ヴァン・ゴッホ(Fate)

登録日:2021/11/09 Tue 03:11:41
更新日:2025/01/14 Tue 04:21:34
所要時間:約 8 分で読めます







一緒に世界を塗り替えましょうね。
な、なんちゃって、ウフフ、エヘヘ……


Fate/Grand Order』に登場するサーヴァントの1人。
クラスはフォーリナー
イベント『虚数大海戦イマジナリ・スクランブル ~ノーチラス浮上せよ~』で期間限定サーヴァントとして実装された。

ILLUST:きばどりリュー
CV.高橋花林


◆史実におけるヴァン・ゴッホ


本名「ヴィンセント・ヴィレム・ヴァン・ゴッホ」。
19世紀オランダで活動していた後期印象派画家であり、美術の教科書には必ずと言っていいほど彼の作品が掲載されている。

明暗のはっきりした厚塗りのような画風が特徴で、炎のように激しい色合いの絵を得意としたことから「炎の画家」の異名がある。絵画自体も見る者を絵の中に引き込むような迫力溢れるものが多い。
一部はFGOにも採用されており、「星月夜」(宝具攻撃のときに出てくる絵)、「糸杉と星の見える道」(第二再臨~でEX攻撃の時に出てくる黒っぽい絵)、「花咲くアーモンドの木の枝」(第二再臨~でEX攻撃の時に出てくる横長の絵)などがそれである。


模写の題材と言えばゴッホのひまわり、と言われるほどの世界的巨匠として知られているゴッホだが、その生涯は壮絶の一言。
そもそも絵が人気になり売れるようになったのは彼が死んだあと。つまり、生前は描いた絵について世間から一切評価してもらえなかった
画家としての収入ももちろん一切ないので、生活は画商を営む弟・テオドルスからの仕送りに完全に依存しきっており、弟にヒモ(?)として養われながら絵を描き続けたというのが画家ゴッホの実情である。

生まれつき癇癪持ちで面倒くさい性格*1だったために家族にすら腫れもの扱いされて育ったゴッホは、その気難しさを家庭のみならず職場でも発揮した。
学校中退→商会に入社→勤務態度が悪かったせいでクビ→教師の仕事に就く→聖職者になりたいので辞職→聖職者になる→聖職者として派遣された先でブラック労働に耐えるよう説いたことで反感を買う→自らも極貧生活を実践してみせる→それを教会に怒られてクビ……と波乱の人生を歩んだ後、仕事を転々としすぎたせいでどこにも居場所がなくなり、仕方なく絵に手を出したことでようやく画家としてのキャリアをスタートする。

が、上述の通り描いた絵はまったく売れず*2、ゴッホ当人も貧乏生活*3と過労で絵を制作するごとにどんどん弱っていき、やがて精神病院に収監されるまでに衰弱してしまう。一応売れずとも絵の制作自体は続けており、ゴッホの死亡時点で500点以上の作品が存在していたとされる。


そして1890年7月、ゴッホは拳銃自殺により37年の短い生涯を閉じた。
テオドルスは彼の葬式中に倒れ、快方に向かうことなくそのまま衰弱死。ゴッホの絵は一時散逸の危機に晒されることとなる。

が、当時絵にまったく興味のなかったテオドルスの妻・ヨハンナがここで奮起。
テオドルスの遺品整理中、彼がゴッホと交わしていた大量の手紙をたまたま読んだことで、彼女は夫が抱いていた熱意を知ることとなる。
そこから夫の夢を無駄にすまいと、ヨハンナはゴッホが遺した作品をあちこちの展覧会に出すようになる。
最晩年には評価されはじめていたこと、そしてヨハンナが周囲の反対を押し切り辛抱強く展覧会に出し続けたことが幸いし、ゴッホは死後ようやく「偉大なる画家」としての地位を確立するのだった。
現在、彼の絵画には1枚100億円超もの値段がついているという。

絵を描き始めたのは27歳だが画家としての才能の片鱗は幼少期には確認されており、11歳の時点で画家顔負けのクオリティの絵「農場の家と納屋」を描いている。また、ゴッホが亡くなる1890年の年始にはテオドルス以外にも彼の絵を評価する者がぽつぽつと現れ始めていた。

