スサノオノミコト

登録日:2016/01/08 Fri 10:30:36
更新日:2025/03/04 Tue 18:34:32
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八雲立つ
出雲八重垣
妻籠みに
八重垣作る
その八重垣を


■スサノオノミコト


「日本書紀」では素戔男尊(すさのおのみこと)、素戔嗚尊(〃)、「古事記」では建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)*1、須佐乃袁尊、「出雲国風土記」では神須佐能袁命(かむすさのおのみこと)、須佐能乎命……は日本神話に登場して来る男神。
単にスサノオ、スサノヲとのみ表記されたり、そう呼ばれる場合も多い。

八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の討伐で知られる日本神話を代表する英雄神として認識されており、日本神話を題材とした創作では主人公やそれに助力する神として描かれる場合が多い。
伊邪那岐命(イザナギノミコト)から支配地を分けられた際の神話から海の神と思われたりもするが、スサノオを海の神とする神話は存在しない。


【系譜】

国生み(地上形成)を行った「神代七代」の最後の夫婦神である伊邪那岐命(イザナギノミコト)伊邪那美命(イザナミノミコト)の子の内でも最も尊い「三貴子(みはしらのうずのみこ)」の一柱。
死んだ妻を想い黄泉の国に降りたにもかかわらず(※冥府下り)、約束を違えて妻の復活を待てず(※禁忌破り)、死したる妻の姿に怯えて地上に逃げ帰り黄泉と地上を分け隔てた後に(※異物分離)、泉で黄泉の穢れを祓い落とした(※禊ぎ)、イザナギが鼻を洗った際に誕生したとされる。
古事記」の記述では「三貴子」はイザナギから生まれたとされているが、系譜や神話内ではイザナギとイザナミの子である。
神話ではこの程度では矛盾にもならない事は古事記にも書いてある。
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【出自】

元来は「出雲国風土記」等にも見られる様に出雲地方の力のある神、特に製鉄の神であったと考えられている。
「古事記」では前述の様に「三貴子(みはしらのうずのみこ)」の一柱とされているが、「日本書紀」の一書(あるふみ=異聞)ではイザナギとイザナミが蛭子(ヒルコ)に次いで生んだ子ともされており、後付け的に記紀神話に組み込まれた神であったらしい。
スサが荒ぶに通ずる事もあってか嵐神、暴神、名前からも須佐の荒ぶる(おのこ)と説明されている場合もあるが、渚沙(スサ)とは海辺や河口に堆積した砂の事でもあり、そこに砂鉄が多く含まれている事から製鉄の資材として用いられた。
出雲の民は製鉄(青銅)の技術を持ち、鉄で武装した強力な氏族として後の中央政権となったヤマト王朝と対立したと考えられており、それら出雲の民の姿が象徴化されたのが神話でのスサノオの姿であると考えられている。
つまり、イザナギに海の統治を任されながらも受け入れなかったのは、そもそもが海の神ではなかったからだと云うのである(日(天照)月(月読)の神に対して、一人だけ属性がハッキリしないのもそれが理由らしい)。
統治者となった姉のアマテラスと対立していたスサノオは、後に八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治する英雄神、大国主神(オオクニヌシ)の統治を助ける神となるが、これも最初は中央政権と対立していた出雲の民が政権に組み込まれ、彼らの技術や神話もまた一元化されていった事を顕しているのだ、とも云う。
また、兄であり三貴子の一柱にもかかわらず影の薄い月読命(ツクヨミノミコト)とは同一の神とも考えられており、一書では月読が統治を命じられた「夜之食国(よるのおすくに)」の支配をスサノオが命じられたりしている。


【神話】

神話内でのスサノオは時期によって異なる三つの顔を見せている。
若者時代は乱暴者。
青年時代は英雄。
老年時代は導き役と、試練を乗り越え成長して国の礎となった典型的な英雄型神話の主人公キャラクターである。


