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更新日:2023/01/10 Tue 19:18:24
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セブンスカラー
セブンスカラー
「──トドメを刺します。」
そう言って白雪姫が槍を振り上げる。光線によって上半身の大半が凍りつき、動けない藍にその一撃が振り下ろされようとしたその瞬間。
「おぉーっと!!そこまでだっ!!」
声が響くと同時に次の瞬間何処からともなくコロコロと黒い筒状の物が藍達の足元に転がってくる。
そしてその筒状のものはプシュウウウウと音を立てて白煙を吐き出し、辺りの視界を白一色に塗り潰していく。
「──煙幕ッ」
何かぎこちらに近づいてくる気配を感じた白雪姫が槍を振るうが、その一撃は虚しく空を切り、一方の気配も白雪姫に攻撃をするでもなく何処かへ走り去る。
その気配の意図を白雪姫が図りかねていると、煙が晴れる。
するとそこには亜美も藍もおらず、2名の兵士が倒れているだけ、となっていた。
「……いない。」
白雪姫がボソリと呟くと、後ろからブロロロとエンジン音を響く。
彼女が音がする方に視線を向けると、一台の車がこの場から走り出そうとしていた。
「──逃すか。」
その車を逃すまいと白雪姫が槍の先端を向け、展開させて光線を放とうとした瞬間。
遠くからサイレンの音が響く。それを耳にした白雪姫の動きが一瞬止まる。
『白雪姫。タイムオーバーだ。そこに伸びている二人を回収して急いでその場から離れろ。』
「了解。」
砂郷の指示を聞くと彼女は槍と鋏を転送させてしまい込み、二人を俵のように担ぎあげるとその場を後にする。
撤退する彼女をモニター越しに見つめる砂郷の耳に研究員達の言葉が耳に入る。
「武器のない状態から白雪姫に気づかれないよう誘い込んで一撃を入れるなんて。」
「先行試作型とは言え、流石雪花さんも関わった子だ。」
そう話す研究員達の言葉を遮るようにドンっと彼は拳を机に叩きつける。
「…しばらく自室に戻る。白雪姫が戻ったら連絡をくれ。」
彼はそう言うと研究室を後にする。珍しく感情を表に出す彼の姿に驚いた研究員が別の研究員に話しかける。
「珍しいなぁ。所長があんなにも不機嫌なのを露骨に出すなんて。」
「そりゃあ貴方。雪花さんと所長は昔一緒に研究したんだけど方向性の違いで彼女にあの子を取られて逃げられたんだから。きっと相当恨んでるわよ。」
「へぇ〜……色々、あるんですねぇ……」
研究員達がヒソヒソと話をしている中、自室に戻った砂郷はベッドの横に置いてある一枚の写真を手に取る。
そこには博士号を取得し、黒い服に身を包み、笑顔で証書の入った筒を掲げる二人の男女がいた。
「…雪花。何故俺を……」
その写真を見ながら砂郷は少し悲しそうに呟いた。
そう言って白雪姫が槍を振り上げる。光線によって上半身の大半が凍りつき、動けない藍にその一撃が振り下ろされようとしたその瞬間。
「おぉーっと!!そこまでだっ!!」
声が響くと同時に次の瞬間何処からともなくコロコロと黒い筒状の物が藍達の足元に転がってくる。
そしてその筒状のものはプシュウウウウと音を立てて白煙を吐き出し、辺りの視界を白一色に塗り潰していく。
「──煙幕ッ」
何かぎこちらに近づいてくる気配を感じた白雪姫が槍を振るうが、その一撃は虚しく空を切り、一方の気配も白雪姫に攻撃をするでもなく何処かへ走り去る。
その気配の意図を白雪姫が図りかねていると、煙が晴れる。
するとそこには亜美も藍もおらず、2名の兵士が倒れているだけ、となっていた。
「……いない。」
白雪姫がボソリと呟くと、後ろからブロロロとエンジン音を響く。
彼女が音がする方に視線を向けると、一台の車がこの場から走り出そうとしていた。
「──逃すか。」
その車を逃すまいと白雪姫が槍の先端を向け、展開させて光線を放とうとした瞬間。
遠くからサイレンの音が響く。それを耳にした白雪姫の動きが一瞬止まる。
『白雪姫。タイムオーバーだ。そこに伸びている二人を回収して急いでその場から離れろ。』
「了解。」
砂郷の指示を聞くと彼女は槍と鋏を転送させてしまい込み、二人を俵のように担ぎあげるとその場を後にする。
撤退する彼女をモニター越しに見つめる砂郷の耳に研究員達の言葉が耳に入る。
「武器のない状態から白雪姫に気づかれないよう誘い込んで一撃を入れるなんて。」
「先行試作型とは言え、流石雪花さんも関わった子だ。」
そう話す研究員達の言葉を遮るようにドンっと彼は拳を机に叩きつける。
「…しばらく自室に戻る。白雪姫が戻ったら連絡をくれ。」
彼はそう言うと研究室を後にする。珍しく感情を表に出す彼の姿に驚いた研究員が別の研究員に話しかける。
「珍しいなぁ。所長があんなにも不機嫌なのを露骨に出すなんて。」
「そりゃあ貴方。雪花さんと所長は昔一緒に研究したんだけど方向性の違いで彼女にあの子を取られて逃げられたんだから。きっと相当恨んでるわよ。」
「へぇ〜……色々、あるんですねぇ……」
研究員達がヒソヒソと話をしている中、自室に戻った砂郷はベッドの横に置いてある一枚の写真を手に取る。
そこには博士号を取得し、黒い服に身を包み、笑顔で証書の入った筒を掲げる二人の男女がいた。
「…雪花。何故俺を……」
その写真を見ながら砂郷は少し悲しそうに呟いた。
道路を疾走する車の後部座席で強制的に変身を解除させられたものの、光線による痛みで首から下が動かない藍を亜美が膝枕をしながら心配そうに顔を覗き込む。
助手席にいる亜麻色の髪を三つ編みに編んだ少女が亜美に言う。
「君も私達に無茶をさせるなぁ!?正直今もドキドキしているよ!って言うか頼みたいこと、が言ったその当日に来るとは思わないじゃないか!」
そのまま興奮気味に叫ぶ彼女に亜美が申し訳なさそうに。
「ごめんね結衣さん。でもこれは天才の貴方にしか頼めなかったし…」
「天才……」
亜美がそう言うと月乃助はその言葉に機嫌を良くしたようで。
「うむ。まぁしかし天才の私に頼りたくなる気持ちも分かる。友人のよしみで許してやろう!」
「いや貴方いくらなんでもチョロ過ぎでしょう。」
運転席のセミロングの黒髪を一本に纏めた女性が月乃助にツッコミを入れる。
「……月乃助、山形……。」
見覚えのある二人の姿を見て、ポツリと藍が呟く。その呟きが聞こえていたのか、山形が正面を見たまま言う。
「あら、お目覚めのようね。」
「大丈夫!?藍!?」
亜美が藍に心配そうに容態を尋ねてくる。藍は寒さのせいで若干呂律が回らない舌で答える。
「…だいひょうぶ。ひょっとひびれへるけお。」
そう藍が答えると、亜美は目を涙でいっぱいにして彼女を抱きしめる。
姉に抱きしめられながら、徐々に痺れが取れてきた藍は亜美に尋ねる。
「……ねぇ、お姉ちゃん。聞いても良い?」
「……藍。」
藍は敢えてそこから先は何も言わなかった。亜美は藍の意図を読み取り、意を決して静かに語り出す。
「……砂郷が言っていた通り、貴方は数々の優秀な遺伝子を掛け合わせて産まれたデザイナーベイビーよ。人の数倍の成長速度を持ち、強靭かつ理想的なバランスの筋肉、強固な免疫。…人間としてこれ以上ないくらいの完成度で産まれたのが、貴方。」
「……。」
静まり返る車内で、亜美は続ける。
「…十年前に砂郷と一緒にそのプロジェクトに携わったの。彼は遺伝子研究の第一人者で、その彼に誘われて。その時の私は私達の手で、最高の人が生み出す。その事に強い好奇心を引かれたわ。……そして、その研究の結果、七年前貴方が産まれた。」
「……え?」
亜美の言葉に藍が目を丸くする。
「え?“七年前”?私、十二歳じゃ……」
「……貴方は他の人より成長が早いこと、そして貴方の存在を誤魔化すために十二歳だと、偽っていたの。…ごめんなさい。」
「え、えぇ……そ、そうかぁ。本当は私七歳かぁ…。」
何やら変な事でショックを受ける藍を見て、亜美はさらに哀しそうな、申し訳無さそうな顔をする。
「……そして貴方が産まれた直後に、砂郷からこのプロジェクトの本当の目的を教えられたの。……私が作ろうとしていたのは最高の人。だけど彼の本当の目的は…“最強の兵士”。」
「……最強の兵士。」
「私を呼んだのも戦うのに最適なパワードスーツを作らせるため。産まれた貴方に嬉々として人を傷つけ、殺める暴力を教え込もうとする彼に…私は心底恐怖した。そして罪悪感に苛まれ、自分の馬鹿さ加減を思い知った私は…貴方を連れて逃げたの。」
「……。」
藍の頬を温かい液体がしたる。見ればボロボロと亜美は大粒の涙を流して泣いていた。
「……結局、全部私のせいなの、藍。……私は、研究者としての自分の欲望に勝てなかった…!いけないことだと分かっていても好奇心の赴くままに研究を続けて!今も、貴方を守る為だと嘯いて貴方に辛い思いをさせて……!」
車内は彼女の啜り泣く声だけが響く。月乃助と山形の二人が何と声をかけていいか口籠る中藍が口を開く。
「……そっか。そうだったんだ。」
「……でもね、藍。これだけは、貴方を想う気持ちだけに嘘はないわ。貴方をずっと、愛してる。」
そう言う亜美の瞳に藍はそっと指を添わせると、涙を拭いとる。
「……うん。知ってるよ。お姉ちゃんが私を想っていてくれたこと。」
「……藍?」
姉がどれ程自分の事を想っていてくれたかは、前の世界を知っている藍にはしっかりと伝わっていた。
自分の身を犠牲にして妹を助け、魂を鎧に封じ込めてまで見守ろうとした姉の行動を知っている彼女には。
「それにさ。産まれの事も私、全然気にしていないから。」
亜美に対して藍は力強く笑って言う。
「そりゃ、最初聞いた時はビックリしたけど。だってそのお陰で大切なものを守れる力を手に入れたんだから。それに、私がどんな産まれでも。私はお姉ちゃんの妹であることに変わりは無いから。」
「藍……!!」
藍の言葉に感極まったのか、亜美はまた強く藍を抱き締める。
「…なんだ。杞憂じゃないか。」
「まさに雨降って地固まる、ね。」
月乃助と山形が二人の姉妹の姿にふっ、安堵の息をつく。
そして車はしばらく走ると、一つの港の倉庫に駐車する。
「はい、着いたわよ。運賃は全部月乃助につけとくからさっさと降りた降りた。」
「なぬっ!?聞いてないが!?」
「藍?立てる?」
「うん、もう大丈夫。」
四人が降りると、亜美が倉庫の入り口の横のテンキーに番号を打ち込む。
その間藍はぶつぶつと独り言を呟く。
「……にしても、アイツをどうするか、ね。」
藍は先程接敵した白雪姫を思い出しながら言う。スーツの基本性能は大して変わらない。
強いて言えば防御力はこちらの方に分があるか、と言った具合だ。しかし攻撃面、特に武装の差はあちらが圧倒的に有利だ。
素手と得物持ちとでは大きなアドバンテージ差がある。そしてそれはそうそう覆るものではない。
さらに先程食らってしまった冷凍光線は一発喰らえば行動不能になる藍と非常に相性の悪い武装だ。
この不利をどうしたら覆せるのか藍が思案していると月乃助が胸を張って彼女の背中を叩く。
「なぁに。そのことなら問題ない。先程の戦いを少し見せて貰ったが……何とかなるかもしれないぞ?」
「マジで?」
月乃助の言葉に藍が目を丸くすると、亜美がテンキーを打ち終えたのか、ピピッとロックが解除される音が鳴り、扉が開く。
