取り分」
そう言いつつ、足元にウサギを二兎だけ残し、全てをザイトに与える。
そして自分は残った二兎のうち一兎を調理用ナイフで捌き、保存処理の後、背中のナップサックに詰め、一兎を血抜きをし、軽くヒートで熱した後食す。
これが彼女、フォクサー フェミナ・フェイトスのいつもの生活であった。
「よぉ、嬢ちゃん。こんなところを一人旅たぁ物騒な事をしてるじゃねぇか。盗賊が出るってママに教わらなかったのかい?」
「見たことねぇ種族だなぁ、売りとばしゃ高くつきそうだぜぇへっへっへ。」
街道を進んでいると『私たちは盗賊です』と自己主張している二人組みと出くわした、一人は人間、一人は
ウルフである。
相手を一目見て判断を下し、フェミナは手にしたハンマーを捨て、呪文を唱え始める。
「炎に告ぐ、我が名はフェミナ、温熱の力を欲するものなり。
微熱の抱擁、血脈を廻れ
―――スタンバイ。」
フェミナの呪文詠唱終了と共に、人間のほうは呪文を唱え始め、ウルフは直接フェミナに襲い掛かる
「緑に告ぐ、我が名は……
「R・フォトン」
詠唱を省略しR・フォトンを放つフェミナ、またザイトは人間の方に飛び掛る。
「こ、こんなガキがR・フォトンだと!?」
ウルフは驚愕し、一瞬動きが止まる。それが命取りとなった。気が付くとウルフの周囲はオレンジ色のリングで埋め尽くされていた
「な!」
そして次の瞬間、大爆発を引き起こす。
「な!スラ……」
人間もそれに驚き、思わず詠唱を中断し倒れたウルフの名を呼ぼうとする。
が、その隙を突いたザイトの体当たりがまともに炸裂、耳をつんざく爆音と共に遥か彼方へと吹き飛ばされていく。
「……よわ……」
ココまであっさり決まると思っていなかったフェミナは、ポツリとつぶやいた。
「ふーん。ま、人数どおりの規模かな?」
街道をかなり外れた森の奥、盗賊のアジトと思われる洞窟の外に、フェミナはいた。
あの後手足をブロウアップ付きのハンマーで粉砕し、痛みに震えるウルフにアジトと構成員を聞き出し、アジト付近までやってきたのだ。ちなみにウルフはその場に放置してきた。
「たしか、人間三人にウルフ二人、
エルフ一人に
有翼人一人。か、にしても見張りも立てないなんてねぇ……ならば。」
意を決したようにうなずくと、フェミナは詠唱を開始する。
「ん?」
洞窟の奥、一人のエルフが何かに感ずいたように首をかしげる。
「どうした? ガリル。」
それを不審に思った近くにいた人間が一人、エルフに声をかける。
「いや、なに。外で詠唱が聞こえたような気がしてな。」
「外で詠唱? 馬鹿いってんじゃねぇよ、俺たちで魔法が使えるのはガリルとシェムとラファじゃねえか。お前はココにいるしシェムとラファは出払ってるぞ? 第一詠唱する必要がねぇ。」
「ああ、だから聞き間違……」
その時、洞窟の外からものすごい爆音と熱風が内部に侵入し、ガリルと呼ばれたエルフと人間は、爆音によって耳をやられ爆風によって壁に叩きつけられた。
「ててててて……さすがに爆風がすごいわね。」
フェミナは握っていたハンマーから手を離し、洞窟の入り口を見る。
つい先ほどまで入り口があった場所は、岩が崩れ落ち入り口がきれいにふさがれた姿があった。
「さすがに最大ブロウアップ付きのハンマーで壁思いっきりぶったたいたらこれくらいは爆発するか……ちょっと予想よりも大きかったけど。後は……」
「な、なんだ? いったい何がおきたんだ?!」
壁に叩きつけられた人間が目を覚ます、辺りの調度品はすべて吹き飛び、ガリルが白目をむいて倒れていた。心なしか聴覚もおかしい。
「と、とにかく入り口だ! 入り口に行けば何かわかるはずだ!」
入り口付近に男が近づくと、ウルフ二人が倒れていた。二人とも全身にやけどを負っていて、気絶しているようである
「お、おい! ラクサ! ホムン! 何があった! おい!」
男はウルフ二人に声をかけると同時に、入り口を見て唖然とした。
