カイン/メシア(ゴルゴ13)

登録日:2018/10/12 (金) 22:34:13
更新日:2024/03/18 Mon 16:06:10
所要時間:約 7 分で読めます






兄弟なんだメシアは……




カインとは、ゴルゴ13の140巻に収録されたエピソード「静かなる草原」に登場するゲストキャラクター。
本項目ではカインの飼っている馬の「メシア」についても解説する。

概要

作品初期~中期まで時々出演していたマンディ・ワシントンが長い時を経て久々に再登場した短編エピソードにおいて、関わった少年と動物。
彼らの存在は殺人兵器であるゴルゴのまさかの思想を示唆させることになる。

カイン

ワシントンの目に偶然入り込んだ、マディソン郡の『ソレントン牧場』の牧場主の息子の少年。

皮膚が白く身体の一部に障害を持つ馬の「メシア」の世話を懸命にしている。
メシアとはカインが「兄妹」を名乗るほど仲が良く、心が通じ合っているような雰囲気。

小学校時代は虐めに合って不登校児となり、親が精神的な治療の為に与えた仔馬のメシアを虐めの報復対象として捉え、「棍棒で殴りまくる」「耳を切り落とす」などの虐待を続けた。
しかし、川で溺れかけた際にメシアに救われたことで改心し、安楽死を提案されたメシアに必死に看病に付き添ったという経緯を持つ。

出会ったばかりのワシントンに対する愛想も良く、動物を虐待していた過去が嘘のような雰囲気となっている。
結果として仔馬を与える治療が成功した形になっていたが、今度は死別の際のショックを親に心配されている形となっていた。
しかもカインの両親が経営しているソレントン牧場の経済状況も苦しく、先行きの人生も不透明な環境にいる。

そんなある日、傭兵に襲われたゴルゴに不幸にも逃走用として無理矢理メシアを奪われてしまう。

メシア

カインが大事に育てていたパートナーの馬……登場人物と言うより、登場動物と言うか登場馬。

小学生時代に虐められていたカインの精神治療用として、両親がカインに与えた馬だったが悲惨な虐待に合う。
それでも死にかけたカインを命がけで救うなど、純粋な心でカインを改心させた。

カインを助けた際に脚に障害を追い、安楽死を提案されたほどだったが何とか奇跡的に回復する。
だが、後遺症で脚に障害が残り、虐待の影響で耳なども千切れている障害馬となった。
そして現在の時点で高齢な馬となった事で白馬へと変化しており、死別も考える時期となっていた。

ある日、傭兵集団との戦闘に巻き込まれたゴルゴに逃走手段として利用される。
足を引きずる高齢障害馬というスペックにもかかわらず、それなりの走力を発揮してゴルゴの逃走を手伝った。
しかし、銃撃の影響で途中で転がってしまい、激しくもだえ苦しむ事態に陥る。

劇中の活躍

謎の傭兵集団との戦闘に突入して車を破壊されたゴルゴにより、カインはメシアを奪われて森に逃走されてしまう。
メシアは激しい銃撃を前に重傷を負い、ゴルゴも負傷しても苦しむメシアから落ちた際に肩を痛める事態に襲われるが、やがて戦闘が終わった森には警察車両が訪れていた。

森の中を探索する警察官とワシントン達の前には無惨な死体と化した傭兵達とバイクが転がっており、
警察官達も転がった遺体を見ながら「武装した傭兵を一人の男が全滅させた」という証言をにわかに信じられない様子である。

その遺体の中にはメシアの姿もあり、その亡骸は眉間を銃撃された上に足の一部の肉を剥ぎ取られた状態だった。
カインの父は肉が剥ぎ取られた姿から「殺して馬肉を食った」と想像し、人間の行為ではないと震える。
遺体の無惨な姿を見てゴルゴへの激しい怒りを涙ながらに口にするカイン。

親子が悪魔の所業を想像する一方、ワシントンは別の想像に思考を巡らせていた。
ゴルゴは敵を倒したならすぐに場を去ると知っていたので、まだ息のあるメシアを殺して肉を剥ぎ取ったのは食以外の理由だろうと推測する。
ワシントンはしばらく考えた後、馬肉が湿布薬に使えるという例を思い出し、「馬と転倒した際に体を痛めたので馬肉を利用した」という推測に確信を得た。

ワシントンはゴルゴは自分の命を守るためなら大切な生き物、それが人間だとしても殺して非情な形で利用する人間だと知っていた。
かつて「ゴルゴに関わると死ぬ」という現実を思い知り、ジャーナリストとして断腸の思いでゴルゴの追及を諦めて引退したはずなのに、またこうして巡り合ってしまう皮肉に複雑な感情を抱いた。