「…もし、私が作った“デイブレイク”だけじゃ対処出来ない相手が現れた時のために…月乃助さんにも協力してもらっていたの。まさかこうも早く出番があるなんて思わなかったけど…。」
「正直私もビックリだ!」
そして扉の中に入って行くと中心の作業台に青い翼を模した形の機械が鎮座していた。
「さっきのパワードスーツといい、これといい、よくもまぁ色々作っているわね…。」
山形がそう言うと月乃助は笑いながら言う。
「研究のためと言えばいくらでも言い訳が効くからな!ちょちょっとな!」
「…まぁ、これ以上は聞かないでおくわ。」
山形が呆れ混じりにそう答える中、亜美は藍に向き直る。
「……ごめんね、藍。私が戦えれば良かったんだけど。」
「うえん。気にしないで、お姉ちゃん。…私は、私自身で運命と向き合っていきたいから。」
藍がそう言うと、亜美は微笑んで彼女の頭を撫でる。
「……いつの間にか、随分と成長したわね…。」
「あはは…。」
(…前の世界での記憶あるから、とは言えないよなぁ。)
なんて考えている中、亜美は藍から“デイブレイク”を受け取ると青いメモリーカードを取り出し、それに差し込む。
「……この力が、貴方の輝かしい未来に繋がることを切に祈るわ。」
亜美は祈るようにそう言った。
助手席にいる亜麻色の髪を三つ編みに編んだ少女が亜美に言う。
「君も私達に無茶をさせるなぁ!?正直今もドキドキしているよ!って言うか頼みたいこと、が言ったその当日に来るとは思わないじゃないか!」
そのまま興奮気味に叫ぶ彼女に亜美が申し訳なさそうに。
「ごめんね結衣さん。でもこれは天才の貴方にしか頼めなかったし…」
「天才……」
亜美がそう言うと月乃助はその言葉に機嫌を良くしたようで。
「うむ。まぁしかし天才の私に頼りたくなる気持ちも分かる。友人のよしみで許してやろう!」
「いや貴方いくらなんでもチョロ過ぎでしょう。」
運転席のセミロングの黒髪を一本に纏めた女性が月乃助にツッコミを入れる。
「……月乃助、山形……。」
見覚えのある二人の姿を見て、ポツリと藍が呟く。その呟きが聞こえていたのか、山形が正面を見たまま言う。
「あら、お目覚めのようね。」
「大丈夫!?藍!?」
亜美が藍に心配そうに容態を尋ねてくる。藍は寒さのせいで若干呂律が回らない舌で答える。
「…だいひょうぶ。ひょっとひびれへるけお。」
そう藍が答えると、亜美は目を涙でいっぱいにして彼女を抱きしめる。
姉に抱きしめられながら、徐々に痺れが取れてきた藍は亜美に尋ねる。
「……ねぇ、お姉ちゃん。聞いても良い?」
「……藍。」
藍は敢えてそこから先は何も言わなかった。亜美は藍の意図を読み取り、意を決して静かに語り出す。
「……砂郷が言っていた通り、貴方は数々の優秀な遺伝子を掛け合わせて産まれたデザイナーベイビーよ。人の数倍の成長速度を持ち、強靭かつ理想的なバランスの筋肉、強固な免疫。…人間としてこれ以上ないくらいの完成度で産まれたのが、貴方。」
「……。」
静まり返る車内で、亜美は続ける。
「…十年前に砂郷と一緒にそのプロジェクトに携わったの。彼は遺伝子研究の第一人者で、その彼に誘われて。その時の私は私達の手で、最高の人が生み出す。その事に強い好奇心を引かれたわ。……そして、その研究の結果、七年前貴方が産まれた。」
「……え?」
亜美の言葉に藍が目を丸くする。
「え?“七年前”?私、十二歳じゃ……」
「……貴方は他の人より成長が早いこと、そして貴方の存在を誤魔化すために十二歳だと、偽っていたの。…ごめんなさい。」
「え、えぇ……そ、そうかぁ。本当は私七歳かぁ…。」
何やら変な事でショックを受ける藍を見て、亜美はさらに哀しそうな、申し訳無さそうな顔をする。
「……そして貴方が産まれた直後に、砂郷からこのプロジェクトの本当の目的を教えられたの。……私が作ろうとしていたのは最高の人。だけど彼の本当の目的は…“最強の兵士”。」
「……最強の兵士。」
「私を呼んだのも戦うのに最適なパワードスーツを作らせるため。産まれた貴方に嬉々として人を傷つけ、殺める暴力を教え込もうとする彼に…私は心底恐怖した。そして罪悪感に苛まれ、自分の馬鹿さ加減を思い知った私は…貴方を連れて逃げたの。」
「……。」
藍の頬を温かい液体がしたる。見ればボロボロと亜美は大粒の涙を流して泣いていた。
「……結局、全部私のせいなの、藍。……私は、研究者としての自分の欲望に勝てなかった…!いけないことだと分かっていても好奇心の赴くままに研究を続けて!今も、貴方を守る為だと嘯いて貴方に辛い思いをさせて……!」
車内は彼女の啜り泣く声だけが響く。月乃助と山形の二人が何と声をかけていいか口籠る中藍が口を開く。
「……そっか。そうだったんだ。」
「……でもね、藍。これだけは、貴方を想う気持ちだけに嘘はないわ。貴方をずっと、愛してる。」
そう言う亜美の瞳に藍はそっと指を添わせると、涙を拭いとる。
「……うん。知ってるよ。お姉ちゃんが私を想っていてくれたこと。」
「……藍?」
姉がどれ程自分の事を想っていてくれたかは、前の世界を知っている藍にはしっかりと伝わっていた。
自分の身を犠牲にして妹を助け、魂を鎧に封じ込めてまで見守ろうとした姉の行動を知っている彼女には。
「それにさ。産まれの事も私、全然気にしていないから。」
亜美に対して藍は力強く笑って言う。
「そりゃ、最初聞いた時はビックリしたけど。だってそのお陰で大切なものを守れる力を手に入れたんだから。それに、私がどんな産まれでも。私はお姉ちゃんの妹であることに変わりは無いから。」
「藍……!!」
藍の言葉に感極まったのか、亜美はまた強く藍を抱き締める。
「…なんだ。杞憂じゃないか。」
「まさに雨降って地固まる、ね。」
月乃助と山形が二人の姉妹の姿にふっ、安堵の息をつく。
そして車はしばらく走ると、一つの港の倉庫に駐車する。
「はい、着いたわよ。運賃は全部月乃助につけとくからさっさと降りた降りた。」
「なぬっ!?聞いてないが!?」
「藍?立てる?」
「うん、もう大丈夫。」
四人が降りると、亜美が倉庫の入り口の横のテンキーに番号を打ち込む。
その間藍はぶつぶつと独り言を呟く。
「……にしても、アイツをどうするか、ね。」
藍は先程接敵した白雪姫を思い出しながら言う。スーツの基本性能は大して変わらない。
強いて言えば防御力はこちらの方に分があるか、と言った具合だ。しかし攻撃面、特に武装の差はあちらが圧倒的に有利だ。
素手と得物持ちとでは大きなアドバンテージ差がある。そしてそれはそうそう覆るものではない。
さらに先程食らってしまった冷凍光線は一発喰らえば行動不能になる藍と非常に相性の悪い武装だ。
この不利をどうしたら覆せるのか藍が思案していると月乃助が胸を張って彼女の背中を叩く。
「なぁに。そのことなら問題ない。先程の戦いを少し見せて貰ったが……何とかなるかもしれないぞ?」
「マジで?」
月乃助の言葉に藍が目を丸くすると、亜美がテンキーを打ち終えたのか、ピピッとロックが解除される音が鳴り、扉が開く。
「…もし、私が作った“デイブレイク”だけじゃ対処出来ない相手が現れた時のために…月乃助さんにも協力してもらっていたの。まさかこうも早く出番があるなんて思わなかったけど…。」
「正直私もビックリだ!」
そして扉の中に入って行くと中心の作業台に青い翼を模した形の機械が鎮座していた。
「さっきのパワードスーツといい、これといい、よくもまぁ色々作っているわね…。」
山形がそう言うと月乃助は笑いながら言う。
「研究のためと言えばいくらでも言い訳が効くからな!ちょちょっとな!」
「…まぁ、これ以上は聞かないでおくわ。」
山形が呆れ混じりにそう答える中、亜美は藍に向き直る。
「……ごめんね、藍。私が戦えれば良かったんだけど。」
「うえん。気にしないで、お姉ちゃん。…私は、私自身で運命と向き合っていきたいから。」
藍がそう言うと、亜美は微笑んで彼女の頭を撫でる。
「……いつの間にか、随分と成長したわね…。」
「あはは…。」
(…前の世界での記憶あるから、とは言えないよなぁ。)
なんて考えている中、亜美は藍から“デイブレイク”を受け取ると青いメモリーカードを取り出し、それに差し込む。
「……この力が、貴方の輝かしい未来に繋がることを切に祈るわ。」
亜美は祈るようにそう言った。
「所長。戻りました。」
“サンダウン”から着替えた白雪姫が砂郷の部屋に入る。椅子に座っていた砂郷は立ち上がり、彼女へ振り返る。
「白雪姫。ご苦労だったな。」
「…いえ。私は任務を失敗しました。申し訳ございません。」
頭を下げる白雪姫を砂郷は見つめる。だが彼はフッと微笑むと。
「…いや、いい。確かに雪花を確保出来なかったが、お前はあの子に勝った。お前が優れていると証明したんだ。」
そう賞賛しながら彼はポンポンと彼女の頭を叩く。
「良くやったな。白雪姫。」
「……ありがとうございます。」
白雪姫がそう返す。砂郷は彼女の両肩に手を置いて言う。
「お前は、私の“最高傑作だ”。」
彼のその言葉に白雪姫は一瞬ピクリ、と反応する。しかしすぐにいつものいつもの人形のような鉄面皮に戻る。
するとピピッと通知音が部屋に鳴り響く。砂郷が通信機を取り、通話ボタンを押して連絡に出る。
「私だ。」
『所長。逃げた雪花亜美を見つけました。彼女達は湾岸の倉庫帯にいる模様です。』
「そうか分かった。ご苦労だったな。」
砂郷はそう言うと通話を切り、白雪姫へと振り返る。
「聞いた通りだ。行けるな?」
「はい。所長。」
白雪姫は砂郷の問いに力強く応える。
「今度こそ、確実に任務を遂行します。」
“サンダウン”から着替えた白雪姫が砂郷の部屋に入る。椅子に座っていた砂郷は立ち上がり、彼女へ振り返る。
「白雪姫。ご苦労だったな。」
「…いえ。私は任務を失敗しました。申し訳ございません。」
頭を下げる白雪姫を砂郷は見つめる。だが彼はフッと微笑むと。
「…いや、いい。確かに雪花を確保出来なかったが、お前はあの子に勝った。お前が優れていると証明したんだ。」
そう賞賛しながら彼はポンポンと彼女の頭を叩く。
「良くやったな。白雪姫。」
「……ありがとうございます。」
白雪姫がそう返す。砂郷は彼女の両肩に手を置いて言う。
「お前は、私の“最高傑作だ”。」
彼のその言葉に白雪姫は一瞬ピクリ、と反応する。しかしすぐにいつものいつもの人形のような鉄面皮に戻る。
するとピピッと通知音が部屋に鳴り響く。砂郷が通信機を取り、通話ボタンを押して連絡に出る。
「私だ。」
『所長。逃げた雪花亜美を見つけました。彼女達は湾岸の倉庫帯にいる模様です。』
「そうか分かった。ご苦労だったな。」
砂郷はそう言うと通話を切り、白雪姫へと振り返る。
「聞いた通りだ。行けるな?」
「はい。所長。」
白雪姫は砂郷の問いに力強く応える。
「今度こそ、確実に任務を遂行します。」
「私達は買い出しに行ってくるわ。」
「分かったわ。気をつけて。」
“デイブレイク”の調整作業を亜美達三人がしている中、月乃助と山形が背伸びをして、亜美に言う。
二人に注意を促しながら亜美はモニターに向き合う。二人がいなくなった後、藍が茶を持って亜美に渡す。
「姉さん、そろそろ休んだら?」
藍が手渡したそれを亜美は受け取ると、一口飲み。
