MAYHEM(バンド)

登録日:2021-08-31 (火) 18:42:29
更新日:2024/12/16 Mon 13:48:19
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血で汚してすまない。




Mayhem(メイヘム)とは、ノルウェーのヘヴィメタルバンド。
ブラックメタル草創期の90年代に、数々の名曲と数々の凶悪事件でノルウェー中に恐怖をもたらし、現在にも繋がるブラックメタルのファッション性と音楽性を確立した伝説のバンドである。

「Darkthrone」「Emperor」と共に3大ブラックメタルバンドとも言われている。



概要

前述の通りMayhemはブラックメタルバンドに属する、というよりもオリジネーターの一組である。
90年代、「Venom」「Bathory」「Sodom」等に影響されたスラッシュメタル色が強いそれまでのブラックメタルに唸り声のようなボーカルや邪悪な思想などを持ち込み、その狂気に満ちた音楽性や思想・行動によって、ブラックメタルを独自のジャンルとして確立させた。

ブラックメタルは"NWOBHM"やMetallicaSlayerなどのスラッシュメタルに比べ、あまりドラマチックな展開は無いが(一部例外あり)、その分より過激で悪魔崇拝的な歌詞・思想を特徴とし、”ヘヴィメタルの派生ジャンルの中で一番危険なジャンル”と言われるほどの邪悪さを秘めているジャンルである。

そんなブラックメタルにおいてMayhemは、ブラックメタルが一番危険なジャンルと呼ばれるようになった元凶なのだ。



歴史

Mayhem初期

1983年にトルルス(ボーカル)、オイスタイン・オーシェト(ギター)、グレン・ラーセン(ベース)、エスペン・モーテンセン(ドラム)によってMayhemは結成された。
しかし、その後約1年でオーシェト以外のメンバーが脱退する。
同年、ネクロブッチャー(ベース)、マンハイム(ドラム)が加入。 正式に活動を始める。
この頃からオイスタイン・オーシェトは名を改めユーロニモスとして活動するようになった。

そして、バンド初のデモテープである「Pure Fucking Armageddon」をリリースする。デモテープとはいえ音質の悪さはブラックメタルでも右に出るものは少ししかいないだろう。だが、ブラックメタルの邪悪さはしっかりと秘められている。
ボーカルが加入する前はユーロニモスがボーカルとギターを兼任していた。
その後にボーカルとしてメシアが加入。しかし、短期間で脱退したため代わりにマニアックが加入した。

1987年、初のスタジオアルバムである「Deathcrush」を発表。
当時はエクストリーム・メタルに多大な影響を与えた「Venom」や「Bathory」をリスペクトしたような作品だったが、劣悪なサウンドプロダクション、凶悪なギターリフ、狂気的なボーカルと「Mayhem」の凶暴さ・ドス黒い瘴気はこの頃から既に現れていた

リリース後、マニアックとマンハイムが脱退。その後にキッティル・キッティルセン(ボーカル)とトルベン・グルエ(ドラム)が加入するも、短期間で脱退する。
しかし、この脱退を機にMayhemに転換期が訪れ、黄金期を迎えるきっかけとなった


DEAD 狂気の始まり

同年、デッド(ボーカル)とヘルハマー(ドラム)が加入
現在においてもデッド、ユーロニモス、ネクロブッチャー、ヘルハマーがメンバーだったこの時期を黄金期だと呼ぶ人が多い。

そして、歴代の「Mayhem」メンバーでひときわ異彩を放っていたのがデッドである。 
「Mayhem」加入前、デッドが加入していたバンドである”Morbid(モービッド)”のデモテープと加入希望の手紙、そして磔にされたネズミを「Mayhem」のメンバーに送った経歴からもそのヤバさが分かるだろう。
そして彼は、”精神面で苦しんでいるかのように叫ぶボーカルスタイル”を取り入れ、それはブラックメタルのボーカルスタイルとして広く知れ渡るようになる。