つまりもうあと数年くらい生きていれば、生きて陽の目を見られた可能性があったのだが……
それを見ることなく没したのが惜しまれるところである。

ちなみに日本国外の発音は「ヴァン・ゴー」というのが正確であり、外国人に「ゴッホ」と言ってもほぼ通じない。


◆サーヴァントとしてのヴァン・ゴッホ


「見ての通りゴッホ」と自称するものの、その姿はひまわりの意匠を取り込んだボブカットの少女で、史実のゴッホとは似ても似つかない。
それだけならサーヴァントとしては珍しいものでもない*4が、
彼(?)の場合、FGO世界においても男性であることを示す証拠が歴史的に残っていながらゴッホ本人の性自認は女性……つまり、「生前のゴッホは男だったことがはっきりしているのにゴッホ本人は生前から自分が女だったと思い込んでいる」という食い違いが起こっている。

ゴッホ当人もこのことに折り合いはつけられず、上記の矛盾を指摘されるとパニックに陥りまともな意思疎通が成立しなくなってしまう。


そのせいで精神が汚染されているのか、あるいは生前の経験からなのか、
サーヴァントのゴッホはひっじょーに後ろ向きな性格で常におどおどしており、言動はマンドリカルドと同等かそれ以上に卑屈。
ついでに情緒も不安定であり、ふとしたきっかけで唐突にテンションが乱高下する。
そういう時は何かにつけて自傷行為に走ろうとするため、それをぐだから止められるのがお約束。
とはいえ、そういう癇癪さえ起こさなければ理知的かつ冷静ないい人であり、頭の回転も速い方である。

また、たびたび「ゴッホジョーク」と称して一発ギャグを披露する癖があるが、大体の場合突拍子もなく、それも明らかに笑う場面ではない局面で繰り出すので、その場には笑いではなくなんとも言えない微妙な空気が漂うことになる。

一方、再臨させるとどんどん姿かたちが人間からかけ離れていく代わりにテンションが上がり、言動もアグレッシブなものが多くなる。
するとあんなに陰気で儚げだった少女ゴッホがほらこーんなに陽気に快活に!……とはならず、キャスターのジル・ド・レェやバーサーカーの面々が見せるような、アッパー系の狂気に呑まれたような言動が多くなっていく。

が、再臨段階の如何にかかわらず、自分を受け入れてくれたマスターに対しては絶対の忠誠を誓っており、(自分自身のことを好きになれないからというのもあるだろうが)マスターの為なら命を捨てることさえ厭わない献身ぶりを見せてくれる。
見ていてハラハラするサーヴァントだが、同時に、その捨てられた子犬のようなキャラクター性で庇護欲に訴えかけてくる、英霊らしからぬ魅力をもつサーヴァントでもある。

なお、史実時点でメンヘラかつヤンデレだったことを示すエピソード(同居していたゴーギャンに同居解消を提案され、思いつめたゴッホはカミソリを手にゴーギャンに迫ったエピソード、惚れた女の子に「絶対に嫌」と拒絶され、諦めきれずストーカーまがいの付きまとい行為を繰り返した結果女の子の両親に追い返されたエピソード等)が多数残っており、史実の彼も精神的に傷つくと自傷行為に走る癖を抱えていたようである。

FGOでは複雑な背景があって後ろ向きな振る舞いを見せるゴッホだが、生前の彼も似たような感じだったのかもしれない。


◆劇中での活躍


何もないはずの虚数空間上に突如現界し、無の海を漂っていたサーヴァント。
虚数潜航中に"座礁"していたノーチラス号に引っ掛かり、そのまま流れで保護された。以降、虚数空間に閉じ込められたノーチラス号のアドバイザーとして脱出作戦に協力することとなる。

彼女自身は血清を提供したり船から出られないメンバーの代わりに出撃したり虚数空間の生物が調理で食べられることをアドバイスしたりと基本的にカルデアに協力的だった。

……のだが、性別の不一致や真名に関して突っ込まれると要領を得ない回答を繰り返したり急にヘラったりと誤魔化すような言動が多かったため、本人の献身とは裏腹にどんどん立場が悪くなっていき、ついにはゴッホを信頼できないとしたネモとあくまでゴッホを信じたい主人公とが対立する事態に発展するまでになる。