「ありがとう、藍。でも、砂郷さんがいつ攻めて来るか分からない以上、少しでも早く完成させなくっちゃ。」
「分かったわ。けど無茶だけはしないでね?」
「ありがとね、藍。」
藍はそう言うと今度はキョロキョロと工場を見て回る。するとある一つの武器が目に入る。
「お、いいのがあるじゃない。」
それは以前使っていた“マタンII”のような電動鋸が刃となっている剣状の武器だった。
以前と違う点はそれは“マタンII”より刃が長く、半分をカバーのようなもので覆っているという点だ。
(名付けるなら“マタンIII”ってとこかしら。)
なんて藍が考えていると、亜美が話しかけてくる。
「そう言えば藍。一つ聞きたかったんだけど。」
「んー?何ー?」
「あなた、すごい戦い慣れてたけど、どうしたの?」
亜美の質問に藍は思わずビクッとする。
「あー、あれは、」
適当な理由をつけて藍はその場を誤魔化そうと考えて言葉を発しようとして、ピタッと藍は止める。
「藍?」
「……あのさ、お姉ちゃん。」
一瞬躊躇う。だが姉は自分に対して真剣に全てを打ち明けてくれた。
ならば信じてもらえるかはさておき喋るべきだ、と藍は思い、口を開く。
「……前の世界で戦ったから、って言ったら信じる?」
「前の世界?」
「うん。私ね。そこで色んな化け物と戦って来たの。」
我ながら突拍子も無い事だと自覚しながらも、藍は話を続ける。
「…前の世界だとお姉ちゃんは私を庇って死んで。その仇を討つためにお姉ちゃんの作った“デイブレイク”で戦って来たの。」
「………。」
「…戦って、戦って、戦い続けて。それで仲間達と力を合わせて何とか仇を打つことは出来たの。まぁ、それから色々あって世界がリセットされたんだけど…。」
藍の言葉を亜美は真剣な表情で聞く。
「そう。今この世界は一度リセットされて、再構築した世界……まぁ無茶苦茶言ってるとは思うけど…。」
「リセット、ね。マルチバース理論とも違う、タキオン粒子の流れる別世界線の移動とも違う……今の私じゃ表面も理解出来ない現象ね。」
何やら小難しい単語を並べながら亜美はそう言うとモニターの前のキーボードから指を離し、藍に向き直る。
「前の世界は、どうだった?やっぱり辛かったの?」
その質問に藍は少し微笑んで。
「ううん。確かに辛くなかった、って言うのは嘘になるけど、色んな人と仲間に、友達になれたから。一緒に苦しみも、悲しみも分け合える友達が。」
「そう。良い人達と巡り会えたのね。」
「うん。…こう言っちゃなんだけど。私、自分の生まれの事、ある意味感謝してるの。お陰で、私は大切な人達を守れる力を手に入れたんだから。」
「藍……。」
藍の言葉に亜美が涙を潤ませる。それに気づいた藍が笑顔を浮かべて彼女にハンカチを渡す。
「もー、お姉ちゃんまた泣いてる。」
「ご、ごめんねぇ…ぐすっ」
二人がそんなやり取りをしているその時だった。ドォンと音が鳴り、倉庫の扉が吹き飛ぶ。
「!!」
二人がその音の元に目をやると、灰燼をかき分けて駆動音が鳴らし、煙を切り裂いて人形のような少女、白雪姫と何処か痩せぎすな男が現れる。
「直接会うのは数年ぶりだな、雪花。」
「砂郷さん……!」
「怖い顔をしないでくれ。せっかくの美人が台無しだ。」
砂郷が軽口を叩くが、亜美は表情を緩めず、彼に尋ねる。
「……その子、そのスーツは…」
「ああ。残っていた“君との”研究データを元に新たに産まれたのが彼女だ。スーツは…まぁ、ちょっとしたコネだよ。名を“サンダウン”というらしい。恐らく、君からの盗品だと私は睨んでいるがね。」
「……それは私の試作品です。設計図を何処から…」
「それは私も知らない。借り物だからね。」
押し問答が続く中、彼はいや、それよりもと話を区切る。
「単刀直入に言おう。昔のように私に協力してくほしいんだ、雪花。無論、入ってくれれば君に研究最高責任者のポストを用意しよう、君の妹にも、相応しい場も提供しよう。私に出来る限りの希望であれば何でも言ってくれ。」
「……確かに、魅力的な提案ですね。…けどあいにくですが私は今の仕事に満足していますし、それに。」
亜美は藍を庇うように前に出る。
「私は、自分の発明は誰かの幸せを守るものであってほしいと願っています。誰かの幸せを壊すようなものの発明に、私は協力なんてしない。」
凛とした視線を向けてそう応える彼女に、砂郷はフッと笑う。
「……そうか。強情なところは変わってないな。なら。」
砂郷が手を上げると、武器を構えた白雪姫が一歩前へ前進する。
「協力したいようにするだけだ。」
「……。」
武器を構える白雪姫を前に亜美が一歩下がると、今度は姉を守るように藍が彼女の前に出る。
「ちょっと、しつこい男は嫌われるよ。フラれたんだから男らしく潔く身を引きなさいよ。」
「!…ふふっ。随分と口が達者だな。」
「藍……」
不安そうに見つめる姉の前で藍は“デイブレイク”に手を添えて、起動させる。
「任せて。姉さん。私が絶対に守るから。」
次の瞬間“デイブレイク”が展開して、彼女にスーツを装着させる。蒼と白銀の鎧に身を包んだ彼女はファイティングポーズを取ると白雪姫と向き合う。
「……やれ、白雪姫。」
「了解。任務を遂行します。」
次の瞬間右腕のドリルの武器が180度回転し、反対方向を向く。代わりに藍に向けられたのは無機質で無骨な…銃口だった。
「いっ!?」
「ふっ。」
「危ないお姉ちゃん!」
白雪姫がトリガーを押し込むと同時に藍は姉を突き飛ばし、自身も横へと転がって避ける。
二人がさっきまでいた場所に銃弾が炸裂し、弾ける。もうもうと煙が立ち込める中、藍は叫ぶ。
「ちょっと!今の私が避けさせなかったらどうするつもりだったのよ!」
「なってないから問題ない。」
藍の抗議を無視して白雪姫は銃を構えるとまた引き金を引く。藍もすぐさま近くの物陰に飛び込んでその銃撃をかわす。
「うおわぁ!?無茶苦茶だわコイツ!」
「今度こそ確実に始末する。」
彼女は全く抑揚のない声で呟きながら物陰に隠れた藍に向けてさらに銃撃を加える。
その威力は凄まじく、隠れた壁やドラム缶があっという間にチーズのように穴だらけになり、粉塵が舞う。
(標的に武器はない。このまま銃撃で炙り出し、飛び出たところに…)
白雪姫がそう思考を張り巡らせながら、藍が隠れている場所へと近づく。
だが次の瞬間ギュイイイと金属を擦り合わせるかのような駆動音が響く。
そして粉塵を切り裂いて長剣“マタンIII”を構えた藍が躍り出る。
「!」
「いつまでも丸腰な訳ないでしょ!」
そう叫びながら藍が振り下ろした“マタンIII”を振り下ろすが白雪姫も瞬時に反応し、槍でそれを受け止める。
「──ッ!」
「これでイーブンってとこかしら?」
槍とチェーンソーがぶつかり合い、火花を散らす中、藍がそう言うと白雪姫は振り払って距離を一旦取ると、彼女を睨みつける。
そして武器を構え直しながら短く呟いた。
「──望むところだ。」
「分かったわ。気をつけて。」
“デイブレイク”の調整作業を亜美達三人がしている中、月乃助と山形が背伸びをして、亜美に言う。
二人に注意を促しながら亜美はモニターに向き合う。二人がいなくなった後、藍が茶を持って亜美に渡す。
「姉さん、そろそろ休んだら?」
藍が手渡したそれを亜美は受け取ると、一口飲み。
「ありがとう、藍。でも、砂郷さんがいつ攻めて来るか分からない以上、少しでも早く完成させなくっちゃ。」
「分かったわ。けど無茶だけはしないでね?」
「ありがとね、藍。」
藍はそう言うと今度はキョロキョロと工場を見て回る。するとある一つの武器が目に入る。
「お、いいのがあるじゃない。」
それは以前使っていた“マタンII”のような電動鋸が刃となっている剣状の武器だった。
以前と違う点はそれは“マタンII”より刃が長く、半分をカバーのようなもので覆っているという点だ。
(名付けるなら“マタンIII”ってとこかしら。)
なんて藍が考えていると、亜美が話しかけてくる。
「そう言えば藍。一つ聞きたかったんだけど。」
「んー?何ー?」
「あなた、すごい戦い慣れてたけど、どうしたの?」
亜美の質問に藍は思わずビクッとする。
「あー、あれは、」
適当な理由をつけて藍はその場を誤魔化そうと考えて言葉を発しようとして、ピタッと藍は止める。
「藍?」
「……あのさ、お姉ちゃん。」
一瞬躊躇う。だが姉は自分に対して真剣に全てを打ち明けてくれた。
ならば信じてもらえるかはさておき喋るべきだ、と藍は思い、口を開く。
「……前の世界で戦ったから、って言ったら信じる?」
「前の世界?」
「うん。私ね。そこで色んな化け物と戦って来たの。」
我ながら突拍子も無い事だと自覚しながらも、藍は話を続ける。
「…前の世界だとお姉ちゃんは私を庇って死んで。その仇を討つためにお姉ちゃんの作った“デイブレイク”で戦って来たの。」
「………。」
「…戦って、戦って、戦い続けて。それで仲間達と力を合わせて何とか仇を打つことは出来たの。まぁ、それから色々あって世界がリセットされたんだけど…。」
藍の言葉を亜美は真剣な表情で聞く。
「そう。今この世界は一度リセットされて、再構築した世界……まぁ無茶苦茶言ってるとは思うけど…。」
「リセット、ね。マルチバース理論とも違う、タキオン粒子の流れる別世界線の移動とも違う……今の私じゃ表面も理解出来ない現象ね。」
何やら小難しい単語を並べながら亜美はそう言うとモニターの前のキーボードから指を離し、藍に向き直る。
「前の世界は、どうだった?やっぱり辛かったの?」
その質問に藍は少し微笑んで。
「ううん。確かに辛くなかった、って言うのは嘘になるけど、色んな人と仲間に、友達になれたから。一緒に苦しみも、悲しみも分け合える友達が。」
「そう。良い人達と巡り会えたのね。」
「うん。…こう言っちゃなんだけど。私、自分の生まれの事、ある意味感謝してるの。お陰で、私は大切な人達を守れる力を手に入れたんだから。」
「藍……。」
藍の言葉に亜美が涙を潤ませる。それに気づいた藍が笑顔を浮かべて彼女にハンカチを渡す。
「もー、お姉ちゃんまた泣いてる。」
「ご、ごめんねぇ…ぐすっ」
二人がそんなやり取りをしているその時だった。ドォンと音が鳴り、倉庫の扉が吹き飛ぶ。
「!!」
二人がその音の元に目をやると、灰燼をかき分けて駆動音が鳴らし、煙を切り裂いて人形のような少女、白雪姫と何処か痩せぎすな男が現れる。
「直接会うのは数年ぶりだな、雪花。」
「砂郷さん……!」
「怖い顔をしないでくれ。せっかくの美人が台無しだ。」
砂郷が軽口を叩くが、亜美は表情を緩めず、彼に尋ねる。
「……その子、そのスーツは…」
「ああ。残っていた“君との”研究データを元に新たに産まれたのが彼女だ。スーツは…まぁ、ちょっとしたコネだよ。名を“サンダウン”というらしい。恐らく、君からの盗品だと私は睨んでいるがね。」
「……それは私の試作品です。設計図を何処から…」
「それは私も知らない。借り物だからね。」
押し問答が続く中、彼はいや、それよりもと話を区切る。
「単刀直入に言おう。昔のように私に協力してくほしいんだ、雪花。無論、入ってくれれば君に研究最高責任者のポストを用意しよう、君の妹にも、相応しい場も提供しよう。私に出来る限りの希望であれば何でも言ってくれ。」
「……確かに、魅力的な提案ですね。…けどあいにくですが私は今の仕事に満足していますし、それに。」
