セト(神名)

登録日:2015/11/28 Sat 18:17:56
更新日:2021/12/07 Tue 11:16:27
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■セト


「セト(Set)」は古代エジプトの嵐神。
また、戦乱や干魃や諸々の脅威の神ともされる。
後にはオシリス神話に於ける役割から悪名が高まり過ぎたのか悪神や邪神として紹介されている場合すらあるが、セトの場合は本来的には宗教的な意味での「絶対悪」に相当していた神性では無かった。

神系譜ではへリオポリスの掲げる9柱神に組み入れられ、オシリス、イシス、ネフテュスの末弟とされた。
ここから兄を妬み、反抗と障害を為す神との認識が広がっていった。
配偶神は姉のネフテュスだが、彼女はオシリスと不貞を働き、神話内でもオシリスとイシスを助け、セトを妨害する役回りである。

オシリスとの対立は肥沃な下エジプトの外来神であるオシリスに対して、セトが乾燥した上エジプトの厳しい自然を象徴する土着神であったからだろう、との説もある。

太陽神ラーとは妙に関係性が深く、ラーの従者は疎か息子とされる場合すらあるが、経緯は失伝でもしたのか詳しくは記されていない。

ラーがイシスに騙されて「秘密の名」を奪われて失墜する神話に併せて、冥界に追いやられたセトが隠遁させられたラーの従者となったとして語られている神話もあるが、セトとラーとの結び付きはかなり古い時期からのものらしく、それを部分的に反映させたエピソードなのだと思われる。

ラーの乗る日夜を渡る太陽の船の舳先にてエジプト神話最大の悪であるアポピス(蛇)を倒せる唯一の神とも言われ、時にはラーですら食い付かれてしまう(日食のこと)毒蛇の害から救う軍神として信仰された。

姿

黒い犬の様な頭部を持つ男神として描かれる。
ジャッカルとされる場合もあるが、イメージ的にはツチブタ等の特徴を混ぜられた架空の獣の頭部、或いはそれらの内のどれかとされる(※犬、ツチブタ、ジャッカル、シマウマ、ロバ、ワニ、ブタ、カバ…etc.)。
上記の様に、悪神としての名前が極まり過ぎたのかセトをキリスト教世界の悪霊の王であるサタンの語源とする説まで出されたが、本来は“障害”程度の意味合いであるサタンの用法は古くから用いられているし、セトが悪神と見なされるようになったのは後代のことなのでら由来的には流石に無理があると切り捨てられている。

由来

元来は上エジプトで信仰されていた古い神であり、セム人の神であったともされる。
オシリス神話に於いて仇敵として追われ、打倒される宿命にあるホルスとは同じ地の出身であり、敵対する部族同士の氏神だったとか、或いは由来を等しくする表裏の存在である、との説まで出される位に神話上での関係性が深い。

セトは前述の様に上エジプトの自然の厳しさを象徴していると考えられている神性である。
それと同時に、下エジプトの肥沃な地に農耕が根付いても尚、環境の厳しさから狩猟や遊牧生活を切り捨てられなかった上エジプトの民にとっては日々の糧と勝利を願う神としても信仰されていたらしい。
それはホルスも同じであり、ホルスは天空にあって遠くを見通せる隼その物が神格化された神性として狩猟の成功や勝利を願う神であった。

両者は全く逆の立場でオシリス神話に組み込まれたが、勝利や強大さを願う神としてのセトの信仰も残り、エジプト神話共通の悪神アペプ(毒蛇)打倒の逸話や、玄室に刻まれたピラミッド・テキストにはセトの名は「ファラオの勝利」を意味する言葉として記されていると云う。

また、シュメール文化の流入により農耕が根付くと共に煉瓦精製や金属精錬の技術もまたエジプトに根付いたと考えられているが、強硬な金属をセトの骨に喩える事もあったと云う。

