図書館戦争

登録日:2011/03/21 Mon 04:31:06
更新日:2025/02/20 Thu 19:53:12
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一、図書館は資料収集の自由を有する。
二、図書館は資料提供の自由を有する。
三、図書館は利用者の秘密を守る。  
四、図書館はすべての検閲に反対する。

図書館の自由が侵される時、我々は団結して、あくまで自由を守る。


『図書館戦争』は自衛隊3部作やドラマ化された『フリーター、家を買う。』、映画化した『阪急電車』などで有名な有川浩著作の小説。
シリーズ作品であり本編4冊、スピンアウトである別冊2冊の全6巻。
ジャンルは社会派SFラブコメ。SFが抜け始めてきて大変です。

2004年ごろに作者が「図書館の自由に関する宣言(本項冒頭の文言)」を見たことから、「もしも、『図書館の自由に関する宣言』が一番あり得ない状況で適用されたらどうなるか」という思考実験の結果誕生したという逸話がある。

作者初のシリーズ物として執筆され構想では全3巻予定だったが、
担当と角川の東奔西走により戦争、内乱、危機、革命の4巻構成となり大人の事情で別冊2冊が刊行された。

2008年、プロダクションI.G.製作でノイタミナ枠でアニメ化。完結巻の「革命」は2012年6月にアニメ映画となった。
EDはBaseBallBearのChanges。

2011年4月から角川文庫より文庫版が発売された。
また、2013年4月には実写映画が公開されている。実写映画は2015年10月に続編『THE LAST MISSION』が公開。
THE LAST MISSIONの公開に合わせ、同年10月5日にTVドラマスペシャル『BOOK OF MEMORIES』がTBS系列で放送された。
なおTHE LAST MISSION公開と同時期、主演の岡田准一がイメージキャラクターを務める大阪府枚方市の遊園地ひらかたパークでは、この映画とコラボしパロディポスターを作成。話題を呼んだ。


○あらすじ

公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まる「メディア良化法」が施行され検閲が合法化された日本が舞台。
「メディア良化委員会」によって理不尽に本が狩られる時代、それを良しとしない「図書隊」の戦い、
そしてそこに属する主人公達の恋愛模様を描いたSFラブコメディ。

タイトルは物騒だが内容は登場人物達の掛け合いによってストーリーが進行するためとっつきやすい。
が、ラノベ好きな人なら気にならないだろうが文章に若干癖があるため合わない人にはとことん合わない。

また、「ベタ甘」と表現される程の恋愛描写も多いためそういった描写が苦手な人にも向かない。
実際に別冊Ⅰ巻の帯に注意書きがついたぐらいである。

一方、主人公である郁の「本が大好きだ。本を守りたい」というストレートな想いや、
昨今の図書館を巡る問題を取り入れた描写で現職の司書たちや図書館関係者の間で絶大な支持を得ており、
「燃えた」「司書という仕事の素晴らしさを改めて知った」という声も多い。


○登場人物

  • 笠原郁
声:井上麻里奈/実写:榮倉奈々
『熱血バカ』
主人公でヒロイン。
高校生の頃お気に入りの小説を購入する場で検閲にあい、それを取り上げられそうになったことがある。
そこに現れて本を守ってくれた「王子様」の姿に憧れ、(顔をよく見ておらず名前も知らない)彼と共に本を守るため図書隊を目指した。
司書としての通常業務能力は残念だが、学生時代陸上に打ち込んだため身体能力が非常に高く、ハイポート(銃を持って行う持久走)や格闘訓練(柔道)でも男子隊員に引けを取らない活躍を見せた。それが功を奏して女性初の図書特殊部隊に配属される。
新隊員訓練期間中は堂上から徹底的にしごかれ、彼にドロップキックを炸裂させたことも。…彼が自分の「王子様」であるとも知らずに。
ちなみに堂上より長身の170cm。胸がやや貧しいことを気にしているが全体のスタイルは良く、ミニスカートを履けばその美脚は抜群の破壊力。
男勝りで勝気で活発、兄3人に囲まれ取っ組み合いの兄妹喧嘩が日常茶飯事の幼少期を過ごしたおかげで直情的ですぐ手が出る性格に育ったため、柴崎からは「山猿娘」呼ばわりされたりもする。なのに肝心な所では純真な乙女だったりする。

