ジェイコブス・ラダー(映画)

登録日:2016/07/07 Thu 04:36:14
更新日:2016/10/31 Mon 17:50:51
所要時間:約 8 分で読めます




人は、一日に一歩ずつ

“ジェイコブの階段”を登っている。




■ジェイコブス・ラダー

『ジェイコブス・ラダー(原:Jacob's Ladder)』は1990年に公開された米映画。
主演は後に『ショーシャンクの空に』(94年)で知られる事になるティム・ロビンス。
この他の出演者としては同年公開の『ホーム・アローン』(90年)で一躍子役スターとなるマコーレー・カルキンがジェイコブの息子ゲイブを演じている。

脚本は同年に公開されて大ヒットを記録した『ゴースト/ニューヨークの幻』(90年)を書いたブルース・ジョエル・ルービンで、彼が80年に見た地下鉄に閉じ込められた悪夢地獄に繋がっているイメージを基に、ロベール・アンリコの短編『ふくろうの河』(62年)*1のアイディアに、タイトルにもなっている旧約聖書の故事を加え、
更にチベット密教の要素*2を取り入れて本作の脚本を完成させたという。

長らく「アメリカンフィルム」誌のハリウッドの手つかずの未製作脚本ベスト1に選ばれていながら映像化されていなかった脚本を『フラッシュダンス』(83年)等で知られるエイドリアン・ラインが映画化。
製作やスタッフもラインの呼び掛けにより結集された豪華な顔ぶれである。

ジャンルはサスペンス、スリラーと紹介される事が多いものの、不条理で難解な物語不可解で奇妙な現実離れした場面が挿入されていく展開が続くことからホラー映画と見なされる場合もある。

こうした映画は普通なら賛否両論となりそうなものなのだが、残酷で救いがない物語であるにも関わらず本作の評価は非常に高い。

……恐らくは、ラストにて明かされる物語の真相が明確なものであり、それが誰にでも降りかかる普遍的な「死」がテーマである事が理由であろう。
エイドリアン・ライン監督のインタビューによれば、本作の公開後にAIDS協会から“この映画のイメージを患者に見せたい”との申し出があり、それを聞いて“自分達が伝えたい事が伝わった”との想いを強くしたという。

劇伴を担当したのは『危険な情事』(87)でラインと組み、奇しくも『ゴースト/ニューヨークの幻』も手掛けたモーリス・ジャール。
生と死の物語を繊細な旋律が彩る。

【物語】

70年代の初め。
ベトナムに従軍していたジェイコブの部隊は敵の襲撃を受ける。
迎撃しようとしたジェイコブ達だったが、突如として仲間達が激しい頭痛や異常な行動に見舞われ周囲は混乱。
ジャングルに逃げ出したジェイコブもまた、腹を敵兵の銃剣で刺し貫かれる。

……次にジェイコブが目を覚ましたのはニューヨークの地下鉄の中。
さっきまでのは従軍時代の悪夢だったのだ。

しかし、目覚めてからもジェイコブには奇妙な感覚が付きまとう。
自分を凝視したまま無視をする女性。
座席に寝転んでいたままの男から覗く触手のような物体……。

寝過ごしたジェイコブが仕方なく降りた駅では何故か扉が閉鎖されていた。
線路を渡ろうとしたジェイコブに突如として侵入してきた列車が襲いかかる。
何とか避けたジェイコブが見た車両の窓に張り付いた顔、顔、顔……。

共に郵便局で働く恋人ジェジーの待つアパートに帰りついたジェイコブは翌朝、別れた家族の写真が届けられていた事を知る。
従軍前に事故で亡くした末子のゲイブの写真に涙を流すジェイコブ。

……ジェイコブの受難は続く。
自分を突如として轢き殺そうとした“化物”の運転する暴走者。
クラブでは占いの得意な黒人女性エルザに「貴方は死んでいる」と告げられ、照明と音楽の狂乱の中でジェジーが“悪魔”に犯されるのを目撃する。

絶叫の中で気を失ったジェイコブをジェジーは罵るが、ジェイコブが異常な高熱を出している事を知ると、アパートの住人達と協力して彼を氷風呂に入れて身を冷やさせる。

……次にジェイコブが目を覚ましたのは、自分が失った筈の家族の中。
幸福を噛みしめるジェイコブだったが、それも夢。
彼は生き延びたのだ。

自分を診ていた医者も居なくなってしまい、無気力の中でアパートに籠りジェジーにも呆れられていたジェイコブに嘗ての戦友ポールが連絡してくる。
バーで出会ったポールは憔悴し、ジェイコブと同じ悩みを抱えていた。

ポールと“痛み”を共有したジェイコブは彼を励ますが、別れようとした直後にポールの乗り込んだ車が爆発。

ポールの葬儀で再会した戦友達と共にポールが“殺された”事や、自分達が同じ“苦しみ”にある事を確認したジェイコブ達は凡ての原因がベトナム従軍時代にあると判断し、弁護士を頼るが……。

【登場人物】


■ジェイコブ・シンガー
演:ティム・ロビンス
主人公。
ベトナム従軍の最中に生死を彷徨った経験を持つ。
帰国後、家族と別れて郵便局で配達員として働く。
文学の教授の肩書きを持つ。

■ジェジー
演:エリザベス・ペーニャ
ジェイコブの恋人。
理想の恋人にして母親。
そして、最悪の敵。

■ルイ
演:ダニー・アィエロ
ジェイコブの掛かり付けの整体師。
従軍中に傷めたジェイコブの背中を唯一癒せる存在。

■マイケル
演:マット・クレイヴン
ジェイコブが通院していた筈の精神病院で出会った医者。
ジェイコブの主治医の後釜だと云うが……?