亜美は藍を庇うように前に出る。
「私は、自分の発明は誰かの幸せを守るものであってほしいと願っています。誰かの幸せを壊すようなものの発明に、私は協力なんてしない。」
凛とした視線を向けてそう応える彼女に、砂郷はフッと笑う。
「……そうか。強情なところは変わってないな。なら。」
砂郷が手を上げると、武器を構えた白雪姫が一歩前へ前進する。
「協力したいようにするだけだ。」
「……。」
武器を構える白雪姫を前に亜美が一歩下がると、今度は姉を守るように藍が彼女の前に出る。
「ちょっと、しつこい男は嫌われるよ。フラれたんだから男らしく潔く身を引きなさいよ。」
「!…ふふっ。随分と口が達者だな。」
「藍……」
不安そうに見つめる姉の前で藍は“デイブレイク”に手を添えて、起動させる。
「任せて。姉さん。私が絶対に守るから。」
次の瞬間“デイブレイク”が展開して、彼女にスーツを装着させる。蒼と白銀の鎧に身を包んだ彼女はファイティングポーズを取ると白雪姫と向き合う。
「……やれ、白雪姫。」
「了解。任務を遂行します。」
次の瞬間右腕のドリルの武器が180度回転し、反対方向を向く。代わりに藍に向けられたのは無機質で無骨な…銃口だった。
「いっ!?」
「ふっ。」
「危ないお姉ちゃん!」
白雪姫がトリガーを押し込むと同時に藍は姉を突き飛ばし、自身も横へと転がって避ける。
二人がさっきまでいた場所に銃弾が炸裂し、弾ける。もうもうと煙が立ち込める中、藍は叫ぶ。
「ちょっと!今の私が避けさせなかったらどうするつもりだったのよ!」
「なってないから問題ない。」
藍の抗議を無視して白雪姫は銃を構えるとまた引き金を引く。藍もすぐさま近くの物陰に飛び込んでその銃撃をかわす。
「うおわぁ!?無茶苦茶だわコイツ!」
「今度こそ確実に始末する。」
彼女は全く抑揚のない声で呟きながら物陰に隠れた藍に向けてさらに銃撃を加える。
その威力は凄まじく、隠れた壁やドラム缶があっという間にチーズのように穴だらけになり、粉塵が舞う。
(標的に武器はない。このまま銃撃で炙り出し、飛び出たところに…)
白雪姫がそう思考を張り巡らせながら、藍が隠れている場所へと近づく。
だが次の瞬間ギュイイイと金属を擦り合わせるかのような駆動音が響く。
そして粉塵を切り裂いて長剣“マタンIII”を構えた藍が躍り出る。
「!」
「いつまでも丸腰な訳ないでしょ!」
そう叫びながら藍が振り下ろした“マタンIII”を振り下ろすが白雪姫も瞬時に反応し、槍でそれを受け止める。
「──ッ!」
「これでイーブンってとこかしら?」
槍とチェーンソーがぶつかり合い、火花を散らす中、藍がそう言うと白雪姫は振り払って距離を一旦取ると、彼女を睨みつける。
そして武器を構え直しながら短く呟いた。
「──望むところだ。」
「なんだね?また彼女に仕掛けに行ってるのかね彼は。」
「はい。そのようです。」
モニタールームの正面に設置された大きなモニターに映る彼らを見ながら貝塚が呆れたように秘書の塩田に尋ねる。
彼女の解答に貝塚はまた深いため息をつく。
「全く、昔の女に固執するのはいいが、仕事では公私を分けて貰いたいものだね。」
「いいではありませんか。成功すればパワードスーツの第一人者が手に入る。仮に失敗しても、“サンダウン”のデータが取れます。」
塩田の言葉に貝塚はそれもそうだな、と返す。
「研究員共、きっちりデータはとっておけよ。まだまだ“新商品”達が控えているんだからな。」
そう研究員達に言うと、貝塚は葉巻を取り出そうとする。しかし、その葉巻はパッと塩田に取り上げられる。
「火気厳禁ですよ。」
「……ダメかね。」
「ダメです。また怒られますよ。」
「ダメかぁ…。」
そんなやり取りをしながら、二人はまたモニターへと向き直った。
「はい。そのようです。」
モニタールームの正面に設置された大きなモニターに映る彼らを見ながら貝塚が呆れたように秘書の塩田に尋ねる。
彼女の解答に貝塚はまた深いため息をつく。
「全く、昔の女に固執するのはいいが、仕事では公私を分けて貰いたいものだね。」
「いいではありませんか。成功すればパワードスーツの第一人者が手に入る。仮に失敗しても、“サンダウン”のデータが取れます。」
塩田の言葉に貝塚はそれもそうだな、と返す。
「研究員共、きっちりデータはとっておけよ。まだまだ“新商品”達が控えているんだからな。」
そう研究員達に言うと、貝塚は葉巻を取り出そうとする。しかし、その葉巻はパッと塩田に取り上げられる。
「火気厳禁ですよ。」
「……ダメかね。」
「ダメです。また怒られますよ。」
「ダメかぁ…。」
そんなやり取りをしながら、二人はまたモニターへと向き直った。
「はぁぁぁぁぁ!」
「……。」
倉庫内に激しく金属同士がぶつかり合う音が響く。武器を手にした藍が激しく白雪姫を攻め立てるが、白雪姫は盾と槍を上手く使ってそれらの攻撃を捌きながら凌ぐ。
白雪姫の突き出す槍が藍を掠め、藍の振り下ろした刃が白雪姫を掠める。
まさしく一進一退の攻防を繰り広げる彼女達を見ながら、砂郷は亜美に言う。
「ふふっ、ははは。素晴らしい。素晴らしいぞ二人共!これ程の戦いが出来る人間はいないだろう!まさしく人類の最高傑作だ!」
「砂郷さん…っ!どうしてっ、こんなっ。」
亜美の悲痛な訴えに対して、砂郷は何を言っているのやらとでも言いたげな目線で彼女に振り向く。
「君と同じだよ。興味があるものを作れそうだから作った。それだけのことさ。」
「なっ……」
藍が突き出した刃を白雪姫は盾で一旦受け止めると、その刃を受け流しながら彼女を引き込むように盾を引っ張る。
「う、おっおお!?」
勢いを受け流され、体勢が大きく崩れた藍に白雪姫の痛烈な膝蹴りが炸裂する。
「ぶべっ!?」
さらに振るわれた槍が藍の装甲を削り、火花を散らせる。
倒れ込む藍を見ながら、砂郷は続ける。
「俺達科学者は、探究心、好奇心の塊だ。気になったもの、疑問に思ったこと。それらを全部暴いてしまわないと気が済まない、底なしの欲の塊のような、それが科学者の“サガ”だ。」
「…そんなっ、こと」
「違うか?君だって…この科学者の“サガ”には抗えなかっただろう?だから、君は“妹”に“デイブレイク”を作った。それが彼女を戦いに誘うと知っていながら。」
さらに白雪姫が武器を振るって追い討ちをかけるが、藍はそれに剣をぶつけて切っ先を逸らすと、飛び上がって渾身のドロップキックをお見舞いする。
「……っ!!」
よろめく白雪姫に、藍がニヤリと笑う。
「へへっ、どーよ。」
「……不愉快です。」
また再び互いの武器がぶつかり合う。そして互いに斬り払い、一歩下がると同時に白雪姫は左腕の盾を変形させ、鋏にするとそれを射出する。
放たれたそれはガッチリと藍の身体を挟み込み、拘束する。
「しまっ」
「ふんっ!」
次の瞬間渾身の力を込めて白雪姫は鋏と繋がっているワイヤーを引っ張り、藍を振り回す。
藍も堪えようとはしたが、圧倒的なパワーの前には踏ん張りも数秒しか持たず、ブンブンと振り回される。
そしてカチンと音がして、鋏が拘束を解くと、振り回された勢いのまま藍は壁へ激突し、それを破壊しながら外へと放り出される。
地面を転がる藍を見て、亜美は外へと出る。
「藍ッ!」
「結局私も君も変わらない。行き着く先は好奇心だ。科学者である以上、これは必然だ。」
「それはっ……!」
砂郷は亜美に語りかけるのをやめない。
「意地を張らず、素直になれ。本当は心が赴くままに研究がしたい、と。」
「っ………。」
砂郷の言葉に亜美は言い返せない。今まで藍のためと思ってやって来たことは自分の探求欲を満たしたいがための行動なのでは、独りよがりなのでは?ということは否定が出来ない。
そんな自分と、目の前の彼。何が違うのか、亜美には答えが出せず口籠もっていた時だった。
「……さっきから大人しく聞いてたらさぁ。好き勝手言ってくれちゃって。」
そうぼやくように言いながら藍が立ち上がる。全身傷だらけで、額を一筋の血が伝う。
それでも彼女の目には怯えは一切なく、強い決意の色のみが燃えていた。
「お姉ちゃんとアンタが一緒?はんっ、バカも休み休みに言いなさいよ。一緒な訳ないでしょ。」
「……ほう。なら教えてくれ。私と雪花。どこが違うんだ?」
砂郷の問いに藍は答える。
「なら聞くけど。アンタは誰かを助けたり、守ったりするために研究したことあるの?」
「……なに?」
「私のお姉ちゃんは困っている人を助けるために色んな研究、発明をしたわ。この“デイブレイク”だってそう。私の為に作ってくれた。私を守る為に。」
姉の献身は誰よりも藍自身が知っている。それは決して目の前の男と、姉が一緒なハズがない、何よりの根拠だ。
「自分の欲を満たす為だけじゃない。誰かの為に尽くすお姉ちゃんがアンタなんかと一緒な訳ないでしょ!!お姉ちゃんをバカにするな!!」
藍が力一杯叫ぶ。その言葉に砂郷は思わず怯む。しかし、次の瞬間地面を蹴り、ドリルを構えた白雪姫が藍に接近する。
「……そっちこそ所長をバカにするな。」
「チッ」
突き出されたドリルを藍は剣で受け流す。しかし、白雪姫は止まらず勢いそのまま藍にタックルをかます。
「ぐっ」
「私に居場所を、力をくれたのは所長だ。バカにすることは私が許さない…!」
「白雪姫……。」
自身の為に激昂する彼女を見て、砂郷は呆然とする。それは普段感情を表に出さない彼女が、怒りの面を露わにしたからだ。
「何故、彼女が怒っている?研究所、聴こえているか?感情に左右されないように“マイナートランキライザー”を摂取させろ。」
彼が困惑しながらも、研究員に指示を出し、彼女を生理管理システムで落ち着けようとしたその瞬間。
パチンっと。彼の頬を亜美の張り手が叩く。
「なっ」
まさか彼女に殴られるとは思っていなかったのか、砂郷は思わず困惑の声を上げる。
「……彼女は、何よりも貴方の為に怒っているんですよ。なんでそれが分からないんですか!そうやって、感情を度外視するから、私は貴方についていくのをやめたんですっ!貴方のことを、一人の科学者として尊敬していたのにっ!」
「………。」
一方、白雪姫の怒涛の猛攻に藍は押され気味になっていた。だが藍は不敵に笑みを浮かべる。
「へへっ。良いわね。今の方がさっきまでの人形のような顔より随分マシよ。」
「戯言を!」
「!」
怒号とともに白雪姫が槍を振り回して藍を引き剥がすと、離れた藍に向けて鋏を射出する。
「効くか!」
だが、藍はそれを剣で弾く。しかしその間に白雪姫は槍の一部分を展開させ、それを藍に向ける。
その様子を見た藍は思わずゾッとする。それは前の戦いで藍を倒した冷凍光線を放つ構えだったからだ。
「予測済みだ。」
「ヤバっ!?」
一か八かで藍は思い切り横へと跳ぶ。それと同時にバチっと火花が弾ける音と光共に光線が藍に襲い掛かる。
幸か不幸か、光線は藍に直撃こそしなかったがその余波が藍に炸裂し、凄まじい冷気が彼女を襲う。
「うがっ!?」
驚いた拍子に体勢を崩し、ろくに着地も出来ず、勢いそのままに藍は地面を転がる。
「……外した。」
そんな藍を見下ろしながら、白雪姫は槍を構える。
「今度は、当てる。」
藍は痛みと痺れに呻きながらも何とか立ち上がる。
(やばいやばいやばい!何とか立ち上がれたけど、何度もあれは避けれないし、次は掠めでもしただけで多分、私は立てなくなる!)