  • 堂上篤
声:前野智昭/実写:岡田准一(V6)
『怒れるチビ』
上官で王子様でムツゴロウさん。
新人の郁と手塚を預かる分隊の班長。
冷静沈着…になりたい底冷え熱血漢。戦闘職ではちょっと低めの165cm。
図書隊員としての成績は非常に優秀で、訓練校を次席で卒業している。
郁からは反発され、その面倒をみると手塚に拗ねられる等、お子様2人に頭を悩ませる苦労人。
高校生時代の郁を良化隊から助けた「王子様」その人であり、郁の採用試験にも面接官として立ち会っており、すぐに彼女が昔助けた少女だと気づく。
しかし、郁を助けた際にとった行動は重大な規則違反に当たるもので、それをひどく反省したため自分からは決して「王子様」の正体を明かさなかった。配属当初はこの規則違反の件に加え数々の武勇伝(本人にとっては思い出したくもない黒歴史)を誕生させており、特に図書特殊部隊に抜擢された理由は玄田や先輩隊員たちと共に良化隊員相手に大乱闘を繰り広げるという強烈なもの。
当時の自分をそのまま見ているような郁の行動に苛立ち戸惑いつつ、なんだかんだで彼女のフォローをする自分にもやっぱりイラつく毎日。しかし、不器用ながらも郁を鍛え、成長を見守る。


  • 小牧幹久
声:石田彰/実写:田中圭
『笑う正論』
爽やかで過保護な笑い仮面。
堂上とは同期で、同じく優秀な成績の人物。175cm。
やたら怒鳴りつつ面倒見のいい堂上とは対称に、落ち着いた視点からチームの緩衝材になる参謀役。
「王子様」の事情を知っており、郁と堂上の成り行きを微笑ましく見守っている。
さりげなく新人達にフォローを入れる気遣いや優しさから、「モテるタイプの二枚目」といった感じ。
ただ正論を曲げることを決して認めず、ある意味で堂上以上に融通が利かない面も。それは時折図書館にやって来る少女との関係にいくらか起因するのだが…。
ちなみにものすごい笑い上戸。スイッチが入ると大変なことになる。

  • 手塚光
声:鈴木達央/実写:福士蒼汰
『頑な少年』
真面目で不器用でブラコン。
郁の同期で、同じく1年目で図書特殊部隊に抜擢された優秀な男。180cm。
優秀さも努力の証左と自負し、それゆえに「努力不足」の郁を評価できず見下していたが、
上司2人や第1巻での事件でその鼻っ柱をへし折られることに。その後は郁の優れた身体能力や彼女ならではの人柄などを素直に認めるようになり、堂上が郁に戦力不足と言い放った際には真正面から異を唱えた。
何かと子供っぽいと評される郁だがコイツもかなりガキ。前述のように当初は典型的な「自分以外はバカと思っている」丸出しの嫌な奴だったが、徐々に丸くなっていった。
自分の殻を破るきっかけとなれば、と郁に交際を申し込むという斜め上の行動を起こすが、結局良い同期、友人で落ち着く。その後は柴崎の裏の顔を知りつつ彼女との仲を深めていくことに…。
お父さんは図書館協会のお偉いさん。お兄ちゃんもお偉いさんだが、その兄・慧とは数年に及ぶ確執を抱えている。

  • 柴崎麻子
声:沢城みゆき/実写:栗山千明
『情報屋』
八方美人で不器用で百合。
郁の同期で寮のルームメイト。身長158cmの小柄な美人で、業務部の優秀な司書。
隊内の色恋沙汰から図書館と良化法をめぐる政治事情まで多くの情報を耳ざとく集めている。
「情報」の使い方が人より遥かに上手い。人の弱みを握る一方、自身の本性はつかませない。
男性達からたいそうモテ、それが原因で女子達からやっかみやおせっかいを受けなかなか同性の友人が出来なかったが、明け透けな郁を好ましく思っており、互いに親友となった。