ノーチラスが順調に海域を攻略している間はまだ誤魔化せたものの、第四海域に出口がない事が発覚した(=虚数空間の脱出手段が事実上失われてしまった)ことでノーチラス船内の雰囲気は急速に険悪になり、ネモのストレスに影響された分身体のネモ・マリーンズたちが「ゴッホが犯人だ」「ゴッホを追放しろ」と暴動を起こす。
その一触即発の雰囲気に耐えられなくなったゴッホも精神的におかしくなりはじめ、自ら血を流して失血死しようと試みる。が、これは駆けつけたネモと主人公の手で阻止。
ゴッホ当人はネモ・ナースの治療を受けて沈静化するも時すでに遅く、マリーンズから完全に黒認定されたことを受けて彼女は「自覚がなくても犯人は自分だ」「だから自分が死んで居なくなれば皆は助かる」とノーチラスを離脱。
虚数空間の何もない領域で自殺することで、彼女は事件を収束させようとするが……?


「エヘヘ、マスターさま、楊貴妃さま、みなさま、さようなら!」
「心からの、握手を送ります!」



※注意※



この先には『虚数大海戦イマジナリ・スクランブル ~ノーチラス浮上せよ~』の重大なネタバレが含まれています。















そもそも、彼女はヴィンセント・ヴァン・ゴッホではない
ゴッホとは縁もゆかりもないまったく無関係の他人が、精神(正確には記憶と絵を描くスキル)だけゴッホのものに書き換えられ、英霊ゴッホを演じさせられている存在、それがサーヴァント、ヴァン・ゴッホの正体であった。

で、その無関係の他人というのがギリシャ神話に登場するクリュティエという人物である。











◆真名・クリュティエ


海神オケアノスと女神テテュスの娘であり、3000もの姉妹であると云われる水のニンフ「オケアニス」の一柱。というわけなので曲がりなりにも神霊である。

彼女は姉妹の中で唯一太陽神アポロンの寵愛を受け、相思相愛の恋人となったが、この太陽神は恋人の浮気には厳しいくせして自分は浮気しまくるという女癖の悪い男だった。
例によってアポロンはペルシャ王オルカモスの娘・レウコトエに浮気してしまう。
それを知ったクリュティエは嫉妬から、オルカモスに嘘を吹き込んでレウコトエを殺させてしまう。こうして恋敵を排除することには成功するも、その行為がきっかけでアポロンはクリュティエに対して完全に冷めてしまった。
見捨てられ絶望したクリュティエだったが、それでもアポロンを愛することは止められず、以降彼女は延々とアポロン=太陽を眺め続けるようになる。
やがて、クリュティエは太陽を見続ける一輪の花へと姿を変えたという。

原点においては彼女の化身は「ヘリオトロープ(学名 Heliotropium europaeum)」という花であるとされ、後世の創作・伝承では転じて、太陽を見続ける花である向日葵になっている。
なお、ヘリオトロープと言う名前が示すとおり、当初クリュティエが愛情を向けたのはヘリオスという太陽神であったが、後に太陽神ヘリオスが太陽神アポロンと同一視されるようになったことで今に至る。

この『悲しみに暮れるも、太陽を見続けて一輪の花に姿を変えてしまった』という生涯が、のちにある存在に利用されることとなる。


◆真の概要


フォーリナーの後ろに控える領域外の生命そのもの=外なる神が、外宇宙から虚数空間を介して人類のいる実数世界へ侵攻するための工作員として用意したサーヴァント。

その目的はずばり「フォーリナーを集めて発狂させ、自分たち外なる神が降臨するための依り代あるいは眷属に仕立て上げること」。
カルデアの面々が外なる神のいる"外側"に踏み出すことができないように、外なる神もまたサーヴァントや主人公たちのいる"内側"に踏み込むことはできないため、踏み込むための足掛かりとなるものを欲していたのである。

そういう経緯で目を付けられたのが、虚数空間と実数空間を行き来できる虚数潜水艇ノーチラスと、その所有者であり複数のフォーリナー(端末)を擁するノウム・カルデア。
そして、宝具「星月夜」を通してサーヴァントに狂気を差し込むことができる英霊ヴィンセント・ヴァン・ゴッホであった。