藍が思わず青ざめ、予想以上に強力な冷凍光線を前に、藍がどう立ち回るか悩んでいた時だった。
「藍──ッ!」
姉の声が聞こえる。亜美は藍へと向かって叫ぶ。
「2回!“デイブレイク”を押して!新しい装備を!私達を信じて!!」
「!」
亜美の言葉に藍は、一瞬目を見開く。そしてすぐに笑みを浮かべる。
「そうね……こっちにも切り札はあんのよ!」
藍はすぐさま、“デイブレイク”の起動スイッチを2回押し込む。
《Savior》
すると次の瞬間、青白い光が“デイブレイク”から溢れ出し、紺碧に輝く装甲を転送させると、亜美に次々と装着させる。
全体的に刃のような鋭くシャープな装甲が追加され、腰部に翼のようなシルエットの装備が装着されると同時にそれは展開し、光の翼を放出する。
「……!好きにはさせないっ!」
白雪姫が藍に向けて、再び光線を放つが、光の翼がその電撃を歪めて、あらぬ方向へと弾く。
「何ッ」
バチバチィッと光線が地面を舐め、氷のラインを作る。一方の藍には、先程の光線で傷一つついていない。
「……起動したのか!」
亜美が声がした方向に目を向けると、そこには帰って来た月乃助と山形の姿があった。
「すごい物音がしたから何事かと思って急いで来たけど…。こりゃ凄いことになってるわね…。」
「あぁ。だが凄いぞ!ちゃんと力場生成光翼“スペクトルリュミエール”が起動している!!」
新たな装備を身につけ、光を纏った藍はこの装備に一瞬驚くが、すぐに武器を構えて不敵に白雪姫に剣を突きつける。
「さぁて。仕切り直しの第2ラウンドといきましょう。」
「……光線が通じないのなら!」
ガチャンと音を立てて槍がまた180度回転し、銃口がその顔を覗かせる。
「実弾で!」
白雪姫が引き金を引くと同時に、藍に向けて銃弾が放たれる。しかし藍は銃弾が襲い掛かるよりも速く、上と飛んでその銃撃をかわす。
「上空に逃げ場はない!」
藍が上へと飛んで逃げたことで、空中では身動きが出来ないと踏んだ白雪姫が上空にいる藍に照準を合わせる。
だが銃口を突きつけられているのにも関わらず、藍はそれを見て、ニヤリと笑う。
「それはどうかしら!?」
次の瞬間“何もない空間を蹴り”、藍は放たれた銃撃を横へと飛翔して避ける。光の翼を放射しながら空中を翔ぶ藍に、白雪姫だけでなく砂郷までも驚く。
「何ッ!?馬鹿な、飛翔能力があるだと!?」
「くっ。」
「まさかっ、あの光の翼!あれが力場を生成して空中に足場を…!?」
藍は飛んでくる銃弾を避けながら、一気に加速する。そして白雪姫との距離を詰めた藍が渾身の一撃を振りかぶる。
「でやァァァァァァァ!」
振り下ろした一撃は白雪姫の右腕の槍を根本から両断し、破壊する。
「ッ!」
「イやァァァァァァァァッ!」
さらに返す刀で振り上げた一撃が白雪姫に炸裂する。
「ぐぅうう!?」
装甲が削れ、火花が散り、よろめく彼女に向けて愛が拳を握りしめる。次の瞬間その拳が青紫色の光を放ち始める。
「ああああああっ!」
そして渾身の力で繰り出された拳が白雪姫の装甲の一部を破砕しながら叩き込まれる。
「──ッッ!!?」
信じられない、とでも言うような瞳を浮かべながら、白雪姫は大きく吹っ飛んで倉庫の壁に叩きつけられる。
「やったっ!」
藍の一撃に月乃助と山形が湧く。一方の藍は初めて動かすスーツで慣れていないのもあって肩で息をしている。
「白雪姫ッ!」
砂郷が悲痛な声を上げて彼女の名前を呼ぶ。返事はない。だが彼の言葉に応えるようにガラガラと瓦礫を押し退けて、白雪姫が現れる。
「白雪姫!」
「…損傷甚大。しかし、戦闘続行可能。」
そう言いながら彼女は武器を構える。しかし足元は覚束なく、とても戦闘を継続できるように思えない。
「何を言っている!今のお前に何が……!」
「…許可を。」
「何?」
「“グリーディ•ビーズデッド”の使用許可を。」
短く呟きながら彼女が顔を上げて、砂郷を見つめる。その目は彼が今までで一度も見た事のない何よりも勝利を渇望する飢えた獣のような目だった。
彼女の提案に砂郷は狼狽える。
「馬鹿な…今のお前の身体ではあの劇薬に耐えきれるハズがない!今ここでお前を…!」
「私は……勝ちたい…!彼女に!私こそが…!貴方の最高傑作であることを証明してみせます!だから…!使用許可を…!」
初めて大きく感情を露わにする彼女に砂郷は逡巡する。だが確かに彼女の言う通り、最早あの少女に勝つにはこれしかない。
今までの砂郷ならこのようなリスクを背負う位ならすぐさま退却を指示していただろう。
だが今の彼女を見た彼には、ある想いが溢れていた。このまま好きにさせてやりたい、彼女の勝利を渇望する想いが。彼女が望むその先を見届けたいという気持ちが湧き上がって来る。
そして、彼は通信機を取り出すと。
「……“グリーディ・ビーズテッド”を使え。」
『…よろしいので?』
通信機の向こうの研究員から少し戸惑ったような聞こえる。だが彼は彼女を見つめながら答える。
「良い。好きにさせてやれ。」
『……了解。』
次の瞬間白雪姫のうなじにある機械部分のパーツが一部盛り上がり、プシュと何かが解放される音と同時にその盛り上がった部分が沈んで元に戻る。
次の瞬間、白雪姫は絶叫する。喉も張り裂けんばかりの絶叫に呼応するように鎧が白から黒色へと変貌していく。
「ちょ、ちょっと。アンタ、大丈夫?」
あまりの苦しみように藍が白雪姫に声をかけるが、彼女は血を吐かんばかりに歯を食い縛り、藍を睨みつける。
「…私は、勝つ……!これが、最後の手だッ…!」
首筋に青筋を浮かべ、汗をかきながらも真っ黒に染まった装甲を身に纏った白雪姫は右腕の破壊された槍をパージすると、腕部に沿うように装着していたナイフを展開させ、地面を蹴る。
その電光石火のような踏み込みは一瞬で藍との距離を詰める。先程の苦しみようからは想像も出来ないスピードに藍は驚く。
そして振りかぶられたナイフを藍は咄嗟に身を捻って避けようとするが、その刃は彼女を掠める。
「速いっ!?」
「ふっ!」
さらに疾風の如き速さでナイフの追撃が藍に襲い掛かる。咄嗟に剣で弾くが、それでも荒波のように凄まじい攻撃が彼女に襲いかかる。
「私は勝つッ!勝って!私が優れていることを証明する!所長のために!」
「…ッ!くっ!私だって!お姉ちゃんのために負けてらんないのよ!」
何とか剣で防御するが、防ぎ損ねた攻撃が藍を徐々に切り裂く。あまりの速さと俊敏性に藍を冷や汗が伝う。
(コイツ!さっきまでは動きが全然違う!やりにくい…!)
先程までの機械のような冷静なスタイルと打って変わった獣ような荒々しいスタイルに藍は追い込まれる。
「くっ、離れろっ!」
剣を振るい、一旦距離を取ろうと藍が後ろへ下がった瞬間。パンッと乾いた音が鳴り、藍の脇腹に衝撃が走る。
「がっ……!?」
「硬い。並の装甲なら貫ける特別性なのに。」
見ればいつの間にか、白雪姫の左手に拳銃が握られており、そしてその銃口からは一筋の硝煙が立ち昇っていた。
「痛ッた…!?」
白雪姫の銃弾は装甲を貫通こそしなかったが、その衝撃は凄まじく、当たった箇所から灼けるような鈍い痛みが拡がっていく。
「くっ、空中にっ」
さらに白雪姫が引き金を引き、銃弾が藍に向けて放たれる。藍もすぐに光の翼で足場を作ると、それを蹴って空中へと逃げる。
「飛べるからって調子に乗るなッ!」
だがすぐさま白雪姫も周りの建物を蹴り、足場にしながら左腕の鋏を飛ばし、振り子のように軌道を変えながら藍へと迫る。
「マジかっ!?」
そのまま飛び掛かって来る白雪姫を受け止めるが、白雪姫は思い切り藍を足蹴にして、彼女を地面に叩き落とす。
「うおわぁっ!?」
藍はそのまま天井を突き破りながら倉庫へと落下する。土埃が巻き上がる中、ゲホゲホと咳込みながら藍が立ち上がる。
「くっそ。好き勝手やってくれちゃって…!私お姉ちゃんよ…!?」
藍がそう悪態を突きながら天井を見上げていると、ピピッと耳元の通信機から声が入る。
《無事か藍君!》
「……月乃助?」
《そうとも!戦闘中の君に良い知らせと悪い知らせがある!どっちから聞きたい?》
「えっ……じゃあ悪い方から。」
月乃助はそうか!と言うと。
《それ、“デイブレイク•セイヴァー”だが、後五分で機能停止する。》
「えっ、はぁぁぁぁ!?何それっ!?」
《ご、ごめんなさい藍。流石に色々と盛り込みすぎちゃって。その、“スペクトルリュミエール”がどうにもその性質上多分にエネルギーを消耗するから…。》
亜美が申し訳なさそうに言うが、藍にとってはあまりにも晴天の霹靂だ。
「何それ聞いてない…!じ、じゃあ良い知らせ!良い知らせを教えなさいよ!」
藍がそう言うと、月乃助はよくぞ聞いてくれた、と続ける。
『“デイブレイク•セイヴァー”はまだ真の性能をフルに発揮していない。』
「……えっ。」
月乃助の言葉に藍は頭に疑問符を浮かべる。真の力を解放していないとは、どう言うことなのか。
『ぶっつけ本番だが、君には“スペクトルリュミエール”の全てを引き出して貰う。』
「ちょ、ちょっと。全て、って。」
藍が不安そうな声を出すが、月乃助はどうやら聞く気はさらさらないようだ。
「……トドメを、刺す。」
屋上へと着地した白雪姫がボソリとそう呟き、ナイフを構えて歩を進める。
白雪姫も“グリーディ•ビーズデッド”で無理矢理強化したツケが来ており、全身が灼けるように痛む。
永くは持たないだろう。だが、それでも彼女を突き動かすのは砂郷へと捧げる勝利の二文字のためだ。
痛む身体を引きずり、藍が落ちた穴を覗き込もうとした瞬間。
穴から膨大な量の光が溢れ出す。窓や、建物隙間から溢れ出す光に思わずその場にいた全員が目を逸らす。
「なにがっ……!?」
白雪姫が思わずそう呟くと同時に天井を突き破り、藍が光を、いやその暴力的なまでの煌めきを放ち、最早光の嵐と化した翼を纏いながら現れる。
「……ぐっ、ピカピカと眩しいっ」
「…こっから、クライマックスって奴よ。お互いね。」
光に照らされ、蒼穹に輝く藍がそう言うと、白雪姫はそれに呼応するように拳銃を藍に向ける。
そして放たれた弾丸は猛烈な勢いで藍を貫く。
「!!」
だが、その瞬間藍の姿は消えてなくなる。
「なっ」
「こっちよっ!」
次の瞬間いつの間にか右横にいた藍が白雪姫を殴り飛ばす。よろめくもすぐさま殴られた方へ彼女は蹴りを放つが、藍は残像を残してまたその場から消える。
そして今度は背中に衝撃が走る。再び白雪姫がナイフを振るうが、またもや手応えがない。
「な、んだこれはっ……!」
謎の攻撃に白雪姫が歯軋りをしながら上空を見上げて、絶句する。
何故なら空中に無数の藍の姿があったからだ。
「これはっ…!」
「ふふんっ、驚いたかい。これぞ私と亜美の最高傑作“スペクトルリュミエール”の真の力!光線屈折技術で生成した力場に自身を投影することで残像を産み出す事が出来るのだ!勿論夜にしか使えず、残像が残る超スピードは常人には耐えられないが、今の彼女なら…!!」
「ギリギリ耐えられるっ…!」
超スピードで動き回りながら、自らのスピードに翻弄されないよう藍は歯を食い縛る。
(乗りこなせっ!このスピードを乗りこなすのよ私ッ!確かに自分がやるのは初めてだけど、お手本は沢山見てきた!)
藍の脳裏に前の世界の黒鳥と月乃助の姿が浮かぶ。彼女達がどのような姿勢で飛んでいたのかを必死に思い出しながら藍は必死に光の翼で飛翔し続ける。
光速で動く彼女に今度は白雪姫が翻弄され始める。
「ぐっ!この…!!」
彼女が苦し紛れに武器を振るうが、その全てが藍の残像を切り裂くだけだ。
大振りになったところを懐に入り込んだ藍が思い切り蹴りをかます。その威力は凄まじく倉庫の壁をぶち破ってまた外へと彼女を吹き飛ばす。
「ぐぅううう!」
地面を転がる彼女から少し離れた所に藍は着地する。
だが一瞬脚がガクつき、物凄い脱力感が藍を襲う。それでも藍は白雪姫を睨みつけたまま剣を構える。
「……立ちなさい。これで終わりにする。」
「…望むところ。」
藍の言葉に、白雪姫も口元を拭いながら立ち上がると、静かにナイフを構える。
「……これで決着がつく。」
ボソリと砂郷が呟き、亜美達三人が固唾を呑んで二人を見守る。互いに身体は限界。最早立つ事さえ奇跡な程肉体にダメージを負った二人は次の一撃に全てを賭けていた。
静寂が場を支配する。永遠とも思えるような一瞬の静寂。
最初に仕掛けたのは藍だった。力強く踏み込むと、“スペクトルリュミエール”を全開にして電光の如き速さで白雪姫との距離を詰める。
白雪姫もそれが分かっていたのか、迎え撃つ構えを見せる。
(正面ッ!いくら速くても軌道が分かれば…!)
