エフフォーリア(競走馬)

登録日:2025/08/23 Sat 00:18:00
更新日:2025/09/29 Mon 21:48:16
所要時間:約 30 分で読めたエフフォーリアアアアア!!!





時代の継承


父の父、シンボリクリスエス以来となる3歳での天皇賞(秋)、有馬記念制覇。
祖父、父に続きGⅠジョッキーとなった鞍上と共に、新たな時代を創っていく


エフフォーリアとは、日本の元競走馬、現種牡馬。

そしてその馬生は、一人の若手騎手と一頭の競走馬の、出会いと別れの物語でもある。


目次
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データ

  • 生年:2018年3月10日
  • 父:エピファネイア
  • 母:ケイティーズハート
  • 母の父:ハーツクライ
  • 生国:日本
  • 生産者:ノーザンファーム(安平町)
  • 馬主:キャロットファーム
  • 調教師:鹿戸雄一(美浦)
  • 主戦騎手:横山武史(現役中全レースに騎乗)
  • 戦績:11戦6勝[6-1-0-4]
  • 主な勝鞍:21’皐月賞(GⅠ)21’天皇賞・秋(GⅠ)21’有馬記念(GⅠ)、21’共同通信杯(GⅢ)
  • 受賞歴:21’最優秀3歳牡馬21’年度代表馬
(特記事項:21’日本ダービー(GⅠ)2着)

  • 獲得賞金:7億7663万円

誕生~育成-その身体と心はまだ脆く―

2018年3月10日、ノーザンファームで生まれる。
父は13’菊花賞と14’ジャパンカップを制したエピファネイアで、本馬は2年目の産駒にあたる。
また、父父は3歳で天皇賞・秋と有馬記念を制した漆黒の帝王シンボリクリスエス
母ケイティズハートは500万以下特別が主な勝鞍で、産駒としてはエフフォーリアが2頭目であった。
母父は英雄キラーことハーツクライで、父としては既にジャスタウェイ、リスグラシューなどの三冠馬キラーを輩出しており、母父としても京成杯AH(GⅢ)で芝1600mの世界レコード(1分30秒3)を出したトロワゼトワルなど複数の重賞馬を輩出していた。
1口7万円の400口(2,800万円)で募集され、名前はギリシャ語で「多幸感」を意味する「Efforia(エフフォーリア)」と名付けられた。*1

厩舎は08’ジャパンカップ覇者スクリーンヒーローなどを担当した美浦の鹿戸雄一厩舎。*2
鹿戸師は管理馬にシャドーロールをよく装備させており、エフフォーリアもそれに倣って黒いシャドーロールを装着。彼のトレードマークとなった。
……しかし、デビュー前の彼の評価はあまり高いものではなかった。幼駒時代はそもそもエピファネイア産駒の能力がデビュー前で未知数なのに加え、馬体が緩いうえに体質が非常に弱く、調教するだけで腹痛を起こしていたほど。

そんなエフフォーリアの評価を変えたのは、ある一人の騎手との出会いであった。


2歳

若武者との運命の出会い


2020年8月23日。コロナ禍の真っ只中、札幌2000mでデビューする事に決定。鹿戸厩舎には三浦皇成騎手が所属していたが新潟で騎乗予約が入っていたため、エフフォーリアの騎手は若手騎手、横山武史騎手を指名。天才騎手と名高い横山典弘騎手の三男だが、当時は重賞1勝のみ*3でGⅠ未勝利であった。

武史騎手は2週前の追い切りに騎乗。そしてその後、記者に語った。

「今乗った鹿戸厩舎の新馬、走りますよ。覚えておいてください。」

それは、紛れも無い自信だった。中間の追い切りでも「重賞でも勝ち負けっすね」と話すなど*4、エフフォーリアの可能性を既に感じ取っていた。
この発言の噂は記者たちやファンの間で広まり、デビュー戦を1番人気で迎える。スタート直後、他馬がヨレた影響をモロに受けるものの、向正面の後半から徐々に位置どりを上げ、直線で鞭に応えて押し切りデビュー勝ち。

