機械化歩兵

登録日:2012/05/19(土) 18:06:15
更新日:2023/07/08 Sat 10:15:58
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機械化歩兵とは、全身、もしくは体の一部を擬体化した歩兵のこと。サイボーグとも。
元々、パワードスーツやパワーローダーを装備した歩兵の事をこう呼ぶ事はあったが、擬体化技術が進むにつれて言葉の意味が変わり、かつ一般にも広まった模様。

人間には考えられない筋力を持っていたり、銃弾を弾き返すような強固なフレームを皮膚下に施したりすることが可能である。
脳にLANケーブルを繋ぐこと可能にする、と言った所謂「電脳化」されたケースも存在する。




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上記は主にフィクションにおける機械化歩兵。

この項目では現代の軍事における機械化歩兵を解説する。


■つまるところ機械化歩兵とは?


機械化歩兵(Mechanized Infantry)とは装甲兵員輸送車(APC)や歩兵戦闘車(IFV)に搭乗した歩兵を指す。
別に擬体とかは無い。普通に生身である。装備も極一般の歩兵。
というかそもそもmechanizedには「乗り物を利用する」という意味があるので、実際はこっちの意味で使われていると思われる。
本邦では翻訳の慣例上、旧東側陣営やロシアの場合は自動車化狙撃兵、ドイツの場合は装甲擲弾兵と表記されることが多い。
また帝国陸軍では、装甲兵員輸送車を装甲兵車、戦車師団隷下の機械化歩兵を機動歩兵と称していた。
なお捜索部隊や一部の戦車部隊に存在した乗車中隊は、他国の自動車化歩兵に相当するものである。

自動車化歩兵との違いは、装甲車を戦場タクシー(戦略機動・戦場機動)として用いるだけでなく戦闘機動にも投入する事である。
乗車突撃と呼ばれる機動打撃戦術で、戦車を先頭に立てた陣形を組んで搭乗したまま突破を図ることで、迅速な進撃速度を可能にする。
しかし敵からの反撃が集中する上に陣地制圧力が減じることから損害も増大する傾向にあり、1980年代以降は強く戒められるようになった。
現代では、予め車両に残って火力支援を行うグループと降車して展開するグループに分かれて連携する下車突撃を採用する機会が多い。
ただし全く実施しない訳ではなく、進撃速度が何よりも優先される場合や敵側の抵抗力が低い場合は今でも試みられている。

また、第二次世界大戦中は自動車化歩兵も広義の意味で「機械化」と言うことが多かった。
現に、旧日本軍における「機械化」は殆ど「自動車化」の意味で使われていた。
(もっとも、馬匹を含まない純粋な自動車化師団は米軍以外編制出来なかったが)
電撃戦で有名なドイツの装甲師団ですら、配属された四個ある装甲擲弾兵大隊(1943年に自動車化歩兵大隊から改称)の内、
装甲車を装備していたのは一個のみで、残り三個はソフトスキン(無装甲の軍用車両)を充当していた。

だだ、自動車による歩兵の移動が常識となった今では、機械化と言えば装甲車を有していることが殆どである。


■機械化歩兵の誕生


機械化歩兵の誕生は第二次世界大戦まで遡る。

ナチス・ドイツが生み出した新たな戦術、「電撃戦」。
これは戦車を集中的に運用し、その快速性を生かして敵戦線を突破する、というものだった。

しかし、戦争は戦車だけでは勝つことはできない。
敵を制圧するには歩兵が必要不可欠であった。

グデーリアン将軍「電撃戦はスピードが大事なんだよ。歩兵の連中、俺の戦車に付いて来い」

そこで、歩兵をトラックに乗せた自動車化歩兵を戦車に随伴させることになったのだが…

歩兵「戦車は履帯だからどんなとこでも走れるけど…こっちはタイヤなんだよね。もうちょっとこっちの事情も考えてよ。
___しかも装甲のついてないトラックじゃ銃撃で歩兵が蜂の巣にされちゃう」

偉い人「じゃあ履帯を装備して、装甲の付いたトラックを開発しよう」


そうして、それらの装甲兵員輸送車に搭乗する歩兵を機械化歩兵と呼ぶことになったのである。
オープントップ式なので曲射弾道を描く投射火器に弱く、地雷への抗堪性も低いという弱点は残されたままだったが。
第二次世界大戦以前は履帯とタイヤの両方を備えたハーフトラック(半装軌式)タイプが主流だったが、
冷戦時代に入ると履帯のみでオフロード走行により適した装軌車タイプに取って代わられた。
だが費用が嵩んだため、機甲師団や戦車師団以外ではタイヤだけで運用の手間も掛からない装輪車タイプも併用されるようになった。
ちなみに冷戦時代は毒ガス・細菌兵器に加えて戦術核兵器の投入も検討されていたため、NBC環境下の作戦行動に対応した構造も導入された。


