アーバンライナー(近鉄特急)

登録日:2018/05/17 (木) 12:17:31
更新日:2024/02/20 Tue 13:30:11
所要時間:約 11 分で読めます




コスパが決め手!近鉄特急

アーバンライナーとは、近鉄が名古屋と大阪難波を結ぶ名阪ノンストップ特急用に投入した特急専用車両の愛称。
21000系と21020系の2種類が存在する。

【名阪特急冬の時代と復活】

近鉄の名阪特急は、まだ名古屋線が狭軌(1067mm)だった頃から運転されていた。途中の伊勢中川駅で乗換を要したものの、伊勢湾台風をきっかけに名古屋線の改軌工事が行われ、大阪から名古屋まで乗換なしの直通列車が設定できるようになった。
直通特急設定時は伊勢中川駅に停車して方向転換していたが、1961年3月に大阪線と名古屋線を直接結ぶ連絡線が開業したことで伊勢中川での方向転換のための停車はなくなり、所要時間を縮めることになった。

しかし、名阪特急に冬の時代がやってくる。1964年10月の東海道新幹線開業である。
新幹線は名古屋と大阪の間を1時間ちょっとで結ぶ。しかし、近鉄は四日市・津・青山高原を超えるという遠回りなルート&最高速度が100km/h台にとどまるため、所要時間が新幹線の2倍程度かかる。
近鉄の強みは大阪ミナミに近い上本町まで乗り換え無しで行けることだが、スピードではどうしても国鉄に勝てない。このため名阪間輸送における近鉄のシェアは激減し、特に新幹線と直接競合するノンストップ特急が大打撃を受けた。
輸送量が減ったのに、長い編成のまま運行を続けていたら赤字が拡大するばかり。このため、近鉄は特急の編成両数を長くても3両、最短2両で運行するようになった。

国鉄は新幹線の料金値下げ、ひかりへの自由席設定を行い、近鉄は完全にとどめを刺された形になり、一時内部では1両編成でも走れる特急電車を開発しようという案が生まれるほどだった。

しかし1976年11月、国鉄は赤字解消のために大幅な運賃・料金の値上げを実施。更に本来公務員に認められていないストライキが国鉄で頻繁に行われるようになり、乗客の国鉄離れが加速した。
これにより、近鉄に運賃・運行の安定で国鉄に対してアドバンテージが生まれ、利用者が年々増加傾向を示すようになった。

そこで近鉄は乗客にアンケートを取り、名阪特急用の新型車両を開発することとなった。これがアーバンライナー21000系である。

【車両の特徴】

利用者へのアンケートを取ったところ、名阪特急の利用者はほとんどがビジネスユーザーで、観光利用客はそこまで多くなかった。
更に利用客から
  • 座席を広くしてほしい
  • 窮屈な2階建てよりも平屋がいい
  • イヤホンで音楽やラジオが聞けるオーディオサービスの実施
  • 靴を脱いでくつろぎたい
という要望が多数寄せられた。
この要望を元に
  • 編成は営業中の増解結を考慮しない6両固定編成
  • 国鉄のグリーン車に匹敵する特別車両を2両連結する
ことを決定した。

車両紹介

21000系

1988年に登場した初代アーバンライナー。電算記号はUL01~11。
卵型の流線型の先頭形状で、スピード感を強調したスタイリング。カラーリングもホワイトをベースに、近鉄特急のイメージカラーであるオレンジを帯としてあしらうものになった。

制御方式はVVVFインバータ制御がまだ黎明期だったことや、高速運転での効率を考慮し敢えて抵抗制御を採用した。
性能面では高速性能が強化された。モーター出力は125kwと従来の車両に比べて小さくなっているものの1両にモーターを4機搭載し、全ての車両に装備している。
6両編成時の編成出力は3000kw!
これだけ強力な性能を手にした21000系は、青山峠の33パーミル上り勾配で架線電圧が10パーセント低い状態、定員まで乗客が乗っている状態でも時速110km/hで登っていける。更に新青山トンネル内では上り勾配でも時速128km/hまで加速できる。
無論平坦線ではこの大出力を活かし、最高速度130km/hでの運転も可能。

ブレーキ性能も強化された。特急車として初めて乗客による重さを検知してブレーキ性能を加減する応荷重装置が装備され、青山峠での連続33パーミル下り勾配区間で速度が上がりすぎないように抑制する、抑速発電ブレーキも装備する。

車内設備は、従来の観光特急に比べてビジネスライクにシフト。色使いは落ち着いたモノトーン系とし、レギュラーシート車4両、デラックスシート車2両を用意した。
レギュラーシートは、2列+2列の回転簡易リクライニングシートが1050mmピッチで並ぶ。背もたれの高さを高くすることでプライバシーに配慮し、座席間にはセンターアームレスト、フットレストも装備した。
デラックスシートは1列+2列の回転簡易リクライニングシートを装備し、シートピッチはレギュラーシートと同じ1050mmではあるものの、ヘッドレストに大きな張り出しを設けたり、車内で貸し出される無料のイヤホンを使って音楽が楽しめるオーディオサービスが実施された。オーディオサービスはレギュラーシートでも行われたが、レギュラーシートでは手持ちのFMラジオを使用して楽しむ形となっていた。