ゴッホは上述の通り拳銃自殺によって命を絶ったとされているのだが、FGOでは「自分の絵画作品が外なる神と繋がってしまい、それを拒んだ果てに自ら命を絶ったのではないか?」という独自解釈がなされている*5
このことから、英霊フィンセント・ヴァン・ゴッホには「外なる神による狂気には屈せず、狂気に陥りそうになるとその寸前で自殺する」という性質があり、そのため宝具「星月夜」は事実上封印状態にあった。

そこで自殺というリミッターを封じるために外なる神が思いついたのが、向日葵という縁でつながりがあり、なおかつ花に変じる末路を辿ったため『自殺しなかった』神霊クリュティエと英霊ゴッホを掛け合わせて複合サーヴァントを創造することだったのである。
ゴッホは宝具さえ使えればいいので、絵を描く能力と生前の記憶を。
クリュティエは自殺を防ぐ向日葵の呪いと、その肉体を。

こうして生まれたのが脱法複合サーヴァント『クリュティエ=ヴァン・ゴッホ』であった。
当然ながら、2人は性別だけでなく性格も経歴も全く違う。
複合サーヴァントとしてはかなり相性の悪いもので、登場当初のゴッホはいつタガが外れてもおかしくない危うい精神状態にあった。

だが、そもそも外なる神の目的はゴッホ達フォーリナーに正気を失くしてもらう事。であるならば、そのような状態でいてくれた方がむしろ都合がよかったのである。
もしこの計画が成功してしまった場合カルデアはペーパームーンを破棄し、虚数潜航を封印せざるを得ない状況、つまり異聞帯の攻略が不可能となるところであった。


◆劇中での活躍②


もちろんのことながら、彼女の自殺がうまくいくはずがなかった。

ノーチラスから姿を消したゴッホは、巨大な花のつぼみのような物体へと姿を変えていた。ゴッホの自殺衝動をキーにクリュティエの能力が起動し、ゴッホは花(のような何か)として生まれ変わろうとしていたのだ。
また同時に、それは外なる神の依り代としての完成が近づいていることを意味していた。

あまりの巨大さに手を焼くノーチラスメンバーだったが、ゴッホ離脱直前で正体を看破され捕縛された真の黒幕が、項羽が船内の壁に描いていた囲碁盤を参考に虚数海域と怪物を作り配置したと白状。さらに実際の囲碁同様「同一勢力で囲むとその内側にあるものを支配できる」というギミックがあることも明かす*6
一行はこの仕組みを逆用することで花のつぼみの内部にフラン(水着)を送り込み、ゴッホと接触。

差し伸べられるフランの手と主人公の励ましを振りほどき、今度こそ消えようとするゴッホ。
だが、同じく複合された存在であるキャプテン・ネモの言葉で外なる神を精神的に振り切り、自分がクリュティエであり、またゴッホでもあるという矛盾した存在であることと向き合い、受け入れ、「雅号ゴッホの、ギリシャ出身の小娘」として、生きていくことを決意。

正気に戻りかけたゴッホを引き戻そうとする外なる神(の端末)もフランとの協力で退け、ようやくゴッホは生きてノーチラスへと戻ることができたのだった。

そのあと外なる神々に操られて先達のフォーリナー達が祭りを開いたりとかするが、全てが終わったあと、虚数空間にあふれ出た余剰リソースで聖杯を生成し、ノーチラス乗組員はようやく元のカルデアに帰還することができた。
ゴッホは虚数空間での出来事を夢として改変するつもりだったが失敗、そのままカルデアに来ることとなった。

なおこの際、「触手が絡まった」と言って主人公と共に現実世界に来たのだが、主人公が意識を取り戻したのは自室のベッドの中である。
無論ゴッホが現れたのも。
つまりゴッホは、作中で明確に主人公と同衾した初のサーヴァントであるさらにわざわざ一枚絵まで用意されている。
これでゴッホを引きたくなったマスターも多いとか。

