犬神家の一族

登録日:2016/03/04 (金) 12:06:10
更新日:2020/04/28 Tue 14:12:32
所要時間:約 8 分で読めます




『犬神家の一族』は、横溝正史の長編推理小説。「金田一耕助シリーズ」の一つ。
様々な他メディア化作品があり、市川崑監督による映画版は、「日本映画の金字塔」として名高い。
またアニヲタ関連では2017年に関智一が、自身率いる『劇団ヘロヘロQカムパニー』にて自ら主演・脚本・演出を行った舞台版を上演している。


以下、ネタバレ要素を含みます。


【あらすじ】

信州財界の大物・犬神佐兵衛が莫大な財産を残して他界した。
佐兵衛には母親の違う娘が3人おり、皆婿養子をとり、それぞれに息子が1人ずついたが、お互いが反目し合っている。

遺産の配当や事業相続者を記した遺言状は、長女松子の一人息子佐清が戦地から復員してから発表されることになっており、一族は佐清の帰りを待つところとなっていた。

そんな中、犬神家の顧問弁護士を務める若林豊一郎から、調査依頼を受け取った金田一耕助は犬神家の本宅のある那須湖畔を訪れた。
若林は佐兵衛の遺言状を盗み見てしまったらしいが、耕助と会う直前に何者かによって毒殺されてしまう。

そんな中、佐清が帰ってきた。
しかし、佐清は戦場で手傷を負い、ゴムマスクを被った不気味な姿となっていた。

公開された遺書の内容は、
「全相続権を示す犬神家の家宝“斧*1・琴・菊”の三つを、野々宮珠世に与えるが、珠世は佐清、佐武、佐智の佐兵衛の3人の孫息子の中から、配偶者を選ぶものとする。もし、珠世が3人を配偶者に選ばないか、死亡した場合には、全財産を5分割し、5分の1ずつをそれぞれ佐清、佐武、佐智が、残りの5分の2を青沼静馬物が相続するものとする。」
という、3姉妹の確執を煽り立てるような、実に奇妙なものであった。

3姉妹の仲はいよいよ険悪となり、珠世の愛を勝ち得るための骨肉の争いが始まることとなる。
そんな中、佐武が生首を「菊」人形として飾られて惨殺される。
それは、“斧・琴・菊”に見立てられた、犬神家連続殺人事件の始まりであった…。


【登場人物】


ややこしいので、最初に系譜を示しておく。


※編集者自身が作成



金田一耕助
私立探偵。じっちゃん。
貧乏書生風の見た目でもじゃもじゃ頭が特徴。
如何にも頼りなさげな風貌だが、実は明晰な頭脳の持ち主。


■野々宮珠世
本作のヒロインで副主人公。
絶世の美女で勘が鋭い。
佐兵衛の恩人、野々宮大弐の孫で、両親の死後に佐兵衛によって犬神家に引き取られた。
遺言の開示前から何度か命を狙われている。
遺言状により犬神家の財産の全ての相続権のカギを握る存在となってしまう。
警察からは容疑者として疑われてしまうが…


■犬神佐兵衛
犬神財閥の創始者で先代当主。
一代で犬神財閥を為した傑物。 (製糸会社だったり、製薬会社だったりと媒体によって異なる。今項目では製糸会社として扱う)
一代で犬神製糸会社を設立した地元の名士だったが、生涯正妻を娶らず、娘の松子、竹子、梅子はそれぞれ違う女との間に生ませた子である。
さらに、三姉妹とは別に青沼菊乃という愛人との間に青沼静馬という息子がいる。



■犬神松子
三姉妹の長女。
犬神家本家を預かる。未亡人。
非常に勝気で苛烈な性格で凛とした姿勢を崩さない。
亡き夫の忘れ形見である佐清を溺愛している。

■犬神佐清
松子の一人息子。
美青年かつ好青年で、珠世とも仲が良かったが、戦争で顔と頭に酷い傷を負ってしまう。
なので、松子が東京で作らせたゴム製のマスク姿で犬神家へ戻ってきた。
頭に大きな傷を負ったため、記憶障害を起こしている。
また、戦争のつらい経験が彼を大きく変えたのか、人が変わったかのように暗い性格になってしまった。
4番目の犠牲者で、絞殺されたうえで凍った湖に足2本を突き出した状態で発見される。
これは「スケキヨ」という字を縦に描いてひっくり返して