  • 玄田竜助
声:鈴森勘司/実写:橋本じゅん
『喧嘩屋中年』
無茶で無謀で豪快なおじさん。怒るとなまはげ。
図書特殊部隊隊長。強面で豪放磊落な四十路。185cm。
豪快かつむちゃくちゃな作戦を立案するため、一見豪胆なのか大雑把なのかわからないが、
その実、状況や想定される結果を踏まえて最も効率的な手段をとる策士という面を持つ。
細かなところを堂上に丸投げする傾向はあるものの、特殊部隊員に慕われるよき上司である。
若き日の堂上の暴走を目の当たりにし(そして自らも部下全員と共に加勢し)、小牧と共に図書特殊部隊に抜擢した張本人。ついでに、郁の「王子様」が堂上であることを知り、郁を堂上の教育隊に入れたのもこの人。
郁曰く「クマと戦って勝てる人類は図書隊だと玄田隊長しかいない」ほどに体も丈夫であり、茨城県展警備で良化法賛同団体に全身をサブマシンガンで23発(アニメでは32発)撃たれても短期間で意識を取り戻し、リハビリが始まる前に隊に復帰した。

  • 折口マキ
声:田中理恵/実写:西田尚美
週刊誌「新世相」の記者で編集部主任。
玄田とは大学時代からの付き合いがある。同棲経験もある。
郁いわく、「柴崎が中年になったらこんな感じになる」という美人だが、性格は玄田そっくり。
郁を気に入っている。

  • 稲嶺和市
声:佐藤晴男/実写:児玉清(写真出演)
関東図書基地司令。日野の悪夢の生き残りで、現在の図書隊制度を整えた。
日野の悪夢で妻と片足を失っており、義足をつけて車椅子生活を送る上品で穏やかな老紳士。
その穏やかな印象に反し、誰よりも強く検閲に抗い続けてきた。
普段着用している義足にはGPS発信機、愛用の車椅子には散弾銃が仕込まれており、窮地を脱するのに役立っている。ちなみに初期構想では義足に機関銃を仕込んでいるという設定だった。
イメージは児玉清氏。
原作者の発案により、実写映画では撮影前年に亡くなられた児玉氏の写真出演となっており、
稲嶺の役目は石坂浩二氏演じる仁科巌司令(稲嶺の後輩というオリジナルキャラクター)に引き継がれている。


  • 手塚慧
声:吉野裕行/実写:松坂桃李
『内乱』から登場する手塚の兄で、神奈川県内の図書館員。
図書館内の研究会「未来企画」の会長。思想の違いから家族、特に弟とは確執が続いているが、本人はブラコン。
制度や企画会員を利用して何やら暗躍中。

  • 中澤鞠江
声:植田佳奈/実写:土屋太鳳
小牧の10歳下の幼馴染で、彼を恋い慕う少女であり、彼が正論を貫かんとする理由。
中学生の折に突発性難聴を患って右は完全に聞こえず左も補聴器必須。
アニメ版では自主規制の結果、彼女が主体となるエピソードはTV未放送回となっている。

  • 榎木武史
声: 上田燿司
良化隊隊員。アニメオリジナルキャラクター。当初は強引な検閲執行や無許可の発砲など違法行為すら辞さない強硬な隊員として登場し、夜の住宅地で小牧に発砲し軽傷を負わせ、懲戒処分を受けた。
2度目以降は穏やかな人物として描かれており、買い出しに来たコンビニで小牧と再会する。
その際、小牧と志を抱く図書隊を「優秀な人間」と評した一方で、志を持たず出世や生活のために職についた良化隊を「バカの集まり」と吐き捨て、検閲を執行する側でありながら良化隊とメディア良化法を良く思っていないことを語った。
良化隊には縁故採用であり、小牧からの図書隊への転職は固辞している。
ちなみに愛読書が検閲対象であり、こっそりとファンクラブに顔を出すという意外な一面もみせた。

○用語

  • 図書隊
図書館の自由法(ページ冒頭の5行)に基づいて設立されたメディア良化委員会抵抗組織。端的に言えば武装した司書。
大まかに分けると、通常の図書館業務を担当する業務部と検閲に対抗するための戦力である防衛部の2部署となる。
ただし武力の運用はあくまで図書及び図書館を守るために限定される。
防衛部はメディア良化委員会に対抗するため実銃、汎用ヘリ等を保有し日本各地に基地を持っている。
戦闘服、使用する銃火器、そして「護るために戦う」という理念等、自衛隊を思わせる佐々木。
シンボルマークはカミツレ(カモミール)の花と本を組み合わせたデザイン。

