孔雀明王

登録日:2010/04/28 Wed 22:42:15
更新日:2025/10/27 Mon 17:38:52NEW!
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■孔雀明王

孔雀明王(くじゃくみょうおう)(梵:{Mahāmāyūrī‐vidyā‐rājñī)』とは、大乗仏教(密教)の尊格の一つ。他に仏母孔雀明王、孔雀仏母、孔雀王母菩薩……etc.といった呼び名もある。

尊名の通りに基本的には明王部に属するものの、多面多臂ではあっても他の明王部の尊格とは一線を画す、白い肌で優美な姿をしていることで知られる。
実際に、梵名のマハー・マユリー・ヴィジャ・ラーニーは女性形であり、このことから明ではなく孔雀明と呼ぶのが正しいする意見もある。
実際に上記の梵名を正確に対訳すると大孔雀明妃となるのだが、後述の通りで、元来は明妃(ヴィジャー・ラーニー)の部分は陀羅尼(ダーラニー)であったのだろう、とも分析されている。

真言密教では、陀羅尼の共通からか仏教の開祖である釈尊が衆生の教化の為に姿を変えたという説が出されている。

天台密教では、そもそも明王部ではなく如来より更に上位の仏母に分類しており、ここから孔雀仏母(明王)という呼ばれ方をされることもある。

この他としては、別名の金色孔雀王として千手観音の眷属である二十八部衆の一つに数えられている場合もあるのだが、現在では単体の孔雀明王との区別の為か、金色孔雀王は孔雀明王そのものではなく孔雀明王の乗る孔雀が独尊(人の姿)となったもの……として分けて解釈されているようである。


【概要】

仏教の誕生した(正確にはネパールの国境付近まで含む。)インドの国鳥でもある、孔雀をシンボルとする優美で特徴的な姿をした明王部の尊格。尚、せっかくの女性設定だが孔雀の派手で美しい方は♂である。

とはいえ、最初期の多神教化を始めた頃の原始の大乗仏教には明王部のカテゴリーが存在しなかったことから、後にインドから更に東に伝来していく中で何時しか明王部に組み込まれた重要な働きをする、功徳の高い尊格であったということになる。

その由来については明確でこそないものの、上記の通りでインドで仏教が誕生すると共に広がり始めた頃から名前を挙げられていた尊格であったと想像できる。
実際、この時期に誕生した仏教の女神達の中では最も古くに誕生・成立した可能性が高いとのこと。

そもそも、梵名であるマハーマユリ・ヴィジャラニー(ダーラニー)の名は、パーンチャ・ラクシャー(五守護女神)という、
五体の女神からなるグループの筆頭となる尊格の名であり、このグループが仏教伝来の中で解体されたり別のグループ・カテゴリーに置き換わる中でも、特に尊崇を集めていたマハーマユリのみが信仰を失わずに孔雀明王と名を変えて日本にまで伝来したのだ……と考えられる。

孔雀は古来より非常な優美さを持った鳥類として知られると共に人々の耳目を集めてきたが、優美であると同時に地域的な話ではあるが、当時より現地の人々に恐れられていたコブラを始めとする危険な毒蛇をも食らう獰猛さをも知られていた。
マハーマユリは、その孔雀を神格化した女神であり、ここから仏教で三毒とされる貪・瞋・痴(貪欲・憤怒・無知)を食らい、人々を成道に導く尊格という属性を獲得したようである。

【孔雀明王法・真言】

数多い大乗仏教の尊格の中でも、特に孔雀明王の名を知らしめているのは、この孔雀明王の真言陀羅尼の功徳が最も優れていると評されているからである。

孔雀明王の真言を唱えることで得られるとされる功徳は病気治癒・毒の浄化・災難除去・雨乞い……で、凡そ普段の生活の中で必要とされる分野を抑えているのが解り、その効果も非常に高いとされている。
また、基本的に明王部の尊格の真言陀羅尼が障碍の除去や難敵の打破を目的としているのに対して、孔雀明王の場合には他の明王部の尊格には無い、雨乞いに纏わる恐るべき霊験が伝えられている。
尚、孔雀明王の雨乞いは天候操作の類ではなく、未来予知による賜であるらしい。それって降らなきゃいつまでも降らないということになるんじゃあ……。

