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自己投影

登録日:2016/06/16 Thu 01:21:51
更新日:2026/05/10 Sun 03:24:44
所要時間:約 5 分で読めます




自己投影とは、創作に対する感想の文脈で生まれた俗語で、作者又は読者/視聴者の「自己」が創作物*1に「投影」されている状態を指す。
より砕いて言うと、「自分自身やその理想をキャラクターに重ね合わせる」こと。
英語での同義語は「Self-insert」で、直訳すると「自己の挿入」となる。
このことからも分かるとおり、よく混同されるが、心理学における「投影(Psychological projection又は単にProjection)」とは異なる概念。
最大の特徴は、「自他の境界が曖昧になる」*2ことであり、その点で「感情移入」「共感」とも異なる*3
なお、心理学の用語のうち自己投影に近い意味のものは、「同一視(Identification)」や「偽共感(False-consensus)」等になる。
もっとも、俗語だけに明確な定義づけがなく、上述のどれとも異なる一方で、完全に一切関係ないということもない。それ故に非常にややこしくもある。


概要

この言葉は、「○○はこのキャラクターや作品に自己や理想を投影している」という形で使用される。
主に作者という発信者に対して言われることが多いが、創作物の製作ではなく解釈において生じるものなので、読者/視聴者といった受け手側も対象となり得る。

率直に言ってしまうと、人間が主観と感情の生物である以上、自己投影とは、究極的にはあらゆるどんな作品にも存在するものである
それは自己投影とは必ずしも100%自分の分身ではなく、部分的な投影もあり得るからだ。と言うか、実際にはそちらの方が圧倒的に多い。
例えば、主人公が理想的超人であり、等身大の人間≒自分の分身と思えなくても、それはそれで「ヒーローならこう言って欲しい」「自分がヒーローだったら言いたいことを言ってくれた」という「理想・願望の投影」があり得る。
また、必ずしもポジティブな理想の投影だけでなく、「自分の嫌だと思うところ」を切り取って主軸にしたキャラクターのように、ネガティブな自己投影もある。

なお、客観性と必ずしも完全に相反するものではなく、「キャラに自分の思想を代弁させている」「自分はこの主人公に自己投影して楽しんでいる」等と明言して自覚的に自己投影を行う人たちもいる。
また、作者の立場において、対立するキャラをできるだけ公平に描写したいのだが、どうしても一方に肩入れしそうな時など、敢えて両方に異なる自己投影要素(或いは逆に共感できない要素)を作るといったテクニックもある。
総じて創作とは切り離せない要素であり、切り離して創作する、また切り離して創作物を楽しむことは不可能と言える。


問題視されやすい点

しかしながら、この「自己投影」。実際にはポジティブな褒め言葉として使われることはまず無く、作品を批判する文脈で使用されることが殆どである

まず、褒め言葉で使われることが無い理由としては、先ほど説明したとおり「あらゆる作品に必ずあるものだから」である。
つまり、これの有無は作品の出来に一切関係しない。
「使い方が上手いか下手か」という程度問題はもちろんあるのだが、絶対にあるものである以上、「ちゃんとコントロールして当たり前」という認識が受け手にあることは否めない。

そして、批判用語として使われることが多い理由も、やっぱり「あらゆる作品に必ずあるものだから」である。
加えて、生まれて日の浅い俗語のために定義が曖昧であり、反論しづらいことから批判の定型句として便利という面は否定できない。
何より、自己投影とは即ち自分の価値観を表に出すということであるため、その価値観が合わない層から不興を買うことは避けては通れないのである。
人間、どんなにもの分かりの良さをアピールしていても、自分と異なる思想・価値観には本能的に不快感を催してしまうもので、自分が同調した思想・価値観を否定されれば尚更である。
理性的かどうかとは、如何にその不快感を抑えて理解しようと努めるか、また不快を表明するとしてどのようにするか、という点にかかってくる。
つまるところ、自己投影への批判もまたあくまで主観的な感想であるため、自己投影は絶対悪ではなく、その批判は絶対的に正しい訳ではない一意見であることには注意したい。


誰に、何に、自己投影しているのか?

創作物ではなく、作者が読者/視聴者に、又は読者/視聴者が作者に自己投影しているということもあり得る。
例えば作者が、ストーリーラインの物語を作ったとしよう。
作ったお話 考えられる作者自身の願望
1 異世界に行った主人公がイケメンで、最強で無双して、みんなに肯定されて、モテモテになる話 異世界でイケメンで最強になってハーレムを作りたい
2 現代でブラック企業に勤めるブ男のダメ人間の主人公が、失敗ばかりで、女性には嫌われ、最後には死ぬ話 報われないダメ人間という存在は自分は親近感を感じるし、読者にも共感して欲しい
3 女の子たちが日常をゆるゆるしてるだけの話 自分は女の子になって他の女の子と一緒に過ごすのは楽しい

書いておいて何だが、これらの作者が本当にこんな願望を持っているかどうかは実のところ分からない。
では、作者は何でこんな話を書いたのか?
一つには「物語として面白いと思うから」かもしれないし、特に商業であれば「読者のニーズがそこにあると思ったから」かもしれない。
一方で、これらを見た受け手の中には「俺はこんな超人にはなれない」「リアルがキツいのに創作でまでこんなん見たくねえや」「女の子になるんじゃなく眺める傍観者がいいんだよ(迫真)」という感想になる者も当然いる。
作者の意図と受け手の多様なニーズ、それらが噛み合うか噛み合わないかまで考えていくと、果たして「自己投影されたもの」か「客の好みを反映し(ようとし)たもの」なのかの厳密な区別が困難である。

