ザ・ルーム(映画)

登録日:2018/06/01 Fri 21:46:53
更新日:2025/02/23 Sun 06:03:38
所要時間:約 16 分で読めます



「I did not hit her. It's not true. It's bullshit. I did not hit her. I did not. Oh,hi Mark.
ぼくはかのじょをなぐってないほんとうだよくそったれなぐったりするもんか、やあまーく



『ザ・ルーム(原:The Room)』は2003年に公開されたトミー・ウィソー*1原作、製作、脚本、監督、主演による最高のクソ映画である。 *2
内容については観客、評論家は勿論、ウィソー以外の関係者にまで酷評されたが、現在はあらゆる場面に於てネタになる最高のカルト映画としての評価を得ている。

タイトルは『The Room』だが、映画内では特定の部屋が舞台となっている訳でもなければ、部屋がキーワードになっている訳でもない。
これについてウィソーは「部屋とは僕や貴方や全ての人々のこと」、または「特別な意味を持った場所のことを考えている内にそれは「部屋」じゃないけど「部屋」なのじゃないか」と思ったというようなことを語っている。

ジャンルは恋愛を主軸にした人生ドラマ(ウィソー談)とのことだが、支離滅裂で内容が浅い会話と脈絡のない場面が繰り返される意味不明な映画と評されている。

インディペンデントながらウィソーの謎の資金調達力により、マーケティングを含めても600万$(約6億円)もの製作費を投じて製作されており、内容の薄さに反して半年もの撮影期間を擁している。

これは、レンタルすれば安く済む撮影機材をキャッシュで購入したり、ロケで事足りるようなシーンまでセットを組んでクロマキー合成したりといった無駄遣い*3が相次いだことに加え、脚本の内容の酷さやウィソーの演技の拙さによる撮影の遅延、それだけテイクを重ねても編集段階で後から台詞を入れ直さなければならなかった……等のトラブルが発生し続けたからである。

ウィソーは本作がカルト映画として評価されていることについて反発しており、この映画は「表現の自由を表し、観客にもそれを促す作品だ」と語っている。
自己満足の為だけに作られた映画であり、金さえあれば好き勝手出来るという事実を突き付けた映画である、という意味においては正にその通りと言える。


2017年には本作の大ファンを公言していたトビー版『スパイダーマン』のハリー・オズボーン役等で知られる俳優、映画監督のジェームズ・フランコにより本作の舞台裏、撮影状況を描いた『ディザスター・アーティスト*9が公開された。弟のデイヴ・フランコとの共演作がこれでいいのか。
これは、グレッグ・セステロとトム・ビゼルによる同名小説の映画化であり、主演のウィソー役もジェームズ自身が演じている。
尚、ウィソーはジェームズが自分を演じることに難色を示し、自分を演じられるのは「ジョニー・デップだけだ」と語っていたという。
このことについて、ジェームズはウィソーが自分をジェームズ・ディーンだと思っていたからだろう、と分析している。




【脚本】

原案はウィソーが01年に書き上げた同名の戯曲である。
ウィソーはこの戯曲の出版を目論んだが出版社が見つからず、自分が主導出来る映画にすることにしたのだという。
脚本はウィソー以外の人間からは何れも酷評されており、書き直しを進言されてもウィソーは決して折れなかった。
それでも、映画を良くしたいと考えた出演者の中にはアドリブで整合性を図ろうとした者も居り、セステロによればウィソーは文句を言っていたが結局はファイナルカット(最終バージョン)に使用されていたとのこと。


【物語】

……サンフランシスコ。
銀行員として働くジョニーは、同棲7年目の恋人リサや友人達に囲まれて退屈だが幸せで平穏な日々を送っていた筈だった。
リサの母親からも祝福され、いよいよ結婚を意識したジョニーだったが、リサは退屈な日々の積み重ねの中でジョニーへの興味を失ってしまう。
経済的な理由等で、ジョニーへの不満を打ち明けた母親から叱責されたリサだが欲望は収まらず、遂にはジョニーの親友であるマークを誘惑し、関係を持ってしまうのだった。
ジョニーとリサは結婚に向かい、リサも経済的な理由からジョニーとの結婚は考えるがマークとの関係は止めず、更には自らの非を誤魔化す為にジョニーからのDV疑惑をでっち上げたり、昇進に失敗したジョニーをここぞとばかりに責めるようにもなる。

そして、ジョニーが相手を知らずともリサの不倫を知ったり、実は麻薬に手を出してたデニーが売人に脅されたり、リサの母親のクローデットが不動産を巡るトラブルに巻き込まれたり、乳ガンで先が無いことなどを語る。
ジョニーは性生活のことを聞けたり、自宅に訪問していきなりセックスをおっぱじめる位にオープンな仲間達とタキシードでキャッチボールをしたりして過ごしていたが、ジョニーのサプライズパーティーで遂にリサとマークの不倫が明らかになり、やっとこさ破局が訪れる。