しかしレース後、疲れが大きく出てしまう。レース前には疝痛を起こしていたなど、幼少期からの体質の弱さはまだ残っていたのだ。

そのためレース間隔を空け、次走は11月8日に百日草特別(東京芝2000m)に出走。
道中力んで掛気味になりながらも、折り合いをつける事に徹底する武史騎手。直線で前が空いた瞬間を逃さず一気に抜け出し、2勝目。クラシックの有力候補として徐々に注目を集め始める。
そして年末のGⅠには出走せず、翌年のクラシックに備えるのであった。


3歳春

共同通信杯 ーこの馬は重賞を勝てるー

3歳初戦は共同通信杯を選択。このレースでは朝日杯FS2着馬にして父の典弘騎手が手綱を握るバゴ産駒ステラヴェローチェ、皐月賞馬アルアインを全兄に持つディープインパクト産駒シャフリヤールに人気を譲り、4番人気であった。

スタートを上手く決め好位に着くエフフォーリアは道中行きたがる素ぶりを見せるも、武史騎手はがっちり手綱を握る。これまで折り合いを徹底して来た事で最後の直線まで我慢しながら競馬を進める。
そして直線に向いた瞬間GOサインを出すと、後ろのステラヴェローチェやシャフリヤールを突き放し、重賞初制覇。ゴールした瞬間、武史騎手は大きなガッツポーズを決めていた。

「デビュー前から重賞を勝てる馬だと思っていましたから」

インタビューで喜びを見せる武史騎手。そして、この勝利は彼ら人馬の快進撃のまだ序章に過ぎなかった。

皐月賞 ーNew Hero is comingー

共同通信杯を制し、満を持してクラシック三冠の第一戦、皐月賞(GⅠ)に挑む。人気としてはホープフルS勝ち馬ダノンザキッドに次ぐ2番人気となった。また、後に何度も対決する事になり、色々と因縁も生まれることとなる弥生賞勝ち馬タイトルホルダーとの初対決でもあった。
しかし、共同通信杯で強さを見せたとはいえ、鞍上はクラシックどころかGⅠ未勝利の騎手。果たしてGⅠで通用するのか疑問を感じる人もまだまだいた状況だった。

まだ続いていたコロナ禍の真っ只中で観客がいない中山競馬場でレースは始まる。まずタイトルホルダーが得意のスタートを決め、ワールドリバイバルとの先頭争いをする中、3番手につけるダノンザキッドの内に付ける形でレースを進める。

そしてレース終盤、タイトルホルダーが先頭に立ち、「ダノンザキッドがちょっと下がっていく!?」という絶望的な実況の中、内から切り込むエフフォーリアにスイッチが入る。並ぶ間もなくタイトルホルダーを抜き去り、ステラヴェローチェやヨーホーレイク、アドマイヤハダルがしごかれながら追い縋るが、差は縮まらない。

叩いて叩いてヨーホーレイクも来るかどうか!?3番手争いが激しくなる!

ただ!抜けた!エフフォーリア!横山武史!!クラシック制覇!!!

エ”フフォォォォォォォォォリィァァァァァァァァァァァァ!!!
フジテレビ アオシマバクシンオー青嶋アナ*5

終わってみれば3馬身差、先行4番手からの横綱相撲、上がりも最速と0.1秒差の2位という完勝だった。
前年度の無敗三冠馬コントレイルに次ぐ2年連続の無敗皐月賞馬がここに誕生した。

「最高です!」

優勝インタビューで初GⅠ制覇の喜びを嚙み締める武史騎手。デビュー前からの追い切りから信じてきた相棒と共に掴んだ初の栄冠だった。
今後、より大きなレースに挑戦し更なるプレッシャーがかかろうとも、成長してみせると決意した。

日本ダービー ー掴みかけた、一生に一度の栄光ー

人馬の悲願をかけ、日本ダービーに出走。前走の雪辱を誓うステラヴェローチェやタイトルホルダーら皐月賞組、毎日杯を制したシャフリヤールなどの別路線組、そして阪神JF、桜花賞共にソダシ相手に2着の成績を引っ提げ牝馬ながらダービーに殴り込んで来たサトノレイナスも名乗りを上げる。しかし、前走の桁違いの走りから、圧倒的1強という雰囲気が強く、単勝オッズは驚異の1.7倍。データ上でもダービーで単勝1倍台で負けた馬は殆どおらず、必勝と思われていた。引いた枠も1枠1番で、スタートの上手いエフフォーリアにとっては距離ロスも少ない好枠となった。……しかし、祖父シンボリクリスエスも父エピファネイアもダービーは2着だった……

