オシリス(神名)

登録日:2015/11/26 Thu 11:20:12
更新日:2023/07/10 Mon 11:10:23
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■オシリス

「オシリス」は古代エジプトで信仰されていた冥府の神。
“死した”理想的なファラオとして描かれる。
元々は下エジプトに信仰が入り込んだ豊穣神(農耕、穀物の神)であったらしく、付属していた「冥府下り」の神話が古代よりエジプトに根付いていた冥界信仰の中に取り入れられると共に、オシリス神話へと上書きされていったと考えられている。

生きるファラオの守護者たる太陽神ラーとは、多くの意味で対になる神性でもある。

  • 天上の支配者に対して地上(地下)の支配者。
  • 不死の象徴に対して再生の象徴。
  • 現人神であるファラオの神に対して民衆の神。

……と、意図せずに真逆の信仰の構図が出来上がっていった。
太陽を象徴するラーが信仰上の理念を体現した神性であるのに対して、ナイル川の象徴であるオシリスは現実の生活に根付いた神性であると云うのもまた対照的である。

神系譜ではへリオポリス神学が掲げる9柱神に組み入れられ、イシス、ネフテュス、セトとは兄妹(弟)である。

特に、妹にして妻でもあるイシスとは母親の胎内に居た頃から愛し合っていたと云うドラマティックな神話が「オシリス神話」として語られているが、これについては後代(西暦)に入ってからギリシャ人プルタルコスが『モラリア』中に記した「イシスとオシリスについて」として編纂した際に“ギリシャ流に無闇にドラマティックにアレンジ”した影響が強いとも言われている。
また、オシリスとイシスは共にシュメールに起源を求められると考えられている外来神であり、ギリシャにも伝わった「冥界下り」の主人公として“矛盾を基本”としているエジプトの神々では例外的に首尾一貫とした神話を持つ事が出来た、とも考えられる。

この2神の子供とされたのが古くから上エジプトで天空神としての信仰を受けて来たホルスであり、オシリス神話に於けるホルスはセトに奪われた父の王権を取り戻す復讐者として信仰を集めた。

また、複雑な事情から弟にして宿敵であるセトの妻で、矢張り実の妹とされたネフテュスとは不義の関係にあり、この2神より生まれたのが後に冥界でのオシリスを補佐するアヌビスだったとされている。

古代オリエントに共通する死からの再生を遂げた神として、その信仰は他の類型神話と共に後のキリスト教に引き継がれた。


由来

下エジプトで灌漑農耕が開始されたのは「ナカダ第2期(紀元前3400~3200年頃)」と考えられているが、この頃にエジプトに農業や金属精錬、煉瓦製造、文字、埋葬の技術を持ち込んだのがメソポタミアのシュメール文明に関わる人々だったと考えられている。

そして、オシリスとは彼らが持ち込んだ外来神であったらしい(※或いは、彼らの指導者の神格化との説も)。
エジプトでは神々は獣や鳥の頭部を持つ姿で描かれていたが、オシリスが最初から人頭の神であるのもそうした理由からかと思われる。
オシリスの語源には諸説があり、一説にはマルドゥクのエジプト読みであるとも言われるが、神性に関しては下エジプトで信仰されていた豊穣神のアンジェティなる神と習合した事で定着したとされている。
また、上記の事実からか人間に文明を齎した神とされる場合もある。

メソポタミアの氾濫に比べれば周期的で穏やかともされるナイル川の氾濫だが、洪水により大地が一度死に、再び再生される姿はナイル川の氾濫が生んだ肥沃な下エジプトの地で共通した信仰の基盤を生むことは難くなかった。
そして、豊穣の神オシリスは同時に死から再生する神。
やがては死者の神としての権威を獲得していく中で生命の源にして三途の川の役目を果たすナイル川と同一視されるまでに至ったのだと云う。


冥界の神

エジプトと云えばミイラである(断言)。
古代エジプト人が手間暇かけて遺体を残したのには霊(カァ)魂(バァ)と復活の信仰が根付いていたからであった。
魂は人頭の鳥の姿をして昼は来世に渡るのに、夜には墓所に帰るとされていた。
霊は魂を導くものだが、食べ物が無くなると彷徨い出てしまうのでエジプトでは死者への供物が重要視された。

肉体を離れた魂は来世の楽園へと渡る訳だが、その前に冥界の神々による審判を受けなくてはならないとされていた。
初めは死者の魂を計る役目を持つのはアヌビスであり、審判役にはラーが立てられていたが後にオシリスに置き換わった。

