検事や裁判官、あなたのような先生方が何人も知恵を寄せ合った法廷で私は有罪になったんです。
疑う余地はありません。私も敏郎にイジメはなかったとする判決を受け入れましたよ。
法廷の下した決定には従うほかない。……そうでしょう? ねえ、そうでしょうが!
先述の御子柴殺しの動画は本物。つまり痴漢事件は冤罪だったのである。
事の発端は学校側との裁判に負けた後。
いじめを証明できず悲壮感に暮れていると、表向きは便利屋をしながら裏では全国各地でイジメ加害者を粛清している
桑名仁が現れ「復讐しないか?」と話を持ち掛けられる。
ただこの時の御子柴は犯人と疑われているが証拠がなかったのだが、桑名は誠稜高校の教師である澤陽子が、
「御子柴に敏郎がいじめられていた」「学年主任と弁護士に言い包められ、偽証してしまった」「本当はそんなこと絶対にしたくなかった」と桑名に喋っている音声データを持っていた。
それは江原が裁判中、ずっと欲しかった「いじめがあった」ことを証明する
唯一の証拠。
ただこれだけでは無罪判決がでた裁判をひっくり返すほどではない(だからこそ澤先生も偽証して当時未成年の御子柴の将来を守る事に決めた)
息子を殺した御子柴は罪を償わずのうのうと生きており、なおかつ教育実習生として誠稜高校に来ている事を知り、江原の怒りが限界に達してしまった。同時に息子のいじめを立証するどころかそれを隠蔽した法にも強い憎悪を抱く。
そのため江原は桑名が立案した作戦に乗り、御子柴と法を嘲笑う復讐を開始した。
痴漢事件のトリックの仕組みは至極単純。桑名が江原の替え玉をしていたのである。
桑名は3Dプリンタで作った江原の顔の仮面を付け(サングラスで目を、マスクで繋目を隠している)、
御子柴殺害時間である午前7時43分ごろに駅にやってきて、一時間その場で獲物を物色する振りをして江原が駅に来て準備する時間を作る。
被害者を痴漢した後は新宿駅ホームに降り、被害者と追いかけっこしている途中で江原と入れ替わったのだ。
(新宿駅ホームは監視カメラだらけで死角がないように見えるが、一部だけカメラに映らない場所がある)
ただこの作戦には欠点がある。
- 電車内で痴漢している時に被害者に騒がれたら江原ではなく桑名が捕まってしまう事
- そこは乗り越えたとしても、ホームに降りた後追いかけっこせずに泣き寝入りされても困る事(捕まる事が目的なので)
- さらに追いかけっこしても江原と桑名の入れ替わりに気付かれてもお終いな事
つまりこの作戦は「電車内では怖がって何もしないが、ホームに降りた後は追いかけっこするほど強気になる女性」でなければ成立しない。ハッキリ言って運任せな作戦である。
では江原と桑名はどうしたのか?
被害者女性・間宮由衣もグルだったのだ。
検察が裁判で決定的な証拠として扱った「手に被害者の下着の繊維が付着」していたのもグルだったから安易に付けられたのである。
まず江原が御子柴殺害後、ホームの地下で間宮と合流。間宮は下着を江原に握らせ、トイレに行ってその下着を履いてから電車に乗った。
桑名は自分の指紋がつかないように電車内の監視カメラに痴漢している風を装いながら、ギリギリ下着に触れないようにしていた。
その後ホームに降りた後、江原と桑名が入れ替わりしたのを確認したら「痴漢を捕まえて!」と大声で叫んだのである。
すると、すぐさま乗客の一人が足で江原をこかし、よろめく江原を三人の男が抑え、なおも無様に暴れる江原…
この過程をスマホで撮影する人物含めて、
彼らも実はグルであり、つまり証拠となる動画ですら、桑名と江原の周到な計画の一環であった。
江原が捕まる際に往生際が悪いのも裁判での態度が悪いのも実刑判決を受けたかったからである。
ちなみにDLCのサイドケースにはそんな江原が霞んで見える程の往生際の悪い振る舞いを最後まで崩さなかった連中もいるが
これは「警察と検察がたかが痴漢と考え殺人事件と比較すれば調査がザル」「被害者と加害者がグルとは考えない」「発覚していない殺人事件のアリバイに使われているなんて考えない」という盲点をついた計画である。
特に桑名が付けていた3Dプリンタで作った仮面は性質上口が動かないのだが、単なる痴漢と思っていれば誰もそこに疑問に抱かないのだ。
こうして痴漢事件で有罪判決を出された事で司法はこの決定を覆せなくなり、
冤罪を認められない警察と検察は殺人動画をフェイク動画と言い張るしかなく、御子柴殺しの犯人と江原を追及できなくなった。
つまり江原は御子柴を殺害した殺人犯でありながら、その罪を裁かれる事無くのうのうと生きていける。痴漢の罪による服役は殺人罪に比べれば遥かに軽く、必要経費でしかない。
江原はこうして法をコケにした後、出所してから「御子柴殺しの犯人である」と告白し、法の不完全さをマスコミを通して世間に訴えたかったのだ。
(こうすると改めて逮捕される可能性が否定できないが、もし逮捕されたら「痴漢に対する有罪判決が間違いだったと認める事になる」「法廷が一犯罪者に騙された事実を認める事になる」のは服役前でも出所後でも同じである)
このため痴漢で有罪判決が出た時点で江原の目的は達しており、あとは死体蹴りをしているようなもの。
なので痴漢事件の控訴する必要性はない。
仮に控訴する事になったとしても、痴漢事件で共犯者がいた証拠がないため、間宮に証言してもらう他ない。
しかし被害者への負担を考慮して、決定的な証拠がなければ二審では被害者を呼べないのだ。
したがって冤罪を証明するには、江原に自供させるしかないのだ。有罪である事を望む江原に……である。
真実を突き止めた八神およびさおりは何度も江原の説得を試みるが、彼は頷かない。
接見の場で彼らの間の会話では替え玉トリック等の事については事実上認めるも、それを証言する気は一切無いという。
辛うじて「控訴すること」だけは拒否しなかったが…。
しかし江原も予想していなかった事態の急変が訪れる。桑名の裏切りである。
正確には桑名の裏切りと言うよりも、桑名がかつての協力者に裏切られたために命を狙われる立場に陥り、
前述の澤先生の証言の音声データを八神に預けたのだ。
音声データにコピーがあるかどうかは分からないが、もしあったとしても明日をも知れない身である桑名しか持っていない。
音声の主である澤先生は既に殺害されてしまってこの世にいない。
つまり、公に出られる立場の人間が持つデータは八神の手にあるたった1つのみ。
裁判の席上で八神はこれを江原に提示。
御子柴殺人に関して否認を続け、桑名という人物も音声データの内容も知らないと言い張る江原に対し、
「関係が無いということですし、もういっそここで消してしまっても構いませんね?」と問う。
このデータはこの世に残る、御子柴が息子を死に追いやった当人であると示す唯一の証拠である。
…それを消される事は絶対に許せない江原は、ついに録音データとの関連を認めた。