ちなみに2人はそのまま仲良く二度寝した。まだ眠かったらしい。


【フォーリナー】

◆プロフィール

身長:140cm
体重:39kg
出典:史実
地域:欧州
属性:混沌・悪
性別:女性


◆ステータス

筋力 耐久 敏捷 魔力 幸運 宝具
E B C A D A+


◆スキル

○クラス別スキル
領域外の生命:A
外なる宇宙、虚空からの降臨者。
邪神に魅入られ、その権能の片鱗を身に宿して揮うもの。

狂気:C
不安と恐怖。調和と摂理からの逸脱。
周囲精神の世界観にまで影響を及ぼす異質な思考。
ゲームにおける効果は狂化と同じ。

道具作成:B-
魔力を帯びた器具を作成可能。

神性:B+
外宇宙に潜む高次生命の“門”となり、強い神性を帯びる。
世界像をも書き換える計り知れぬ驚異。その代償は、拭えぬ狂気。

向日葵の呪い:A
陽光に焦がれた者を蝕む自罰の呪い。
彼女が自殺しようとした場合、それは『開花に転換される』。*7
要するに「死にたくても死ねない」スキルであり、このスキルある限りゴッホが自ら命を断つ事は決してない。

○保有スキル
虚数美術:B+
虚数生まれのサーヴァントとしての特質と、独自の美術的視座を持ったゴッホの画才が融合したスキル。
虚数魔術と似て非なる独自理論体型の技術で、ゴッホの絵画を再現しその象徴を解釈することで魔術的現象を具現化させるという。

澪標(みおつくし)の魂:B
その二律背反の魂が、「身を尽くす狂気」により共鳴し転じたスキル。
呪詛として現れる狂気を吸収して己の力とし、その力で他者を導く。

◆宝具

○『星月夜(デ・ステーレンナフト)
ランク:EX 種別:対人宝具


描かなければ。

星空の下、死と生を超えゆく糸杉を。
信仰、ロマン、トロンプ・ルイユの彼方。

永劫より星の渦もて、君に握手を贈ろう。星月夜(デ・ステーレンナフト)


精神を患いサン・ポール療養院に入院していたゴッホが、入院している部屋の窓から見える日の出前の村の景色を描いた幻想的な絵画『星月夜』。
後のゴッホは制作背景について「今朝、太陽が昇る前に私は長い間、窓から非常に大きなモーニングスター以外は何もない村里を見た」と語っている。

発動するとキャンバスから人智を超えた世界観があふれ、固有結界を形成し、現実を侵食する。
直視すると何かしらの悪影響がある宝具らしく、使用時にはマスターの視界を塞いでいる。



()けまくも(かしこ)き水の司祭よ風の貴公子よ
夏日星の大輪より一滴(ひとしずく)の狂気に変えて、
今ひとたび星辰を永眠の座へと導かん。

wgah'nagl fhtagn(わっがーなごぅ・ふたーぐん)

星月夜(デ・ステーレンナフト)』!


その実際の効果は霊基の改ざん
ゴッホの絵画を軸に固有結界を展開し、その内側にいる対象の心身を造り替えてしまう禁断の宝具。
攻撃力を上げる、重症を負ったサーヴァントを"修復"して完全復活させる等の幅広い使い方が可能。
だが、万が一この固有結界の内側で目を開いてしまった場合、フォーリナーならば「神化」(=邪神化)してしまい、それ以外ならば発狂するという。
宝具の使用そのものもデメリットがないわけではなく、この宝具を浴びるとそのたびに少しずつだが「神化」し、肉体がフォーリナーのそれに近づいていくため、乱用も禁物。

これをフォーリナーのサーヴァント達に対して使用させ邪神の依り代へと改造することこそが、サーヴァント「クリュティエ=ヴァン・ゴッホ」を創造した目的であった。

逆に本人の制御次第では、狂気に陥ったサーヴァントを正気に戻す、といった使い方もできるようだ。



私は描かなければ。

外は黄色で中が白、陽光あふれるこの部屋で、仲間とともに希望の図画を。
影無き地、ミストラルを遮る暖かな壁の中より、あえかなる友誼の望みとともに、君に握手を送ろう。

家とその住まう(ともがら)、街路。『黄色い家(ヘット・ヒェーレ・ハイス)

