【初出】
I巻
【解説】
“
紅世の王”。
真名は“天壌の劫火”(てんじょうのごうか)。
炎の色は紅蓮。
シャナと契約し、彼女に
フレイムヘイズとしての力を与えている強大な“
紅世の王”。意思を表出する
神器は、銀の鎖で繋いだ黒い球を、交差する金のリングで結んだ意匠のペンダント型をした“
コキュートス”。先代『炎髪灼眼の討ち手』
マティルダ・サントメールと契約していた時は、指輪型だった。
シャナにとっては、師にして友、父にして兄と言うべき存在である。
その実体は、特定の権能を司り“
紅世”における世界の法則を体現する超常的存在『
神』の一柱。“紅世”真正の魔神である。「神をも殺す神」とも呼ばれ、『創造神』“
祭礼の蛇”を唯一討滅できる存在といわれる。神としての持てる権能は『審判』と『断罪』という『天罰神』。その本質と権能ゆえに、“徒”の中でも秩序と世界のバランスを守る事に対して極めて強い使命感を持つ。“祭礼の蛇”は「裁きたがり」と評していた。
他の二柱の神は
神威召喚に際して
眷属を生贄にするが、アラストールには作中に登場した神の中で唯一眷属がいないため、彼を呼ぶには天罰を下させる“徒”以外に生贄にする“徒”の準備もいる。アラストールの神威召喚は“徒”を生贄に捧げることで権能を発揮させるもので、この儀式を“
天破壌砕”という。この世ではフレイムヘイズの身の内に収まっている都合上か、契約者『炎髪灼眼の討ち手』のみが使用可能である。
[
とむらいの鐘]の
ウルリクムミには『天罰下す破壊神』とも称されていた。魔神の威名は「神をも殺す神」ゆえのものであった。
通常の彼は他の“王”となんら変わらないが、神として機能しているときは、他の“徒”を圧倒する力を振るう。しかし神威召喚無しの状態でも、近代で五指に入る強大な“王”である
フリアグネを一撃で討滅するほどの力をもつ。“祭礼の蛇”の発言からフレイムヘイズの死亡直後の一時的な顕現でも他の神をも討滅する力をもつと思われる。
シャナ以前にもフレイムヘイズとして人間と契約しており、数百年前の『
大戦』で心を結び合わせた一人の女性マティルダ・サントメールを上記の秘法の使用で失っていた。
顕現した姿は、強大な四肢と強靱な肉体と見る物を畏怖させる角、夜空のごとく
黒き皮膜の翼と本当の灼眼を持つ巨人の姿をとった、漆黒を奥に秘めた灼熱の紅蓮の焔。その威圧感は
顕現前は散々彼を馬鹿にしていた強大な“王”であるフリアグネが恐怖で言葉を失うほどであった。
持ちたる力は『天罰神』の権能そのものである討ち滅ぼすための力と、炎。彼のフレイムヘイズである『炎髪灼眼の討ち手』も同じ力を持つが、この力に固有名はないため、各々が自分で名付けている。
遠雷の轟くような声で話す。重厚というに相応しい厳しく威厳に溢れた性格だが、割と世話好きな面を持ち、女性に対して押しが弱い、都合の悪い話には「むむむ」と唸ることしか出来ない、自分の世評が数百年の『
天道宮』での引き篭もりの間に大幅に凋落していたことを知って落ち込むなど脆い面も多く、さらに話がシャナの恋愛や『女の子』としての面に及ぶと、途端に保護者意識むき出しの親バカになる。
シャナをフレイムヘイズとしてのみ育てすぎたため、女性としての常識を教えそこねており、その点を
ゾフィー・サバリッシュと
タケミカヅチに非難されていた。
坂井悠二に対しては、シャナの保護者としての面や本来の性格から全く甘やかさずに厳しく接していた。しかし実のところは数々の戦いを経て、シャナが悠二を信頼しているのと同じくらい悠二を信頼していた。が、悠二本人にはそのようなことは一切表に出さずに、やはり厳しく接していた。
坂井千草には自分が及ばぬ女心や恋愛面、保護者としての経験と認識の深さから、敬意を持って接していた。
世界のバランスを乱す“徒”たちからは、本来同胞のために振るわれる『天罰神』の力を(彼らからしてみれば)身勝手な理屈で同胞を討ち滅ぼすために使う様から『天罰狂い』と嫌悪されている一方、世界のバランスを憂え、世界のために同胞を討つ事も止む無しと考える“徒”たちや中立の“徒”たちは彼を戦友や友人としている者も多くいる。
しかし、マティルダの戦死以降、次代の育成のため数百年に渡り『天道宮』に篭っていたため、現代では外界宿はおろか討ち手にすら彼を良く知らないものが多く、『天罰下す破壊神』の威名が完全に零落してしまっていた(当人的には予想外の事態だったらしく、大ショックを受けてしばらく沈んでいた)。
