大国主神

登録日:2016/01/13 Wed 11:05:12
更新日:2024/10/16 Wed 17:31:52
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■オオクニヌシ


「大国主神(おおくにぬしのかみ」或いは「大国主命(おおくにぬしのみこと)」は日本神話に登場する神。
出雲系神話の主神格に当たるカミであり、名前の意味はそのまま「国土の王(主)」である。
後に、仏教大黒天と、“大黒”と“大国”の音読みの共通から習合し、七福神で云う大黒様となった。
大黒様は、米俵に乗って、七宝の袋と打出の小槌を手にした、五穀豊穣の神様である。

古事記」では天孫・天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命(ニニギノミコト)に国譲りを行った神として伝えられている。
記紀神話では地上に降りた須佐之男神(スサノオノミコト)から続く血統に組み込まれ、国作り(統治の下作り)を行った神とされている。
……これらの事からオオクニヌシを国津神の総大将として扱う場合も多い。
また、天津神に国譲りをした神として語られているが、これは記紀神話として集約された我が国の古代の神話=それを持っていた派閥が天皇の下に統合されたと考えることも出来、実際にオオクニヌシは、元来は天照大御神とも並ぶ皇祖神=支配者の氏神の地位にあった神と見られている。

【異名】

別名や別表記の多い日本のカミの中でも特に異名の多いカミである。

  • 大国主神
  • 大穴牟遅神
  • 葦原色許男神
  • 八千矛神
  • 宇都志国玉神

■日本書紀
  • 大物主神
  • 国作大己貴命
  • 葦原醜男
  • 八千戈神
  • 大国玉神
  • 現国玉神

■他、風土記
  • 大國魂大神
  • 顕国玉神
  • 宇都志国玉神
  • 国作大己貴命
  • 伊和大神
  • 所造天下大神
  • 幽冥主宰大神

一、「おおくにぬし」「くにたま」系統の名前は国土の王。

二、「おおなむち」系統の名前は若い時代の名前で、この名にも国作りを行った号が付いている。
意味的には超絶イケメンといった所。

三、「やちほこ」「しこお」系統の名前は武神としての名前。
醜と、己貴とまで讃えられていたカミとは真逆の名前が付けられているが、古来より日本では様々な意味で美と醜を等しくする価値観があったようである。

四、「かくりごと」系統の名前は根の国(冥界)神話に関係する名である。
*1

また、前述のように神仏習合では本来は仏教由来の大黒天と同一視されて自然発生的に習合している訳だが、現在までに“大黒天”という名前で“大国主”の属性で祀られていることも多い。
まぁ、日本だと仏教由来の天部諸尊も日本のカミ様と同じ祀られ方してますからね。


【系譜】

古事記」ではスサノオの6代後の子孫。
父は天之冬衣神(あめのふゆきぬ)、母は刺国若比売(さしくにわかひめ)。
兄に八十神(やそがみ)達が居るが、彼らはオオクニヌシの国作りの障害となる存在であり、
八十神の嫉妬により幾度も殺されては母神の祈りにより再生される神話を経て支配者の資格を得た。

母の願いを聞き届けてオオクニヌシを蘇生させたのは「造化三神(ぞうけのさんしん)」の一柱「神産巣日神(かみむすびのかみ)」であり、
オオクニヌシとは記紀神話に組み込まれる以前より関係が深い神であったと考えられている。

「日本書紀」では大己貴命(おおなむちのみこと)の名前でスサノオとクシナダの子。

直系の子孫である筈だが「古事記」では更にスサノオの娘の須勢理毘売(すせりびめ)と縁組みさせられており、高天原との血縁が強調されている。

古事記」に記された有名な息子としては八重事代主神(コトシロヌシ)と建御名方神(タケミナカタ)が居り、
国譲りはコトシロヌシの判断とタケミナカタの敗北により決定される流れとなっている。


【神話】

オオクニヌシの神話は大きく分けて五つに分類される。

一、稲羽素兎
二、根の国神話
三、八千矛神神話
四、国作り神話
五、国譲り神話

※一、二、は少年神であったオオナムチ(大穴牟遅神、大己貴命)が、支配者の使命と、その資格を得るまでの物語である。
稲羽素兎」は当該項目参照。

虐められる立場でありながら八十神達とナムチの旅の理由であった八上比売(ヤガミヒメ)への求婚でナムチが選ばれた事に
腹を立てた八十神はナムチを手間山の麓に誘い込み猪に似せた大きな焼け石を落としてSATSUGAI

しかし、母神(ワカヒメ)の懇願を受けたカムムスヒが貝の女神を遣わし復活。
原文に依れば、ここでナムチは「麗しき壮夫(衰等古=おとこ=青年)」になったとされる。
少年漫画の王道である。