○『黄色い家(ヘット・ヒェーレ・ハイス)
ランク:A+ 種別:対軍宝具
ゴッホが南フランスのアルルに住んでいたころに借りていた家「黄色い家」を再現した絵画。
この家がゴッホの才を開花させる転機となり、ゴッホの夢の破綻の舞台ともなった。
バフとデバフを両立した支援系宝具で、敵に対しては南フランスを苛む風・ミストラルの嵐を、味方に対しては手厚い加護を与える。が、この加護を浴びた味方はセットで呪われてしまうデメリットがある。

本来は宝具だが、FGOではスキルとして扱われている。


○『タンギー爺さん(リュ・ぺー・タンギー)
ランク:? 種別:???
貧しい画家たちの支援を行いゴッホも世話になっていたというパリの画商ジュリアン・フランソワ・タンギーの肖像画。
クリュティエ=ヴァン・ゴッホはこれを使用できず、「タンギー爺さん」は上記「星月夜」の宝具名を隠すフェイクとしてのみの登場だった。
「宝具は『星月夜』『黄色い家』の2つだけ」*8とゴッホ自らが語っているため、宝具としては存在しないものと考えてよいだろう。


○『ひまわりとしての自画像(ゼルフポルトレット・オプハドラーハ・アン・メン・メースター)
ランク:? 種別:???
クリュティエ=ヴァン・ゴッホが所持する巨大なひまわり……を、模した絵筆が宝具化したもの。
幕間の物語をクリアすると解放される(が、現状はフレーバーテキストとしてのみであり、ゲーム的な効果はない)。
曰く、「生前のゴッホの人格が絵筆に宿ったもの」であるそうだが、しかしこの絵筆、空気を読まずつまらないダジャレを連発しまくるため、ものすごくウザい。
マルタには鉄拳制裁を食らわされ、ぐだ男/ぐだ子すらイラつかせたのだから相当である。
生前のゴッホも嫌われるエピソード、拒絶されるエピソードに事欠かない人物だったとされていたため、ゴッホが正規のサーヴァントとして召喚されたならこういう人物になるのかもしれない。

◆ゲームユニットとしての性能


期間限定の星5フォーリナーとして実装。
カード構成はフォーリナーでは初となるQQQABのアサシン型。宝具はArts。

3枚のQuickとスキルでクリティカルスターを生成・操作し、自前の宝具でクリティカル威力を上げて攻撃するクリティカル特化型。
3種のスキルすべてに毎ターン微量のスリップダメージを受け続けるバッドステータス「呪い」をトリガーとする効果が含まれており、これを溜めこむとその量に応じてスキルの効果が強くなる。
スキル1「虚数美術」は自身に呪いを3個付与→呪いの数×10%のNPを増やし、また自身にガッツ(一回・5ターン)を付与する。ガッツの回復量も悪くないため事故ったときのリカバリとしては十分。
スキル2「黄色い家」は味方全体に回避(一回)と微力のHP回復、呪い1個を付与する。敵の宝具に合わせたいが、呪いのためにスキルと同時にも使いたいというある意味贅沢な悩みも。
スキル3「澪標の魂」は任意の味方1人に攻UP+スター集中を付与&ゴッホに敵味方の呪いを吸収して「Quick攻撃時自身の呪いを一つ解除&解除成功時自身の攻撃をUP(3ターン)」する状態を付与する。サポートとして使えなくはないがゴッホ自身に使う方が往々にして効率がいい。

NPを溜めるにはスキルは2→3→1の順で使用することが望ましい。
この順でスキルを使うと、自分以外がまいた呪いが無い状況(≒バトル開始ターンなど)なら60%のNPが溜まる。これはNPを60%チャージした状態でバトルを始める概念礼装「虚数魔術」に引っ掛けているのだろう。

弱体解除持ちサーヴァントとは相性が良くないものの火力の要は後述の宝具であるため、NPを供給できる体制が整っているなら弱体解除を挟んでも大丈夫。具体的にはキャストリアなど。

なお、クラススキル「向日葵の呪い」により、呪いダメージを受けこそするが最低でもHP1で耐え続ける特殊仕様となっているため、火傷、毒を一緒に抱え込んでいない限りは呪いダメージで退場することはない。無論敵の攻撃を食らえば確実に沈むが、それはガッツや下記の宝具である程度カバーできる。

