SCP-976-JP

登録日:2020/05/10 Sun 00:42:15
更新日:2024/04/12 Fri 11:59:05
所要時間:約 11 分で読めます





普通の人にとってはただのかわいい子猫
超能力者にとっては最大の天敵


SCP-976-JPは、シェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクトの一つである。
項目名は『スクラントン現実猫』。
オブジェクトクラスはEuclid。

項目名を見て、「『スクラントン現実錨』ってアレでしょ? スクラントン博士が作った現実改変を防ぐ装置だったよね?」と思ったアナタ。
よーく見て欲しい。「スクラントン現実」ではない。「スクラントン現実」である。
どこかからトマトが飛んできそうな項目名だが、特異性が文字通りなのだから仕方がない。

概要

SCP-976-JPは1~2歳のメスのネコである。
このネコは周囲のヒューム値を、自身の内部ヒュームと同値にするという特異性を持っている。ヒュームが何なのか分らんという方は現実改変(SCP Foundation)用語(SCP Foundation)を参照のこと。

普段は自身とその周囲のヒューム濃度を標準よりもやや高い1.25Hmに固定している。
しかし、それよりも高い内部ヒュームを持つ実体(要するに現実改変能力者)が接近すると、SCP-976-JPは自身の内部ヒューム濃度をその実体よりも少しだけ高い値に上昇させる。すると、それに伴って周囲のヒューム値も上昇する。

現実改変能力者は、自身が周囲よりも高い内部ヒュームを持っていることで現実改変を行うことができるため、このネコにより周囲のヒューム値が上昇すると能力を行使できなくなる。そして、SCP-976-JPのヒューム調節能力には上限がない。
つまり、どれほど強力な現実改変能力者だったとしてもこのネコが近くにいるだけでただのヒトと化すのだ。
なお、この特異性は自動で発動するらしく、SCP-976-JPが能動的に現実改変を行った事例は一度しか確認されていない。

特別収容プロトコル
  • SCP-976-JPは小型生物用収容室に収容される。収容室の四隅にはカント計数機が設置されており、SCP-976-JPの内部ヒュームおよび収容室内のヒューム値を常に計測する。
  • カント計数機がヒュームの不均衡を検知した場合、鎮静ガスにより眠らせる。
  • 上記以外は、普通のネコと同じように世話をする。「アナ」と呼ぶと喜ぶ。

現実改変能力を完封することができる非常に有用な特異性を持つSCP-976-JPだが、収容前に一度だけ観測された現実改変の結果をかんがみて、現実改変能力者とのクロステストは行われていない。

収容経緯

SCP-976-JPが収容されたのは、とある現実改変能力者の隠れ家である。
この現実改変能力者はGOCによりKTE-████-Green "White-Bread"と呼ばれており、要注意団体との関連が指摘されていた。
その強力な能力で多くのGOCエージェントと民間人を殺害・消滅させており、GOCと財団は共同でその行方を追っていた。

以下は、財団によりSCP-976-JPとともに回収されたKTE-████-Green "White-Bread"の日記帳である。

34ページ目下段

「近頃、壊し屋共も来なくなって張り合いがない」と██に相談してみたら、██の奴、妙な提案をしてきやがった。ネコを飼えだって? 気まぐれで退屈しないからだと言っていたが、疑わしいものだ。

オレ達の思い通りにならないものなんてない。オレ達はそういうものだ。言うことを聞かない動物だって反射的に念じてしまったらそれまでだ。退屈しのぎにもなりはしない。██の奴、閉じ込め屋と壊し屋に追われ過ぎて遂におかしくなったんじゃないだろうか。

壊し屋はGOC、閉じ込め屋は財団のことだろう。ちなみにこの相談相手は日本人名だった。

35ページ目上段

[前半は無関係な内容のため省略]

ふと浮かんだアイディア。オレの力で、言うことを聞かせられない生き物を作ってみるのはどうだろう。全能のパラドックスの実演だ。全知全能の神は自分でも持ち上げられない石を作れるか。急に興味がわいてきた。明日にでも試してみよう。