また、この時武史騎手は22歳5カ月。仮に日本ダービーを制すれば、1971年にヒカルイマイで二冠を達成した田島騎手の23歳7カ月を上回る、戦後最年少でのダービージョッキー誕生がかかっていた。*6
鹿戸調教師にとっても1984年に騎手となって以降、調教師として開業14年目になって遂に訪れたダービーのチャンスで相当プレッシャーがかかり、何があっても対応できるよう厩舎に寝泊まりしていたという。

レースがスタートすると、バスラットレオン*7がハナを取りタイトルホルダーが2番手、そしてエフフォーリアは3番手につける。一方でシャフリヤール、サトノレイナスが中団やや前目に付ける。

そして最後の直線に入り、やや真ん中に切り替えると残り400mで武史騎手はギアを入れ、エフフォーリアは先行力を生かし周囲を突き放し始め先頭に躍り出ようとする。この時点で勝ったと思ったファンも多かった。

しかし……!

ここで渾身の右鞭!1番のエフフォーリアが先頭!そして内側から10番の…

シャフリヤァァル!!福 永 祐 一がやって来た!!
シャフリヤァァル!!それともエフフォーリアか!!シャフリヤールかぁぁ!?
フジテレビ 福原アナ

なんと後方からシャフリヤールが強烈な末脚で強襲してきた。鞍上の福永祐一騎手はエフフォーリアを完全にマークしており、獲物を捕らえるが如く仕留めにきたのだ。
一完歩毎に差を詰めてくるシャフリヤールと、それを振り切ろうと粘るエフフォーリア。そしてエフフォーリアとシャフリヤールがほぼ同時にゴールイン。写真判定の結果、ハナ差約10cmで惜敗。掴みかけたダービーの栄光はゴールを目前にすり抜けてしまった……。

武史騎手は後年のインタビューで、初めて背中にまたがったときの感触や皐月賞の感動と並んで「ダービーで味わった悔しさは今も忘れられません。」と語っており、更に本ダービーの映像を見返すことができない等、相当ショックだったことが伺える。


3歳秋

天皇賞・秋 ーぶつかり合う3つの魂ー

秋初戦は菊花賞ではなく天皇賞・秋を選択した。元々身体が大きく体質も頑丈ではないエフフォーリアに淀の3000mは長いと判断されたためだ。
なお、その菊花賞で武史騎手はタイトルホルダーを背に再びクラシックの栄冠を掴んでみせた。

さて、近年メンバーが豪華絢爛となっている天皇賞・秋だが、この年も例外ではない。メンバ-の筆頭は
・史上3頭目の無敗の三冠を達成し、シャフリヤールに騎乗していた福永祐一騎手が手綱を握るコントレイル
・史上初の短距離マイル中距離の3路線での古馬GⅠ制覇を目指し、鞍上も府中を知り尽くしている名手クリストフ・ルメール騎手である女王グランアレグリア
の二頭で、ここにエフフォーリアを含めた3強対決と目されていた。そのほかにもマイルCS覇者ペルシアンナイトや春秋天皇賞制覇を狙うワールドプレミア、勝鞍スイートピーSながらもGⅠで好走を続けるカレンブーケドールなどが参戦。

コロナ禍から徐々に観客が戻りわずかながら歓声が上がる中、スタートするとグランアレグリアが前目に付けると、エフフォーリアは中団前目、コントレイルが中団に付ける形でレースが進む。
直線に入り、グランアレグリアが堂々先頭に躍り出るも、エフフォーリア、コントレイルが鞭を入れ、他馬をごぼう抜きにしながら突き進んでいく。

自信を持ってクリストフ・ルメール直線の攻防!先頭は9番のグランアレグリア!

外からエフフォーリア!もう負けられない!横山武史!懸命に右鞭が入った!

コントレイル!コントレイルは現在3番手から前を追っている!こちらも負けられない去年の三冠馬!

やはり三強!やはり三強!!あと100!