これを半分かくして





という判じ物になっている。
おそらく本作で最も有名な人物。『犬神家』と言われたら思い浮かぶのは犠牲になった彼の姿。



■犬神竹子
三姉妹の次女。
小山のような体型。直情的な性格。
マスク姿の佐清が偽物ではないかと疑っており、梅子と結託する。

■犬神寅之助
竹子の夫。
犬神製糸東京支社長。空気。

■犬神佐武
竹子の息子。
プライドが高く、不遜なところがある。
2番目の犠牲者で、首を切り落とされたうえでその首を菊人形の首と挿げ替えられた状態で発見される。

■犬神小夜子
竹子の娘で佐武の妹。
親と違いおとなしい性格。
佐智の婚約者で、彼の子供を身ごもっている。



■犬神梅子
三姉妹の三女。
三姉妹では一番美人だが一番底意地が悪い。

■犬神幸吉
梅子の夫。
犬神製糸神戸支社長。寅之助同様空気。

■犬神佐智
梅子の息子。
卑劣漢で、珠世を薬で眠らせてレ○プしようとしたが、「影の人」と名乗る何者かの妨害によって失敗に終わる。
3番目の犠牲者で、首を絞められて殺される。
首には琴の弦が幾重にも巻き付いていた。



■古館恭三
弁護士。古館法律事務所所長で犬神家の顧問弁護士。
佐兵衛の遺言状の管理を任されていた。
金田一耕助に調査を依頼し、彼に信頼の念を抱くようになる。

■若林豊一郎
古館法律事務所に勤務する弁護士。
最初の犠牲者。
犬神家の遺産相続問題に関して金田一に捜査依頼をするが、金田一と会う直前に毒殺された。

■猿蔵
珠世の世話役の下男。
もとはみなしごだったが珠世の母・祝子に拾われた。
そのため、珠世には非常に忠実。
力自慢で、珠世の世話だけではなく、ボディーガードの役割もこなす。
菊の栽培が趣味で、菊人形の腕前は達人級。
怪しい言動が多いため、警察からは真っ先に珠世の共犯の容疑者として疑われていた。

■宮川香琴
松子の琴の師匠で犬神家にたびたび出入りしている。
目が不自由。


■青沼菊乃
50代の頃の佐兵衛の愛人となった女。
佐兵衛は正式に妻に迎え入れようとするほど入れ込んでいたようだが、財産を取られることを恐れた三姉妹の非常に苛烈ないじめにあい、行方をくらませた。
まぁ、自分たちと似たような年の女が父親の愛人になっていると知ったら、面白くない気持ちもわかるだろう。

■青沼静馬
佐兵衛と菊乃の息子。三姉妹にとっては異母弟にあたる。
菊乃が連れて逃げたため行方不明。
年齢的には佐清・佐武・佐智と同年代。
遺言状により犬神家の財産の相続権のカギを握る存在となる。



以下、物語の核心に迫るネタバレ注意!
































物語終盤、珠世の部屋に顔を隠した曲者が侵入する。
猿蔵に組みつかれ、警察の追跡の末につかまったその男は…犬神佐清その人であった!


■本物の犬神佐清
犬神佐清は生きていた。
顔にキズなんて負っていないし、マスクも被ってないし、湖にさかさまに突っ込んでもいなかった。
これらの有名な“スケキヨ”は実は佐清ではなかったのである。
珠世の窮地を救った「影の人」の正体は彼だった。

戦争中、彼は現地で部隊長に任じられていた。
しかし、彼のわずかな判断ミスによって部隊は全滅、皮肉にも隊長の彼はただ一人生き残ってしまい、米軍の捕虜になったのである。
元来生真面目な性格で、“生きて虜囚の辱めを受けず”そういう教育を受け続けてきた彼は、犬神家の家名を汚さないために、米軍に捕まってから祖国の土を踏むまで、ずっと偽名を使い続けていた。
また、捕虜になっていたため、他の復員兵に比べて日本に帰国するのが遅くなってしまった。
これらのことが大きな悲劇を生んでしまったのである。