最大の強みは宝具「星月夜」。
敵全体にバッドステータス「恐怖」(持続3ターン)、味方全体にクリバフと攻撃力バフ、自身に毎ターンスター10個獲得を付与する支援宝具なのだが、この時味方がクラススキル「領域外の生命」を持っている場合、このクリバフが50%から150%という全サーヴァントトップクラスの数値まで跳ね上がる。

ポイントはこのバフが「自身のみ」ではなく「ゴッホ自身を含めたフォーリナークラスの味方全体」にかかる点であり、フォーリナークラスでパーティを固めればかの超人オリオンが三人いるかのような無体な火力をたたき出す。

また領域外のバフが乗っておらずともそこそこのバフ量なので、宝具の効果中は適当なサポーターの殴りでも割といいダメージが出る。

クリティカル主体の「領域外の生命」持ちはボイジャー、ジャック・ド・モレーなどが居るが一番相性がいいのは自分自身、つまりWゴッホである。
2人分の呪いで倍のNPを貯め、2人分の宝具で四倍クリバフを盛り敵をスタンさせ星を出して、2人分のカードで普段の八倍の火力で殴るというウォーズマンもびっくりな戦法であるがネタではなく強い。ゴッホの居るカルデアのマスターには是非やってみて欲しい。

また、敵全体に付与する「恐怖」のバッドステータスも強力。
これはターン終了時に確率で発動し、乗っているキャラをスタンさせるデバフ。ただし運が悪ければ発動する前に持続時間が切れることもある。だが、この宝具のはかなり発動率が高くおよそ60%ほどと見られる。これは孔明の宝具と同程度でスタンが付与されるタイミングは違うが、あれが3回抽選されると思えば強さが分かるだろう。3ターンで一度も発動しない確率は0.4*0.4*0.4*100%=6.4%なのでほぼ間違いなく発動する。
まあ星5鯖を引くのの六倍強は起こりやすいが。
カード性能もそこそこ良く、宝具QクリAクリExでNPが90パーセント近く貯まるので、NP周りの補助ができる鯖と並べれば宝具の連発も余裕である。
もちろんNPが溜まればもう一回付与できる。仲間のスキルで補えばスタン中に恐怖付与もでき連続スタンも余裕で狙える。

登場当初はほとんど注目されていなかったものの、その圧倒的な火力、「恐怖」を使ってボスをハメ技の要領でなぶり殺しにできること、そして回転率の高いスキルから次第に注目を集め、いつの間にか高難易度攻略サーヴァントランキングのトップ争い常連に名を連ねてしまった。この辺りは奇しくも史実のゴッホと共通している。


【ランサー】

2024年イベント「ミステリーハウス・クラフターズ ~星の鉱員と日の出の翼~」にて、カルデアで沼ったゲームの影響で画家から鉱員(マイナー)に変貌したゴッホ。


◆関連人物


  • テオドルス・ヴァン・ゴッホ
ゴッホの4歳下の弟。絵の商人を営んでいた。ゴッホとは大変仲が良かったらしい。
ゴッホの絵の才能を早期に見出したパトロンでもあり、ゴッホが他の画家との交友関係に恵まれたのは絵画商人であるテオドルス目当てに寄って来た画家たちをゴッホに繋げていたから、という側面もある。
ゴッホとは手紙で連絡を取り合っていたが、彼はやり取りに使った膨大な量の手紙ほぼすべてを保管していた。おかげで、ゴッホの人となりはかなり鮮明なものが判明している。


同じフォーリナーにして画家。
面識こそないが実は史実でも縁があり、生前のゴッホは北斎のファンであった。
事実、テオ宛ての手紙の中で北斎の絵について言及したものが残っている。
カルデアでも、浮世絵師である北斎のことは「北斎先生」と慕う。
対する北斎はゴッホに特別の感情を抱いていないようだが、ゴッホの絵の筆遣いを見て描き手が男性であることを看破している。