互いの意地がぶつかり合う直線。残り200mを切ると三強の後ろはもう誰もついてこない。その中、先に抜け出したエフフォーリアをコントレイルが追い縋るが……ゴール板を先頭で駆け抜けたのは3歳馬エフフォーリアだった。ダービーの時同様、福永祐一騎手が徹底的にエフフォーリアをマークする競馬だったが、今度は真正面からねじ伏せ違う馬ではあるがリベンジを果たした形であった。

若き人馬が頂点に立ちました!
フジテレビ 福原アナ

古馬の壁すらも打ち砕き、ここに祖父シンボリクリスエス以来19年ぶりとなる、3歳での天皇賞・秋制覇を達成した。*8デビュー前の追い切りから可能性を信じ続けた馬が今、日本中距離界の王者に輝いた。
さらに武史騎手は、祖父の富雄騎手(メジロタイヨウ)、父の典弘騎手(カンパニー)に続く、親子三代での天皇賞・秋制覇をも成し遂げたのだった。

ゴール後、スタンドの観客の前に向かうエフフォーリアと武史騎手。その眼には人生初の嬉し涙があったという。

「ダービーの日は本当に死ぬほど悔しかったので、嬉しくて(涙が)出たというより、その反動ででたのかなと思います。」

悔しさをバネにし、春からより一層の成長を見せた人馬。

競馬は、どこまで行くのだろう

月間優駿 2021年12月号

ガッツポーズを決める武史騎手と共に競馬雑誌『月刊優駿』の表紙を飾ったエフフォーリア。その姿は、若きコンビが持つ無限の可能性を感じさせる一枚だった。

余談だが、2着のコントレイルは次走のジャパンカップでシャフリヤールを大きく突き放しレーティング126ポンド*9を叩き出す圧巻の勝利を収め、有終の美を飾った。エフフォーリアと三頭で奇妙な三すくみができ上がった。
またマイルじゃないと気付いて3着のグランアレグリアも中3週間でマイルCSに出走。こちらも堂々たる走りでフィナーレを飾り、古馬マイルGⅠ完全制覇の偉業を達成。大歓声……とまではいかなかったがファン達の惜しみない声援に送られてターフに別れを告げた。
負かした相手の活躍は、エフフォーリアの評価をさらに上げるものだった。

有馬記念 ー時代の継承者、ここに証明ー

若き天皇賞馬はいよいよ年末のグランプリに向かう。このレースには同じく武史騎手で菊花賞を制したタイトルホルダーも出走予定だったが、武史騎手はエフフォーリアに騎乗、タイトルホルダーは彼の兄である横山和生騎手が騎乗することとなった。そして、これが後に横山兄弟の人生を大きく変えることになる。
その他には、このレースでの引退が決まっていたグランプリ三連覇の女王クロノジェネシスや愛すべき菊花賞馬あっキセキぃ♡あの頼れる男和田竜二が手綱を握る春天2着馬ディープボンドや、運命の相手幸英明がエスコートするエリザベス女王杯勝者アカイイト、クラシックで鎬を削ったステラヴェローチェ、重賞馬になったばかりでこの時は令和のツインターボだったパンサラッサ、タイトルホルダーの姉でちっちゃいアイドルメロディーレーンなどが出走。
天皇賞・秋でコントレイル、グランアレグリアを下したエフフォーリアにとって、このレースに勝利することは年度代表馬の称号を得るに等しい程のメンバーだった。

しかし、ここで不安要素が2つあった。

1つ目は天皇賞後の11月、蹄を怪我した事実が判明した事。その影響か、天皇賞・秋よりもパフォーマンスが落ちていると武史騎手は語っている。
そしてもう1つ、前日の中山5Rで武史騎手がゴール手前の油断騎乗で敗れてしまい、2日の騎乗停止を命じられていたことで、騎乗に悪影響しないかという声もあった。
それでも単勝オッズ2.1倍の1番人気で、多くのファンから支持を集めていた。

レースが始まると、パンサラッサが1000m59秒台で逃げ、タイトルホルダーが番手につきディープボンド、エフフォーリア、クロノジェネシスらが順に隊列を作る。
4コーナーでタイトルホルダーがパンサラッサを交わし先頭に立つが、他馬も一斉に加速を始める。

ここでエフフォーリアがタイトルホルダーとディープボンドを追い抜き先頭に躍り出る。ディープボンドが必死に差し返そうとし、クロノジェネシスやステラヴェローチェも追い縋るが、エフフォーリアは力を振り絞り4分の3馬身差を付け、勝利を飾った。

有馬も勝ったエフフォォォォリィアアアァァァァ!!!