では、佐清の名を語ったマスク姿の“スケキヨ”の正体は誰だったのだろうか…


■青沼静馬
偽物の佐清の正体。
マスクも被っていて、湖にさかさまに突っ込んでいた本作を代表するキャラクター“スケキヨ”だが、実は“スケキヨ”ではなく“シズマ”だったのである。

戦中、前線において静馬と佐清は一時期同じ部隊にいた。
彼ら二人は背格好や顔つきが非常によく似ており、部隊ではちょっとした評判だったそうである。
親同士の怨恨があったにもかかわらず、二人は仲良くなり、佐清の優しさに触れた静馬も復讐を水に流そうと思い始める。
しかし、戦争が激化し、二人はバラバラの部隊に所属することとなる。
そして、佐清の部隊は全滅、静馬は顔に大きな傷を負ってしまった。
佐清の部隊が全滅したと聞かされた静馬は、佐清も戦死したと思い込み、自分が佐清に成り代わることを思いついたのである。

では、なぜ佐清は静馬の事を、そいつは自分の偽物であると糾弾しなかったのだろうか?

それは、佐清が静馬を責めていた時、二人がある光景を見てしまったからである。
その光景とは、佐清の母・松子が、佐武を絞め殺す決定的瞬間であった…!!



■犬神松子
一連の殺人事件の真犯人。
買収した若林から遺言を事前に受け取っていた彼女は自分の息子・佐清に跡を継がせるため、他の跡継ぎ候補であった佐武、佐智を殺害したのであった。
若林を殺害したのは口封じのためである。
しかし、息子のために行った彼女の犯行は、皮肉なことに息子の佐清を決定的なまでに追い込んでしまった。
ハッキリ言ってしまえば、彼女が犯した殺人は何の意味も持たなかったのである。

ただし、佐武・佐智を殺害したのは松子であったが、菊人形の首を挿げ替えたり、琴の弦をからめたりと見立てを行ったのは彼女ではない。
これらを行ったのは静馬と、彼に脅迫された佐清であった。
静馬は母を苦しめた三姉妹への復讐と、犬神家の完全な乗っ取りのためにこのような行動を起こしたのである。
そのために、死亡推定時刻と見立てを行えた時間との間に大きな差が生じ、本事件の捜査を困難なものにしていたのである。

松子は、“スケキヨ”が偽物であることには全く気が付いていなかったが、見立てを行っていたのが彼であることは薄々感づいていた。
そして、とうとう“スケキヨ”の正体が静馬であることを知り、衝動的に彼を絞め殺してしまったのである。

全てを告白した後、松子は珠世に佐清と結婚する意志はあるかと尋ねた。
彼女の返事はYESであった。
その答えを聞くと、松子はこの後生まれてくるであろう小夜子と佐智の子供に財産を半分分けてあげるようにと珠世に頼んだ。妹達へのせめてもの罪滅ぼしとして。
そして、その直後に、キセルに仕込んでおいた毒をあおぎ、哀しき希代の殺人鬼・犬神松子は息を引き取ったのであった……



■野々宮珠世
実は彼女の母・祝子は犬神佐兵衛と大弐の妻・晴世との不倫の末に生まれた娘で、彼女は佐兵衛の孫にあたる。奇妙な遺言の原因はこれ。
つまり、珠世は佐清の従妹、静馬の姪にあたる。
静馬はこのために進退窮まり、復讐は完全に詰んでしまう。そして松子に正体を知られてしまった。

最終的に、佐清が出所するまでの間暫定的な当主となり、犬神家の財産を管理する事に。
そしてもともと懇意にしていた犬神佐清と、彼の出所後に結ばれることとなった。
彼女には幸せになってほしいものである。

