登録日:2010/11/18(木) 21:56:24
更新日:2025/07/07 Mon 20:36:09
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概要
短機関銃(サブマシンガン、機関短銃)とは、拳銃弾の連射に特化した小型の
機関銃の総称である。
歴史
誕生と第一次世界大戦
拳銃弾の連射ができるナガモノとしては19世紀後半のイタリア ビラール・ペロサM1915があるが、対空機関銃等を意識したもので現代のものとは思想も毛並みも異なるものであった。
改めて現在と同じコンセプトで作られたのは第一次世界大戦でドイツ軍が使ったMP18である。
機関銃によって塹壕戦を強いられた第一次大戦。塹壕は入り組みすぎて歩兵が直接乗り込むしかなかったのだが、狭い塹壕中では長く連発がやっとなライフルは使用できない。しかたなく
拳銃や
スコップ、銃剣にそれを装着した
トレンチガンで戦っていた。
そこでライフルより短く取り回しが利き、拳銃よりも装弾数が多く連射ができるような銃が必要。その要求にこたえ、ベルグマン社のヒューゴ・シュマイザー氏がMP18を開発。
MP18は期待通りの威力を発揮した。
当時はドイツ軍による浸透戦術の失敗から多少懐疑的にとらえられていたものの、「局地兵器としてならかなりつかえるのでは?」との意見から各国で研究されることになる。
第二次世界大戦
第二次世界大戦が始まると各国が研究していた短機関銃を投入する。大規模に投入されたものだと以下が有名だろう。
- MP40(ドイツ)
- ステンガン(イギリス)
- M1928/M1トンプソン(アメリカ)
- M3グリースガン(アメリカ)
- PPSh41/PPSh43(ロシア)
しかし、ベトナム戦争前後で小口径高速弾を用いた
突撃銃が登場。短機関銃では狙えない300mを戦え、近距離も十分行けてしまうとなると前線でのメリットは薄い。
こうして、軍では後方向けの補助兵装として緩やかに役目を終えていった。
犯罪者の武装強化と短機関銃の限界
しかし、軍の手を離れたりまだ規制が緩かったりして闇に流れた短機関銃があった。
戦間期、禁酒法時代のアル・カポネに代表されるマフィアや第二次大戦後から問題になりつつあったテロリストがそれを手に取り、抗争や犯罪に使用するようになる。
- 低い練度でも容易に扱えるほど構造が単純
- 銃/弾ともに安価で手に入った
- 短い為隠しもつことが可能
これらの特徴が目的と合致してしまったのだ。
警察も拳銃では太刀打ちできない為同じく短機関銃を採用。
しかし警察側だと短機関銃の特徴が欠点となる。
- 連射に特化しているため精密には狙えない
- 上記により対象に命中しなかった弾による二次被害の可能性がある
ここで自動銃の作動方式を説明する。
主な作動方式は2種類に分けられる。オープンボルト方式(以下OB)とクローズドボルト方式(以下CB)だ。
- 前者は機関銃で採用されやすい。ボルトが開いた状態で待機し、撃つ直前にチャンバー装填と閉鎖が行われる。連射性に優れるが撃つ直前にボルトが激しく前進する為狙いがブレる。また、構造が単純なので安い。
- 後者は機関銃以外の自動銃そのものである。ボルトが閉じた状態で待機し、撃つ際には機関部しか動かない。比較的複雑とならざるを得ず値段が高いが、狙いのブレが発生せず高い集弾率を維持できる。
MP18から当時の最新であるUZIまでほぼ全てOBであったため、軽機関銃での精密射撃は不可能であった。
突撃銃も当時は
7.62mmNATO弾が主流。これまた壁を貫通しての二次被害の懸念から使用できなかった。
そうして警察は欠点を我慢してOB式短機関銃や拳銃に甘んじるしかなかった。
そんな中で登場したのが、
MP5。ドイツのH&K社がG3突撃銃をダウンサイジングする形で開発された、CB式の短機関銃である。
MP5とルフトハンザ航空181便ハイジャック事件 新たな用途の幕開け
発表当初は風当たりは激しかった。「突撃銃と同じかそれ以上のコストを掛けてまで拳銃弾を撃つのはワリに合うのか?」と、無駄な高性能と思われ忌避されていたのだ。
その結果、G3と並行して行われていたドイツ警察のトライアルではUZIがMP2として採用されてしまう。
しかしとんで1977年、この銃が世界的な脚光を浴びる出来事が発生する。
ドイツ赤軍と組んでいたパレスチナ解放人民戦線がハイジャックを起こした。ルフトハンザ航空181便ハイジャック事件である。
南イエメンにて機長が射殺され、乗員を人質にモガディシュ国際空港にて要求の期限を伝える。
西ドイツ政府は交渉を続け、なんとか数時間の延長に成功。その間、裏で特殊部隊
GSG-9(と協力のSAS)を手配していた。
延長された要求期限まであと5分。そのとき、GSG-9の突入部隊がMP5を構え前進。
即時に犯人3名を射殺・残り1名を逮捕。人質には死者を出さず制圧に成功した。
MP5はコストが高く定期的な整備が必要とは言え、軍隊・警察の特殊部隊では突撃銃の運用も前提としていたためあまり問題ではなかった。
さらにフラッシュライトやサプレッサーなどオプションパーツも豊富に用意していたため、どんな条件でも対応することができた。
これをきっかけにMP5はアメリカのSWATや
イギリスの
SAS、日本の
SATなど世界中の軍隊・警察を問わない対テロ特殊部隊に配備されることになる。
短機関銃の在り方すら 犯罪者の扱う乱射向けの銃 から 室内制圧用の強力な武器 へと改められた。
盛者必衰
2000年ころまでMP5は先進国の一般的な銃器対策課はおろか途上国にまで広く採用される短機関銃の顔であった。
人気はすさまじく、シュタイヤーTMP(1994年)やSIGSAUER MPX(2003年)といった他メーカーの同等以上の短機関銃も、当の本人であるH&KのH&K UMPもMP5を置き換えるには至らなかった。
それでも多種多様な短機関銃が作り出される当たり、需要自体は相応に高かったのであった。
ところが時代が経つにつれ、
ボディアーマーが性能向上及び低価格化してきた。
一般販売されてるクラス2のケブラーベストですら拳銃弾では対応しきれない…
ということで、その後の展開は
PDWに続く。
現状
2025年現在でも、警察が銃器犯罪の制圧時に短機関銃を用いている様子を見ることができるが、英国警察などPDWを採用している場合も増えてきている。
民間ではおおむね全自動の銃器が禁止されているため、低反動の
カービン銃(PCC)として親しまれている。
PDWの弾がいまだ高嶺の花である現状、民間での自衛目的で需要はあるものと思われる。
主な銃
戦中まで
- MP18~MP40
- ステンガン
- M1928/M1トンプソン
- スオミ KP/-31
- PPSh41/PPSh43
- M3グリースガン
戦後
- IMI UZI
- イングラム MAC10/MAC11
- Vz.61 スコーピオン
- H&K MP5
- シュタイヤー TMP/B&T MP9
- ミネベア 9mm機関拳銃
- H&K UMP
- SIGSAUER MPX
- ベレッタ Cx4
- PP19ビゾン/ビチャズ
- Cz スコーピオンEVO3
追記・修正お願いします
最終更新:2025年07月07日 20:36