因幡の白兎

登録日:2009/10/19 Mon 17:04:13
更新日:2024/01/05 Fri 10:18:14
所要時間:約 5 分で読めます




読み いなばのしろうさぎ

日本の神話古事記」に登場する「オオクニヌシ」のエピソードの一つ。

因幡は現在の鳥取県辺りの古い地名で、おそらく大国主命関連の話では、最も有名なエピソードである。

【あらすじ】

因幡の国の沖合の島に、一羽のウサギが居た。
この島での生活に飽きているウサギは、如何にして本土に渡るかを、日々思案していた。

ある日の事である。

水面を遊泳している「和邇(ワニ)」に目を付けたウサギは
我々と君ら、どちらが多いか勝負しよう。さしあたって、数を数えるからこっちの岸からあっちの岸まで一列に並んでくれたまえ

と岸に整列させたワニの背中を跳ねながら、
一匹、二匹
と数えていき、最後の一匹後一歩というところでついうっかり、

かかったな、アホが!このウサギに有るのはたった一つのシンプルな思想だけ……。『向こう岸に渡る』ただ、それだけ…!貴様等の数……勝負なぞ……そんなものはどうでもよかろうなのだー!!

その一言にワニはプッツーン!!
なん…だと……?

何なの?バカなの?ゲーラゲラゲラゲラ…。

クソウサギが、オラオラオラオラァ!!!

と色々ひん剥かれて海岸に放置プレイされて一人シクシク泣いていると、偶然通りかかった八十神(やそがみ)ご一行がそれを発見。

その中の一人が
粗塩を擦り込んでみたら

と去ってったので、1人残されたウサギは海水を浴び、潮風に吹かれてみると、傷口が悪化。

塩水で洗い、風に晒したのは八十神達の指図…謀った喃…謀ってくれた喃…
と悔し涙を流していると、そこに現れた「オオナムチ*1」という大荷物を背負ったいい男にホイホイとついていってしまったのだった。

彼はすごいテクニシャンだった。
ボクはと言えばガマの穂の上で身をふるわせてもだえているのだった(石ノ森章太郎版だと写真集のヌードモデルの如くガマの穂ベッドでくつろいでいたり)。

そんなこんなで治療も終わり、元気になったウサギは

今回の旅は数多の困難が立ちふさがるでしょうが、幸せな結末に終わります

と予言し、去っていくオオナムチを一人見送った。

後にその予言通り、オオムナチはヤガミヒメ(因幡の豪族の美人娘)を射止めた件で八十神たちから恨まれ、大変なことになるのだが、それはまた別の話。

【諸説】

・白兎について

絵本などを見ると、「赤目の白兎」で描かれる事が多いが、元々白い兎は我が国居ない種なので、赤目の兎は明治以降に品種改良されたものだから、色はともかくとして本来は黒目のウサギを描くのが正しい。

素兎」「裸兎」とも言われるこの「しろ」は毛色ではなく、毛を毟られて素肌が露わになった「素兎」であるとする説がある。


・和邇について

モチーフは「小動物が鰐を並べて川を渡る」系統*2だろう。
では、ウサギがに並べて渡った鰐もとい和邇は?

  • 方言にもあるし、海だしサメなんじゃね?」*3
  • 読み方はワニだし、後述するようにワニを騙して上を渡る話が近隣にあるし「いや、ワニだろ」

が主流。後述の白兎神社はサメ説を支持しているが、同じ山陰道の魚らしくない説話には、
  • 語臣猪麻呂の娘が毘売埼を散歩していて和爾に食べられた*4(出雲国風土記)
  • 和爾が玉日女命を慕って川を遡上した*5(出雲国風土記)
語源辿れば「ワニ」はオロッコ族の言葉で「アザラシ」だし、近隣にはアザラシの上を渡る話もあるのだから
  • ニホンアシカ(絶滅)はいたんで「アザラシアシカ説」
サメにしてもワニにしても皮を剥ぐって不自然だし、古語においては船のことをワニと呼んでたし、ワニを並べたのは舟を横に並べる「舟橋」と考えて
  • 「ワニ」=「人間(船の乗組員)説」
少し前の超常現象特番で、宇宙人を見た古代人が後世に伝えたとかなんとかで
  • 「皮を毟られたウサギ」は宇宙人
という、こじつけもいい論題があった。