ちなみに、大弐は今で言うゲイであり、佐兵衛とは愛人関係であった。(最近の作品では配慮からか、性的不能者であったとも表現されている)
その為、妻の晴世は結婚しても処女のままであった為、大弐は妻への申し訳なさから、佐兵衛と晴世の関係を黙認していたのである。

■犬神佐清
結果的に、彼の行動が本事件の最大の引き金となってしまった。
しかし、彼の状況を考えれば、そのことで彼を責めるのは酷というものであろう。
自分の母が人を殺す瞬間を目撃してしまった彼の苦悩は計り知れないものがある。

彼は事後共犯の罪に問われることになるが、事実上の共犯は静馬の方であり、佐清は無理やり従わされたに過ぎないので、情状酌量の余地は十分にあるという事である。
出所後は犬神家の立派な当主となって、珠世や小夜子達を幸せにしてあげられるように頑張ってもらいたいものである。

■犬神佐武、犬神佐智
相続候補であるからと殺された哀れな人達。
…だが、佐智は小夜子という婚約者がいながらも、犬神家の財産の独り占めの為に彼女を裏切って珠世を手籠めにしようとしたクズ野郎だった。
(佐武も珠世に迫ってはいたが、佐智のように卑怯な手段をせずに直球で求婚しただけマシと言える)
佐武はともかくも、佐智は殺されても仕方ないといえるだろう。

■犬神小夜子
祖父の復讐に振り回され、恋人に裏切られ、その挙句に死なれてしまうというある意味この事件最大の被害者。
事件後はあまりのショックで精神を病んでしまった。
その後は彼女には時間を掛けてでも立ち直って、その子供にも、幸せになってほしいものである…。

■青沼静馬
母の復讐のため、佐清になり変わって犬神家を乗っ取ろうと企てる。
が、佐清との友情も紛れも無く本物であり、チャンスがいくらでもありながらも、彼を殺そうとだけはしなかった。叔父としての親愛の情が、最後の一線を踏み止まらせていたのかもしれない。
一度は復讐をやめようと思ったのも事実だったが、度重なる偶然の一致が、押さえ込んでいた復讐心に火を付けてしまう。
顔に負った火傷は彼の顔だけでなく、その心も醜く歪めてしまった…。

だが結局は父の復讐に振り回され、最後には異母姉に殺されてしまった不幸な青年だった。
ほんの少し運命の歯車が狂わなければ、佐清を通じて姉たちと和解して、犬神家の一員として幸せな人生を歩める道もあったであろうと思うと残念でならない…。
ぶっちゃければ静馬が余計なことをしなければ、全て丸く収まっていたかもしれない事は内緒。

■犬神佐兵衛
この事件の元凶。
ぶっちゃけ彼が変な遺言を残さなければ、今回の惨劇は起こらなかった。

無茶苦茶な遺言の意図は、初恋の女性との孫である珠世以外の孫たちを互いに争わせ、自滅させるためだった。
確かにイジメをした娘たちには罪はあったかもしれないが、それに巻き添えを食った孫たちはたまったものではないだろう。
特に静馬は晴世以来恐らく本気で惚れた女性との間に生まれた息子であるのにも関わらずである。
あまりにも短絡過ぎた復讐計画と言えるだろう。

■猿蔵
佐清からは自分より珠世に相応しいと思われていたが、猿蔵自身は珠世に対しては恋愛感情を持っていなかった。
むしろ恋愛感情を飛び越え、妹を見守る兄のような感情を持っている。

■宮川香琴
彼女の正体は、行方知れずの青沼静馬の母・青沼菊乃であった。
その後再婚して姓が変わり、琴の流派に入門して「香琴」の名を襲名したとの事。
松子に琴を教えていたのは、実は息子の復讐を見届けようとしていた…とか、隙あらば松子の寝首を搔こう…という意図は全然なく、全くの偶然だった。
彼女自身は、既に松子達を許していたのである…。
しかし、何たる運命の皮肉か、すぐそばにいながら、親子の再会は叶わなかった。
母の真意を知っていれば、静馬も復讐など考えなかったかもしれない…。






追記・修正お願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

添付ファイル