■ポール
演:プルート・テイラー・ビンス
ベトナム時代の戦友。
ジェイコブと同じ“幻覚”に悩まされている。

■ギアリー
演:ジェイソン・アレクサンダー
弁護士。
ジェイコブ達の訴えを最初は快く引き受けてくれたが……。

■サラ
演:パトリシア・カレンバー
ジェイコブの別れた妻。

■ゲイブ
演:マコーレー・カルキン
ジェイコブの末子。
ジェイコブの従軍前に事故で夭逝している。

【特殊効果】

本作の語り種となっている特殊メイクアップを手掛けたのは『戦慄の絆』(88年)等で知られるゴードン・J・スミス。
まだCGが未熟な時代という事もあってか、何と本作に登場する異形は、全て現場での特殊メイクや小道具、奇形の役者による現物である。
また、本作の象徴でもある回転して震える頭部は、現代芸術家フランシス・ベーコンの絵画等から得たイメージを基に、役者の頭を振る演技に加工を施したもの。
その強烈なイメージは以降の映画にも影響を与えた他、ゲームファンには『サイレントヒル』シリーズのヴィジュアルイメージの源泉としても知られる。
タイトルによっては、あからさまに『ジェイコブス・ラダー』を思わせる演出や場面や用語が登場している程で、ゲーム内のイメージの映像化例と云う意味では、ゲームを原作とした映画版以上に、原作ゲームが影響下にある本作の方がイメージが近いとすら言えるレベルである。
長らくDVDが高額化する等して試聴の機会に恵まれなかった本作だが、Blu-ray版の発売により市場価格が普通になった。

ホラー好きや『サイレントヒル』好きなら是非とも試聴していただきたい所である。

【ヤコブの梯子】

本作のタイトルである『ジェイコブス・ラダー』とは、旧約聖書の故事の一つである『ヤコブの梯子(Jacob's Ladder)』の事である。


(ここ)にヤコブ 一處(あるところ)にいたれる(とき) 日暮(ひくれ)たれば即ち其處(そこ)に宿り其處(そのところ)に臥て(いね)たり
時に彼夢(かれゆめみ)(はしだて)の地にたちゐて其嶺(そのいたゞき)の天に(いた)れるを() 叉神(またかみ)の使者の(それ)にのぼりくだりするを見たり
ヱホバ其上(そのうへ)に立て言たまはく(われ)(なんじ)祖父(ちゝ)アブラハムの(かみ)イサクの神ヱホバなり 汝が(ふす)ところの地は我之(われこれ)を汝と汝の子孫に(あた)へん
また我汝(われなんぢ)とともにありて(すべ)て汝がゆく()往ところにて汝をまもり汝を此地(このち)率返(ひきかへ)るべし 我はわが汝にかたりし事を行ふまで汝をはなれざるなり
ヤコブ目をさまして言けるは誠にヱホバ此處(このところ)にいますに我しらざりきと
(すなは)惶懼(おそれ)ていひけるは(おそ)るべき哉此處是即(かなこのところこれすなは)ち神の殿(いへ)の外ならず是天(これてん)の門なり

ー旧約聖書・創世記よりー




【人名対応表】


■JACOB ジェイコブ JAKOB ヤコブ
※後のイスラエル12支族の父。父イサクと兄エサウを欺き逃亡中、八方塞がりとなった暁に天まで通じるはしごの夢を見、怨された身となる。

■JEZZIE ジェジー JEZEBEL イゼベル
※イスラエルの王Ahabの邪悪な妻

■MICHAEL マイケル MICHAEL ミカエル
大天使

■ELZA エルザ ELISHA エリシア
※紀元前9世紀頃のヘブライの予言者

■GABE ゲイブ GABRIEL ガブリエル
※七大天使の一人、人間への慰めと吉報の天使

■PAUL ポール PAUL パウロ
※キリストの使徒、初期の偉大な伝道師

■GEARY ギアリー GALLIO ゲリオー
※宗教上の問題に干渉する事を拒んだローマの地方総督

■SARAH サラ SARAH サラ
※アブラハムの妻でイサクの母、ヤコブの祖母、妻の模範と言われる

【余談】


※公開されたバージョンでは、劇中でも最も強烈な二つのシーンがカットされている。
ソフト版では特典映像として見ることが出来るが、これをカットしたのは「やりすぎ」と感じた為との事。
……実際に見た視聴者からの反応も微妙で、迫力はともかくカットされていなかったらただのB級ホラーになっていたとの声も。

※映画の内容から反戦のメッセージを受け取る人間も居るが、監督を始めとしたスタッフらのインタビューからはそうした意図は感じられない。
もっと根本的な「死」が主題であるとされるのが一般的な解釈である。







追記修正は「ヤコブの梯子」が天国に通じていると願いつつ、お願いします。

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