フジテレビ エフフォーリアに村を焼かれた男青嶋アナ

どうやら勝ったのはエフフォーリアのようです。メロディーレーンに集中していたので勝ち馬がどうだったのかちょっと分からないのですが

関テレ 暴君岡安アナ*10

遂に年末のグランプリまでも制覇した。先行策からの上がり最速タイという王道競馬で、不安要素を一蹴して見せた。
ただ武史騎手の顔に笑顔は無く、インタビューでは冒頭に前日の油断騎乗に触れていた。

そしてこの年の成績が評価され、最優秀3歳牡馬および年度代表馬を受賞した。正真正銘、日本一に輝いた瞬間だった。
武史騎手も翌週の2歳GⅠホープフルステークスでもキラーアビリティに騎乗し勝利。まさに、人馬共に絶頂期であった。



今の日本にエフフォーリアの敵は居ない
来年もきっとエフフォーリアの年になる
GⅠ7勝、いやあるいはもっとそれ以上の成績を収めるかもしれない
日本競馬の悲願すらもこの馬は叶えてくれるかもしれない


そんな大きな期待をファン達は持たずにいられなかった。

しかし、レースをよく見ると走りのフォームが天皇賞・秋よりも崩れていた
決して万全では無い状況での勝利で、無理をしていないか不安を感じるファンもいたが、その不安は最悪の形で的中してしまう……。


4歳

大阪杯〜宝塚記念 ー狂った歯車ー

古馬になったエフフォーリアは、体質の弱さから国内路線に専念する事になり、始動戦は中距離GⅠの大阪杯となった。

1週前の追い切り時点ではあまり良い出来ではなかったものの、最終的には有馬記念より良いというコメントが出ていた。一方でこれが初の遠征という点や、大阪杯は関東馬の成績が悪いレースであるなど、不安要素は少なくなかった。

それでも単勝オッズ1.5倍の圧倒的1強ムードだった。というのも他にGⅠホースだったのが前年度覇者のレイパパレと有馬記念に出走していたアカイイト、前年の京都大賞典で久しぶりの勝利を挙げた9歳のマカヒキしかおらず、それ以外の有力馬が金鯱賞を逃げてレコード勝ちしたジャックドール、香港c2着のヒシイグアスといったメンバーで、秋天や有馬記念よりは格下と思われていた。

唯一エフフォーリアに土をつけていたシャフリヤールが前週にドバイシーマクラシックを制し、有馬記念で戦った馬たちも2着馬ディープボンドが阪神大賞典を、5着馬タイトルホルダーが日経賞を前哨戦らしい余裕を残しながら勝利するなど、世代・倒した相手のレベルの高さも見せつけており、エフフォーリアの勝利を確信する人も多かった。

が、レースが始まろうとした瞬間、ゲート内で暴れ顔面を強打してしまうトラブルが発生。幸いスタートは上手くいき、いつも通りの先行策でレースを進める。逃げたジャックドールは1000m58秒台と速いペースを刻んでいたが……向正面中間から何かがおかしい。エフフォーリアがどんどん位置を下げ始めていた。これはまずいと途中から武史騎手が必死に追うが、一向にポジションが上がらない。

エフフォーリアは?エフフォーリアは?

中団で揉まれている!?中団で揉まれているエフフォーリアピンチ!!!

関テレ 吉原アナ

直線に入った時はなんと最後方の馬群の中。そのまま全く伸びず、9着の大敗。年度代表馬の面影を感じられない内容に阪神競馬場内外はどよめきを隠せなかった。この時買われたエフフォーリア関連の馬券約100億円が一瞬にして紙屑となってしまった。
レース後に武史騎手は「この馬らしさが無かった」「一週前で重く、メリハリが無かったのが出てしまった」と語っており、追い切り時の懸念が的中してしまった形となった。*11

なお、このレースの勝馬ポタジェはコントレイルの同期であり、なんとこれが重賞初制覇。その後のレースで掲示板に入れないまま、2025年5月に引退し種牡馬入りした。この勝利が無ければ種牡馬入り出来なかった可能性もあり、まさに友道厩舎スタッフと吉田隼人騎手の執念で掴んだ貴重な一勝だった。

