美々駅

登録日:2016/10/31 (月) 23:35:54
更新日:2025/04/16 Wed 15:07:57
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びび
    美々  H15
<●    Bibi    ●>
 みなみちとせ    うえなえ
Minami-Chitose    Uenae

画像1
美々駅とは新千歳空港へ列車で行こうとした者達を幾度となく陥れてきたトラップである。

概要

千歳市に存在したJR北海道の駅の一つ(無人駅)。
駅名の由来はアイヌ語の「ベッ・ベッ(川が多い)」という意味である。

所属する路線は北海道の玄関路線にして大動脈とも言える千歳線。しかも室蘭・函館および帯広・釧路への特急路線と空港への線路が交差する拠点とも言える南千歳駅の隣駅である。
それゆえ美々駅もきっと大きな駅なのだろう……。
と思うじゃん?
実際の姿はただのひなびた駅である。駅周囲に人家はほとんどなく、あるのはゴミ処理場と林だけ。まあそんな駅である。

詳細

ベッドタウンや空港と札幌を結ぶ路線という活気のあるイメージの千歳線にあるくせに、正反対の道を突き進む異端児駅である。
美々駅は林に囲まれた小さな駅だ。それ故に一部の普通列車ですら平然と通過していく。まして特急などは全速力ですっ飛ばす。
地図で見れば新千歳空港に近い……のだがターミナルビルは滑走路を挟んで向こう側にある。そのため空港客を迎えるための施設などはない。そして人家もほとんどない。
当然ながらこんな状況では利用者は非常に少ない。実際に数字にしてみると1日1人以下である。

そのさびれっぷりおよび南千歳駅&新千歳空港駅との賑わいのギャップからいつしか秘境駅と認識されるようになり、2016年度の牛山氏の全国秘境駅ランキングでは150位となっていた。
200位ある中で北海道にある秘境駅の中では最下位…嬉しいのか悲しいのよく分からなかった。

主要空港にほど近いさびれた駅と言えば成田空港最寄駅「だった」東成田駅が思い浮かぶかもしれないが、この美々はそことはまた違った雰囲気である。
なにせあちらは一応空港通勤客に対する需要は未だあるらしいのに対し、こちらは正直どんな需要があるのか分からない代物なのだ。まさかJR公認トラップとして存在してるんじゃないよね?

そして何より美々駅を有名たらしめているのは、空港に行こうとした旅行者専用トラップとしての実績であろう。
うっかり新千歳空港行きではない電車に乗ってしまい、さらにうっかり南千歳で降りそびれる。進行方向右手に空港が見えて焦りが増す。そこで反対方向の次の電車で戻るためさっそく止まった「びび」とかいう変な名前の駅で降りる。しかしいくらそこで待っても電車は通過こそすれ、停車はしない。そして駅舎の中にあったスカスカの時刻表を見て愕然とする……。
以上が哀れな旅行者の話としてまことしやかに語られる噂である。
それが実話であるという証拠として、駅ノートのみならず駅舎の壁には罠にはめられてしまった者達の怨嗟の声が書かれているとか。
一応JR側も間違って降りる事例を認識しているらしく、掲示板にはタクシーの連絡先である電話番号が書かれた紙が張られている。もし空港と間違えて降りてしまった場合にはそれを参考に素直にタクシーを呼んでください。ちなみに料金は空港まで大体2000円ぐらいだそうです。

つまりこうだ。「新千歳空港へお越しのお客様は奇をてらわずに快速エアポートをご利用ください」。快速列車には普通運賃だけで乗れるし(指定席を使わなければ)。
え、最寄り駅に快速エアポートが停まらない? 普通列車で快速停車駅まで行ってそこでお乗り換えください。

ちなみにこの美々駅、実は撮影スポットとしても有名だそうだ。
一つ目、鉄道関係の撮影ファン、いわゆる撮り鉄だ。
柵などに邪魔されず、それどころか接近できるほどの距離で特急や貨物列車が駆け抜けていく。*1それが迫力ある鉄道写真を撮影するのにちょうどいい。スーパー北斗やすずらんなどの現役のものから、北斗星やはまなすなどの往年のものまで、この駅で撮影された写真は意外に多いらしい。
二つ目、航空機の撮影ファンというジャンルもあるようである。
このジャンルでは空港から離陸する航空機がちょうどいい角度と距離で見られる所が撮影スポットとして求められる。新千歳空港においてはそのスポットがこの美々駅のそばにあるらしい。確かに美々駅と新千歳空港(の滑走路)は近いけど、まさかそんな需要があったとは。