どんな動物でも現実改変能力で言うことを聞かせられてしまうのならば、自身の能力で言うことを聞かせられない動物を作ろうと考えたらしい。

35ページ目下段

結論から書くと、狙い以上のモノができた。言うことを聞かせられないなんてレベルじゃない。あいつが近くにいるだけで力を使うことすらできなくなるくらいだ。オレの力は思っていたよりもずっと強力だったみたいだが、正直言ってあまりにも不便だ。力が使えないと日常生活にも困ってしまう。

こんなことになるなら処分方法を考えてからにするべきだった。捨てるか殺すか保健所か。どれが一番閉じ込め屋に気付かれにくいのだろう。奴らは手下をそこら中に送り込んでいるはずだから、保健所に持ち込んだら足がついてしまうかもしれない。

疫病神め。

狙い通り「言うことを聞かせられない」生き物はできたようだが、それどころか「近くにいるだけで現実改変能力を封じられる」能力を与えてしまうことになった。
今まで能力に頼って生きてきたため相当な不便を感じているようである。

36ページ目上段

[前半は無関係な内容のため省略]

それにしても██め、他人事だと思って好き勝手いいやがって。何が責任もって世話をしろだ。

だがまぁ、殺すと何が起こるか分からないから止めておけ、というアドバイスは納得だ。殺してただの死体になってくれたらいいが、そうでなかったらもっと面倒なことになるかもしれない。下手に捨てたら閉じ込め屋に目を付けられるかもしれないから、しばらくは飼い続けて様子を見るしかなさそうだ。

37ページ目上段

あいつもようやくオレに慣れてきたらしい。気が付いたら足にすり寄ってきている。かと思ったら、しばらく触っただけで隣の部屋に行ってしまう。本当に気まぐれで自分勝手な奴だ。

[後半は無関係な内容のため省略]

38ページ目下段

あいつがずっと膝の上に乗っている。これを書いている今もずっとだ。最近冷えてきたからオレの体温で温まっているんだろうか。下ろしても下ろしても戻ってくるから、どけるのはもう諦めた。

そういえば、今年は暖房が必要かもしれない。いつもは力を使って寒さを防いでいたが、今年はこいつがいるからそれができない。寒いのは嫌いだし、凍死されるのは迷惑だ。明日にでも調達しよう。

飼い始めてしばらくたち、飼い主にも慣れてきたらしい。
にしてもだんだん絆されてきてないか…?

40ページ目下段

大事なことを忘れていた。あいつに名前を付けていなかった。なんて名前を付けようか悩んだが「アナ」と呼ぶことにした。A、N、N、Aでアナ。パッと思いついた名前だがあいつにピッタリだ。

ネコを「アナ」と命名。
項目名の元ネタであるスクラントン現実錨を開発したロバート・スクラントン博士の妻であるアナ・ラング博士と同じ名前とは何たる偶然だろうか。

45ページ目上段

██がアナの処分方法を考えてきた。普通のネコとして他の誰かに譲ってしまえばいいというのだ。言われてみれば簡単な話だ。よく会う知り合いは大体みんな力を持っているので、アナを押し付けようという発想が浮かばなかったんだろう。赤の他人に譲ってしまえば済む話なのに。

だけど、アナを他人にやるつもりは今のところない。外に出たがらないから大人しいものだし、ヒマなときに毛並みを弄ってやるのは意外と楽しい。何より退屈しないのがいい。飽きるまではこのままでいいだろう。

あれだけ鬱陶しがっていたのにいざ方法が見つかっても実行しようとはしない。
……順調に猫好きへの道を歩んでいる気がする。

███ページ目上段

アナが来てくれてから明日で一年になる。記念日を心から祝うなんて本当に久しぶりだ。つくづくオレは人生に飽きていたらしい。何もかもが思い通りになることに飽き飽きして、そのくせ飽きていたことにも気が付かなかったんだ。けれどアナのおかげで何もかも変わった。不自由な暮らしがこんなに幸せになるなんて思わなかった。