エフフォーリアは立て直しを図るべく、続いて宝塚記念へ出走。大阪杯から引き続き出走するポタジェやヒシイグアス、有馬記念以来の再戦であるパンサラッサやディープボンド、同父の三冠牝馬デアリングタクト、かつて武史騎手を重賞初制覇に導いたウインマリリンが出走する中、ファン投票一位こそ破竹の勢いを見せる同期のタイトルホルダーに譲ったものの、馬券面では前走からの復活を願う多くのファンから支持され1番人気となった。一方で、ここまでGⅠレースは1番人気が11連敗という恐ろしい流れが続いており、嫌な予感がしたファンも多かった。

そんな中、最大の壁となったのは、兄の和生騎手が騎乗するタイトルホルダーだった。和生騎手はパンサラッサ、ディープボンドと共に前半1000m57秒6、最後方のアリーヴォすら60秒前後という常軌を逸した狂ペースを作り出し、最終直線では膨大なスタミナに物を言わせ上がり3位の末脚で押し切っていく。エフフォーリアは中団で控えていたにも関わらずまともに脚が溜まらず、さらに自身をマークしていたデアリングタクトに行く手を塞がれてしまう。結局、競馬界のエースとして先頭を駆け抜けるタイトルホルダーを見ながら、6着に終わってしまった。
思い通りの進路が取れなかったことや、後方勢としては十分な伸び足を見せれていたことなど、決して悪いところばかりが目立つレースでは無かったのだが、とはいえ二戦連続で着外となった馬をいつまでも最強馬として認めるほどファン達も寛容ではない。彼が牽引すると思われた日本競馬界の旗手の立場は同期に奪われる形となり、エフフォーリアは混迷の闇から抜け出せないまま春シーズンを終えることとなった。
そして、この敗北によってGⅠレースの1番人気は12連敗。結局、天皇賞・秋までこの悪い流れは続く事になる。

レース後に放牧に出され、天皇賞・秋の連覇に向けて調整していたものの、8月に膝や球節の不安があり全て白紙となってしまった。

年度代表馬として輝いていた3歳からは一転、上半期は1度も掲示板に入れず、その内容も強いエフフォーリアらしさが皆無なものだった。彼やデアリングタクトが古馬で全く勝てない事で、エピファネイア産駒は早熟だったのかという意見も飛び交うことになる。*12
もう彼は終わってしまった馬なのか...肩を落とすファンの中には、もう一度強い姿を見せて欲しいと願わずにはいられない人も多かった。


有馬記念 ―輝きを取り戻すために―



挫折と屈辱と辛抱も 勝てば全てを報われる

今のエフフォーリアを受け止めて戦う そんな覚悟を決めた24歳横山武史と

復活をかけるディフェンディングチャンピオン エフフォーリア

有馬記念 本場馬入場 青嶋アナ

エフフォーリアの調整はかなり難航し、年末の有馬記念でようやくの復帰となった。しかし、馬体は悪い意味で昨年度とは別馬だった。*13このためか、当日の人気は秋天覇者イクイノックスや凱旋門賞帰りのタイトルホルダー、この年のエリザベス女王杯覇者ジェラルディーナらに譲り、生涯最低となる5番人気。

それでも、昨年度制したこの舞台であれば復活出来るかもしれない。上記の青嶋アナの本馬場入場実況もそんな思いが入ったファンの気持ちを代弁したものといえる。

レースは逃げるタイトルホルダー、先行するディープボンドやジャスティンパレスらを見ながら、前年度のように前目で進め、自身の後ろにイクイノックス、最後方にボルドグフーシュが構える展開となった。

4コーナーに入りタイトルホルダーの手応えが悪くなるや、各馬が抜き去ろうと動く。エフフォーリアも武史騎手の鞭に応えようと必死に動こうとした。しかし、そんなエフフォーリアの隣で、手綱を持ったまま凄まじい加速で抜き去る青鹿毛が一頭いた...イクイノックスである。手応えも末脚も残酷なまでに次元が違う走りを見せつけ、皮肉にも自身と同じく3歳にして天皇賞、有馬記念を制するのであった。テンサイショウネン、ナカヤマデモツヨシ!!