白雪姫がナイフを構える右腕に力が入る。そして藍が彼女の間合いに入ろうとした次の瞬間。
「!!」
藍の姿を映し出した光の残像が、白雪姫に向けて藍から放たれる。
「なっ、残像──!?」
突然飛び出した彼女に驚いた白雪姫は思わず飛んできた光の分身に思わずナイフを振るう。
ナイフで斬り裂かれた藍の残像は霧散して消えるが、続くように本物の藍が白雪姫をその間合いに捉える。
「悪いわね。力押しだけじゃ勝負は決まらないのよ!!」
そう言うと藍は思い切り白雪姫を天高く蹴り上げる。
「ぐおっ」
そして白雪姫の飛んでいく先へ、光速で翔び、先回りをすると思い切り剣を振り下ろす。
「覚えときなさいっ!これがっ!私のっ!全力だぁぁぁあ!!!」
次の瞬間藍が叩きつけるように振るった剣の一撃は寸分違わず白雪姫に炸裂し、そのまま装甲を火花を立てて削りながら地上へと彼女を連れて落下する。
ギャリギャリと装甲を金属が削る嫌な音が響く中、ただではやられまいと白雪姫も最後の力をを振り絞り、ナイフを藍に叩きつける。
「うおおおおおおおおっっ!!」
「あああああああああっっ!!」
だが気合い一閃。刃を当てて白雪姫を捉えた藍は彼女の反撃に歯を食いしばって耐えながらそのまま地面へと向かって彼女を地面へと叩きつける。
「白雪姫!!」
「藍!!」
次の瞬間ドゴォン!!と轟音が鳴り響き、土煙と瓦礫が撒き散る。もうもうと粉塵が辺りに立ち込め、二人の姿は見えない。
「どうなった…?」
「!見て、煙が晴れて……」
果たして、煙が晴れると。そこには剣を叩きつけられて、大の字で意識を失い倒れている白雪姫と、肩で息をして、激しく消耗しているものの立っている藍の姿があった。
「はぁ……はぁ…!私の……勝ちよ……!」
藍は三人に右腕を上げて勝利したことを示したその瞬間、ふらりとよろけると同時に変身が解けて、藍も同じように倒れる。
「藍!」
亜美達が慌てて藍に駆け寄る。倒れた藍の上半身を亜美が抱える。
心配そうに藍を亜美が覗き込むと、藍は力なく笑みを浮かべる。
「へ、へへ……ごめんお姉ちゃん。やっぱ、キツイや。」
「藍…!良くやったわ…!」
藍を亜美が強く抱きしめて、健闘を讃えていると。一方の白雪姫を砂郷が抱き抱えていた。
「白雪姫……」
「……所長。申し訳ありません。敗けてしまいました。」
「…いや、いい。良くやった…よく、頑張った。お前は私の誇りだ。」
砂郷の言葉に白雪姫は一瞬目を見開くが、すぐに目を閉じて静かに微笑む。
「……ありがとうございます。」
そう言うと、白雪姫は限界だったのか意識を失う。砂郷はそれをどこか慈愛の籠った瞳で彼女を見つめる。
「……砂郷さん。」
その様子を見ていた亜美が藍に話しかける。砂郷はどこか憑き物が落ちたような顔で亜美の方を向く。
「…君の言う事が、信じている理念が、何故あの時私から離れたのか少し分かったような気がしたよ。……君に敵わない訳だ。」
「……これから、どうされるおつもりですか?」
砂郷に亜美がそう尋ねると、彼はそうだなぁと夜空を見上げて。
「……彼女とやり直してみるよ。どこまでやれるか分からないし、多分色々大変だろうが。」
砂郷がそう言うと、亜美に抱えられていた藍が口を開く。
「……あのさ。ソイツに伝えておいてよ。…いつでも会いに来ていいって。…私、お姉ちゃんだし。」
「……伝えておくよ。」
そう言うと砂郷は白雪姫を抱えてその場を去った。それを見届けた後、藍を抱えた亜美に月乃助達二人が言う。
「さて、取り敢えず。その子病院連れて行きましょうか。」
「あ!そ、そうよ。ちょっと気が抜けてた!」
「……そうして貰えるとありがたいかも。」
バタバタしながら亜美は藍を抱えながら山形の車へと向かう。慌ただしく動き、激痛と疲労の中で藍は亜美に抱えられながらも、笑みを浮かべるのであった。
「……。」
倉庫内に激しく金属同士がぶつかり合う音が響く。武器を手にした藍が激しく白雪姫を攻め立てるが、白雪姫は盾と槍を上手く使ってそれらの攻撃を捌きながら凌ぐ。
白雪姫の突き出す槍が藍を掠め、藍の振り下ろした刃が白雪姫を掠める。
まさしく一進一退の攻防を繰り広げる彼女達を見ながら、砂郷は亜美に言う。
「ふふっ、ははは。素晴らしい。素晴らしいぞ二人共!これ程の戦いが出来る人間はいないだろう!まさしく人類の最高傑作だ!」
「砂郷さん…っ!どうしてっ、こんなっ。」
亜美の悲痛な訴えに対して、砂郷は何を言っているのやらとでも言いたげな目線で彼女に振り向く。
「君と同じだよ。興味があるものを作れそうだから作った。それだけのことさ。」
「なっ……」
藍が突き出した刃を白雪姫は盾で一旦受け止めると、その刃を受け流しながら彼女を引き込むように盾を引っ張る。
「う、おっおお!?」
勢いを受け流され、体勢が大きく崩れた藍に白雪姫の痛烈な膝蹴りが炸裂する。
「ぶべっ!?」
さらに振るわれた槍が藍の装甲を削り、火花を散らせる。
倒れ込む藍を見ながら、砂郷は続ける。
「俺達科学者は、探究心、好奇心の塊だ。気になったもの、疑問に思ったこと。それらを全部暴いてしまわないと気が済まない、底なしの欲の塊のような、それが科学者の“サガ”だ。」
「…そんなっ、こと」
「違うか?君だって…この科学者の“サガ”には抗えなかっただろう?だから、君は“妹”に“デイブレイク”を作った。それが彼女を戦いに誘うと知っていながら。」
さらに白雪姫が武器を振るって追い討ちをかけるが、藍はそれに剣をぶつけて切っ先を逸らすと、飛び上がって渾身のドロップキックをお見舞いする。
「……っ!!」
よろめく白雪姫に、藍がニヤリと笑う。
「へへっ、どーよ。」
「……不愉快です。」
また再び互いの武器がぶつかり合う。そして互いに斬り払い、一歩下がると同時に白雪姫は左腕の盾を変形させ、鋏にするとそれを射出する。
放たれたそれはガッチリと藍の身体を挟み込み、拘束する。
「しまっ」
「ふんっ!」
次の瞬間渾身の力を込めて白雪姫は鋏と繋がっているワイヤーを引っ張り、藍を振り回す。
藍も堪えようとはしたが、圧倒的なパワーの前には踏ん張りも数秒しか持たず、ブンブンと振り回される。
そしてカチンと音がして、鋏が拘束を解くと、振り回された勢いのまま藍は壁へ激突し、それを破壊しながら外へと放り出される。
地面を転がる藍を見て、亜美は外へと出る。
「藍ッ!」
「結局私も君も変わらない。行き着く先は好奇心だ。科学者である以上、これは必然だ。」
「それはっ……!」
砂郷は亜美に語りかけるのをやめない。
「意地を張らず、素直になれ。本当は心が赴くままに研究がしたい、と。」
「っ………。」
砂郷の言葉に亜美は言い返せない。今まで藍のためと思ってやって来たことは自分の探求欲を満たしたいがための行動なのでは、独りよがりなのでは?ということは否定が出来ない。
そんな自分と、目の前の彼。何が違うのか、亜美には答えが出せず口籠もっていた時だった。
「……さっきから大人しく聞いてたらさぁ。好き勝手言ってくれちゃって。」
そうぼやくように言いながら藍が立ち上がる。全身傷だらけで、額を一筋の血が伝う。
それでも彼女の目には怯えは一切なく、強い決意の色のみが燃えていた。
「お姉ちゃんとアンタが一緒?はんっ、バカも休み休みに言いなさいよ。一緒な訳ないでしょ。」
「……ほう。なら教えてくれ。私と雪花。どこが違うんだ?」
砂郷の問いに藍は答える。
「なら聞くけど。アンタは誰かを助けたり、守ったりするために研究したことあるの?」
「……なに?」
「私のお姉ちゃんは困っている人を助けるために色んな研究、発明をしたわ。この“デイブレイク”だってそう。私の為に作ってくれた。私を守る為に。」
姉の献身は誰よりも藍自身が知っている。それは決して目の前の男と、姉が一緒なハズがない、何よりの根拠だ。
「自分の欲を満たす為だけじゃない。誰かの為に尽くすお姉ちゃんがアンタなんかと一緒な訳ないでしょ!!お姉ちゃんをバカにするな!!」
藍が力一杯叫ぶ。その言葉に砂郷は思わず怯む。しかし、次の瞬間地面を蹴り、ドリルを構えた白雪姫が藍に接近する。
「……そっちこそ所長をバカにするな。」
「チッ」
突き出されたドリルを藍は剣で受け流す。しかし、白雪姫は止まらず勢いそのまま藍にタックルをかます。
「ぐっ」
「私に居場所を、力をくれたのは所長だ。バカにすることは私が許さない…!」
「白雪姫……。」
自身の為に激昂する彼女を見て、砂郷は呆然とする。それは普段感情を表に出さない彼女が、怒りの面を露わにしたからだ。
「何故、彼女が怒っている?研究所、聴こえているか?感情に左右されないように“マイナートランキライザー”を摂取させろ。」
彼が困惑しながらも、研究員に指示を出し、彼女を生理管理システムで落ち着けようとしたその瞬間。
パチンっと。彼の頬を亜美の張り手が叩く。
「なっ」
まさか彼女に殴られるとは思っていなかったのか、砂郷は思わず困惑の声を上げる。
「……彼女は、何よりも貴方の為に怒っているんですよ。なんでそれが分からないんですか!そうやって、感情を度外視するから、私は貴方についていくのをやめたんですっ!貴方のことを、一人の科学者として尊敬していたのにっ!」
「………。」
一方、白雪姫の怒涛の猛攻に藍は押され気味になっていた。だが藍は不敵に笑みを浮かべる。
「へへっ。良いわね。今の方がさっきまでの人形のような顔より随分マシよ。」
「戯言を!」
「!」
怒号とともに白雪姫が槍を振り回して藍を引き剥がすと、離れた藍に向けて鋏を射出する。
「効くか!」
だが、藍はそれを剣で弾く。しかしその間に白雪姫は槍の一部分を展開させ、それを藍に向ける。
その様子を見た藍は思わずゾッとする。それは前の戦いで藍を倒した冷凍光線を放つ構えだったからだ。
「予測済みだ。」
「ヤバっ!?」
一か八かで藍は思い切り横へと跳ぶ。それと同時にバチっと火花が弾ける音と光共に光線が藍に襲い掛かる。
幸か不幸か、光線は藍に直撃こそしなかったがその余波が藍に炸裂し、凄まじい冷気が彼女を襲う。
「うがっ!?」
驚いた拍子に体勢を崩し、ろくに着地も出来ず、勢いそのままに藍は地面を転がる。
「……外した。」
そんな藍を見下ろしながら、白雪姫は槍を構える。
「今度は、当てる。」
藍は痛みと痺れに呻きながらも何とか立ち上がる。
(やばいやばいやばい!何とか立ち上がれたけど、何度もあれは避けれないし、次は掠めでもしただけで多分、私は立てなくなる!)