そこには落盤でもあったかのように入り口がふさがれて、さらにその付近ではオレンジ色のリングが現れては爆発するを繰り返していた。
「……ま、まさかこいつらこのR・フォトンにやられたんじゃ……ん? 密閉空間でR・フォトン……? まさか!」
男は倒れてるウルフを放り出し、ガリルの元へ急いで戻っていった。
その頃……
「ま、確かに全員中にいるとは思わなかったけどまさか三人も外にいたとはねぇ……」
フェミナは、強烈な爆音がしたため何事かと急いで戻ってきた人間二人に有翼人一人と対峙していた。
「てめぇ……何者だ? さっきの爆音、てめぇの仕業か?」
「全身黄金色の体毛に尻尾、獣耳……獣人か?」
「にしては、見たことがない種族ですねぇ……」
「人間二人に有翼人一人……なかなか手強そうね。」
そして思案顔で、森の中を見つめるフェミナ。
「手強い? っは? こいつ俺たち相手に勝つ気みたいだなぁ……」
「ガキが……目に物見せてやる!」
人間の男がそう叫ぶのを合図に、一斉に動き出す。人間二人がダガーを持ってフェミナに接近し、有翼人は呪文を唱えだす。
「烈風に告ぐ、我が名はラファエル、切り裂く力を欲する者なり。
風よ、切り裂く刃を成せ。我が手に宿り、我が眼前の敵をなぎ払え!
―――エアスラッシュ」
ラファエルの周りの空気が刃となり、フェミナにまっすぐ襲い掛かる。
が、
「……あんた、馬鹿?」
風の刃はラファエルとフェミナのちょうど間にいた男の背中に命中。
味方からの思いもよらぬ攻撃により、男は悶絶する。
「な! アメス!」
「遅い!」
共に襲い掛かろうと思った男が《仲間の攻撃によって》悶絶、動きが取れない状況になった事に驚き、隙を見せるもう一人の男。
フェミナはその隙を見逃さず、ハンマーを男の腹に叩き込む。先の一撃でブロウアップの効果は切れたとはいえ、巨大ハンマー一撃をまともに腹に食らい、男は前のめりで倒れこむ。
「残り、一人。」
「っく! しかし一人というのは間違いですよ、まだ外には二人……」
ラファエルは、男二人があっという間に戦闘不能《うち一人は自分でやったが》になったのに、焦りを覚えながらも、まだこの場にいない仲間を頼ろうとする。が、
「……それならもういないわよ。」
「な! 何ですって!?」
「もういないって言ってるの、どうやって私がこの場所を知ったと思う?それにそろそろ……」
「そ、そろそろ? ……な、何だ?! 後方から爆音?!」
「ザイトが戻ってくるのよ!」
爆発音と共にザイトがラファエルの後方の茂みから後ろ足の爆発の威力を乗せた突進。ラファエルもとっさに空へ逃げようとするが、爆発力を推進力とした一撃は避けきれず、突進時の爆破の衝撃によって吹き飛ばされてゆく。
「よしよし、いい仔ね。ザイト」
フェミナは小爆発をもろともせず、ザイトの頭をなでる。そして入り口のほうを見て、
「さてと、そろそろ中は酸欠かしらね?」
「ガリル! おい、起きろ! ガリル! ガリル! っくそ!」
男はガリルを起こし、ガリルの魔法によって入り口をこじ開けて何とか酸素を補給しようとするが、ガリルは一向に起きる気配を見せず、ただただ怒声による酸素消費を高めるだけであった。
その時、入り口のほうで先ほどまでのR・フォトンの爆音とは比較にならない爆音が起きた。
「!! 誰か戻ってきたのか!? それとも敵が入ってきたのか!?」
「……ウルフが二人か、となるとエルフ一人と人間が一人まだ行動可能かもしれないわね……ザイト、洞窟の中を調べてきて。」
フェミナがそう指示を出すと、ザイトは洞窟の奥に一匹入っていく。その間フェミナはブロウアップハンマーでウルフの手足を潰す。R・フォトンの直撃と、先の入り口爆破による岩石の衝突により、すでに意識を失い、意識を保っていたとしても確実に戦闘不能状態だが、念には念を入れる。吹き飛んでしまったラファエルは別として、外の人間二人も手足を潰されている。
するとそこに、