エフフォーリアは5着入線。ただし、1〜4着が斤量55kgの3歳牡馬または古馬牝馬であったため、斤量57kgである古馬牡馬の中では最先着。また武史騎手も「今年の中では1番良かった」と語るなど、僅かながら復活の兆しが見えてきた一戦だった。

来年こそは、きっと強かった頃のエフフォーリアが戻ってくる。

ファンの心に一筋の希望が宿った時だった。…しかし、競馬の神様は翌年、残酷な現実を叩き付けてきた。

5歳~引退

京都記念 -その別れは突然に―

5歳となったエフフォーリアの始動戦として陣営が選んだのは、GⅡ京都記念であった。当時は京都競馬場が改修中だったため、この年は阪神2200m、つまり宝塚記念と同じコースでの開催となった。ここを勝利することで前年度の敗北を払拭出来る狙いもあった。

そこへ挑戦状を叩きつけてきた4歳のGⅠ馬が2頭いた。1頭目はかつて武史騎手に導かれてGⅠ馬となり、前走中日新聞杯も勝利したキラーアビリティ。
そして、もう1頭がイクイノックスを下しダービー馬となったドウデュース。前走の凱旋門賞はブービーに終わり、ドバイに向けてこのレースが始動戦となっていた。

GⅠ馬3頭というスーパーGⅡとなった、仁川での京都記念がスタートする。エフフォーリアは果敢に先行し2番手につける。一方のドウデュースは後方でじっと構えてレースを進めていく。

レース後半になっても、大阪杯のようにポジションを落とす事も宝塚記念のような乱ペースにもなる事もなく進む。今度こそ復活なるか?とファンが固唾をのんで見守っていた。

ところが、3コーナー中間からエフフォーリアの手応えがおかしくなる。ドウデュースが外から抜群のコーナリングで上がっていく中、エフフォーリアはどんどん後退していく。直線手前ではもう最後方。そして…

エフフォーリアは下がってしまった!!

関テレ 川島アナ

異変を感じた武史騎手はレースを止めて徐々にスピードを落とし、下馬した。
ドウデュースが強きダービー馬の貫録を見せつける中、競走中止となってしまった。

診断の結果は「心房細動」。心臓に異常な電気信号が起こる不整脈の一種であり、発症すると血液を全身に送れなくなり失速してしまう。幸いにも競走馬の場合、治療を行わなくとも回復する場合が多く、今回も大事には至らなかった。
とはいえ、復活を懸けた始動戦のまさかの結末に、トラウマを感じたファンも多かった。

ここからどう立て直すのか?次走はどうなるのか?メンタル面は大丈夫か?とファン達がざわつく中、レース2日後、陣営から重大な発表がされた。

エフフォーリア引退 種牡馬入り

種牡馬価値が高い彼に、これ以上無理にリスクを負って競走は出来ないと判断したのだった。
復活を願われた年度代表馬は、古馬以降勝利が無いまま、ターフを去ることになった。

引退

引退後は社台スタリオンSで種牡馬となる事が決定した。

そして退厩当日、武史騎手も美浦のトレセンに駆けつけて来た。共に歩んできた相棒と笑顔でツーショット写真に写る武史騎手。
しかし、馬運車の扉が閉まり出発する時、武史騎手の目には涙が浮かんでいた。

「最後は笑って送り出したかったんですけど…」

涙を流しながらも、武史騎手はエフフォーリアへの思いを記者に語った。


幸せになってほしい。僕はあの子にムチを叩くことしかできなかった。
それが仕事でもあるんですけど、(エフフォーリアは)しんどかったと思う。
これからはムチを叩かれることもないですし、幸せに無事に楽しく過ごしてくれたらいいなと思います


父エピファネイアが種牡馬としてバリバリ現役ということもあり初年度種付け料は300万で設定され、2月下旬という配合決定シーズンもそろそろ末期という時期の電撃スタッドインにも関わらずいきなり満口となり200頭近い牝馬に種付けした。翌年度には400万に値上がりした。
2026年には初年度産駒がデビューする予定である。彼の夢の続きを体現してくれる産駒は出てくるのか。
ファンは楽しみに待っている。

余談

ファンからの愛称は「エフ」「エフフォ」「F4」などがある。
ちなみにF-4という戦闘機が実在し、飛行機雲を撃ち落としたことから「撃墜王」という渾名で呼ばれたことも。*14