そして、その中で「自分がこう思うのだから、相手もそう思うに違いない」と考えるなら、「相手に自己投影している」ということになる。


関係のありそうな心理学における概念について

投影

心理的な防衛機能の一種。
自己の認めたくない感情を、他の人間に押し付けてしまうような精神的働きを言う。
たとえば浮気している人が、本来のパートナーに対して、以下のように思い込むことなどが挙げられる。
  • 「あいつは浮気されるような問題があったのだ」
  • 「先に浮気したのはあいつの方だ。私が仕返しに浮気するのは当然だ」*4
自分は浮気をするような不誠実な人間であると認めたくないため、浮気をした原因を相手に押し付けている。
ちなみに、仮にこのことで自分に失望したパートナーが本当に浮気した場合、大元の原因が自分にあることを棚に上げて「ほーらやっぱり。パートナーは自分が思ったとおりの不誠実な人間だった」と勝ち誇るのを、投影同一視という。

自分に関係ないことでも、例えば「学校でいじめを受けた生徒が自殺した」というニュースを聞いた場合に、
といった風に思い込もうとすることも当てはまる。
逆に、
  • 「いじめた連中は勿論のこと、こんな酷いいじめを野放しにした学校や保護者も許せない!厳罰を課せ!」
と強い義憤に駆られてSNS等に書き込んだりするのも当てはまる。
一見真逆のようであるが、これはどちらも「この事について何もできなかったと感じてしまう後ろめたさ」や「自分もいずれ酷いいじめに遭ってしまうのではないかという不安」から目を逸らすために他者に原因を求めるという点で共通している。

同一視

 自分と相手を同じ存在と見なすこと。
 これが進むと、相手をあたかも自分の分身であるかのように扱い出し、相手がそこから外れる事に強い反発を示すようになる。
  • 典型的なケース
親友「主人公モテない者同士帰ろうぜ~」
ヒロイン「主人公くん一緒に帰ろう♪」
親友「こ、この裏切り者!」

自分はモテない人間で同じく主人公もモテない人間と思い込み、親近感を抱いていたが、ヒロインの登場により瓦解したケース。
裏切り者呼ばわりしているが、勝手に同類認定されていただけで主人公は別に裏切っていない。
ただし事前にモテない同盟などを組んでいた場合は抜け駆けという形になり、この限りではない。

偽共感または偽の合意形成

自分がそう思ってるんだから、みんなそう思ってる」という思い込み。
「みんな」ではなく、特定の個人の場合もある。
  • 典型的なケース①
「私を含めみんなが主人公を疑っているのだ!」
「ぶんぶんぶんぶん(激しく横に振る×全員)」
断罪ものなどで公衆面前で相手を裁こうとしている際に自分は疑っているから周りも疑っていると他人に自己投影した結果。
勝手に同意者扱いされた周囲は巻き込まれないために否定していたりする。

  • 典型的なケース②
「ヒロインが主人公を好きなわけがない。そうだ魅了魔法にかかっているに違いない」
「私は主人公のことが好きなの。あなたの妄想を押し付けないで!」

自分が主人公に魅力を感じないので、そんな主人公をヒロインが好きになるはずがないと思い込み、その理屈に合う妄想を投影することによりヒロインが主人公を好きなのは何かの間違いとしている。
理由がリアルと創作の壁を越えて「ヒロインにガチ恋している(主人公に取られたくない)」から、なんて場合もあったりする。

レッテル貼り

上記のいずれかを拗らせた結果、短絡的に他人を決めつけて攻撃しようとする行為。

  • 典型的なケース
ハーレム作品書いてる作者はモテない人間(自分はモテない人間じゃない、モテないのは作者だ)」
「作者は既婚者だぞ」

ネットでよく見られる、投影を拗らせた一種。
殆どの小説・漫画・アニメなどの創作物では主人公が成長したり、周囲から認められたり、恋人が出来たりなど幸せになる展開が多い。
そういった展開に劣等感を刺激されてしまった人間は、自身の劣等感を自覚してしまうが自覚するとストレスになるためそれらを避けるために相手の事を貶めようとする。
ネットの発達とともに増加しておりサイトの広告で目にしてしまう・ネット小説の増加に伴いシチュエーションをタイトルに盛り込んだ作品など増えたため視認性が上昇してしまったため。

追記・修正は自己投影している人がお願いします。

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最終更新:2026年05月10日 03:24

*1 登場人物(キャラ)に限らず、世界観設定、ストーリー展開、描写等のいずれか又は全ても含む。

*2 対象を自分の分身か代弁者のように扱い出すということ。とは言っても感情面の話であり、自己認識そのものが特定のキャラになりきってしまう事ではない。ミームを例にして言えば「○○ わたし にてる」でも充分該当する。

*3 ただ、それらと重なる部分もある。特に過剰になって「入れ込み過ぎ」となった場合は、自己投影と区別が付けにくくなる。

*4 当然ながら、この場合パートナーは本当に浮気などはしておらず、それらしい状況証拠を頭の中ででっち上げて断定しているだけである。