……婚約者と友人に裏切られた哀れなジョニーが最後にとった行動は……。


【登場人物】


■ジョニー
演:トミー・ウィソー
この物語の主人公。
とてもそうは見えないが、銀行員として着実なキャリアを積み、経済的にも安定しているエリートである。
ウィソーの願望を丸出しにしたようなキャラクターであり、何処か余裕ぶって世間を斜に構えて見ている反面、ジョニーのことは誰もが大事に思い、無条件で愛している。
また、劇中に於てジョニーに非と呼べるものは演技やそれ以前に存在が苦痛だとかは抜きで存在せず、悲劇の主人公であることが貫かれている。
本作のプロモーションはハリウッドに置かれた大きな立て看板のみで行われ、その看板はジョニー(ウィソー)の、やや半目を閉じたモノクロのアップである。
キャッチコピーは「邪悪な男」だが、映画の内容に全く合致しないものである。ウィソーの数々の所業はともかく。

余談だが、最初の興行は前述の様に大失敗に終わったが、ウィソーは一月5000$(約50万円)かかる、この看板の設置を五年も続けたという。
元の資金に加え、DVDが儲かったからとのことで、少数ながら看板目当ての観光客も現れたという。
尚、ウィソーは元々演技を学び、更には自分が脚本を書いた映画にもかかわらず、台詞や演技を全く覚えられなかったとのこと。

ジョニーの台詞には抑揚が無く、発音もヘナヘナで聞いただけで吹き出してしまうような物が多いが、これはウィソーが余りに台詞を覚えられないので、最後までいければオーケーという扱いだったためである。
特に、項目冒頭のリサを殴ってないことを訴えるシーンと、終盤のリサに「You are tearing me apart, Lisa!」 *11と叫ぶ場面はシチュエーションもあって非常にシュールでネタとして人気がある台詞となっている。


■リサ
演:ジュリエット・ダニエル
ジョニーの婚約者で、全ての元凶たる糞ビッチ
何をしたかは上記の通り。
ジョニーとのセックスでは腹に突っ込まれてるような奇妙な体勢になっているが、これはウィソーがどうしても自分の尻をカメラに撮らせたかったからである。

セステロからは否定されているが、撮影初日にウィソーはダニエルに飛びかかり、いきなりセックスシーンの撮影に入った……とも言われているが真相は不明。
また、ダニエルによればリサのセックスシーンはもっと短く、綺麗なイメージシーンとして編集されると思ったのに無駄に長い上に何度も登場するため、上映会の後に観客と顔を合わせなければならないことに、かなりの苦痛を味わったとのこと。

尚、こんな悪女になったのはウィソーを裏切った元婚約者がモデルだからでは?とセステロは見ている。


■マーク
演:グレッグ・セステロ
ジョニーの親友だが、リサの誘惑に負けて彼女と不倫関係に陥ってしまう。
もう何度も不倫しているのに、リサに誘われる度に「何のおつもりだい?」と聞く記憶障害の傾向が見られる。
セステロは髭面で現場に来ていたが、ウィソーがマークに名付けた“ベビーフェース”のあだ名を覆そうとしなかった為に、無駄にドラマチックに髭を剃ったことを報告させられる羽目になったとセステロは分析している(二人のプライベートのネタでもあるらしい)。

前述の様にウィソーの友人にして、製作陣、スタッフとしても本作にガッツリと関わったセステロは、至極冷静、中立な目で本作の撮影現場や状況の問題点を明かし、述懐している。
『ディザスター・アーティスト』で描かれてることが本当だとするならぱ、ウィソーがこんな映画を作ることになったのは、共に売れない役者ながらも自分より先を行っていたセステロへの嫉妬もあったということになる。


■デニー
演:フィリップ・ハルディマン
ジョニーが息子や弟のように可愛がっている少年だが、演者が明らかに少年と呼べるような年齢ではないため違和感が凄い。
リサに淡い恋心を抱いており、ジョニーとリサが自分を無視してセックスしに行った所に突入したり、二人のセックスを見学したいとか抜かす異常行動を見せる。
前述の裏設定を考えると状況を理解できていないだけとも考えられるが、リサに性的興奮を覚えてはいるわけで……。


■クローデット
演:キャロライン・ミノット
リサの母親で、糞ビッチな娘をたしなめられるまともな人。
でも乳ガンで死にそうらしい。
演じたミノットは、この映画で一番まともな役者とも言われている。