藍が思わず青ざめ、予想以上に強力な冷凍光線を前に、藍がどう立ち回るか悩んでいた時だった。
「藍──ッ!」
姉の声が聞こえる。亜美は藍へと向かって叫ぶ。
「2回!“デイブレイク”を押して!新しい装備を!私達を信じて!!」
「!」
亜美の言葉に藍は、一瞬目を見開く。そしてすぐに笑みを浮かべる。
「そうね……こっちにも切り札はあんのよ!」
藍はすぐさま、“デイブレイク”の起動スイッチを2回押し込む。
《Savior》
すると次の瞬間、青白い光が“デイブレイク”から溢れ出し、紺碧に輝く装甲を転送させると、亜美に次々と装着させる。
全体的に刃のような鋭くシャープな装甲が追加され、腰部に翼のようなシルエットの装備が装着されると同時にそれは展開し、光の翼を放出する。
「……!好きにはさせないっ!」
白雪姫が藍に向けて、再び光線を放つが、光の翼がその電撃を歪めて、あらぬ方向へと弾く。
「何ッ」
バチバチィッと光線が地面を舐め、氷のラインを作る。一方の藍には、先程の光線で傷一つついていない。
「……起動したのか!」
亜美が声がした方向に目を向けると、そこには帰って来た月乃助と山形の姿があった。
「すごい物音がしたから何事かと思って急いで来たけど…。こりゃ凄いことになってるわね…。」
「あぁ。だが凄いぞ!ちゃんと力場生成光翼“スペクトルリュミエール”が起動している!!」
新たな装備を身につけ、光を纏った藍はこの装備に一瞬驚くが、すぐに武器を構えて不敵に白雪姫に剣を突きつける。
「さぁて。仕切り直しの第2ラウンドといきましょう。」
「……光線が通じないのなら!」
ガチャンと音を立てて槍がまた180度回転し、銃口がその顔を覗かせる。
「実弾で!」
白雪姫が引き金を引くと同時に、藍に向けて銃弾が放たれる。しかし藍は銃弾が襲い掛かるよりも速く、上と飛んでその銃撃をかわす。
「上空に逃げ場はない!」
藍が上へと飛んで逃げたことで、空中では身動きが出来ないと踏んだ白雪姫が上空にいる藍に照準を合わせる。
だが銃口を突きつけられているのにも関わらず、藍はそれを見て、ニヤリと笑う。
「それはどうかしら!?」
次の瞬間“何もない空間を蹴り”、藍は放たれた銃撃を横へと飛翔して避ける。光の翼を放射しながら空中を翔ぶ藍に、白雪姫だけでなく砂郷までも驚く。
「何ッ!?馬鹿な、飛翔能力があるだと!?」
「くっ。」
「まさかっ、あの光の翼!あれが力場を生成して空中に足場を…!?」
藍は飛んでくる銃弾を避けながら、一気に加速する。そして白雪姫との距離を詰めた藍が渾身の一撃を振りかぶる。
「でやァァァァァァァ!」
振り下ろした一撃は白雪姫の右腕の槍を根本から両断し、破壊する。
「ッ!」
「イやァァァァァァァァッ!」
さらに返す刀で振り上げた一撃が白雪姫に炸裂する。
「ぐぅうう!?」
装甲が削れ、火花が散り、よろめく彼女に向けて愛が拳を握りしめる。次の瞬間その拳が青紫色の光を放ち始める。
「ああああああっ!」
そして渾身の力で繰り出された拳が白雪姫の装甲の一部を破砕しながら叩き込まれる。
「──ッッ!!?」
信じられない、とでも言うような瞳を浮かべながら、白雪姫は大きく吹っ飛んで倉庫の壁に叩きつけられる。
「やったっ!」
藍の一撃に月乃助と山形が湧く。一方の藍は初めて動かすスーツで慣れていないのもあって肩で息をしている。
「白雪姫ッ!」
砂郷が悲痛な声を上げて彼女の名前を呼ぶ。返事はない。だが彼の言葉に応えるようにガラガラと瓦礫を押し退けて、白雪姫が現れる。
「白雪姫!」
「…損傷甚大。しかし、戦闘続行可能。」
そう言いながら彼女は武器を構える。しかし足元は覚束なく、とても戦闘を継続できるように思えない。
「何を言っている!今のお前に何が……!」
「…許可を。」
「何?」
「“グリーディ•ビーズデッド”の使用許可を。」
短く呟きながら彼女が顔を上げて、砂郷を見つめる。その目は彼が今までで一度も見た事のない何よりも勝利を渇望する飢えた獣のような目だった。
彼女の提案に砂郷は狼狽える。
「馬鹿な…今のお前の身体ではあの劇薬に耐えきれるハズがない!今ここでお前を…!」
「私は……勝ちたい…!彼女に!私こそが…!貴方の最高傑作であることを証明してみせます!だから…!使用許可を…!」
初めて大きく感情を露わにする彼女に砂郷は逡巡する。だが確かに彼女の言う通り、最早あの少女に勝つにはこれしかない。
今までの砂郷ならこのようなリスクを背負う位ならすぐさま退却を指示していただろう。
だが今の彼女を見た彼には、ある想いが溢れていた。このまま好きにさせてやりたい、彼女の勝利を渇望する想いが。彼女が望むその先を見届けたいという気持ちが湧き上がって来る。
そして、彼は通信機を取り出すと。
「……“グリーディ・ビーズテッド”を使え。」
『…よろしいので?』
通信機の向こうの研究員から少し戸惑ったような聞こえる。だが彼は彼女を見つめながら答える。
「良い。好きにさせてやれ。」
『……了解。』
次の瞬間白雪姫のうなじにある機械部分のパーツが一部盛り上がり、プシュと何かが解放される音と同時にその盛り上がった部分が沈んで元に戻る。
次の瞬間、白雪姫は絶叫する。喉も張り裂けんばかりの絶叫に呼応するように鎧が白から黒色へと変貌していく。
「ちょ、ちょっと。アンタ、大丈夫?」
あまりの苦しみように藍が白雪姫に声をかけるが、彼女は血を吐かんばかりに歯を食い縛り、藍を睨みつける。
「…私は、勝つ……!これが、最後の手だッ…!」
首筋に青筋を浮かべ、汗をかきながらも真っ黒に染まった装甲を身に纏った白雪姫は右腕の破壊された槍をパージすると、腕部に沿うように装着していたナイフを展開させ、地面を蹴る。
その電光石火のような踏み込みは一瞬で藍との距離を詰める。先程の苦しみようからは想像も出来ないスピードに藍は驚く。
そして振りかぶられたナイフを藍は咄嗟に身を捻って避けようとするが、その刃は彼女を掠める。
「速いっ!?」
「ふっ!」
さらに疾風の如き速さでナイフの追撃が藍に襲い掛かる。咄嗟に剣で弾くが、それでも荒波のように凄まじい攻撃が彼女に襲いかかる。
「私は勝つッ!勝って!私が優れていることを証明する!所長のために!」
「…ッ!くっ!私だって!お姉ちゃんのために負けてらんないのよ!」
何とか剣で防御するが、防ぎ損ねた攻撃が藍を徐々に切り裂く。あまりの速さと俊敏性に藍を冷や汗が伝う。
(コイツ!さっきまでは動きが全然違う!やりにくい…!)
先程までの機械のような冷静なスタイルと打って変わった獣ような荒々しいスタイルに藍は追い込まれる。
「くっ、離れろっ!」
剣を振るい、一旦距離を取ろうと藍が後ろへ下がった瞬間。パンッと乾いた音が鳴り、藍の脇腹に衝撃が走る。
「がっ……!?」
「硬い。並の装甲なら貫ける特別性なのに。」
見ればいつの間にか、白雪姫の左手に拳銃が握られており、そしてその銃口からは一筋の硝煙が立ち昇っていた。
「痛ッた…!?」
白雪姫の銃弾は装甲を貫通こそしなかったが、その衝撃は凄まじく、当たった箇所から灼けるような鈍い痛みが拡がっていく。
「くっ、空中にっ」
さらに白雪姫が引き金を引き、銃弾が藍に向けて放たれる。藍もすぐに光の翼で足場を作ると、それを蹴って空中へと逃げる。
「飛べるからって調子に乗るなッ!」
だがすぐさま白雪姫も周りの建物を蹴り、足場にしながら左腕の鋏を飛ばし、振り子のように軌道を変えながら藍へと迫る。
「マジかっ!?」
そのまま飛び掛かって来る白雪姫を受け止めるが、白雪姫は思い切り藍を足蹴にして、彼女を地面に叩き落とす。
「うおわぁっ!?」
藍はそのまま天井を突き破りながら倉庫へと落下する。土埃が巻き上がる中、ゲホゲホと咳込みながら藍が立ち上がる。
「くっそ。好き勝手やってくれちゃって…!私お姉ちゃんよ…!?」
藍がそう悪態を突きながら天井を見上げていると、ピピッと耳元の通信機から声が入る。
《無事か藍君!》
「……月乃助?」
《そうとも!戦闘中の君に良い知らせと悪い知らせがある!どっちから聞きたい?》
「えっ……じゃあ悪い方から。」
月乃助はそうか!と言うと。
《それ、“デイブレイク•セイヴァー”だが、後五分で機能停止する。》
「えっ、はぁぁぁぁ!?何それっ!?」
《ご、ごめんなさい藍。流石に色々と盛り込みすぎちゃって。その、“スペクトルリュミエール”がどうにもその性質上多分にエネルギーを消耗するから…。》
亜美が申し訳なさそうに言うが、藍にとってはあまりにも晴天の霹靂だ。
「何それ聞いてない…!じ、じゃあ良い知らせ!良い知らせを教えなさいよ!」
藍がそう言うと、月乃助はよくぞ聞いてくれた、と続ける。
『“デイブレイク•セイヴァー”はまだ真の性能をフルに発揮していない。』
「……えっ。」
月乃助の言葉に藍は頭に疑問符を浮かべる。真の力を解放していないとは、どう言うことなのか。
『ぶっつけ本番だが、君には“スペクトルリュミエール”の全てを引き出して貰う。』
「ちょ、ちょっと。全て、って。」
藍が不安そうな声を出すが、月乃助はどうやら聞く気はさらさらないようだ。
「……トドメを、刺す。」
屋上へと着地した白雪姫がボソリとそう呟き、ナイフを構えて歩を進める。
白雪姫も“グリーディ•ビーズデッド”で無理矢理強化したツケが来ており、全身が灼けるように痛む。
永くは持たないだろう。だが、それでも彼女を突き動かすのは砂郷へと捧げる勝利の二文字のためだ。
痛む身体を引きずり、藍が落ちた穴を覗き込もうとした瞬間。
穴から膨大な量の光が溢れ出す。窓や、建物隙間から溢れ出す光に思わずその場にいた全員が目を逸らす。
「なにがっ……!?」
白雪姫が思わずそう呟くと同時に天井を突き破り、藍が光を、いやその暴力的なまでの煌めきを放ち、最早光の嵐と化した翼を纏いながら現れる。
「……ぐっ、ピカピカと眩しいっ」
「…こっから、クライマックスって奴よ。お互いね。」
光に照らされ、蒼穹に輝く藍がそう言うと、白雪姫はそれに呼応するように拳銃を藍に向ける。
そして放たれた弾丸は猛烈な勢いで藍を貫く。
「!!」
だが、その瞬間藍の姿は消えてなくなる。
「なっ」
「こっちよっ!」
次の瞬間いつの間にか右横にいた藍が白雪姫を殴り飛ばす。よろめくもすぐさま殴られた方へ彼女は蹴りを放つが、藍は残像を残してまたその場から消える。
そして今度は背中に衝撃が走る。再び白雪姫がナイフを振るうが、またもや手応えがない。
「な、んだこれはっ……!」
謎の攻撃に白雪姫が歯軋りをしながら上空を見上げて、絶句する。
何故なら空中に無数の藍の姿があったからだ。
「これはっ…!」
「ふふんっ、驚いたかい。これぞ私と亜美の最高傑作“スペクトルリュミエール”の真の力!光線屈折技術で生成した力場に自身を投影することで残像を産み出す事が出来るのだ!勿論夜にしか使えず、残像が残る超スピードは常人には耐えられないが、今の彼女なら…!!」
「ギリギリ耐えられるっ…!」
超スピードで動き回りながら、自らのスピードに翻弄されないよう藍は歯を食い縛る。
(乗りこなせっ!このスピードを乗りこなすのよ私ッ!確かに自分がやるのは初めてだけど、お手本は沢山見てきた!)
藍の脳裏に前の世界の黒鳥と月乃助の姿が浮かぶ。彼女達がどのような姿勢で飛んでいたのかを必死に思い出しながら藍は必死に光の翼で飛翔し続ける。
光速で動く彼女に今度は白雪姫が翻弄され始める。
「ぐっ!この…!!」
彼女が苦し紛れに武器を振るうが、その全てが藍の残像を切り裂くだけだ。
大振りになったところを懐に入り込んだ藍が思い切り蹴りをかます。その威力は凄まじく倉庫の壁をぶち破ってまた外へと彼女を吹き飛ばす。
「ぐぅううう!」
地面を転がる彼女から少し離れた所に藍は着地する。
だが一瞬脚がガクつき、物凄い脱力感が藍を襲う。それでも藍は白雪姫を睨みつけたまま剣を構える。
「……立ちなさい。これで終わりにする。」
「…望むところ。」
藍の言葉に、白雪姫も口元を拭いながら立ち上がると、静かにナイフを構える。
「……これで決着がつく。」
ボソリと砂郷が呟き、亜美達三人が固唾を呑んで二人を見守る。互いに身体は限界。最早立つ事さえ奇跡な程肉体にダメージを負った二人は次の一撃に全てを賭けていた。
静寂が場を支配する。永遠とも思えるような一瞬の静寂。
最初に仕掛けたのは藍だった。力強く踏み込むと、“スペクトルリュミエール”を全開にして電光の如き速さで白雪姫との距離を詰める。
白雪姫もそれが分かっていたのか、迎え撃つ構えを見せる。
(正面ッ!いくら速くても軌道が分かれば…!)