まあ、令和の時代になっても未だに決着がついていないが

【因幡の白兎をモチーフとしたもの】

・大黒さま

石原和三郎作詞、田村虎蔵作曲の童謡。

ウルトラマンタロウ

第46話「白い兎は悪い奴」の話の元ネタになっている。

ガールズ&パンツァー

公式スピンオフ『もっとらぶらぶ作戦です!』の第10巻で、ウサギさんチームサメさんチームが「イナバさんチーム」として行動を共にしている回がある。

・イナバくん

テレビアニメ『アリス探偵局』の主人公。礼儀正しい性格で誰に対しても敬語で話すウサギの男の子。CV:白石文子。
人一倍災難に遭いやすく、探偵としての資質にも欠けるところがあるが、優秀な探偵になることを夢見て日々努力している。

因幡 てゐ

東方Project』のキャラクター。初出は『東方永夜抄』で5面中ボス。
永遠亭を住処とする妖怪兎で、「人間を幸運にする程度の能力」を持つ。

・ピョンちゃん

日本の製薬会社「エスエス製薬」のマスコット。
1950年代に会社のシンボルとしてウサギのマークを用い始めたのと同時期に誕生したという。

・チルドレ・イナラビッタ

ロックマンゼロ3に登場する兎型のレプリロイド。CV:広津佑希子。
機雷の上をジャンプする特性にモチーフの要素が現れている。
元々は高機動性の追求のために開発されたが、その機動性ゆえの熱暴走を抑えるための強力な冷却装置から放射される冷気を戦闘に応用している。

・ウサギ

鳥取県で賣沼神社や八上比売などをPRするアニメ『八上比売』に登場するキャラ。CV:伊吹悠。
キャラクターボイス募集において「見た目は小学生低中学年位の感情豊かな女の子のウサギの神」と解説されている。
手に肉球が付いており、足元には謎のリアル兎も描かれている。

因幡

鬼灯の冷徹』で芥子ちゃんが合コンに誘われるエピソードに登場したウサギ。CV:福島潤。
芥子ちゃんを口説こうとしたが、逆に芥子ちゃんの神経を逆なでする発言をして、頭の毛を剥ぎ取られた。

・スーパーはくと

JR西日本・智頭急行が運行する特急列車。
列車名が「白兎」の音読みに由来している。

・スーパーいなば

JR西日本が運行する特急列車。
鳥取県の旧国名と関連づけている。

【余談】

  • 縁結びの神様
現在この兎は「兎神」として「白兎神社」に祭られており、御神徳は特定人物との縁結び。
つまり、カップリングなのである。

  • 物の喩
傷口に塩や汗が染みて激痛が走ることを「因幡の白兎状態」と例えることがある。

  • 類似する説話
「ウサギがワニを騙して海や河を渡る」のような昔話に類似する説話は、東南アジアを中心に世界各地に存在している。
例えばキツネがアザラシの数を数えると騙して陸に渡り皮を剥がれる話が、アムール下流域のツングースやニプフ諸民族に広く分布している。
ベトナムにはウサギがワニを騙して追手から逃げる話があるが、この話では並ばせずに一尾の背に乗って渡り、ウソがバレて噛まれてからも騙して逃げ延びている。
それ以外の動物としてはインドネシアでは鹿がソロモン王のワニ退治への反対票を数えるとワニを騙して並ばせ、
ニューギニアではサルがワニを、スリランカではオオカミがワニを、
カムチャツカではウサギがクジラを、ポリネシアやメラネシアではネズミがタコを騙しており、
「猿の生き肝」系の話と共通のモチーフも見られるが、
全体的に騙す方は「陸の小動物」、騙される方は「泳げる大きな動物・捕食者」という傾向がある。

  • 教科書での採択
2015年の教科書査定により、中学校の新しい歴史教科書には、古事記のほかに日本書紀についての解説が加えられている。
新しい国語教科書にも古事記が取り上げられ、因幡の白兎のほか、倭建命の望郷の歌も掲載されている。


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最終更新:2024年01月05日 10:18

*1 八十神の末弟で、オオクニヌシが未熟だったときの名前

*2 東南アジア等でも数多く存在する

*3 中国地方広島~島根を中心とする方言に「ワニ→サメ」「サメ→フカ」と言う言い方もある。

*4 当時の毘売埼が面していた中海は日本海と繋がっており、干潟も存在していたため浜辺を歩く人間をサメが襲うことは不可能ではないという意見もある

*5 サメは川を遡ることは多いし、川をせき止められてストーキングを断念するところはむしろサメの補強材料とも言える