それだけでなく、死化粧を模したフェイスペイント”コープスペイント”を取り入れ、現在でも続くブラックメタルのファッションを確立した。*1

だがデッドにとっては、「KISS」や「アリス・クーパー」のようにエンターテインメント性を目的としてメイクを取り入れた訳ではなく、デッド自身が本当の死人のように振舞うために取り入れたペイントだった

デッドは自分を死者のようにするために手段を選ばなかった。
例えば、自傷行為はもちろんのこと、ライブ時に使う衣装を地面に埋めておき、それを掘り起こして腐敗した臭いを楽しんだり、カラスやネコなどの動物の死骸を拾って自分のコレクションにするなど、よもや狂ってるとしか思えない行為を次々と、嬉々として行った。
そこまで死に執着したのには理由がある。彼は、幼いころ経験した”いじめによる脾臓破裂”などのトラウマにより鬱になっていたのだ
デッドのボーカルを一時的に引き継いだスティアン・ヨハンセンは「デッドは、多分自分を自分だと認識していなかったんだと思う。」と語っている。

そして、死への執着が頂点に達してしまった。

1991年 4月8日。デッドは、ショットガンで頭を撃ち抜き自殺する。 享年22。 
その日響いたショットガンの銃声は、「Mayhem」だけでなくブラックメタル全体を狂気の道へと突き動かす歯車の音でもあった。

また、ネクロブッチャーもデッドの死を境に「Mayhem」を脱退。
代わりにヴァルグ・ヴィーケネス(ベース)とアッティラ・シハー(ボーカル)が新たに加入する事になった。そして、ユーロニモス、ヴァルグ、アッティラ、ヘルハマーがメンバーだった時代。それは、最悪の意味での全盛期。ブラックメタルが”犯罪集団”としてノルウェー全体を恐怖に陥れた時代でもあった。


2人のメンバー 1つのサークル 無数の狂気

この頃には既に、「Mayhem」の名はブラックメタル界隈では知らない者は居ないと言えるほど知れ渡っていた。
そして、その人気はある一つの”ブラックメタル好きの集まり”を”過激派悪魔崇拝者グループ”へと捻じ曲げた。
その名は”インナーサークル”である。

インナーサークルとは1989年にユーロニモスが始めたレコードショップ「ヘルヴェデ」の常連客を中心に構成された、ブラックメタルファンの集いだった。
初めは単なる同人的な繋がりしか持っていなかった彼らだったが、次第に「誰が一番悪魔的か」「誰が一番ヤベェ奴か」を競い始めたのだ。
彼らにとっての悪魔崇拝は「反キリスト」であり、そのキリスト的道徳に基づいて構成された「社会への反抗」でもあった。
日本に限らず、世界中どこへ行ってもこの手の集団というのは過激化・先鋭化しやすく、インナーサークルのメンバーもまた数々の犯罪行為に手を染めており、それはもはや音楽ファンの集いなどでは無くなっていた。

そしてサークル内では、デッドの自殺によって一気に「Mayhem」のヤバさが知れ渡り、「Mayhem」を神格化する者まで現れた。
次第にその活動と思想は過激化していき、とうとう超えてはいけない一線を越えてしまう。
1992年 6月6日。12世紀に建てられ*2、建築的にも歴史的な価値を持っていたファントフト・スターブ教会がヴァルグ・ヴィーケネスの手によって放火され、全焼した。

この事件をきっかけに、教会が全焼した件数が急増。1992年だけでも7棟以上の教会が放火の被害に遭った。
だが、インナーサークル内では、最初に放火したヴァルグの名声が急激に上がり、それはユーロニモスを凌ぐほどになっていた。
それに連れて、ユーロニモスとヴァルグの関係は悪化していく。サークル内での権威構造の変化だけでなく、ヴァルグが新プロジェクトである「BURZUM」の活動を始めた事、「Mayhem」の利益分配についてユーロニモスが不満を持ったからである。

そしてその軋轢は、ブラックメタルを代表する大事件に繋がっていく。


刺殺

事件が起こる少し前、ユーロニモスの「ヘルヴェテ」は度重なる教会への放火によって警察にマークされ、閉店に追い込まれた。

しかし、インナーサークルが解散することはなかった。
そのため、未だにインナーサークル内の権力争いが終わることも無く、ユーロニモスとヴァルグの関係は悪化するばかりだった。