2021年は、実在する競走馬達を美少女化したウマ娘 プリティーダービーのアニメ2期が放映され、さらにアプリゲームも配信され一大ブームとなった年でもある。そうした中、ウマ娘から競馬に入るファンも多く増えた年であり、トレーナー達が最初に目撃することになるクラシックホースこそ、エフフォーリアら2021年クラシック世代である。エフフォーリア自身の圧倒的実力や若さ溢れる武史騎手とエフフォーリアの強い絆、個性溢れるライバル達との戦いに新旧競馬ファン達を熱狂の渦に包み込んだ。そしてエフフォーリアの活躍に脳を焼かれまくったとあるアニソン歌手が声優を志すようになった。
だからこそ、古馬以降不振が続く彼に対し復活を願うファンも多かった。それはエフフォーリアのファンだけでなく、彼が負かした馬達のファンからも「自分の推し馬に勝った馬が弱い筈がない」と復活を願う気持ちが強かった。

クラシックの頃は無双を続けたものの古馬以降不振に陥ったまま引退した馬というのはこれまでも多く存在した。特に古馬になり怪我で歯車が狂うなどシャドーロール装備も含め類似点が多いナリタブライアンはよく比較されやすい。あちらも2回目の阪神大賞典で実況の杉本アナが放った「蘇れブライアン!」の通り、多くの人から復活を願われた馬である。

武史騎手の父、横山典弘騎手はそのナリタブライアンの同期であるサクラローレルを始め、数多くの名馬に騎乗し、時にはとんでもないレースの主役を演じるなど天才騎手として名高い。
そうした父の姿、特に2009年にカンパニーのラストランとなったマイルCSを見て騎手になることを決意した武史騎手。そんな武史騎手とエフフォーリアの現役のレースは、時には喜びを共感し、時には悔しさを共感した。

最愛の相棒エフフォーリアの退厩時に涙を流した武史騎手。しかしこの年、彼は再び無敗皐月賞馬との出会いを果たす。朝日の名を冠するその馬と共に勝利の雄たけびをあげたのだった。流石やお前!!
…なお、そのソールオリエンスが極端な道悪巧者だったり、さらに2年後に主戦となったダート界の新星ナチュラルライズが凄まじい気性難でかつ右ササり癖があるなど、エフフォーリア以上に難しい馬ばかりがお手馬になりつつある。誰が言ったか武史幼稚園。



追記修正はエフフォーリアへの想いを叫びながらお願いします
この項目が面白かったなら…\エフフォーリアアー!/

最終更新:2025年09月29日 21:48

*1 同義語としてEuforia(ユーフォリア)という単語もあり、楽曲や映画、アニメの作品で使われることが多い。

*2 鹿戸調教師は元騎手で、騎手時代はニッポーテイオー、シンボリクリスエス、ゼンノロブロイなどの調教に跨っていた事もある。

*3 2020年4月にウインマリリンに騎乗したフローラS。

*4 ちなみにこれは建前らしく、本当はGⅠを狙える馬と言いたかったらしい。

*5 余談だが、実はフジテレビの実況席とNHKの実況席の距離が近く、さらにこの日は無観客のレースだったため、元より声量が大きいとはいえアナの声をNHKのマイクが拾ってしまうという珍事があった。

*6 戦時中まで遡ると1943年に怪物牝馬クリフジに騎乗した前田長吉騎手が20歳で制している。

*7 キズナ産駒。後に日本調教馬初の海外芝ダート両重賞制覇を達成する。

*8 クラシックを制した3歳馬による制覇は史上初

*9 この年の日本調教馬第1位

*10 実はこの実況、関テレが独自に設けたメロディーレーン専用実況チャンネルの実況である。

*11 この他にも鹿戸師が「両端が牝馬で鳴きながら入ったのも原因かもしれません」とレース後に語っており、この影響でエフフォーリアは牝馬が苦手という説がファンの間で広まった。

*12 誰がいったかエピファタイマー。なお、2024年にはテンハッピーローズが6歳でヴィクトリアマイルを、ブローザホーンが5歳で宝塚記念を勝利し、さらに2025年にはダノンデサイルがドバイシーマクラシックを制するなど、古馬で勝てるエピファネイア産駒も現れてきている。

*13 どのくらい悪いのかと言うと、一部解説者に牛のようだと言われるほど。実際、前走の宝塚から+12kgの体重増となっている。

*14 他にはダービーで敗北して以降勝ちまくったので悲しき競馬マシーンと呼ばれたり、大阪杯後の鹿戸師の発言から牝馬絡みのあだ名が色々作られたりする