希望の化身/Avatar of Hope(MtG)

登録日:2011/07/25 Mon 12:05:38
更新日:2025/01/03 Fri 12:40:03
所要時間:約 4 分で読めます




《希望の化身/Avatar of Hope》はTCG「Magic the Gathering」(以下マジック)のプロフェシーに収録された白のクリーチャー。レアリティはレア。



マジックでもホームランドに並ぶ「弱い」エキスパンションと呼称されるプロフェシー

そんな中でも一際輝くカードは存在していた。


神の怒り/Wrath of God》を内蔵した《獅子将マギータ》、《精神錯乱/Mind Twist》をインスタントタイミングでプレイできる《心を削るものグリール》等の伝説のスペルシェイパーたち。

それに並んで注目されたのが化身……アバターである。

プロフェシーには「〜の化身」と呼ばれる大型クリーチャーが各色に存在している。

このクリーチャーは強大な能力を持つ代わりに全て(6)(色)(色)と非常に重い。

ここに化身シリーズの特徴があり、なんと特定の条件を満たすとマナコストが(6)軽減される。

条件さえ満たせば、強力なクリーチャーが2マナで召喚できてしまうのだ。当然、その情報に当時のプレイヤーたちは釘付けになった。

これから紹介するのは、白の化身……なのだが、こいつを見てくれ。


《希望の化身/Avatar of Hope》
(6)(白)(白)
クリーチャー:アバター(Avatar)
あなたのライフが3点以下である場合、希望の化身はそれを唱えるためのコストが(6)少なくなる。
飛行
希望の化身は好きな数のクリーチャーをブロックできる。
4/9


こいつをどう思う?

……すごく、微妙です。


一応ケツ(タフネス)がでかいので阿部さん的には魅力かもしれない


白の化身はライフが減ることでマナコストが軽減されるが、ライフが3点以下の状況でコイツを召喚する意味が果たしてあるのだろうか。
ライフが3点以下しかない危機的状況をクリアできる能力が希望の化身にあるかと言われたら、かなり疑問。

飛行こそあるものの、攻撃に参加してもタップしない警戒やダメージを与えたら回復できる絆魂もない。かといって、一撃で相手を仕留めるパワーもない。となると、ライフ残留を考えると、まず殴りにいくことはできない。
瞬速もないので下手すりゃ条件を満たしても、自分ターンで出す前にそのまま殺される可能性もある。

メリットらしいメリットは何体もクリーチャーをブロックできる能力だが、
同じエキスパンションに収録されているアンコモンの「バイパーの壁/Wall of Vipers」のように、ブロックしたクリーチャーを破壊できる訳でもない。せいぜい戦場を硬直させるのが限度である。
無論、火力やライフロスは素通りする。
っていうか壁としても畏怖やシャドー、ブロック不可は素通ししてしまう。

ぶっちゃけた話、ただの壁である。

ライフ残り3点という状況で出せるカードが、守勢にしか使えないこいつなのだ。何が希望だ!お前なんか悲哀だわバーカ!


さて、非常に微妙な希望?の化身だが、他の化身は果たしてどうなのか。比較のために簡単に紹介する。



Avatar of Will / 意志の化身 (6)(青)(青)
クリーチャー — アバター(Avatar)
対戦相手1人の手札にカードが1枚も無い場合、この呪文はそれを唱えるためのコストが(6)少なくなる。
飛行
5/6
かつての青系デッキのフィニッシャーとして君臨していた《マハモティ・ジン》(6マナ固定)と同格。
対戦相手の手札が1枚もない状況というのは結構起こりやすいのだが、そのせいか性能自体は控えめ。
しかし同セットに《心を削るものグリ―ル》というかの最強ハンデスの一角である精神錯乱と同等の能力を持ったスペルシェイパーが収録されていたため、ローグデッキ止まりではあったがこの2体を軸としたデッキがトーナメント環境でもそれなりに見かけられた。


Avatar of Fury / 憤怒の化身 (6)(赤)(赤)
クリーチャー — アバター(Avatar)
対戦相手1人が7つ以上の土地をコントロールしている場合、この呪文はそれを唱えるためのコストが(6)少なくなる。
飛行
(赤):ターン終了時まで、憤怒の化身は+1/+0の修整を受ける。
6/6
飛行と火吹き能力を持つ攻撃的な化身。《シヴ山のドラゴン》がさらにサイズアップした姿。
軽減条件は「対戦相手が7つ以上の土地を出している」。
コントロールデッキ同士の対戦の場合使えるマナの総量も重要な要素であり、マナソースが少ないという事は互いのアクションに対しての対応力を下げる事になるため手札が空になるのでもなければ土地は7枚以上展開される。
その隙を狙ってたった2マナで6/6飛行・火吹き持ちが飛び出してくるということで、爆発力なら随一の化身である。
ただし他の化身と違い、能動的に条件を満たさせることができない。つまり対戦相手のプレイングに非常に依存してしまうのが最大の弱点。基本的には対コントロールデッキにおいて力を発揮するカードである。
ウルザ・マスクスのスタンダード環境においては変異種、[[マスティコア
マスティコア/Masticore(MtG)]]といった当時歴代最強クラスと言われたクリーチャー、ドローソースとして優秀かつコントロール同士の対決においてはライブラリーーアウトでの勝ち手段となる天才のひらめきなど「何マナあれば足りる」と線引きの出来る環境ではなかった点も憤怒の化身にとっては追い風でもあった。