白雪姫がナイフを構える右腕に力が入る。そして藍が彼女の間合いに入ろうとした次の瞬間。
「!!」
藍の姿を映し出した光の残像が、白雪姫に向けて藍から放たれる。
「なっ、残像──!?」
突然飛び出した彼女に驚いた白雪姫は思わず飛んできた光の分身に思わずナイフを振るう。
ナイフで斬り裂かれた藍の残像は霧散して消えるが、続くように本物の藍が白雪姫をその間合いに捉える。
「悪いわね。力押しだけじゃ勝負は決まらないのよ!!」
そう言うと藍は思い切り白雪姫を天高く蹴り上げる。
「ぐおっ」
そして白雪姫の飛んでいく先へ、光速で翔び、先回りをすると思い切り剣を振り下ろす。
「覚えときなさいっ!これがっ!私のっ!全力だぁぁぁあ!!!」
次の瞬間藍が叩きつけるように振るった剣の一撃は寸分違わず白雪姫に炸裂し、そのまま装甲を火花を立てて削りながら地上へと彼女を連れて落下する。
ギャリギャリと装甲を金属が削る嫌な音が響く中、ただではやられまいと白雪姫も最後の力をを振り絞り、ナイフを藍に叩きつける。
「うおおおおおおおおっっ!!」
「あああああああああっっ!!」
だが気合い一閃。刃を当てて白雪姫を捉えた藍は彼女の反撃に歯を食いしばって耐えながらそのまま地面へと向かって彼女を地面へと叩きつける。
「白雪姫!!」
「藍!!」
次の瞬間ドゴォン!!と轟音が鳴り響き、土煙と瓦礫が撒き散る。もうもうと粉塵が辺りに立ち込め、二人の姿は見えない。
「どうなった…?」
「!見て、煙が晴れて……」
果たして、煙が晴れると。そこには剣を叩きつけられて、大の字で意識を失い倒れている白雪姫と、肩で息をして、激しく消耗しているものの立っている藍の姿があった。
「はぁ……はぁ…!私の……勝ちよ……!」
藍は三人に右腕を上げて勝利したことを示したその瞬間、ふらりとよろけると同時に変身が解けて、藍も同じように倒れる。
「藍!」
亜美達が慌てて藍に駆け寄る。倒れた藍の上半身を亜美が抱える。
心配そうに藍を亜美が覗き込むと、藍は力なく笑みを浮かべる。
「へ、へへ……ごめんお姉ちゃん。やっぱ、キツイや。」
「藍…!良くやったわ…!」
藍を亜美が強く抱きしめて、健闘を讃えていると。一方の白雪姫を砂郷が抱き抱えていた。
「白雪姫……」
「……所長。申し訳ありません。敗けてしまいました。」
「…いや、いい。良くやった…よく、頑張った。お前は私の誇りだ。」
砂郷の言葉に白雪姫は一瞬目を見開くが、すぐに目を閉じて静かに微笑む。
「……ありがとうございます。」
そう言うと、白雪姫は限界だったのか意識を失う。砂郷はそれをどこか慈愛の籠った瞳で彼女を見つめる。
「……砂郷さん。」
その様子を見ていた亜美が藍に話しかける。砂郷はどこか憑き物が落ちたような顔で亜美の方を向く。
「…君の言う事が、信じている理念が、何故あの時私から離れたのか少し分かったような気がしたよ。……君に敵わない訳だ。」
「……これから、どうされるおつもりですか?」
砂郷に亜美がそう尋ねると、彼はそうだなぁと夜空を見上げて。
「……彼女とやり直してみるよ。どこまでやれるか分からないし、多分色々大変だろうが。」
砂郷がそう言うと、亜美に抱えられていた藍が口を開く。
「……あのさ。ソイツに伝えておいてよ。…いつでも会いに来ていいって。…私、お姉ちゃんだし。」
「……伝えておくよ。」
そう言うと砂郷は白雪姫を抱えてその場を去った。それを見届けた後、藍を抱えた亜美に月乃助達二人が言う。
「さて、取り敢えず。その子病院連れて行きましょうか。」
「あ!そ、そうよ。ちょっと気が抜けてた!」
「……そうして貰えるとありがたいかも。」
バタバタしながら亜美は藍を抱えながら山形の車へと向かう。慌ただしく動き、激痛と疲労の中で藍は亜美に抱えられながらも、笑みを浮かべるのであった。
「──全く。研究者というのは御しづらいな。」
「はい。しかし“サンダウン”は試作型。それにデータは取れただけよしとしましょう。あちらも“クローン”という禁忌の技術に触れている以上、痛い腹を探られたくないハズ。こちらを糾弾することもないでしょう。」
廊下を歩きながら、貝塚と塩田が話す。
元々あまり砂郷を信頼していなかった貝塚にとって貸し出した“サンダウン”は失われてもさほどダメージにはならない。
寧ろ貝塚は少し上機嫌に言う。
「寧ろ、パワードスーツ第一人者の雪花亜美の技術の一端のデータが取れた分プラスの収益だよ。あのような技術は見たことない。」
「はい。氷室様に良い土産話が出来ましたね。」
塩田の言葉に貝塚は少し嫌そうな顔をする。
「……いやぁ。どうだかなぁ。彼女、優秀なんだが、雪花亜美の話をすると癇癪を起こすからなぁ。」
「では、話をする時は何もない部屋を取りますね。」
「そうしてくれ。もう調度品を破壊されるのは懲り懲りだ。」
貝塚はやれやれとため息をつきながらそう言うが、すぐに野望に燃えた瞳と共にニヤリと笑う。
「全ては……“グリムワール”のために、な。」
「はい。しかし“サンダウン”は試作型。それにデータは取れただけよしとしましょう。あちらも“クローン”という禁忌の技術に触れている以上、痛い腹を探られたくないハズ。こちらを糾弾することもないでしょう。」
廊下を歩きながら、貝塚と塩田が話す。
元々あまり砂郷を信頼していなかった貝塚にとって貸し出した“サンダウン”は失われてもさほどダメージにはならない。
寧ろ貝塚は少し上機嫌に言う。
「寧ろ、パワードスーツ第一人者の雪花亜美の技術の一端のデータが取れた分プラスの収益だよ。あのような技術は見たことない。」
「はい。氷室様に良い土産話が出来ましたね。」
塩田の言葉に貝塚は少し嫌そうな顔をする。
「……いやぁ。どうだかなぁ。彼女、優秀なんだが、雪花亜美の話をすると癇癪を起こすからなぁ。」
「では、話をする時は何もない部屋を取りますね。」
「そうしてくれ。もう調度品を破壊されるのは懲り懲りだ。」
貝塚はやれやれとため息をつきながらそう言うが、すぐに野望に燃えた瞳と共にニヤリと笑う。
「全ては……“グリムワール”のために、な。」
「って言うことがあったのよ。」
「へー。それは何というか、大変だったね藍ちゃん。」
病室のベッドで上体だけ起こしている藍に龍香が相槌を打つ。包帯でぐるぐる巻きとなりながらもピンピンとした様子に、最初はミイラのような状態になった藍にびっくりしていた龍香も安心して、いつも通りの態度になっている。
医者も最初は藍の傷にびっくりしていたが、しばらくすると藍の回復具合に驚いていた。
「そう言えば“デイブレイク”って藍ちゃんのお姉ちゃんが作ったシードゥス関係ないものだからこの世界でも使えるんだねぇ。」
「まぁ強いて違うとすれば、お姉ちゃんの魂が入ってないからシードゥスとは戦えないぐらいだけど……って言うかさ。一つ聞いていい?」
「何?藍ちゃん。」
「その“藍ちゃん”って呼び方何よ藍ちゃんって。」
呼び方を変えた理由を尋ねると龍香はキョトンとして。
「え?だって藍ちゃんホントは七歳なんでしょ?ならもうちょっと砕けた呼び方の方が良いかなって。」
「確かに産まれは七歳だけど、実年齢はアンタと変わらないわよ!!」
藍がそう言うが、龍香は何か小動物でも見るかのように微笑んで。
「まぁまぁ、藍ちゃん。落ち着いて。どうどう。」
「こ、コイツ…!」
ワナワナと藍が拳を震わせてていると、コンコンと扉がノックされる。
「どう、藍?体調は?」
「失礼します。」
そう言いながら病室に亜美と、もう一人白雪姫が入ってくる。
「あ、お姉ちゃん、とえっーと。」
藍が白雪姫の名前を呼ぼうとすると、彼女はそれを制すると。
「今の私は白雪姫改め、白雪 蒼(しらゆき あお)です。よろしくおねがいしますお姉さん。あと、お気に召すか分かりませんが。」
ペコリと頭を下げながら、白雪は藍になんか高そうな包装の菓子折りを渡してくる。
「おー。どうしたのこれ?」
「後始末やらなんやらで忙しい所長に代わって謝罪に来ました。」
「家の修理代を貰えたら良いと伝えたんだだけど、直接謝りたいって聞かなくて。」
亜美がそう言い、藍がへー、と生返事を返すと龍香が尋ねてくる。
「あ、あのー。この方は藍ちゃんとどう言った関係なの?」
「え、あー。さっき言ったんだけど私の妹よ。」
「はい。藍お姉さんが七歳。私が四歳となっています。」
白雪の言葉に龍香が絶句する。何せ目の前にいる藍に似ていこそするものの、15,16歳の高校生に見える少女が実は四歳と言っているのだからさもありなんだ。
「えっ、じゃあお姉さんは…」
「普通に二十七歳よ。」
亜美が笑いながらそう答える。驚く龍香に藍が龍香を指差して紹介する。
「こっちが紫水龍香よ。私の友達。」
「わかりました。これからよろしくお願いします龍香お姉さん。」
「お姉さん……」
言われたことのないお姉さん、という単語が心の琴線に触れたのか龍香はパァッと笑顔になって。
「お姉さん……そっかぁ…えへへ。」
「何笑ってんのよ。」
「藍ちゃんも今度から私のこと龍香お姉ちゃん、って言っていいよ?」
「誰が言うか!!」
笑う龍香に藍が食ってかかる。
(……成長したなぁ。それに、良い友達が出来たのね。なんか、安心しちゃった。)
ぎゃいぎゃいと藍が龍香と白雪に向かって二人に騒ぐ。しかし亜美の目にはその姿がとても楽しそうに見えたのだった。
「へー。それは何というか、大変だったね藍ちゃん。」
病室のベッドで上体だけ起こしている藍に龍香が相槌を打つ。包帯でぐるぐる巻きとなりながらもピンピンとした様子に、最初はミイラのような状態になった藍にびっくりしていた龍香も安心して、いつも通りの態度になっている。
医者も最初は藍の傷にびっくりしていたが、しばらくすると藍の回復具合に驚いていた。
「そう言えば“デイブレイク”って藍ちゃんのお姉ちゃんが作ったシードゥス関係ないものだからこの世界でも使えるんだねぇ。」
「まぁ強いて違うとすれば、お姉ちゃんの魂が入ってないからシードゥスとは戦えないぐらいだけど……って言うかさ。一つ聞いていい?」
「何?藍ちゃん。」
「その“藍ちゃん”って呼び方何よ藍ちゃんって。」
呼び方を変えた理由を尋ねると龍香はキョトンとして。
「え?だって藍ちゃんホントは七歳なんでしょ?ならもうちょっと砕けた呼び方の方が良いかなって。」
「確かに産まれは七歳だけど、実年齢はアンタと変わらないわよ!!」
藍がそう言うが、龍香は何か小動物でも見るかのように微笑んで。
「まぁまぁ、藍ちゃん。落ち着いて。どうどう。」
「こ、コイツ…!」
ワナワナと藍が拳を震わせてていると、コンコンと扉がノックされる。
「どう、藍?体調は?」
「失礼します。」
そう言いながら病室に亜美と、もう一人白雪姫が入ってくる。
「あ、お姉ちゃん、とえっーと。」
藍が白雪姫の名前を呼ぼうとすると、彼女はそれを制すると。
「今の私は白雪姫改め、白雪 蒼(しらゆき あお)です。よろしくおねがいしますお姉さん。あと、お気に召すか分かりませんが。」
ペコリと頭を下げながら、白雪は藍になんか高そうな包装の菓子折りを渡してくる。
「おー。どうしたのこれ?」
「後始末やらなんやらで忙しい所長に代わって謝罪に来ました。」
「家の修理代を貰えたら良いと伝えたんだだけど、直接謝りたいって聞かなくて。」
亜美がそう言い、藍がへー、と生返事を返すと龍香が尋ねてくる。
「あ、あのー。この方は藍ちゃんとどう言った関係なの?」
「え、あー。さっき言ったんだけど私の妹よ。」
「はい。藍お姉さんが七歳。私が四歳となっています。」
白雪の言葉に龍香が絶句する。何せ目の前にいる藍に似ていこそするものの、15,16歳の高校生に見える少女が実は四歳と言っているのだからさもありなんだ。
「えっ、じゃあお姉さんは…」
「普通に二十七歳よ。」
亜美が笑いながらそう答える。驚く龍香に藍が龍香を指差して紹介する。
「こっちが紫水龍香よ。私の友達。」
「わかりました。これからよろしくお願いします龍香お姉さん。」
「お姉さん……」
言われたことのないお姉さん、という単語が心の琴線に触れたのか龍香はパァッと笑顔になって。
「お姉さん……そっかぁ…えへへ。」
「何笑ってんのよ。」
「藍ちゃんも今度から私のこと龍香お姉ちゃん、って言っていいよ?」
「誰が言うか!!」
笑う龍香に藍が食ってかかる。
(……成長したなぁ。それに、良い友達が出来たのね。なんか、安心しちゃった。)
ぎゃいぎゃいと藍が龍香と白雪に向かって二人に騒ぐ。しかし亜美の目にはその姿がとても楽しそうに見えたのだった。
End
関連作品
(続編や派生作品が有れば、なければ項目ごと削除でもおk)