「てめえか、さっきからの爆発の主は……っち、まだガキじゃねぇか。ラクサもホムンも戦闘は出来なさそうだなぁ……その分じゃラファ達もか……」
「あなたがボス……かな? しかし少人数の上ろくな人材がいないわねこの盗賊団。仲間に魔法をぶつける有翼人はいるわ、見た目で判断してあっさりやられるウルフ。それにこいつらだって、普通あの状況でR・フォトンの直撃を食らう位置に来る?」
丁寧に手足を潰し、完全に戦闘不能状態のウルフ二匹を見下し、フェミナは言う。
「ご忠告どーも、見たことがねえ種族だが、てめえ何者だ?」
男は質問をかけながらも腰に下げたロングソードを鞘から出して構える。
「砕火に告ぐ、我が名はフェミナ、爆ぜる一撃を欲する者なり。
隷属望むは咎砕く破壊の芯撃、我が双拳、我が双脚に宿りて力となれ
―――ブロウアップ
私の名はフェミナ、獣人フォクサーのフェミナ。得意魔法は爆魔法、そう、砕天ヴォルガザイトの力。」
「砕天ヴォルガザイト?」
「我らフォクサーの守り神……無駄話は終わりよ!」
そう宣言すると、フェミナはブロウアッップが組み込まれた靴を地面に叩きつけ、爆発を起こす。その衝撃を速度に変え、同じくブロウアップが組み込まれたナックルで殴りかかる、しかし男もロングソードでナックルを防御、剣を水平になぎ、攻撃をかける。
しばし一進一退の攻防を続けていたが、男のロングソードはナックルを防御するたびに爆発を受け、また、攻撃のさいも剣めがけて殴りかかられたためひびが入り始めた。度重なる爆破の衝撃により、剣そのものが耐えれなくなっていたのだ。
「っち、爆破の力……厄介だな。」
「そういうあなたもたいしたものね、このスピードで攻めてるのにまともな一撃が、まだ入ってないもの。」
「生憎とこちとら元傭兵でな! 戦いは得意分野なんだよ!」
男の突き、フェミナは左に飛んでよける。が!
「アイシクルダーツ!」
後方からの突然の一撃、いつの間にか目を覚ましたガリルが、洞窟内の別の道を通ってフェミナの後方よりアイシクルダーツを放つ。
「キャウン!」
声に気付きとっさによけたが、その足にはダーツにより傷跡が残る。
「っく。」
自分の不覚を責めるような顔つきで、一瞬背後のガリルを確認するが、すぐに男のほうに振り返る。
「おせえぞガリル!」
「いやはやすまない、かなり眠っていたようだ。」
男はガリルをみて笑みを浮かべ、フェミナに突っ込む。
「これで二対一、しかもてめえは右足を負傷してさっきまでのスピードはだせねぇ……もらったぁ!」
「ザイドォォォ!」
「何を呼んだかしらねぇが無駄だよぉ!」
男が叫んだ瞬間、男の後方の壁が爆発、岩と共にザイドが男に向かって突進をかける。
「ぐぉ!」
男は爆発の一瞬の後、右に飛んだのでザイドの突進は避けれたが飛び散った岩を背中に食らう。
「お生憎さま、こっちにも頼りになる仔はいるのよ! …・・・これで二対二、イーブンよ。」
「ブ、ブラストフォックスだとぉ!」
「せ、清流に告ぐ、我が名はガ、ガリルレイド、あ、蒼の魔剣を欲するものなり!
じ、軸に従い寄り添え流水。並びて川、集まりて大河、行き着き海!母なる流れを一つに束ね、形成せ清剣!流れによりて刃とし戯れし命を咲き滅ぼせ!
―――ス、スパイラルエッジ!」
ザイト(ブラストフォックス)の出現にあせったガリルは、ザイトに向けスパイラルエッジを振り回す。
しかしザイトは後ろ足を地面に叩きつけ、その爆発の衝撃により回避、男の目の前をよぎる。
ガリルは何も考えずにスパイラルエッジの刃先をザイトに向ける、ゆえに・・・
「がぁ! ……ガ、ガリル……何を……」
スパイラルエッジが男の両足を切断、その直後スパイラルエッジも効力を失い、消滅する。なお、フェミナはスパイラルエッジの刃先が近づいた瞬間、両拳を地面に叩きつけその反動で飛び上がりよけているため無傷だ。
「し、しまった! フレッドォ!」
ガリルが叫んだとき、フェミナは器用に左足のみで着地し、詠唱を開始する。
「今よ!