Avatar of Woe / 悲哀の化身 (6)(黒)(黒)
クリーチャー — アバター(Avatar)
すべての墓地にあるクリーチャー・カードの合計が10枚以上である場合、この呪文はそれを唱えるためのコストが(6)少なくなる。
畏怖(このクリーチャーは、黒でもアーティファクトでもないクリーチャーによってはブロックされない。)
(T):クリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。それは再生できない。
6/5
おそらく「最強の化身」「プロフェシーのトップレア(まじめな意味で)」というお題を出された時、多くのプレイヤーはこれを思い浮かべるだろう。
タップのみで単体除去が打てること、色が黒いので相手の《恐怖》系の除去に耐性を持つこと、畏怖によってブロックされにくいダメージ源になることなど、これでもかというほど強力なテキストが並んでいる。
他の化身に比べると条件が比較的緩いことも魅力的なのだが、大体そちらは重要視されずに墓地から直接リアニメイトされる
しかしこのコスト軽減能力もついていた方が断然いいわけで、長期戦などになると「ボチニイキモノ10タイ…」ということを確認した上で2マナで登場して対戦相手が悶絶なんてことも十分にありうるというナイスデザイン。
このカードを運用している際に困るシチュエーションを考えると、別の能力がそれを補ってくれる。様々な部分が噛み合っており、カジュアルからトーナメントまで多くのプレイヤーに愛された。
特にカジュアルプレイヤーに人気があったことを受けてか、時のらせんタイムシフトや構築済みデッキ、アモンケットの特殊枠カードなど様々な部分で再録されている。現在では比較的安く手に入る。
「すべての墓地にある」という多人数戦にも対応しているテキストなのも嬉しいところ。カジュアルな統率者戦のデッキで入れるものに迷った時にとりあえず入れておけば、昭和の香りがするMTGを楽しめることだろう。
ちなみに畏怖のおかげで《希望の化身》にもブロックされない。単体除去で破壊してやってもいいし、無視して畏怖で殴ってもいい。
こいつの方がよほど希望の化身である。

とはいえ最近のクリーチャーのインフレにはまったくついていけておらず、さすがに「一時代を築いたクリーチャー」という評価に落ち着く。


Avatar of Might / 力の化身 (6)(緑)(緑)
クリーチャー — アバター(Avatar)
対戦相手1人があなたより4体以上多くのクリーチャーをコントロールしている場合、この呪文はそれを唱えるためのコストが(6)少なくなる。
トランプル(攻撃しているこのクリーチャーは余剰の戦闘ダメージをプレイヤーかプレインズウォーカーに与えることができる。)
8/8
4体以上多くのクリーチャーをコントロールしている場合、という厳しい条件が付いている。相手が4体以上の~ではなく、こちらにクリーチャーが3体並んでいたら相手は7体以上コントロールしている必要がある。
当時のスタンダードだと対戦相手にものすごく依存するクリーチャーで、かなり使いづらい化身だった。なにせノンクリーチャーデッキが平然と存在していた時代なのだ。
しかしながらウルザブロック期には2マナでプレイする大きな助けになる上にトークンで容易に相打ちを取ってくる
《錯乱した隠遁者》
が緑ではメジャーなクリーチャーとして存在しており、2マナでプレイする機会には恵まれていたかもしれない。え?ガイアの揺籃の地、ラノワールの使者ロフェロス、ティタニアの僧侶もあるから相手の場にクリーチャーが4体並ぶより8マナ揃う方が早い?うーん…そうだね。
インベイジョン期になるとクリーチャーを展開するデッキが《ブラストダーム》《はじける子嚢》を核としたファイアーズ(Fires)に取って代わられ、相手の場にクリーチャーが4体存在する=死という環境になったため構築の舞台から既に舞台袖に頭から足の先まで突っ込んでいる有様ではあったが
静かに去っていった。

ただしその後《禁忌の果樹園》《狩り立てられたトロール》など、対戦相手に否応なしにトークンを展開させるカードが増えたことでこのカードを2マナで出すことが簡単になった。
2マナで登場した8/8トランプルというサイズが相手を踏み殺していくので、現在は化身サイクルの中だともっとも使い勝手のいいカード。なにしろ対戦相手がこんなカードを警戒してプレイするなんて絶対にありえないので、このカードは上述のギミックと組み合わせると条件をかなり達成しやすい。
ただし似たようなことが《死の影》系のデッキでもっと素早く無駄なくスタイリッシュにできるため、カジュアルの域を出ない。