所要時間が最速でも2時間を越えるため、車内販売が実施できるよう準備室を2号車と4号車に用意した。2号車の準備室は予備用で、普段は4号車の準備室を利用する。

第1次車は万が一アーバンライナーが不人気になった場合に備え、4両でも運転できるよう3・4号車に本線走行も可能な運転台を装備していた。しかしアーバンライナーは見事にヒットしたため、2次車からは3・4号車の運転台は廃止され、1次車の運転台付中間車も2次車に準じたものに差し替えた。
捻出された運転台付中間車は8両運転時の増結用となり、21700形を名乗ることとなった。増解結は車両基地内で行うが、この運転台自体は本線走行も可能な本格的なもので、これを利用した団体列車が運転されたこともある。
この編成には専用の電算記号であるUBが付番されている。

この形式から「しまかぜ」登場まではお召し列車にも充当されるようになった。
それまでのお召し運転時は、一般特急車両を改装し御座所と呼ばれるソファー席を設ける工事を実施していたが、本形式以降は御座所の代わりにデラックスシートを充当し、改造は行われなくなった(極端な特別扱いを止めてほしいという天皇側の意向もある)。

1989年鉄道友の会ブルーリボン賞受賞。

登場から20年近く経った2003年よりリニューアル工事を実施。リニューアル工事の完了した編成から愛称が「アーバンライナープラス」となった。
施工内容は以下の通り
  • 全車両の座席を簡易リクライニングシートからリクライニングシートに交換。
  • 1号車の連結面寄りに喫煙ルームを設置。換気用にこの部分のパンタグラフを撤去して客席用とは別系統の空調を増設
  • 2号車に車椅子対応の大型多目的トイレ・男性用小トイレ・洗面室を設置。車椅子対応としてデッキに近い座席は1人がけに変更し、乗降用ドアも幅の広いプラグドアへ改造
  • 3号車名古屋寄りの和式トイレを洋式トイレに改造。同時に女性専用トイレも設置。名古屋寄りのパンタグラフは撤去
  • 4号車の大阪寄りにも喫煙ルームを設置し、名古屋寄りにあった車内販売準備室を撤去して客室化することで定員を確保。更に公衆電話と自販機も設置。
  • 5号車はデラックスシートからレギュラーシートへ変更。デッキにあったマガジンラックは撤去して男子トイレを増設。
  • 6号車の連結面寄りに1号車同様喫煙ルームを設置。公衆電話は4号車へ移設した。車内販売準備室を新設
  • オレンジ色の帯が従来より少し赤みが強いコスメオレンジとなり、ドアにも帯を通すように
  • 増結編成の3号車にも喫煙ルームを設置

21020系

2002年に2本が製造され、同年末の団体臨時列車で営業入りし、翌年3月のダイヤ変更より本格運行開始。愛称は「アーバンライナーネクスト」。
前述の21000系のリニューアルに伴う編成不足解消と、21000系リニューアルに必要な乗客からの要望をフィードバックする役割を持っていた。
21000系よりも柔らかな印象を与える先頭部に変更され、全車両のドアが幅の広い外開き式プラグドアに変更された。

性能面でもVVVFインバータの採用により、全電動車からモーター車3両とトレーラー車3両の構成となった。ただし、モーター1機の出力は230kwに強化され、21000系と同等の性能を確保した。
先頭部の連結器は非常救援用のため、普段は引っ込めてある。

客室設備はレギュラーシート5両とデラックスシート1両に改められ、シートピッチはどちらも1050mm。リクライニングすると座面が少し沈み込むゆりかごシートを採用。デラックスシートはパーソナリティ性を高めるため、1人がけシートを3列並べる形式とした。
座席コンセントは2018年頃よりデラックスシートに設置されている。
全車両禁煙としたものの、喫煙者の需要に応えるため喫煙スペースを設けている。

運用は21000系と共通ではあるものの、8両への増結は出来ないため6両の列車限定運用となる。

2003年鉄道友の会ブルーリボン賞受賞。


運用

登場から長らく、両形式とも停車駅の少ない名阪甲特急を中心に、間合い運用で阪奈特急名伊特急に使用されていたが、2020年3月にデビューした80000系「ひのとり」が名阪甲特急に充当されるようになると活躍の場を主要駅に停車する乙特急へと移していき、2021年2月で名阪甲特急より原則撤退した。

豆知識

  • かつての名阪ノンストップ特急は、名古屋を出ると大阪鶴橋まで途中本当にノンストップだった。伊勢中川駅を境にして運転手の担当が変わるため、運転手の交代が行われたが、交代は中川短絡線を走行中に行われていた*1
    中川短絡線はスピードが遅いために為せる技だったが、乗客に配慮して交代中は運転席のカーテンを閉めていた。
    ノンストップ特急には運転手が2人乗っており、1人が運転している間もう1人は車掌業務を担当していた。
  • 今の名阪特急のライバルは新幹線と名神ハイウェイバスである。名神ハイウェイバスは、名古屋から大阪まで通常片道3,000円と近鉄よりも安い。往復割引が適用すると4,750円と、これまた近鉄よりも安い。


追記・修正は大阪難波から発車した特急が名古屋に到着するまでにお願いします。

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最終更新:2024年02月20日 13:30

*1 名阪特急が津駅に全列車停車する現在は、津駅にて交代を行う。