すると森の中からアンが大慌てで駆けつけてきて、彼女が言うには銀行から連絡が入ったようで、カインの父は借金の返済まで一週間あるはずだと口にする。
しかし、それは借金の取り立てではなく、振り込み元不明の存在から牧場の口座に200万ドルも振り込まれたというのだ。
かなりの大金が不明な存在から振り込まれたことに困惑するしかない夫婦の一方でワシントンはゴルゴが振り込んできた大金だと確信する。

そして、数日後の牧場では200万ドルを本当に貰っても良いのかと未だに困惑をするカインの父に対し、ゴルゴからの迷惑料と解説して受け取るように指示するワシントン。
カインの父は牧場の経済事情的には大助かりだと感じながらも気がかりな様子だった。

そんな中、玄関から驚いた様子のカインが両親に声をかけてくる。
なんと牧場にはかなり立派な姿のハンター種の馬が届けられてきたのだ。
届けに来たトラックの運転手は、送り主が届けた馬にメシアと名付けたという話を告げる。
その話に驚くカイン達だが、ワシントンは馬の送り主もゴルゴである事を察する。

ゴルゴの倫理観に関する思索に耽るもやはり深入りを止めることを決めたワシントンの傍らで、カインは届けられた新たなメシアに顔を寄せて穏やかな表情を浮かべるのだった…。

メシアが映し出すゴルゴの倫理観

作中ではメシアを使い捨てる前にゴルゴがトレーニング中にカッコウに道端に落とされて孵化しないであろうカササギの卵へ配慮した行動をしていたことが語られている。
その様子を見た人物からは「動物愛護主義か信心深い」とまで想像される程で、ゴルゴの正体を知るワシントンは殺人兵器が捻挫の危険性を生むような動きをしたことに違和感を覚えたほどである。
卵への配慮という一方で無情に馬を利用した行動には、相違関係があるという推測をワシントンは提唱した。

自分に厳しいルールを課すゴルゴには、どんな困難にも立ち向かう強い意志と使命感がある。
そこから、「修羅場に身を置いたONの瞬間には一切の感情を捨て去る半面、OFFの時にはあらゆる生命の去就に関わらないルールが無意識化にあるのでは」との仮説を立てた。
ランニング中の足元の卵にも、その意識から関わらないように足の位置をずらしたのではと疑っている。
そのようなことを考えると負傷して苦しむメシアを殺したのは「楽にしてやる」という優しさがゴルゴにはあったとも、或いは単なる使い捨て以上の意味しかなかったとも、どちらとでも考えられることになる。
この出来事にゴルゴの哲学思想が潜んでいるのでは、などとワシントンは作中で考察をしている。

ちなみに、ゴルゴはどうも「牙が使えなくなった(=役割を全うできなくなった)存在は死ぬべき」という哲学を抱えている節が定期的に見られる。
そのため、生命に対する哲学とか楽にしてやる優しさなどの領域を飛び越えて、万が一生き延びても馬として走れなくなるであろうメシアをそちらの哲学に基づいて殺した可能性も考えられる。

このようにカインとメシアが登場したエピソード「静かなる草原」は、ゴルゴの生命に対する哲学思想に考察できる作品であり、ゴルゴの人物像を探る上での本作の資料的価値も非常に高い。
依頼で巻き込んだ部外者へのできる限りの賠償をする描写も、ゴルゴのルールに忠実な人間性が垣間見える。
マンティ・ワシントンが年老いて再登場など、オールドファンに対するサービスも嬉しいところ。

一方で、エピソードに対して厳しい評価をするゴルゴファンも少なくない。
「ゴルゴの優しさの可能性が強調されすぎているシナリオ」「小動物の卵にまで配慮する可能性を示唆されたゴルゴは見たくなかった」などの指摘がある。
長くシリーズが続いた中でゴルゴの人物像に対して深く掘り下げたエピソードなので、読者によってその辺のキャラの捉え方の違いが出るのも仕方がないか。

更に「静かなる草原」に対する疑問としてよく挙げられる点として、ゴルゴはエピソードによっては特に依頼に影響もない場面で無駄に小動物を殺している描写があったりする。
孵化の可能性が低い鳥の卵ですら避ける本作のゴルゴと矛盾する気もするが……気分屋なのか?
他エピソードでのこのような描写を含めて考察すれば、単純にワシントンのゴルゴへの考察は的外れだったという解釈も出来なくもないか。





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最終更新:2024年03月18日 16:06