あと、「びび」という名前にびびっと来た一部のオタク(not鉄)から聖地と見なされていたりもするらしい……何のオタクかはここでは伏せておく。

歴史

さて、駅周辺の光景やそのトラップ感から「なんでこんなところに駅があるんだよ」と思わずにはいられない。
その理由を探るためここで美々駅の歴史をひもといてみよう。

さかのぼること90年。1926(大正15)年に北海道鉄道札幌線が開業した。後に千歳線と呼ばれるようになる路線である。それに伴って設置された駅の一つがこの美々駅である(ちなみに同期に千歳駅などがある)。
ではなぜ設置したのか。海運業などを営んでいた犬上慶吾郎という人が所有する牧場が千歳にあり、その付近に駅を設置したかったからということらしい。ちなみにこの人、北海道鉄道の社長でもある。ああ、なかなか廃止の話が出なかったのってもしかしてそういう……。

更に言えば美々駅がトラップとなったのは1992年からのこと。つまり千歳空港が移転し、新千歳空港が開業してからのことである。それに併わせて空港最寄り駅も千歳空港駅(現・南千歳駅)から新千歳空港駅に移り変わった。*2
しかし周知徹底がなされていなかったためか、空港へ行くためにどこで降りればいいのか、そもそもどの列車に乗ればいいのか分からなかった人もいたようだ。

そして
うっかり新千歳空港行きではない列車に乗る

空港が見えてから慌てて次の駅(美々とか)で降りる

次の列車の時間を調べる

\(^o^)/

というパターンが生まれてしまったのだ。
つまり美々駅は悪くない。空港の移転さえなければただの地味な閑散駅だったのだ。
こんなことを言ったって、罠にかかった旅人の心の傷は癒やせませんがね。

だが…

そのように幾多の旅人をはめてきたこの駅にもついに年貢の収め時が来たようだ。
2016年も10月に入ろうとした頃である。地元の新聞にその知らせがとうとう書かれてしまった。
JR北海道が美々駅の廃止を検討している」との報である。
まあ千歳市的には美々駅はなくなっても特に問題ないほどに存在感がない駅であったため、あっさり廃止が決定してしまった。
一方で鉄オタ界隈では大都市に割と近かったり(札幌からの運賃930円、所要時間1時間程度)、複線かつ電化区間だったり、他の廃止候補と比べるとダントツに運行本数が多かったりする(14往復)駅が廃止されるという事実に衝撃が走ったとか。張碓駅? 伊納駅? 何のことだ?
しかしよくよく考えてみればそんな利用者に恵まれそうな条件が複数ある駅が1日に1人も利用しないことがある秘境駅であるという時点ですでに衝撃的ではある。

かくして2017年3月4日より美々はトラップ駅としての役目を終え、代わりに信号場として列車の追い越しや退避などを行う役目を負うこととなった。
そして「対・新千歳空港へ行きたい客専用トラップ」の役目は南隣の植苗駅に引き継がれることとなった。ちなみにこちらもよく普通列車に通過される駅である。ただ美々と違って駅前の人気はあるし、一応通学・通勤需要が少しあるようだが。

実際の姿

では廃止直前当時の美々駅の雄姿(?)をご覧いただこう。

もちろん特急なんか停まるはずないので、美々駅に行くためには普通列車に乗らなくてはならない。
注意すべきなのは、前述の通り美々は普通列車にすら通過されてしまう駅であるということだ。通過列車の表示に注意して、美々に停車する列車を見つけたら乗車しよう。

実は南千歳〜苫小牧の車窓はかなり寂しい光景である。まあそこから考えれば美々があんな何もない駅であることはさほど違和感はない。
苫小牧方面から札幌行きの列車に乗っていた場合は林と荒野からなる茫漠たる風景の延長に美々があるのだ。
一方で札幌方面から苫小牧行きの列車に乗っていた場合には、南千歳を出たあたりで右車窓に空港が見えるだろう。この風景から罠にはまるものが続出したのである。

