化学(高等学校)

登録日:2016/12/31 Sat 01:41:33
更新日:2023/03/28 Tue 16:41:22
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本項目では、高校で学ぶ科目としての化学について述べる。



高校・大学受験における化学の位置づけ


化学は物理・生物・地学と並ぶ高校理科の科目の一つで、物質及びその変化について学ぶ分野である。
近年高校理科の科目構成は学習指導要領が改訂される度に「○○ⅠA・○○ⅠB・○○Ⅱ」→「理科総合A・理科総合B・○○Ⅰ・○○Ⅱ」→「科学と人間生活・○○基礎・○○」(現行)と変遷している。
現在の高校理科においては「科学と人間生活+どれかの計2科目or○○基礎3科目」が必修となっており、程度の差はあれど高校生の大多数が化学に触れていると考えられる。

学習内容は理論・無機・有機の3分野に大別される。
大学入試で大問3題が出題される場合、理論・無機・有機から1題ずつ(大問4題の場合はそれに加えていずれかの分野からもう1題)という構成となることが多い。
内容のレベルは当然中学校の理科より難しくなっている…と言っても間違いではないが、中学で簡単に触れた内容を網羅的に学ぶと表現した方が正しいかもしれない。そういった性質上、英語や数学とは異なり中学の内容が理解できていなくても高校での学習に大きな支障はないだろう(これは理科・社会全般に言えることではあるが)。

理系の大学受験においては最もメジャーな科目である。文系でいえば日本史Bのポジションなのかな…
理系受験生は理科2科目を選択するのが定番であるが、物理・化学選択が大部分を占めており、残りのほとんどが生物・化学選択というのが実状である。理系の地学選択者*1はマジでいない
(ちなみに文系で例えるなら物理が日本史B、生物が地理Bポジション。理系の大学で入試で物理を使えないところはほとんどないが、逆に生物は医学部や農学部など一部でしか使えない。同じように文系の大学入試では日本史はほとんどの大学で使えるが、地理は使えない大学が結構多い。)
大学の理系学部における講義が化学既習を前提としていたり、物化選択や生化選択であれば受験できる大学の幅が広かったり、そもそも化学が自然科学の根幹に位置する分野である、といった事情のためか理系受験生には化学を学習することが半ば義務付けられているのである。

一方、計算色の強い物理・暗記色の強い生物や地学と比すると、化学は暗記も計算もてんこ盛りであり、センター試験に臨む文系受験生にはあまり薦められないかもしれない。化学に強い興味がなければ生物や地学にしておくのが無難である。
そのセンター試験であるが、理科の他科目や社会と同様に勉強した分が点数に結びつきやすい問題構成となっており、番狂わせ*2は少ないと思われる。国公立二次や私大受験で化学を利用する場合はさほど本格的な対策をしなくても高得点が望める。



高校化学で学ぶ内容


以下、高校化学の学習内容を概観する。
以下の各単元のうち、「物質の構成」「酸と塩基」「酸化還元」が「化学基礎」(一部除く)、その他が「化学」に含まれる。

物質の構成


化学の基礎中の基礎。
原子の構造や電子配置、周期律、イオン結合・共有結合・金属結合など。
化学反応式の書き方、そして高校化学最初の関門であるmolについて学ぶのもここ。さほど難しい概念ではないのでここで躓かないようにしたい。
質量保存→定比例→倍数比例→原子説→気体反応→分子説、というアボガドロの分子説までの流れも押さえておきたいところ。

物質の状態


固体・気体・液体の三態とそれにまつわる話。
何度もお世話になるであろう気体の状態方程式pv=nRTはここで学ぶ。
その他は理想気体と実在気体、固体・気体の溶解、溶液の沸点上昇・凝固点降下・浸透圧、コロイドなど。
(体積)モル濃度と質量モル濃度の違いはちょっとしたトラップ。

物質の反応


  • 熱化学
反応時に生じる(or吸収する)熱について。水酸化ナトリウムを水に溶かしたらビーカーが暖かくなったとかああいった類の話である。
この分野の肝は熱化学方程式の計算。見慣れた化学反応式の左辺と右辺を結ぶのが→ではなく=に、反応熱の項はkJ/molではなくkJとなる。
ヘスの法則のお陰で我々は化学反応式を方程式のように計算するという扱い方ができるのである。
結合エネルギーの話も絡んでくると少しややこしく感じられるが、エネルギー図の書き方を覚えるとすっきり理解できるかも。

  • 速さと平衡
高校化学の中でも特に計算色の濃い分野。
平衡ではルシャトリエの原理に関する問題が定番である。

アレーニウスやブレンステッド・ローリーによる酸・塩基の定義、電離度、pH計算、中和滴定、(えん)などについて。
電離平衡、二段階中和、緩衝液あたりの話は少々難しく感じられるかもしれない。

  • 酸化還元
酸化される=酸化数増加、還元される=酸化数減少。
その酸化数の計算方法は難しくない。
主な酸化剤や還元剤の半反応式は書けるようにしておきたい。

  • 電池と電気分解
ここで最初に学ぶのといえばかの有名な語呂、貸そうかなまあ当てにするなひどすぎる借金でお馴染みの金属のイオン化傾向である。
そしてその後にダニエル電池や鉛蓄電池などの電池や電気分解について学ぶ。
あとはファラデーの法則を用いた生成物の質量計算も問われる。96500*3という数字に何度もお世話になることだろう。