カナン(地中海東岸地域)で広く信仰されていた主神バアルがエジプトに入り込んだ際にも、バアルが勇猛さを讃えられる英雄神であった事からセトと同一視された程であったのだが、後にはセトの悪名が強調された事からか、バアル神を悪魔化させた魔王バエルの方と同一の存在とされた、との誤解が広がったり、ギリシャ神話最強の怪物テュポンと同じ存在であるとされてしまったりまでした。

後には神話に於いてもエジプト人の嫌う黒と赤を身に纏い生まれたとか、オシリスの王権を先に奪うべく母(ヌウト)の脇腹を食い破って生まれ出たとされる等、出自からして不吉さや怪物的な側面を付加されていったと考えられている。

尚、セトがこの様な嫌われ者となったのには「中王国」と「新王国」の間の混乱期(「第二中間期」)にエジプトがヒクソスと呼ばれる異邦人に支配された際に、そのヒクソス人達が好戦的な自分達の神(つまりは軍神)とセトを同一視して盛んに崇拝したのだと云う。

……この件はセトのイメージの失墜に決定的な役割を果たしたのだろう、と考えられている。

セト「…………」

しかし、第19王朝期にはセティ(セトの認めた君主)1世や、続く第20王朝はセトナクト(セトによる勝利)と、セトを氏神としていた部族の出身なのか、セトを讃える名を持つファラオも登場している。
※この時代にセティ1世にセトとホルスが協力して力を濯ぐ図像が描かれているのも出身地域に関わる信仰の顕れなのかもしれない。

尚、高まり過ぎた悪名から、前述の様に本来は敵対していた筈の毒蛇アポピスと同一視される様になっていったりもしたようで、これはキリスト教の影響等も受けて、本来はトリックスター的な役割や冥府神としての性格を持った各地域の神性が、宗教的な敵対者である悪魔の王と重ねて見られるようになったことも影響しているとも考えられる。


関連する神性

オシリス
兄神とされる。
セトの反抗の理由は、生まれ落ちる以前より王の座を約束されていた兄を妬んだとされる他、上下エジプトを各々が統治する事になっていたが支配地(上エジプト)に不満があったとする説、妻とオシリスの不倫が原因とする説…etc.がある。
神話内でセトはイシスからオシリスの遺体を奪った後に遺体を14に引き裂き、チ○コをナイル川に捨てて蟹(か鰐)に食わせているが、不倫の報復……かどうかは定かでは無い。
尚、ギリシャ的なアレンジがされているとされるとは云え、セトはオシリスを殺す際にはギミック付きの棺桶を用意する等、脇腹を食い破って生まれてきたダイナミックさとは裏腹の回りくどい方法をとっている。

イシス
姉神とされる。
神話(物語)内では基本的に敵対しているが、姉弟の情から助け舟をだすエピソードが付加されている場合も。

■ネフテュス
姉神にして妻。
……だが、オシリスと不倫してアヌビスを生んだばかりか、セトの邪魔までもしている。
尚、セトとの間には子供すら生まれていない。
これらは元々は互いに関連の薄い神性だったものが神話内に都合よく組み込まれた結果だとも考えられている。
因みに、この兄妹(弟)4神は、神系譜では(ヌウト)(ゲブ)から生まれたとされる一方、揃って太陽(ラー)の子供とされる場合もある。

ホルス
甥神。
オシリス神話では80年もの長きに渡り争い続けた末に敗れたとされる。
共に獣(鳥)頭神である事からも解る様に、外来神であるオシリスらとは違い、元からエジプトで生まれた神性であると考えられている。
組み込まれる以前より関係が深い神性同士であったと考えられており、ある神話ではセトがホルスに「アッー!」を仕掛けるが失敗。
怒ったイシスがセトの好物のレタスにホルスの精液を仕込み、食べたセトを懐妊させると云う、古代にして極まりすぎているエピソードォ……も伝えられている(迫真)。

イシス「産め!ホルスの子を!!」

セト「ぎゃあああああああああああっ!!」

ーTHE ENDー

……尚、この神話で妊娠したセトが額から生んだのが月神トートだとされる。
時系列がガバガバなのでアレなアレだが、セトとホルス、トートが極めて深い関係(意味深)にある神性であったのが窺える。
尚、ホルスとの争いではセトはホルスの左眼を奪っているが、ホルスに両脚と両方のタマを奪われてSATSUGAIされている。