明日はいつもの奴よりも高価な猫缶を買って帰ろう。ああ、そういえばいつの間にか、アナのごはんを力で調達しなくなっていた。アナが「そんなことをするな」と言っているような気がしてならないんだ。昔のオレが見たら引っくり返るだろうな。

アナは今もオレのヒザの上でノドを鳴らしている。なんて幸せなんだろう。

つ い に 陥 落
凶悪な現実改変能力者はただの愛猫家と化した。

彼も強力過ぎる能力を持って生まれた結果、周囲の人間からは疎まれ、あるいは利用され続けて孤独を感じていたのだろう。
打算などなくただ自分にすり寄ってくるだけのアナと暮らして、人生で初めて本当の幸福を感じたのかもしれない。

だが、この翌日…………









飼い主である現実改変能力者はGOCのエージェントにより頭部を狙撃され死亡した。
本来であれば能力により回避できたのかもしれないが、皮肉にも自分自身が溺愛していたアナの能力により現実改変能力を封じられていたために反応できなかったのだろう。

その後、GOCエージェントは要注意団体に関する資料を回収するため、隠れ家に乗り込んできた。

……しかし、アナは本能的に、現れた13人のGOCエージェントが飼い主の命を奪ったことを理解したのだろう。
彼らに対して生まれて初めて現実改変能力を発動した

同一の空間にヒューム値が極端に低い部分と高い部分が複雑に混ざりあった「現実断層」が出現。これに巻き込まれたGOCエージェントは全員が死亡した。

+ GOCエージェントの死因
死亡者数 死因
3名 互いの肉体の部位が無作為に入れ替わり、急性拒絶反応で死亡
1名 心臓を嘔吐
2名 SCP-976-JPへの掃射直後、ランダムに空間転移したライフル弾に被弾
1名 肉体が裏返る
2名 正中線に沿って壁に埋め込まれ、血流不全で死亡
1名 頭部が天井と結合した後、頸部がちぎれ胴体のみ落下
1名 横隔膜よりも下が床と結合
1名 四肢の末端からほぐされるように分解
1名 肉体の60%が虫食い状に消滅

アナちゃん いくらなんでもやり過ぎ
まあヒューム値に異常がある空間に人間が取り込まれた結果どうなるかはスクラントン博士が身をもって証明してくれているので、肉体が残っている分まだマシな方なのかもしれない

ちなみに肉体が裏返ったのと床にくっついたのは後で財団職員が踏み込んだ時点でまだ生きていたらしい。
……後者はまだしも、前者はどういう状態だったのか想像したくもない

協定により財団はGOCよりも後で突入することになっていたらしく、幸いにも現実断層に巻き込まれることは無かった。
その後、前述の日記とアナことSCP-976-JPは回収され、財団に収容されることになったのだった。

その後

この現実断層を発生させた事例があることからSCP-976-JPのオブジェクトクラスはEuclidに指定されているが、収容以来一度も現実改変能力を行使していないことや、特別収容プロトコルに則った収容が確実だと判断されたことから、Safeへの変更が提案された。
提案は反対多数で否決されたが、それでも多くの研究員が将来的にSafeクラスに分類される可能性は高いと考えているという。

アナが……もとい、SCP-976-JPが現実断層を発生させることは恐らくあり得ないだろう。発生のファクターとなる実体はもう存在しないのだし、特別収容プロトコルが順守されている限りは代わりになるものが見つかるとは到底思えないからな。  ――研究主任 ██博士

アナは自分を愛してくれた飼い主の死に怒り、初めてその能力を意図的に振るった。
財団の手によって平和に暮らしているのなら、もう能力を使うことも永遠にないのだろう。

追記・修正はネコをモフりながらお願いします。


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最終更新:2024年04月12日 11:59