死者は神々の前で「正義(マアト)に適わぬ行いをしなかった」と告白し、続いて心臓をマアト女神の羽根と共に秤に掛けられ、その言葉に偽りが無いかを確かめられた


この一回勝負の魂の審判が非常に畏れられ、それが冥界の神への祈りや一体化により審判を無事に乗り切ると云う信仰に繋がったらしい。

メネス王により成し遂げられた上下エジプトの統一王朝による樹立と共に勃興したのが、現人神ファラオを不滅のラーと同一の存在とする「太陽神学」であった。
しかし、地上の王として生きながら神格化されたファラオですら理念はともかく、古代からの死生観に基づく死への畏れ=オシリス信仰を捨てる事は出来なかった。

太陽神学を掲げたへリオポリス神官団は太陽神学と相反する冥界信仰を排しようとしたらしいが、第5王朝期より建造を開始された(異説あり)、天上でラーと一体化したファラオが還る証として建造されたピラミッドの玄室にオシリスへの祈りを捧げるピラミッド・テキストが彫られ、続く第6王朝期にはオシリスは遂にラーとすら習合されるまでに至った。
こうして、オシリス・ラーは最高神の冥界の相と定められたのであった。

この後、王朝権力の凋落の中でファラオの為だけの物であった死後の安寧の祈りは時代を降るにつれてファラオから貴族、一般人へと広がっていった。

  • ピラミッド・テキスト(古王国時代)
※王の玄室に刻まれた。
  • コフィン・テキスト(中王国時代)
※貴族の棺に刻まれた。
  • 死者の書(新王国時代)
※死者に持たされた。

これらは基本的にはオシリスを初めとした冥界の神への祈りを捧げる事で死後の楽園への到達を願う文面だが、魂の裁量を誤魔化す裏技もまた「死者の書」には記されていたと云う。

そして、後には日本人が死者を「仏」と呼ぶのと同様に古代エジプト人は死者を「オシリス」と呼んだのだと云う。
※ミイラ作りの際にはオシリス神話に於ける復活の儀式が工程の中に取り入れられ、神官達はオシリスの息子ともされたアヌビスの扮装をして執行したのだとか。


オシリス神話と眷族

オシリスと云えばヒロイックな「オシリス神話」で知られる(殺されちゃうだけとも言えるが)。
オシリスは生まれる以前から王権を約束されていた存在だったが、それを妬んだセトに謀殺されてしまう。
最初に殺されナイル川に捨てられた時も、次に遺体を奪われ14に引き裂かれた時にも救ってくれたのはイシスだったが、セトがチ○コを処分してしまったので(蟹か鰐に食われたとされる)、イシスが張型で代用したものの、不完全な肉体故に現世には留まれずに冥界の王になったと云う。
その後は成長したホルスを導き、自らの王権を取り戻す手助けをしている姿が描かれている。


関連する神性

イシス
オシリスの妹にして妻。
オシリス神話ではお兄ちゃん命で魔術の技能持ちの主人公に献身型スーパーヒロインにして理想的な母親として描かれている。

ホルス
上エジプトで古くから信仰されていた神であったが、オシリス神話では死んだオシリスと処女母イシスから生まれた息子とされた。
基本的には隼や隼頭で描かれていたが、オシリス神話では普通の人間の姿で描かれている。
亡き父の仇を討つべく叔父に挑み、片目を失いながらも勝利。
その後は裁判でも戦い…と現代の創作の流行を先取ったかの様な活躍をしている。

セト
オシリスら兄妹では末弟に当たる嵐の神。
色々な獣の要素が集まった架空の獣の頭部を持つ姿で描かれる。
生まれる以前より王権を約束されていた兄を憎み、母親の脇腹を食い破り兄より先に生まれ出ようとして以来、幾度も兄の命を奪おうとしたと語られている。
元来は狩猟民族に信仰されていた上エジプトの神であったらしい。

■ネフテュス
イシスの妹でセトの姉にして妻。
しかし本命は長兄オシリスであり、彼との子供を産んだという昼ドラ展開な裏ヒロイン。
オシリスとの不義の子であるアヌビスを産むがセトの報復を畏れて棄ててしまう。
後に、オシリスを復活させる為に試練に向かうイシスを助けた事から死者の保護と復活を助ける女神となった。

アヌビス
山犬の頭部を持つ死者の魂の裁量官と云うキャッチーさから人気のある死者の守護者。
オシリス神話ではオシリスとネフテュスの不義の子。
セトの報復を畏れて母親に棄てられるがイシスに拾われ彼女の養子になったと云う。
ミイラ作りを発明した神とも言われており、神話の中でもオシリスの肉体を再生させるのはアヌビスとされている場合もある。


姿

神話に倣いミイラとなったファラオの姿で描かれている。
ツタンカーメン王の棺のモチーフと言えば解り易い事だろう。
手にしているのは穀芋と笏である。
肌の色は緑で、それぞれに王権と植物神の属性を示す。





追記修正は魔女っ娘ヒロインな妹に復活させられてからお願いします。

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最終更新:2023年07月10日 11:10