■ミシェル
演:ロビン・パリス
■マイク
演:スコット・ホームズ
リサの友達とその彼氏。
ジョニーとリサの家に来て、誰も居ないのをいいことにセックスを始めるも帰って来たリサ達にも見つかる。
このシーンのBGMはクラシック調である。


■クリス-R
演:ダン・ジャンギアン
ヤクの売人。
ドラッグの代金を払わないデニーに痺れを切らして拳銃を突き付けるが、場所がジョニーの住むアパートの屋上だったばかりに発見されて警察に突き出される。


■ピーター
演:カイル・ヴォト
ジョニーの親友の心理学者。
リサをdisったせいで、カッとなったマークに殺されかけてしまうが、その直後に人生相談に乗ってあげる聖人。


■スティーヴン
演:グレッグ・エリー
ジョニーの親友。
リサとマークの不倫を目撃してジョニーのことを考えろと責める。
登場シーンが劇中でもトップクラスに唐突なことに定評アリ。


※キャスティングはウィソーが俳優名鑑を参考に選んだとのことだが、全員が長編映画への出演経験が無いような役者達ばかりだった。
また、セステロやダニエルの証言から、配役にはかなりの数の前任者が居り、彼らはウィソーとのトラブルにより次々と解雇されていったという。


【その他】

日本でも知名度がある、世界的に著名な人気映画レビュアーのNCこと、Nostalgia Criticとトラブルを起こしている。

NCが2010年にファンの声に応えて本作をレビュー。
酷評しつつも、「見ないと酷さが分からないタイプの映画なので一件の価値はある」と視聴を薦めるという内容の動画で、多くの映画レビュアーを登場させて糞さ(という興味を引くポイント)を紹介するという気合いの入った動画だったのだが、これに本作の著作権を保有するウィソー・フィルムズが著作権侵害だと噛みついたのだ。
これに対してNCは一時的にレビュー動画を削除する一方、大手でもやらない法的には問題無い筈のレビュー動画に噛みつき、レビュアーの権利を侵害しようとしたウィソー・フィルムズを批判する動画『Tommy Wi-Show』を投稿。
NCはウィソーと、ウィソー・フィルムズの権利責任者に扮し、如何に利権ヤクザがつまらない行為かをコメディに込めて訴えた。
この動画が反響を呼んで批判も集まったのか、その後でレビュー動画は復活。
セステロがNCの動画に出演した他、ウィソーとの対談も行われている。

尚、批判動画内ではウィソーも被害者の様に描かれているので、NCとしてはウィソーや本作を糞と看破しつつも悪感情は持っていないようである。

ちなみに、NCは学生時代に同じ『The Room』というタイトルの自主制作映画を制作しており、動画内でもチラッと言及している。



また、本作にはフラッシュゲームなんかも存在している。

キャストのロビン・パリスはキックスターターで資金を集め、ウェブドラマ『The Room Actors: Where Are They Now?』を製作することを発表している。






ツキツキツキシューセイシューセイ

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最終更新:2025年02月23日 06:03

*1 Tommy Wiseau=本国でも発音にバラつきがあり、邦訳もウィソー、ウェサウ、ウィゾー、ワイゾー等と統一されていない。

*2 所謂、某レビュアー発祥の“ワスカバジシステム”である。

*3 ちなみにウィソーは「それでこそハリウッド流」だと信じて疑わなかった模様

*4 そのため、本作の撮影はフィルムとデジタルの両方で行われ、先述の予算高騰に更なる拍車をかけた

*5 『市民ケーン』は1941年のオーソン・ウェルズによる初監督作品。映画史上に残る最高傑作とも呼ばれる。

*6 ウィソー曰く文明の習熟化の象徴、人体に有害な物、これを使って物を食べるとアレルギーにならない、俺は詳しいんだ!、スプーンはシンボルでサバイバルだどうすれば社会がよくなるか考えろ!、この映画にとっては些細なことやろツッコむな!……等と思われることを語っている。

*7 本作のツッコミ所の一つ、どんなに他のスタッフが「もっと重要なシーンに撮影時間を回すべきだ」と進言してもウィソーは聞き入れなかったという。

*8 カメラマンのトッド・バロンの名前がオープニングクレジットで映った際も「Fuck you Todd!」と罵声を上げるのがお約束となっている

*9 ちなみにU-NEXTでの説明文は『センスに難のある若者が、逆境のなか一途に夢を追う姿を描いた実話に基づくコメディ』。誰が上手いこと言えと。日本語に意訳すると『天災芸術家』となる辺りもエスプリが効いてる。

*10 ジェームズは今作でゴールデングローブ賞を受賞。ウィソーと共に壇上に上がったが、ウィソーがスピーチまでしようとしたのを慌てて止める一幕があった。

*11 憧れのジェームズ・ディーンのオマージュ。