余りにも真言陀羅尼の効果が凄まじすぎることから、孔雀明王の真言を真言陀羅尼の王とまで呼ぶことすらあったようで、先述のように孔雀明王が明王部にカテゴリーされているのは、偏に真言陀羅尼の功徳が優れているから=真言の王=明王と、信仰上の設定の擦り合わせを行ったとみられる記述も見られる。
また、効果を見ると個人向けな気もするのだが、五大明王法や大元帥明王法と同じく、国家鎮護の法としても用いられたという。

このように、孔雀明王は霊験の高さから度々に創作世界でも話題とされることが多く、その方面からも更に知名度を獲得することになったようである。

実際、その霊験の高さから、恐るべき霊験を誇る明王部の尊格達の中でも、首位に置かれる不動尊や、国家鎮護の本尊とされる大元帥明王とも並び立てる程の力を持つともされる。

【像容】

基本的には一面四臂で蓮華座に座し、更に孔雀に乗った姿で顕わされる。
しかし、元々は京都の仁和寺が所蔵しており、現在は京都国立博物館に展示されていふ中国の北宋時代に描かれた孔雀明王像は三面で顕わされており、一面四臂に落ち着くまでは別の作例もあったとも予想される。
また、三面の作例では正面以外が醜悪な暴悪相となっている。

前述の通りで、明王の尊名を持つが他の明王部のような忿怒相(怒りの形相)ではない、柔和で優美な表情を浮かべている。
また、他の明王部の尊格が泥に塗れた姿を顕わす青黒い肌をしているのに対して孔雀明王は白い肌のままなので、豪奢な装いもあってか明王部というよりは菩薩部の尊格のようである。(実際に菩薩と呼びかける尊名もある。)
尚、尊名が女性形であることから“明確に女性とされている”と説明されている場合もあるが、実際の作例では明確に女性とされているような作例は見られない。

持ち物も基本的には四つの腕にそれぞれに倶縁果・吉祥果・蓮華・孔雀の尾羽を持つとされ、各々の意味としては明王部の尊格らしく邪悪の降伏や災難の除去を意味するものもあるものの、明確に武器を持たされた他の明王部の尊格とは一線を画すものとなっている。
ただし、これも上記の北宋時代の大陸の作例では四臂に武器を携えているので、これも時代が降ると共に変化していった部分なのだろう。

【真言・陀羅尼】


  • オン・マユラ・キランディ・ソワカ(小咒)

  • ナモ・マカボダラ・マニ・ハンド・マリ・ハラバリタヤ・ウンタラタ・カンマン・オン・アミリティ・ウン・パッタ・ナモ・サラバ・タタギャタナン・オン・マリシリ・ソワカ・オン・マユラ・キランディ・ソワカ(大咒)

【種字】



【創作世界での登場作品】

前述の通りで創作世界にて言及されることが多い。

荻野真によるオカルト伝記漫画。
タイトル通り、主人公の守護神というか前世というかが孔雀明王を元にした孔雀王とされており、同作内では“孔雀”の名前の共通項からヤジディ教の孔雀大天使(マラク・ターウース)の伝説も加えた独自の解釈をされたものとなっており、孔雀王=悪魔王ルシフェルという設定となっている。

  • 孔雀王(小説)
こちらは山田正紀によるSF小説。
現在の知名度こそ、後発となる上記の荻野真の『孔雀王』に劣ってしまっているが、日本での異世界転生物の開祖とも分析される斬新な設定と物語が特徴。SFなので、そこまで仏教の孔雀明王に沿っている訳ではないものの、日本でもいち早く孔雀大天使の存在と孔雀明王との名前の共通性に着目したのも評価されるべき部分。

  • 『女神転生』シリーズ
お馴染みメガテンでは魔神マハーマユリとして登場。初出は『デビルサマナー ソウルハッカーズ』から。
孔雀に乗る……ではなく、孔雀の翼と尾羽を持つ美しい男神の姿で描かれている。




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最終更新:2025年10月27日 17:38