……まあ、以上と比べてもやっぱり希望の化身は微妙すぎました。

あまりの微妙っぷりにトーナメントで使われないのは勿論、当時プロフェシーのブースターパックを購入した際、レアが入っている箇所に白枠が見えたら、

「まさか《希望の化身》?!ヒィィィ!」

購入者を恐怖に陥れ、引き当てたものを絶望させた。といってもプロフェシーって絶望しないカードの方が珍しいんだけどね。

《希望の化身》は後に基本セットに再録されたが、イラストがかなり微妙な生物に変更されており、いろんな意味で衝撃を与えた。



さて、このまま単なるカスレアとして人々の記憶に植え付けられ、そして忘れられていくはずだったこのカードだが、時を経て2013年の8月大事件が起こる。
《死の影》を主軸にした戦術に、このカードを2~3枚投入した地雷デッキがモダンデイリーで4-0して公式ページにリスト掲載されたのである。しかも3回。
《死の影》と《希望の化身》はともにクリーチャータイプがアバターなので《魂の洞窟》を共有できる。そして2マナで出てくるタフネス9の《希望の化身》が、相手のクリーチャーの攻撃をがっちりブロックしてくれるのである。
忘れがちだが《希望の化身》は飛行も持つため、当時のモダンの主流クリーチャーでブロックできないカードがまずいない。
ほとんどいない、ではなく「まずいない」なのがミソで、このカードの弱点である畏怖のようなブロック不可持ちに悩まされなかった。メタを読み切った地雷たるゆえんである。
そして当時の《死の影》は、ライフが負の値の時はその分サイズアップするというルールだった。つまりライフが-7点だと20/20というサイズ大きさになり、攻撃が通れば相手を一撃で倒してしまえる。現在より爆発力があったのだ。

今となってはモダンのアーキタイプの象徴といえるパワーカードの《死の影》だが、当時はまだその前身となる【Super Crazy Zoo】が登場する前。
モダンにおけるスーサイド戦法自体がファンデッキと扱われていたような時代に何の前触れもなく突然現れた地雷デッキは、当時のプレイヤーの話題をかっさらった。
「《希望の化身》?そんなカードあったっけ…えっあのプロフェシーの白化身か!?そもそも化身ってモダンで使えたのか!?」とプレイヤーを震撼させ*1
当時は発展途上でありながら、すでに煮詰まったような空気を漂わせていたモダンに眠る可能性と面白さ、つまり希望を多くのプレイヤーに示唆するというとても重要な役割を果たしたのだった。

そもそもこの《死の影》デッキは、スタンダード時代はもちろん当時のモダンでもそこまで活躍していなかったカードである《死の影》《暗黒への突入》《消耗の儀式》といったカードも投入されていた、まさに華々しい地雷デッキである。
その中でもカスレアと名高かった《希望の化身》は、このリストの中で禍々しい異彩を放っていた。
実際この「《希望の化身》ショック」の後、モダンの魅力を紹介する際にたびたびこの「スタンダードでは日の目を見なかったカードを山積みにした《死の影》デッキ」が、こんな地雷デッキも戦える楽しい環境なのだと紹介されたものである。

今となっては昔の話。「活躍したことなんて一度もない」なんて言われることも増えたが、当時の現役プレイヤーは大きなショックを受けた。
とはいえ《ティムールの激闘》《頑固な否認》のない時代のデスシャドウの戦力なんて知れたもの。9月になるころには話題になることも少なくなり、その後は一切鳴かず飛ばず。
そしてモダンという環境も、当時と違ってすっかり煮詰まってしまった。さすがに《希望の化身》では、今のモダンはもちろんカードパワーが非常に高まったスタンダードで使えたとしても、活躍できるかは微妙…というかまず無理だろう。
とはいえカスレアとさんざん罵られてきたカードがモダンで一花咲かせただけでもなかなかのやり手だろう。

いみじくも、ある芸人は「1クールのレギュラーより1回の伝説」という言葉を残している。
当時のプレイヤーの記憶には《希望の化身》が残してくれたたった1回の華々しい伝説が、今もなお残り続けている。



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最終更新:2025年01月03日 12:40

*1 たとえばSuper Crazy Zooの生みの親である伊藤敦氏はあるコラムで『下の環境では、「え、そのカードこの環境にあったっけ?」と思うほどマイナーなカードをプレイされることが往々にしてある。そのフォーマットの使用可能セットの中でもメジャーなものとマイナーなものが存在するからであり、モダンであれば「第8版」や「コールドスナップ」(中略)でよく起こる現象』と評している。第8版にしか収録されていない化身はまさに盲点だった