一、天界の狼藉者

父親のイザナギより、それぞれに昼の世界(天照)、夜の世界(月読)、海原(素戔嗚)の統治を任された三貴子だったが、素直に従った姉と兄に対してスサノオのみはいつまでもその場に留まり、髭が胸元に届くまでになっても“哭き”続けていた。
たまりかねたイザナギが理由を問うと母親の居る「根の国(根之堅須国=ねのかたすくに)に参りたい」と駄々をこねる。
怒ったイザナギはスサノオを葦原中国(あしはらのなかつくに=地上世界)から追放。
姉に事情を説明しようと考えたスサノオは「高天原(たかまがはら=天界)」へと赴いた。
しかし、母を想って泣いていた女々しさとは裏腹にスサノオが天に昇る過程で山河が鳴り響き、大地が激しく揺れ動いたと云うのだから凄まじい。
弟が高天原を奪いに来たと考えたアマテラスは男装し、武器まで携えてこれに対峙した。
しかし、身の潔白を訴える弟に対してアマテラスは互いに「誓約(うけい=神意占い)」をする事を提案。
ここで、スサノオの十拳剣(とつかのつるぎ)から三柱の女神(宗像三女神)が、アマテラスの髪飾りからは五柱の男神(この中には最初に地上への降臨を命じられた正勝吾勝勝速日天忍穂耳命=おしほみみのみこと等が居る)が生まれた。
※『日本書紀』では逆にスサノオから男神が生まれている。
この結果を受けてスサノオは「女神を生んだ自分の方が心が清い」とごり押し、そのまま高天原に居座ってしまった。
居座るだけならまだしも、スサノオは高天原で狼藉を開始。
田の畦を壊し、灌漑の溝を埋め、姉の御殿に糞を撒き散らした……ああ^~
姉の情か、敗者の弱みかスサノオを庇い続けていたアマテラスだったが、スサノオが機織小屋に皮を剥いだ斑馬(ふちこま)を投げ込み、神衣を編ませていた機織女を驚かせて死なせたのには流石に我慢が出来ず、天の岩戸に引き籠もり天界と地上を暗闇に包んでしまう。
この後、困った神々は何やかんやあって天照を岩戸から引きずり出す事に成功。
スサノオは罰として山ほどの贖罪の品を献上させられた挙げ句、髭を切られ、手足の爪を抜かれて高天原から追放されたのであった。

※これは前述の様にヤマト王朝と出雲の民の対立の縮図を顕していると考えられている。
※スサノオの理解不能の暴れぶりは高天原(ヤマト)に支配者級の地方神が居て貰っては困るとの事情から、との考察も。
※また、単に嵐(台風)の被害を示した姿とも言われる。


二、八岐大蛇退治

高天原から出雲国の肥河(島根県斐伊川)に降りた素戔嗚は、川上から箸が流れて来たのを見て川上に向かい、美しい娘(櫛名田比売=奇稲田姫=クシナダヒメ)と涙にくれる老夫婦に出会った。
聞くと、老夫婦には八人の娘が居たが高志地方(北陸)から八つの頭と尾を持つ巨大な怪物八岐大蛇(ヤマタノオロチ)が一年に一度やって来ては娘を食らい、最後に残ったクシナダも今夜には食べられてしまうのだと云う。
スサノオはクシナダに求婚すると共に身分を明かし、これを受諾させる。
そして、クシナダを櫛に変え髪に差すと、老夫婦に「濃厚な酒を醸造し八つの入口のある垣根をつくり、入口毎に棚を設けて酒を満たした壺を置いておけ」と命じた。
……そうしてやって来たオロチは、まんまと酒を呑むと眠りこけ、これを素戔嗚は十拳剣で切り刻んで殺したのだった。
しかし、尾の一つを切ろうとして失敗(青銅の剣が欠けた)。
尾を裂いて調べてみると見事な鉄製の剣が出て来たのでスサノオはアマテラスにこれを献上。
この剣が天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)=後の草薙の剣(くさなぎのつるぎ)であると云う。
クシナダを娶ったスサノオは出雲の須賀に身を落ち着け、国作りを行う大国主命の始祖となった。
項目冒頭の和歌は出雲に着いたスサノオが詠んだ日本最初の和歌だとされている。