普通はここから大逆転が始まりそうなものなのだが、次に八十神は大木を利用してナムチを圧死してSATSUGAI

しかし、またもや母神が現れてナムチの遺体を探し出すとまたもや復活させる。
……アンタはウルトラの母か。

この後、オオクニヌシは木国(紀伊国)へと逃がされるのだが、八十神の執拗な追究は止まなかった為に
大屋毘古神(おおやびこ)の助けを受けて冥界である「根之堅州国(根の国)」に降りる事になる。

「根の国」を支配していたのは嘗ての英雄神スサノオで、ナムチは自分を出迎えてくれたスサノオの娘の須勢理毘売(スセリビメ)と出会い恋に落ちる。

ウサギ・ヤガミヒメ「え?」

これは、スサノオが八岐大蛇を退治する前にクシナダと結ばれたのと同じく日本神話特有のパターンで*2
この場合の女神は英雄の恋人にして、試練を乗り越える為の力(宝具)である事を示している。

こうして、スセリと云う
いろんなことに使える万能アイテム(意味深)を手に入れたナムチはスサノオの試練に挑む*3

まず、ナムチはヘビのいる部屋に寝かせられるが、スセリの魔力の込められた布(どこの布なんですかねぇ……)がヘビを抑え込む。
続いてムカデとハチの部屋に寝かせられるが、矢張り布がムカデとハチを抑え込む。

布TUEEEEEEEEEEEEEEEE!……と言いたくなるが、続いてスサノオは鏑矢を野原に放ち、ナムチに取ってくるように命じる。
そして、ナムチが野原に入った所で火を放ちナムチを炎で追い込む!
流石にこれにはスセリも力が及ばず、彼女は葬式の道具を抱えて泣いたと云う(マヌケな姿だ)。

しかし、そこにネズミが現れると「ハハッ!内側は空洞で、出入口は狭いんだよ!」と頓知めいた事を言う。
だが、頓知でもなんでもなくナムチが示された場所を踏むと穴に落ち、そこで炎を凌ぐ事が出来た。
更に親切なネズミは鏑矢まで取ってきてくれて、ナムチは無事にこの試練を乗り越える事が出来たのだった*4

感心したスサノオは次に自分の頭のシラミを取るように命じるがスサノオの頭はシラミならぬ大きなムカデが這い回る危険地帯であった。

手をこまねいているナムチにスセリは椋の木の実と赤土を差し入れると、ナムチは椋の実を噛んで赤土と一緒に吐き出す。
それを見ていたスサノオはナムチがムカデを噛み捨てているのだなと思い、またもや感心して寝てしまった。

それを見たナムチは好機とばかりにスサノオの長い髪を部屋の垂木に縛り付け、五百人でやっと動かせるかと云う大石で部屋を塞ぐと、
スセリを背負い、スサノオの刀と弓矢と琴を奪うと 若い二人は逃避行を開始*5

だが、逃げる途中で琴が木に触れると大地が揺るぐ程の音が鳴り響きスサノオは目を覚ます。
騙された事に気付いたスサノオはあっさりと戒めを解いて二人を追うが、黄泉比良坂を超えようとする二人を見て追跡を諦め、
「奪った刀と弓矢で八十神を追い払い、大国主神・宇津志国玉神となり、スセリを正妻として宇迦能山の麓に宮殿を造り住め」と命じたのであった。

※三、こうして、英雄神スサノオの魂を引き継ぎ覚醒を果たしたナムチことオオクニヌシは八十神相手に無双を開始。
約束通りにヤガミヒメも嫁にするが、正妻のスセリの嫉妬を畏れて子供を生んだらさっさと故郷に帰ってしまった。

ウサギ「……」

この他、オオクニヌシは八千矛神の名で高志の国(北陸)の沼河比売(ぬまかわひめ)に求婚。
やっぱりスセリに嫉妬されるが歌と酒杯で和解した旨が記されている*6

……以上の一、~三、の「オオクニヌシ」の物語は「古事記」にしかなく、神話・古代史研究では“大国主実現”の物語として纏められている。


※四、五、こうして、国土を平定したオオクニヌシ(ナムチ)の次なる神話が「国作り」と「国譲り」である。
ここで云う国作りとは前述の様に伊邪那岐(イザナギ)、伊邪那美(イザナミ)のそれとは違う、政治秩序としての統治を指す。