炎に告ぐ、我が名はフェミナ、灼熱の力を欲する者なり。」
「そ、それは!」
「大気の火種、命の火種、引き寄せ集めて炎を燃やせ。
貪欲なる火柱よ、荒ぶるままに周囲の火種を食い尽くせ
―――フレイムバースト!」
ガリルはフェミナの詠唱途中で何を使うか気付き、急いでその場から逃げる。
が、フェミナもそれは読んでおり、また、ガイドの右側には壁があるため左か後ろにしかよけれないことも読み、詠唱対象の空間はガリルの逃亡先、先ほどのやや左の空間。ガリルは灼熱の焔火に包まれ全身を焼かれる。
「ぐおぉぉぉぉぉ!
ひょ、氷水に告ぐ、我が名はガリルレイドォォォォ!」
全身を炎に包まれたガリルは癒しの魔法を使おうとするが、フェミナがそれを許すはずがなく、ナックルの一撃によって黙らせる。
「ガ、ガリル! ガリル! ガリルゥゥ!!」
フレッドはガリルの名を連呼するが、当のガリルは炎に包まれすでに絶命し、フレッドの呼びかけに答える事は出来なかった。
「……規模が小さいなら宝もみみっちいわね……」
盗賊団の一員をすべて再起不能(一部殺害)に追い込んだ後、アジトの宝物庫を物色し、めぼしいものを奪った後のフェミナの一言。
実際彼らの宝物庫には、二ホズ程度の像。三ホズ相当の宝石類。五ホズ程度の質のよい剣などはあったが高いものはその程度で後は五ラーデなランプや三十セディ程度のレプリカの剣など、総計すると十ホズ五十ラーデもにも届かない程度であった。
フェミナは像、宝石、剣を奪い、頬って置いたらまぁ確実に失血死するであろうまだ生きている盗賊を放置し(先に述べたガリルはすでに絶命しているが)、次の町に向け、足を進める。
後日、最初にザイトに吹き飛ばされた人間(名前はシェムライト)とラファエルがやっとの思いでアジトに戻ったとき、そこにはモンスターに食べ散らかされた人間二人の死体に、完膚なきまでに叩き壊された元アジトの入り口があるだけであった。
「お、おい聞いたか!? 町の自警団が敵わなかったフレッド率いる盗賊団が二人を残して全滅したらしいぞ!?」
「ああ! しかし一体誰があの賞金首たちを打ち倒したんだ!? 町の冒険者ギルドにはそんな話は入ってないらしいぞ!」
「全員合わせたら二十ホズ相当の賞金首だぞ!? それを報告しなかったって!?
ほんとうに一体誰が……」
さらに後日、盗賊団の被害にあっていた付近の町の噂話であった
P.S 像、宝石類、剣は計9ホズで売れたらしい。
P.S2 ザイトに吹き飛ばされたシェムライトとラファエルは元アジトを見て呆然としている隙に、途中で彼らを見つけた自警団によって捕らえられたらしい。しかし彼らは誰にやられたという質問にだけは、頑なに口を閉ざしたため、真相は闇の中……らしい。なお、自警団が洞窟の中を調べたとき、中には腐敗しはじめたウルフ二体と人間一体の死体、それに炭化した種族不明の死体があり、それはそれはきつい臭いだったらしい。
P.S3 最初に倒されたウルフは、街道を通っていたとある商人に助けられたらしいが、町の人間はアジト前の死体の様子から、骨も残らずモンスターに食い尽くされた考えた……らしい。ウルフは改心し、その商人の元、商人になるための修行をしている……らしい。なお、結局義手義足になり、ウルフとしての運動神経は失った……らしい。
あとがき
と、まぁ文才は無いなりにがんばって書いてみました。いかがでしょうか?
フェミナは基本的にこんな生活をして世界中を回っておりますw
最終更新:2009年04月05日 00:40