ラー
太陽神。
エジプト神話の最高位の神。
ある神話では1日毎に船に乗って宇宙創世の旅(日の出から日没)をしており、セトはその船の従者であるとされる。
後に他の神話との習合により従者の役目をトートに奪われたり、ホルスに殺害された後に冥界に渡り、イシスに主権を奪われた後は冥界に隠遁していたラーの冥界での従者になったとする説も生まれている。
ラーとの関係の深さの理由は定かではないが、オシリス神話にてセトがホルスにオシリスの王権を奪った事について訴えられた際に神々の審判役としてセトを擁護し、セトの方を勝たせてしまうパターンまである。

■アポピス/アポフィス/アペプ
本来のエジプト神話に於ける絶対悪であり、同地域で恐れられ続ける毒蛇を宗教的な怪物、悪魔と見なしたもの。
原初の世界に於いて東洋的に言えば陰と陽に分かれたものの陰の象徴であり、自らの役目を奪ったともされるラーと敵対する。
太陽神ラーですら恐れる唯一の存在であり、恐らくは毒蛇をも食らう獣の神格化であるセトによってのみ倒され得る存在とされたが、前述の様にセトの悪名が広がり過ぎた為にセトに毒蛇の様な神話が付けられる等、同一の存在とする見方が進んでいった。
このイメージがサタンの原型とされる所以であるが、サタンの原型イメージにはゾロアスター教アングラ・マインユの概念が直接的な影響を与えた、とも言われる為にセトの場合は、ギリシャ神話のハデス等と共に、反対に風評被害を受けた立場であった可能性もある。

【主な登場作品】


◆ゲーム『女神転生』シリーズ
原典たる西谷史の小説から登場する最古参の悪魔のひとりで、ストーリーにも大きく絡む。
蛇神アペプを元としているのか、蛇、もしくは竜の形で描かれる。

原典では第2弾「魔都の戦士」に登場。
現代の黒魔術師イスマに召喚され契約したセトは、赤い肉塊のような姿でヒロイン弓子ら人々を飲みこんでいく。
宇宙空間の静止衛星に追放されたセトはそこで真の姿、巨大な蛇と化す。
主人公・中島朱美はいまだセトの体内にいる弓子を救出すべく、ひとりセトに戦いを挑む。

この小説をゲーム化した女神転生Ⅰではセトが「炎の腐海」をあずかる魔王として出現。
小説の肉塊をほうふつとさせる赤いぐにゃぐにゃとした通路は、一歩ごとに味方のHPを奪う。
その奥に待ち受ける蛇と植物を融合させたような怪奇な姿のセトは、物理・魔法攻撃ともに熾烈を極め
さらにエナジードレインまでも扱いこなす強大なボス。
女神転生Ⅱでは「邪神」として出現。通常敵だが石化攻撃などを多用する難敵。

真Ⅱでは前述した説を採用して『セトはサタンの半身』という位置づけにあり、終盤ではある人物と合体して神霊サタンとなる。

『DIGITAL DEVIL SAGA アバタール・チューナー2』では隠しボスとして登場。種族は死神。
主人公たちを「裁く者」ではなく、その真逆を行く者と判断して襲い掛かる。
シヴァ・ヴィシュヌよりも格上のボスとされており、パズル要素のない正統派な強さを見せる。
高クリティカルの単体万能物理攻撃「アゲンストペイン」、セトのHPが低いほど威力が増す「妬みの暴圧」、割合ダメージ&強制離脱の反則技「砂漠の風」などが非常に厄介。

戦っている中で自分が前座に過ぎないことを仄めかすが、その台詞で次の悪魔を予想できたメガテニストも多いだろう。
デザインは真Ⅱと同じ黒い竜なのだが、3D化にともなってアレにかなり似たものとなっている。



追記修正は兄を追い落としてからお願いします。

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最終更新:2021年12月07日 11:16