ヴァルグによると、「”ユーロニモスは俺を拷問して殺すまでのビデオを撮る計画を持っている”と俺の知り合いに聞いた」と語っている一方、ヴァルグもネクロブッチャーにユーロニモス殺害の意志を伝えていた。
2人の関係はもう修復不可能なほどに悪化していたのだ。

そして、ついに事件が起こった。
1993年8月10日。ユーロニモス宅でヴァルグがユーロニモスを刺殺。頭に2箇所、首に5箇所、胴体に16箇所の刺し傷があった。
この事件はバンド関係者が起こしたor巻き込まれた他の事件とは違い、”同じバンドのメンバー間で起きた殺人事件”なのである。
ヴァルグは逮捕されたが、裁判の際に彼は静かに、そして満足そうに笑顔を浮かべていた…
それは世間にブラックメタルの狂気を伝える、最高の笑みであった。

判決は、ノルウェーの最高刑である懲役21年。そして、この事件をきっかけにインナーサークルメンバーが次々と逮捕され、インナーサークルは解散、消滅した。
こうして、ノルウェー中を巻き込んだブラックメタルの狂気は幕を閉じた。


現在

その後、ヴァルグは獄中でも音楽活動を続け、2009年短縮された15年の刑期を終えて出所。2013年にテロ行為を計画したとしてまた逮捕されるなどもあったが、現在でも自身のプロジェクト「Burzum」で活動中である。
「Mayhem」は、ユーロニモスの死後ネクロブッチャーとヘルハマーが中心となって再結成を果たし、現在は真面目な音楽バンドとして活動している。
現在のメンバーはアッティラ(ボーカル)、ネクロブッチャー(ベース)、ヘルハマー(ドラムス)、テロック(ギター)、グール(ギター)。
再結成後来日も果たしている。

更にブラックメタルというジャンル自体も細分化しており、現在では悪魔崇拝や犯罪行為に興味を示さないバンドも多く、「Cradle Of Filth」や「Dimmu Borgir」のように商業的にも大きな成功を収めたバンドも現れるようになった。
また、ブラックメタルにポストロックの要素を持ち込んだ「ポストブラックメタル」、シューゲイザーと融合した「ブラックゲイズ」、ブラックメタルのスタイルでキリストを賛美する「アンブラックメタル」といった、従来のブラックメタルとは全く異なる要素や思想を持ったバンドも多く登場している
ただし、元々がアンダーグラウンドなジャンル故に、一部のコアなブラックメタルリスナーからは批判に晒されることもあるが……。



Mayhemとインナーサークルメンバーのアルバム

ここでは、Mayhemの代表的なアルバム及びインナーサークルの名盤について紹介する。
怖いもの見たさでも構わない。ちょっとでもブラックメタルに興味が出たら覗いてくれるとありがたい。 名盤追加もご自由にどうぞ!

余談


追記・修正はブラックメタルを聴いてからお願いします。

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最終更新:2024年12月16日 13:48

*1 マーシフル・フェイトがブラックメタル最初期にコープスペイントを取り入れたが、ブラックメタル中に広めたのはデッドである。

*2 18世紀に取り壊しの危機に遭ったため移転した

*3 曲によって異なる。マニアック(2・3・5曲目)は悲鳴のようなボーカルでメシア(4・7曲目)は邪悪なトーンかつ凄まじい早口の吐き捨てボーカル

*4 同一又は数個の音高を小刻みに弾くテクニック。わかりやすく言えばドレミをめちゃんこ速くドドドレレレミミミって弾くような物。トリルと混同される事も多い。

*5 海賊盤ながら写真を提供したのはユーロニモス本人。

*6 10周年(1stフルリリース時)はユーロニモス殺害事件、20周年(3rdフルリリース時)はギターのブラスフェマーとボーカルのマニアックの人間関係が著しく悪化していた時期で、とてもアニバーサリーを祝える雰囲気ではなかったとのこと。