■機械化歩兵の発展


第二次世界大戦でドイツが電撃戦の強さを見せつけると、各国はそれを真似て戦車と機械化歩兵の開発を進めた。

戦後もその流れは続き、装甲兵員輸送車の強化、歩兵戦闘車や騎兵戦闘車が開発された。
現在では、装甲車の火力も高まり、それらと歩兵が連携して戦闘を行うことも多くなっている。

冷戦終結後は、ゲリラコマンドへの対処から個人携行火器や即席爆発装置(IED)及び地雷に対する防御力強化の趨勢が高まっている。
中には戦車並みの重量やお値段がする代物まで登場した(総重量60トンに達するイスラエルのナメルや約12億円もするドイツのプーマが該当)。

耐爆性を第一に設計された歩兵機動車(IMV)というカテゴリーも生まれている(※陸上自衛隊では防護機動車と呼ぶ)。
ただし歩兵機動車は機械化歩兵ではなく自動車化歩兵の延長戦上にある部隊用の装備器材で、対機甲戦闘・機動打撃運用は想定されていない。

2000年代以降は、市街戦や無人航空機(ドローン)(UAV)対策として遠隔操作型火器架台(リモートウェポンステーション)(RWS)を備える装甲戦闘車両も増えつつある。
数トンから数十トンの爆薬に加えて10mm前後の防弾装甲と自衛用の重機関銃まで搭載した自動車爆弾(Car Bomb)(Vehicle Borne IED)が登場すると、
機関銃や自動擲弾銃(グレネードランチャー)では迅速な突入阻止が困難となったため、機関砲やロケット弾ないしミサイルランチャーを採用するなど重武装化が進んでいる。

また高性能化に伴う価格の高騰で歩兵戦闘車や装甲兵員輸送車も徐々にHVU(高価値目標)に近付きつつあるせいか、
APS(Active Protection System)も搭載してトップアタック(車両の上部を狙った攻撃)可能な対戦車兵器に対する被害局限を図る機運が醸成されてきている。
従来は重量問題*1や戦車以外の装甲戦闘車両では付随被害が生じる点*2から搭載は推奨されなかったが、軽量化や飛翔体の破壊精度改善で解決されているという。
もっともAPSへの対抗策が既に編み出されているため、今後は主力戦車と同様に爆発反応装甲や複合装甲を上面部にも付加する必要性が迫られるかも知れない。


■余談


赤軍兵士「同志!我々は歩兵輸送用の装甲車が足りません!どうやって戦車に追従させましょう?」

ヨシフおじさん「戦車に直接乗っけてけば良いんじゃね?」


こうして戦車の上に乗っかって進軍する歩兵、タンクデザント(戦車跨乗兵)が生まれた。

日本ではよく「訓練一月、寿命半月」と言う風にただの使い捨てのように言われているが、
実際にはソ連戦車は運用法の問題*3で対戦車兵器を抱えた歩兵に弱かったため、
それの対策として「戦車外にいるので広い視界を持ち」「敵の歩兵を見つけたら即応できる」歩兵を戦車に跨乗させたというのが実態らしい。
他国も戦況次第で行っており、歩戦協同戦術(歩兵を普通科と呼ぶ陸自では普戦協同)の一環であった。
当時としては結構合理性があったのである。
ちなみにソ連はM3中戦車短機関銃手を収容する案も立てていて、本来の戦車兵に加えて一個分隊相当の10人が載せられるとレポートに残している。

突撃砲旅団に配属された随伴擲弾兵中隊(=非自動車化歩兵中隊)も同様の措置を取っていたが、
構想段階では装甲擲弾兵中隊として編制するつもりで検討していたものの、慢性的なハーフトラック不足で器材を確保出来なかった故の苦肉の策である。
ドイツ側も独ソ戦の初期にタンクデサントを試みた結果、潰走状態の敵へ追撃を掛ける場合に有効ではあるが、
航空機や対戦車砲の増援を受けた敵と遭遇した際は損害が増大するという戦訓を得ていて、不本意な顛末だったのだ。
しかし戦況の悪化とともに支援すべき対象だった擲弾兵との円滑な連携は困難を増しつつあり、専属の歩兵部隊を持つのは決して無意味でなかった。




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最終更新:2023年07月08日 10:15

*1 例外もあるが、戦車よりも拡張性や冗長性の余裕に乏しい場合が多い。

*2 迎撃に成功しても発生した破片や残骸の突入までは防げないため、上面部を貫通して搭乗員に被害が及ぶ可能性も指摘されていた。

*3 ソ連戦車兵は基本的に戦車から身を乗り出しての索敵をしない。そのため狙撃兵等に強いが索敵に難があった。逆の例がドイツ戦車兵で、索敵中の狙撃に弱かった