  • アポロン
クリュティエが惚れた相手だが、現在のクリュティエは中身が丸ごとゴッホのそれに挿げかわっているため、特に抱く感情はない様子。


  • アキレウス
(クリュティエの)甥っ子がアキレウスにあたる。


◆余談・考察


  • ゴッホと日本(ジャポニズム)
日本に訪れたことはないが、浮世絵に大変な影響を受けたことから大の日本マニア。
ゴッホが生きた時代のパリでは、ロンドン万博をきっかけに流入してきた日本芸術が流行しており、ゴッホもそれに影響を受けたのがきっかけ。
中でも浮世絵との出会いはゴッホにとって大きかったようで、この時期のゴッホは浮世絵を数百枚にわたり収集していた。
(ゴッホに限った話ではないが)彼はこれらの浮世絵を通じて「絵は『正しく』描かなくてもいいんだ!」とパラダイムシフトを起こした*9ようで、この時期以降のゴッホはそれまで描いていた写実的な絵画からは離れ、代わりに「ひまわり」などで知られるべたっとした画風を多用するようになった。
上述の『タンギー爺さん』の背景にも浮世絵が描かれているほか、ゴッホの手による、歌川広重の浮世絵の模写作品と思しきものも現存している。

また、ボイスにある「一足お先に……影のない国へ……」で出ている「影のない国」とは日本のこと。
影が描かれない浮世絵特有の画風を見て「日本という国には影が差さないのだ」と勘違いした結果こう呼ぶようになったらしい。
フランスのアルルにあった「黄色い家」に住んだきっかけ自体、「(浮世絵の中の)日本みたいでステキ!」というのが理由だったりする。


  • 「握手を送る」
ゴッホがたびたび用いるフレーズ。
史実の彼は手紙の最後に「握手を送る」といった独特の定型句を用いていた。
当時のフランスにそういう言い回しがあったわけではなく、ゴッホが考えたオリジナルの挨拶だったらしい。


  • 邪神
クリュティエ=ヴァン・ゴッホを利用して今回の事件を引き起こした首謀者は、花の権能や饒舌という特徴から、「ヴルトゥーム」に相当する邪神と推測される
(型月世界にハワード・フィリップス・ラヴクラフトは存在するようだが、その創作群は「彼が邪神の存在を創作神話として天文学的な確率で図らずも言い当てた」とされている)。
なお、第二宝具を見る限り生前のヴァン・ゴッホに干渉したのは花の邪神ではなく、「黄衣の貴公子」だったようだが。


全くの余談だが、彼女を演じた高橋女史は同時期に某お空の世界にて酷似した見た目と性格のキャラ*10を演じていた。





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最終更新:2025年01月14日 04:21

*1 史実のゴッホは、ちょっとでも意見が対立するとそれを人格全否定と受け取って物凄い勢いで逆ギレするような人だったらしい

*2 まったくといっていいほど、という比喩ではなく、生涯通して売れた絵が『赤い葡萄畑』の1枚だけだったため、マジで1枚も売れなかったというのが正しい

*3 一応補足しておくと、テオドルスからは当時の男性の平均年収より高い額の仕送りを貰っていた。だが、ゴッホはその仕送りをすべて画材につぎ込んでしまい、食事すらろくなものをとらなかった。時には少なくない額のお金をもらっておきながら「送金が遅い」「テオにも都合があるのは分かってるよ、でも自分には金が要るんだ」等と手紙でキレ散らかし、それを受けたテオドルスが「やっぱ兄さん養うのやめようかな……」と思い悩む一幕すらあったという

*4 モナリザ好きが高じて自ら霊基を弄ってモナリザの姿になったダヴィンチ等

*5 あくまでスカディの仮説

*6 黒幕としてはコレでノーチラスを掌握し、邪魔される可能性を排除してから200年くらい絵画制作に励む腹積もりだったようだが、そうする前にノーチラスが碁石=怪物を物理的にぶっ壊していったために計画がご破算になってしまったらしい。

*7 彼女は時折「咲いちゃった」と顔だけ雑コラのごとく向日葵に変わることがあるが、本来その場面では自殺を試みていたということであろう。

*8 『ひまわりとしての自画像』はこの発言よりも後の時期に後天的に会得したもの

*9 時代背景的な話をすると、ゴッホの生きた時代は「絵は写真っぽく描かれた『上手い絵』しか価値がない」という価値観が主流だった時代で、ゴッホの絵が売れなかったのもこのあたりに起因している。ゴッホを始め、モネ、ピカソといった人物が巨匠とされるのは、彼らがこの風潮を打ち破り新しい画風を「発明」した、ある種のパイオニアだったからである

*10 リッチ