さて、隣駅(植苗もしくは南千歳)を出発してしばらくするとアナウンスが放送される。
「まもなく美々です」
そうすると林の中にホームと跨線橋が見える。これが美々駅である。美々を通過しない列車なら、ここで速度を落としやがて停車する。
それでは降りてみよう。するとこう言われてしまうかもしれない。
「本当にここで降りるのですか?」
そう、美々は車掌から降りるのを咎められるような駅である。北海道には何もないがゆえに車掌や運転手に降りるのを咎められる駅が稀によくある。今では合理化という名の秘境駅廃止方針により少なくなったが、しかしまさか千歳線にこんな駅があるとは。*3

無事に降りられたらとりあえず駅舎の中に入ってみよう。
待合室は外から見た感じよりも狭いが、他にも保安要員などの詰め所があるのだろう。多分。
壁には運賃表と時刻表が張られている。時刻表は他の秘境駅と比べるととても充実しているが、やはり同じ千歳線のにぎわっている駅と比べるとスカスカだ。
またベンチも置かれており、その上に駅ノートがある。中を見てみると秘境駅と聞いてやってきました的な声も多い。ちなみに壁は新しく塗り直されたらしく落書きは見られない。
そして掲示板にはタクシーの連絡先が……例のトラップの噂は本当だったのだろうか。

駅舎の中を一通り眺めたら、次は周辺探索のために駅を出るとしよう。

\ ででん! /
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なんとこの駅、ICカードが利用可能だった。なんでや! 利用客1日1人いるかどうかなのに。
まあ千歳線がICカード対応になるのにあたり、JRのお偉いさんが一つだけ仲間はずれなのもどうかと思ったのだろう(多分)。
かくして美々は「ICカード利用可能だった秘境駅」にして「ICカード対応駅のくせに廃止になった駅」という唯一の存在になったのである。他にあってたまるか。

駅の周辺を見ると、道端にはゴミが散らばっているような気がする。後、なんか臭い。ゴミ処理場が近いのと関係があるのだろうか。
また、時折飛行機の轟音が聞こえる。そして西側を見ると飛行機の姿を見ることができるかもしれない。この場所が空港の近くであるという証左だ。逆に言えばこれら以外にこの駅と空港が近いことを示すものはない。

今度は駅から見て右側の道へ、そこから続く道の先にある踏切を渡り、線路の反対側へ行ってみよう。ちなみにこの辺の線路を突っ走る通過列車(貨物列車、特急、一部の普通列車)の数は結構多いので注意。
踏切を渡った先には千歳市環境センターがある。当たり障りのない名前になっているが、要するにゴミ処理場である。
そしてその傍らにはこんなものが。

画像3

美々貝塚である。おそらくは美々駅にある数少ない見所であろう。
冬期および日曜日以外なら千歳市環境センターの計量所で鍵を貸し出しているので、中に入って見学していってもいいだろう。
どうやら縄文時代には美々駅のそばまで海がきていたらしい。最も内陸にある「海沿いだった」貝塚で保存状態もいいなどの理由で、意外にも考古学上重要な遺跡だったりするのだ。
しかし、昔のゴミ捨て場と今のゴミ処理施設……昔も今もこの周辺が同じような扱いを受けているように見えるは気のせいだろうか。*4

メインの周辺探索はこんな感じだろうか。
みんなも、秘境駅来訪時は帰りの電車に乗り遅れないようにね!




追記・修正は鉄道の旅でうっかり乗り過ごしてえらいことになった経験のある人にお願いします。

(画像1〜3:いずれも建て主撮影)

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最終更新:2025年04月16日 15:07

*1 比喩です。実際には危険ですので通過列車がある場合には線路から離れて下さい。

*2 先程挙げた東成田駅も境遇的には南千歳駅のほうが近い。

*3 なお廃止報道が出てからというもの、車掌側も葬式鉄の存在を認識しているのか咎められることはほとんどない模様。

*4 なお最近では貝塚はただのゴミ捨て場ではないという説もある模様。