一月初頭、“祭礼の蛇”と合一した坂井悠二によって、シャナと共に『
星黎殿』に連れ去られ、彼に一度だけ与えられた情報収集のチャンスを活かして、“コキュートス”を“祭礼の蛇”坂井悠二の胸に移して[
仮装舞踏会]の目的を探っていた。その結果、“祭礼の蛇”の狙いにある程度気づいたようだ。
“祭礼の蛇”坂井悠二の推測によれば、現在の契約者シャナを殺害すれば、アラストールは即座に“紅世”に戻り、どんな程度の低い相手であろうと再契約して、最悪の機に現われて『天破壌砕』を使わせて『創造神』たる自分の討滅を図り、それが失敗すれば更に何度でも成功するまで同じことを繰り返すだろうと予測していた(アラストール自身、そうすると考えている)。
そのため、シャナはアラストールの動きを封じるためもあって、『星黎殿』で飼い殺し的に幽閉されていた。
『
大命』第二段階実行のため『
久遠の陥穽』に向かった“祭礼の蛇”坂井悠二らを監視・情報収集するために、共に
両界の狭間へ赴いた。
そして『
詣道』の最奥部である『
祭殿』にて“祭礼の蛇”本体の覚醒・復活を見届けた後にシャナの元へと帰還し、シャナに情報を伝えた。そして、シャナが『詣道』を遡って来る坂井悠二たちに追いついた後の交戦の中でシャナが自身の思いを告白した時には、一人だけ密かにため息を吐いた。そして“祭礼の蛇”坂井悠二が天罰神の力を脅しの道具に使ったことに対して問いかけられた時には、シャナと契約した時の誓いの言葉を口にし、シャナの決意を見届ける覚悟を告げた。そしてヴィルヘルミナたちと合流した後に、最古のフレイムヘイズたちの成れの果てたる色付く影の助けによって、“祭礼の蛇”本体たちより一足早く『
神門』を抜けてこの世に帰還した。
そしてニューヨークから御崎市に向かう特別便の飛行機の中でシャナたちに、今回の戦いは天罰神という高みではなく一人の戦士として今作戦が最良と「信ずる」と表明した。
そして、御崎市決戦の最中にシャナが『
コルデー』に仕込んだ改変の
自在式を『
大命詩篇』の繭に撃ち込んだ後に、シャナと共に天罰神としての裁断を告げた。そして、午前零時になり創造神“祭礼の蛇”の神威召喚“
祭基礼創”が発動すると同時に天山山脈で発動した導きの神“覚の嘯吟”
シャヘルの
神意召還“
嘯飛吟声”によって、『
約束の二人』による『
両界の嗣子』の誕生を告げられた時には、驚きを隠せなかった。そして新世界『
無何有鏡』が創造された後に、シャナと悠二の最後の激突の最中、シャナが悠二への思いを再び告白した時には忍び笑いを漏らした。そして、和解したシャナと悠二と共に新世界へ旅立った。
新世界へ渡り来てから一年後の春、悠二と別行動をとってシャナと共に『
天道宮』を訪れて、ヴィルヘルミナたちと近況について語り合った。そして、日本のとある古びた陸上競技場でシャナと悠二が[
マカベアの兄弟]の“王子”である
ダーインと
カルンを討滅した後、シャナが『
真紅』で天罰神たる自身の擬似神体を顕現した直後に天罰神としての『神託』を告げた。そして作戦終了後に、悠二から変更した作戦に対する感想を聞かれて、シャナと共に率直な感想を告げて、作戦を変更した理由を聞いた後で悠二を励ました。
新世界へ渡り来てから二年後、[
轍]の策謀を阻止したシャナと悠二に対して、伴添高校に編入している間のシャナが「坂井シャナ」と名乗っていたことに文句を言っている。
【由来・元ネタ】
名前の元ネタは、地獄の刑罰執行長官アラストール(Alastor)。語源はギリシア語で「復讐者」を意味する言葉であり、ゼウスがこの名で呼ばれることもあった。
真名の“天壌の劫火”は「全てを焼き尽くす」という意味になる。「天壌」は天と地、つまり世界。「劫火」は仏教における終末の段階である壊劫において世界を滅ぼす大火という意味である。
英語版だと何故か"Flame of Heavens"(天国の炎)と訳される。ヨハネ黙示録にある最後の審判において天と地と海にある全てのもののために火が放たれるようなイメージからの訳だろうかと思われる。真名は「天上の神が世界を滅ぼすために放つ猛火」という意味だと思われる。
最終更新:2024年09月22日 20:13