この時にオオクニヌシに力を貸したのが「常世之国」よりやって来たカムムスヒの息子の少名毘古那(スクナビコナ)と、大物主神(オオモノヌシ)である。
大物主神は大国主神の異名とされる場合もあるが「古事記」では“亦の名(またのな)”としては扱わない。
スクナビコナの記述は「古事記」では少ないが「日本書紀」の他「出雲国風土記」「播磨国風土記」「伊予国風土記」などでは
オオクニヌシと共に稲穂、医術、温泉を広めた話が伝えられている。
また、神功皇后の詠んだとされる歌から酒造の神としても伝わり、酒蔵にスクナビコナを祀るのはここから来ているとも云われる。

これらからスクナビコナは技術や豊穣による統治を、オオモノヌシは祭祀による統治を司っていると考えられている。

……さて、こうして国土は平定された筈だったが、高天原の天照大御神(アマテラス)が息子の正勝吾勝勝速日天忍穂耳命(オシホミミ)に
地上をのぞかせた所「とても騒がしい(うまく統治できていない)」と答えた事から
高天原が国土の直接統治に乗り出す事になる*7

そこで、アマテラスは天之菩比神(アメノホヒ)を派遣するがオオクニヌシに懐柔され失敗。

……この間3年。

次に天之若日子(アメノワカヒコ)が派遣されるが、オオクニヌシから娘(下照比売)を嫁に貰いやっぱり懐柔されてしまう。

……この間8年。

音沙汰の無さに痺れを切らした高天原はキジの鳴女(ナキメ)を派遣するが、よりによってワカヒコに高天原の弓矢で射殺されてしまう。

これに対し高天原の監督役とも呼べる高御産巣日神(タカミムスビ)は致死率10割として名高い呪いの返し矢を放ちワカヒコを殺害する*8

この後、高天原は地上の平定の為に最強の武神・建御雷男神(タケミカズチ)を派遣。

これに対しオオクニヌシは前述の様に二人の息子神に判断を任せ、コトシロヌシの賛同とタケミナカの敗北を以て国譲りを決意。
出雲に隠居先となる神殿(出雲大社)を建てる事を確約させる事で、遂に国譲りは果たされたのであった。


【神々の派閥】

神話・古代史研究で言われているのが高天原(ヤマト王朝)と出雲国の国作りに関わる神々に二つの系統が存在している事である。

両派閥の長となるのが「造化三神」のタカミムスビとカムムスヒの二大巨頭である。

この内、オオクニヌシはカムムスヒ派の全権代理人的な立場にある。
また、パートナーとなるスクナビコナは記紀神話に組み込まれる以前よりの分身的な存在であったらしい事が予想されている。

尚、スクナビコナは所謂「一寸法師」の原形であると考えられている。


【信仰・神社】

最も有名なのが、運営方式(定期的に同じ建築を新しく建て替えていく方式)により古代の姿を残す神社の中の神社である出雲大社(島根県出雲市)。
出雲大社には毎年“神在月”に全国からカミ様が集まることにちなみ、縁結びの神様として定着していると云う。
尚、出雲大社の社殿を支える支柱は現在でも24mに及ぶ立派なものだが、平安時代では48m、古代に至っては96mもの高さがあったとする伝説がある。

この他、大神神社(奈良県桜井市)、気多大社(石川県羽咋市)、気多本宮(同七尾市)、大國魂神社(東京都府中市)、大前神社(栃木県真岡市)のほか、
全国の出雲神社で祀られている。
また北海道神宮(北海道札幌市)をはじめ北海道内のいくつかの神社では「開拓三神(大国魂命・大己貴命・少彦名命)」として祀られているが、
内の二神は大国主神の“亦の名”である。
国作り、開墾を願う信仰が窺える。





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最終更新:2024年10月16日 17:31

*1 ※余りに異名が多い事から、非常に多くの地方のカミの神話がオオクニヌシ神話として統合されていったと考えられている。

*2 普通はギリシャ神話の様に冒険の後に妻を得る=ペルセウス・アンドロメダ型神話

*3 難題婿型神話=試練を乗り越え後継者の座を得る

*4 この故事は大黒天を祭神とする「甲子祭」として今に伝わる

*5 ここに来て、ナムチが自分の機転で逃走経路を確保するのが重要なポイント=独り立ちの証明なのだとか

*6 「このように歌い、酒杯をかわして仲直りし、互いの首に手をかけて、今にいたるまで鎮座している。これらの歌を神語(かむがたり)という」として伝えられる

*7 ……まあ、古代出雲がヤマト王朝に侵略された事の神話的な言い換えなのだが

*8 ……神話ですらこの時点で11年も掛かっているが、史実では出雲国の平定はヤマト王朝の総力を以ても数世代を掛けた争いがあったのだろうと予想されている