※オロチとは「峰(オ)の(ロ)霊(チ)」=山の神にして水の神=肥川の象徴、或いは火山の象徴と考えられており、元々は大蛇のみを指していた訳ではなかったらしい。
古代出雲は、青銅器を主とする西部出雲(現在の島根県出雲市付近)と鉄器を主とする東部出雲(現在の島根県安来市、鳥取県米子市、大山町)の二大勢力から出発し、以後統一王朝が作られた歴史があり、青銅の剣(十拳剣)が鉄製の剣(天叢雲剣)を打って欠ける描写は製鉄技術の優位と伝播の縮図であると云う。
また、鉄の神(オロチ)から取り出した剣をアマテラスに献上する行為は出雲がヤマト王朝に降った姿を示すとされている(この為か「出雲国風土記」にはオロチの記述が無い)。

※クシナダは奇稲田姫=稲作の豊穣を祈願する巫女であり水の神を祀る役目を持っていたと考えられている。
オロチ退治に酒を用意するのは元来は祭祀の儀式であった事を示す。

※ここでのスサノオはヤマト王朝の支配を広げる使者であり、新たな秩序を持って旧支配を破壊する役目を持つ。
この場合の出雲の象徴は同じく製鉄の神であるオロチである。


三、大国主命への試練

スサノオから数えて六代後に大穴牟遅神(大穴持命・大己貴命=おおあなむち・おほなむち)と云う神が居た。
彼には八十もの兄が居て奴隷の様に扱われていたが「因幡素兎」等の逸話を経て地上の王となる宿命を背負い、何やかんやあって木国(紀伊国)の大八琵古神(おおやびこ)に助けられて、隠居したスサノオが住む根之堅須国へと逃げ込んだ。
そこでスサノオの身の回りの世話をしていた娘の須勢理毘売(すせりびめ)が出迎え、一目惚れした二人はいきなり結婚。
スサノオもオオナムチが地上の王たる資格を持つ事を見抜いたが、これに厳しい試練を課す。
しかし、スセリらの助けもあってオオナムチは主人公補正で試練を乗り越えた。
最後はペテンの様な形(スサノオを安心させて眠らせた後で縛り付けて逃避行)となったものの、その勇気と知略を讃えられたオオナムチは、スサノオより「大国主神」の御名を贈られ、因縁ある八十神を駆逐し国作り(政治的な意味での統治)を開始するのであった。

※オオクニヌシはスサノオの直系の子孫であるが、スセリとの婚姻によりアマテラスの甥=ヤマト王朝の血族になったとの考察がある。
これにより、後の天孫降臨の際の国譲りが正当な物である証とされたのである……欺瞞!

※神話がごっそり削られている「日本書紀」では、オオクニヌシはスサノオとクシナダの子供とされている。


……以上の神話からも窺えるのが「古事記」や「日本書紀」に共通する古代神話の舞台としての出雲と、ヤマト王朝との対立と併合の歴史であり、スサノオがそのカリカチュアとも呼ぶべき役目を背負わされていると云う事である。
ある意味では主宰神として祀り上げられたアマテラス以上に豊かで重要な役割を担っているのも当然なのかもしれない。


【神社・信仰】

八坂神社、津島神社、氷川神社、廣峯神社、八重垣神社…etc.と各地の社に祀られている。
また、共に災厄を齎す神として京都祇園に祀られる仏教由来の垂迹神にして祇園精舎の守護神たる牛頭天王と同一視され、転じて疫病を封じる神としての信仰を集めた。
また、嵐の神と考えられた事が氷川神と結びつき、農業の神とも考えられる様になった。




追記修正はオロチ退治してからお願いします。


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最終更新:2025年03月04日 18:34

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