  • 図書特殊部隊
ライブラリー・タスクフォース。図書隊防衛部から選抜される少数精鋭の特殊部隊。
図書館の通常業務から戦闘まで様々な業務を行う。

  • 未来企画
手塚慧を中心とする図書隊内の研究会。原則派・行政派とも違う第三派閥。
図書隊を文科省旗下の国家機関に格上げし、政治の舞台で検閲の正当性そのものについて良化委員会と争うことで検閲を打倒しようと主張する。
一方でそれを実行すると図書隊の検閲対抗権を大きく譲り、政争で時間を費やすためにその間国民は検閲に晒され続けてしまうデメリットが郁の口からも指摘されている。

  • メディア良化法
メディア良化委員会が存在し武装する根拠法。公序良俗を乱し、人権を侵害するメディアを摘発するために作られた法律。
しかし、その実態は恣意的な検閲を合法化する悪法。というより他の法律(器物破損など軽く思いつくだけでいくつもある)とも矛盾する時点で、
法律の体を内してない「これを振りかざしたものは憲法・法律に束縛されずに好き放題できる」の意味に近いザル法。
条文が非常に簡素で恣意的に解釈できるように作られており、その都度細則で補っている。
図書館の自由法が上述の文だけなのも、これらに拡大解釈で対抗するためとされる。
この法律によって書籍はあらゆるタイミングで検閲を受ける可能性があり、売上を見込みにくいため価格が高騰し(実写作品では最低価格が6,000円となっている)皮肉にも図書館の地位・人気が向上する要因となっている

  • メディア良化委員会/良化特務機関
メディア良化法に基づき設立された法務省下部組織。
良化法に則り出版物に対する単語レベルでの規制、テレビに対する放送禁止命令、Webサイトに対する削除命令等あらゆるメディアに対して優位性を持っている。
主に出版物に対する検閲の実行部隊として、各都道府県に良化特務機関(メディア良化隊)を設置している。
「表現を取り締まる警察」と言える良化隊だが、その手法は抜き打ちや騙し討ちめいたやり方に加え、不法侵入などの犯罪行為や過激な良化法賛同団体を利用して検閲対象を破壊させるなど非常に悪質かつ卑怯。原作においては茨城県展弾圧の敗北後、良化法団体に玄田を襲撃させ、アニメ・劇場版では市街地における発砲、実写作品においては隊長自ら良化法賛同団体に指示を出して図書隊司令を誘拐させる等、法を執行する組織とは思えない暴挙に及んでいる。不法行為で隊員が逮捕された場合の釈放ルートも備えてあるようで、作戦の過程で隊員に1人2人逮捕者を出しても中止せず強行する(小牧曰く「アイツらにとってルールは上手に破るためにある」)。アニメ版では過去に一般市民(それも児童)に発砲したことが小牧から語られている。

…このように、一連の所業に加えて作中において良化隊側の言い分や良化隊の掲げる正義は一切語られていないこともあって、シリーズ通して完全な「悪役」として描かれている。

作者は「戦争」あとがきにて良化隊側の言い分は今後も描くつもりはないと断言している。作家という立場上、検閲を行い本を狩る側の理念など書けるわけがないのだが。

自衛隊のイメージが強い図書隊と対照的にこちらは警察組織に近く、警察の特殊部隊のような黒い戦闘服とMP5機関銃を装備する。
ちなみに、アニメ版の制服・エンブレムはデザインがナチス風で悪役感丸出し。実写映画版では日本警察に近いデザインものになったが、やはり悪役感強め。


  • 日野の悪夢
日野図書館襲撃事件の通称。
「戦争」から20年前、メディア良化法に賛同する団体が図書館を襲撃、館員12名の死亡及び図書館への放火により蔵書の全損という被害を招いた。
稲嶺は当時日の図書館館長でこの事件の生き残り。
襲撃者たちはスプリンクラーを破壊して放火、逃げてきた図書館員を出口で待ち受けて射殺という手口を用いている。
また、警察への通報が無視されたことから良化委員会の圧力がかかったとの疑惑も取り沙汰されている
*1
この事件をきっかけに図書隊は武装化が進み、実弾まで用いた実質的な内戦状態へと発展した。物騒な世の中である…。



追記・修正は本屋で王子様に助けられてからお願いします。

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最終更新:2025年02月20日 19:53

*1 良化隊は抗争による抗争時間の通告や使用武器の制限等、周辺被害への配慮を自らに義務付けることで取り締まりを免れているが、賛同団体による暴力事件は本来警察による取り締まりの対象である