電池や電気分解の両極でどんな反応が起こるかは一見複雑に見えるが、要は一番イオンになりやすいヤツがイオンになるのであり、そこで例の語呂が活きてくる。極板・金属イオン・ハロゲン化物イオン・水と、系に存在する物質を全てピックアップし、一番イオンになりやすいのはどれかを考えるのがコツ。

無機物質


周期表に並ぶ各元素とその化合物について余すところなく学ぶ。
とは言ってもマイナーな遷移金属やランタノイド・アクチノイド、ニホニウムも含む超アクチノイド元素*4の詳細までは扱わない。

  • 典型元素
非金属+アルカリ金属+アルカリ土類金属+アルミニウム・亜鉛・水銀・鉛など。
周期表で縦に並ぶアルカリ金属・アルカリ土類金属・ハロゲン・希ガスはそれぞれ性質も似通っており纏めて理解しやすい(とはいえナトリウムやカルシウムの化合物は色々あるので改めて学ぶ必要があるが)。
窒素・酸素・硫黄などメジャーな元素の化合物は多岐にわたる。特に気体の製法・性質(刺激臭がするものや捕集法など)は一度整理しておきたい。

  • 遷移元素
クロム・マンガン・鉄・銅・銀・金などがメイン。
また錯イオンについても学ぶ。

  • 金属イオンの反応
各金属イオン水溶液と陰イオンの反応について。

生じる沈殿や溶液の色は?
塩酸を加えると塩化物の沈殿が生じる3種類の金属は?
酸性下・塩基性下それぞれで硫化水素を通じたときの違いは?
アンモニア・水酸化ナトリウムを少量または過剰量加えたときの変化は?
ベルリン青・ターンブル青とは?
…とにかく色々なパターンがあるのでひとつひとつ整理しながら覚えたいところである。

こうした金属イオンの性質を利用した系統分離に関する問題もよく見られる。
金属イオンの同定手段として「リアカー無きK村…」でお馴染みの炎色反応もある。

有機化合物


無機物質が水についての勉強と言えるのなら、有機化合物は油についての勉強である。

まずは成分分析や異性体など基礎的なところを学ぶ。
続いてアルカン・シクロアルカン・アルケン・アルキン・アルコール・エーテル・アルデヒド・ケトン・カルボン酸・エステルといった脂肪族化合物、フェノール類などベンゼン環を持つ化合物である芳香族化合物について学習する。

炭素原子から4本手が生えているせいで有機化合物の構造は非常に多岐になり得るが、官能基等構造が似通っていれば性質も似ているのでその辺りはさほど複雑ではない。
分離についても学ぶが水溶性のあるもの・水溶性のないもののうち塩基性・中性・酸性(炭酸より強いor弱い)であるものと金属イオンに比べればここも明快である。
またこの分野では油脂や石鹸にも触れる。

この分野を理解するのにオススメなのが反応経路を自分でまとめることである。*5
例えば第一級アルコールを緩やかに酸化させると何が生成するのか、それを更に酸化させると何が生成するのだろうか?
例えばベンゼンからフェノールを合成するルートを即座に複数挙げられるだろうか?
このような問われ方をした場合、反応経路を整理した経験があると答えが出てきやすいだろう。

有機分野で頻出するのが構造決定に関する問題である。
燃焼時に生じる水と二酸化炭素の量(大体それぞれの分子量である18と44で割り切れますよね)から組成式を決定する所から始まり、問題文を手がかりとして構造を解き明かす、さながらパズルのような定番問題である。
「臭素水は変色しなかった」を「二重結合はない」、「銀鏡反応を示した」を「アルデヒド基がある」といった風に、問題文の表現を構造に結びつくように言い換えられるかが鍵である。

高分子化合物


糖・アミノ酸・タンパク質・核酸・繊維・合成樹脂・セラミックス・薬品など。
特に重要なのはPETやナイロンなどのポリマー辺りだろうか。糖やアミノ酸の構造を覚えるのはなかなか骨が折れる。
ちなみに無機化合物も含まれるが大半は有機化合物である。

化学の中では特に暗記色が濃い分野と言えそうである。
一時期は「生活と物質」「生命と物質」に大別され、そのどちら(または両方)を出題するかは各大学で対応が分かれていた。

その他


  • 実験
高校の授業では実験を行う機会もあるだろう。
実際に手を動かせば机上での学習よりはるかに理解しやすいだろう。勿論事故には注意されたし。
入試では実験操作にまつわる問題も出題される。冷却水を通す方向・塩化カルシウム管とソーダ石灰管を逆にするとどうなるか・中和滴定時水で濡れてても問題ない器具…などなど定番どころは押さえておきたい。

  • 探究活動
教科書で各単元の終わりに記載されている。
上述の実験とやや被るが、定番からはちょっと外れた実験などにもチャレンジしてみようというノリ(?)であり、扱うかどうかやその程度の裁量は各学校に委ねられているといったところ。





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最終更新:2023年03月28日 16:41

*1 例えば筆者の高校では学年300人以上いる中1人しか理系地学の選択者がおらず授業が成立しなかった。こういった事情は他の高校でも多く見られる

*2 一方センターの英数国は分量が多い上に問題のレベルも地味に高く、英国は配点の高い問題が多かったり、数学は途中の計算ミスが破綻を招いたりと事故る要素が本当に多い

*3 ファラデー定数。電子1mol当たりの電荷

*4 104番ラザホージウム以降

*5 こうした反応経路図が掲載された参考書も幾つか見られるが、これを自分で作ってみるのが良い