アルベルトの手紙

登録日:2021/11/19 (金) 00:11:18
更新日:2025/07/10 Thu 18:39:44
所要時間:約 6 分で読めます





アルベルトへ。

今日僕、学校でおっきな望遠鏡を覗いたよ。

すっごく遠くまで見えるんだけど、ポルトロッソは見えなかった。

アルベルトはどうしてる?会いたいなぁ。

チャオ、ルカより。



ルカへ。

ポルトロッソの暮らしはサイコーだ!ホント言うことなし。

仕事も完璧だ。俺は魚捕りの名人だからね。マッシモには負けるけど。

マッシモとはパスタとソースみたいに上手くいってて、マッシモは何でも教えてくれる……


……教えてくれると思う。喋ってくれればね。

だけどほとんど喋らない。何か言うのは、注意するときだけ。

でも変わると思うんだ。俺がしっかり仕事を手伝って……マッシモの自慢の従業員になれば。

チャオ!

概要


『アルベルトの手紙』(原題:Ciao Alberto)は、2021年11月12日より「Disney+」にて配信されている『あの夏のルカ』のスピンオフ短編。
監督は前作のストーリー・リードを担当したマッケンナ・ハリス。
本作は後日談に当たり、紆余曲折を経てルカを新たな世界に送り出した後のアルベルトの姿が描かれる。
ポルトロッソで楽しく暮らすアルベルトの姿はとても微笑ましいが、リアルかつハードな心理描写も健在
改めて、彼の背負うものを再認識させられることだろう。
これが前日譚だったら本編以上の鬱展開待ったなしだった。

今回掘り下げられるのは、アルベルトとマッシモの関係。
前作ラストでマッシモの元で暮らすことになったアルベルト。その絆がいかにして深まっていくかが描かれる。
そしてその結末は、前作を観た人なら誰もが大きく感情を揺さぶられ、胸を熱くすることだろう。

作品の性質上、この記事は前作のネタバレを多く含むため、そちらを先に観ることを推奨。


登場人物


(CVは原語版/吹き替え版)

  • アルベルト・スコルファノ
CV:ジャック・ディラン・グレイザー/池田優斗

本作の主人公。
ルカとの出会いをきっかけに孤立状態から完全に脱し、マッシモの手伝いをしながらポルトロッソでの暮らしを満喫している。
地元の子供たちとの関係も良好なようで、一緒にサッカーをするなど仲良く遊ぶ姿が見られる。
一見何気ない描写だが、前作でルカ以外の他者と積極的に交流する気がなかったことを考えると、これは大きな進歩である。
また、ルカが使っていた牧畜の杖は彼が受け継いだ模様。
しかし、元の境遇が境遇なだけに、クビにされることを恐れる姿は痛々しいものがある。

  • マッシモ・マルコヴァルド
CV:マルコ・バリチェッリ/乃村健次

隻腕の漁師で、現在はアルベルトの保護者。今回も美味しそうな「トレネッテ・アル・ペスト」を作っているよ!
寡黙で不器用な形ながらもアルベルトを温かく見守り続けるが、失敗続きの彼に巻き込まれて、かなりひどい目に遭っている。
アルベルト曰く「注意するときしか喋らない」とのことだが、それだけ気にかけていることの裏返しだろう。

  • ルカ・パグーロ
CV:ジェイコブ・トレンブレイ/阿部カノン

前作の主人公。
今回は冒頭で声のみの出演。
学業のためジェノバに渡った彼はアルベルトと手紙のやり取りをしており、その友情は遠く離れてもなお深いようだ。

ストーリー(さらなるネタバレ注意)


マッシモの元で仕事を手伝うアルベルトは、一人前と認められるべく頑張っていた。
……しかしそれは尽く失敗ばかりだった。

  • 魚の配達→配達先のメモを見ないばかりか、家や客に向かって魚を投げつける。当然返品されたり、物を壊したりと苦情殺到
  • トマトソースのパスタを作ろうとする→未開封のトマト缶を鍋に入れて爆発。おかげでスプラッター映画もかくやの大惨事
  • マッシモから待っていろと指示されたのに、魚を詰め込んだ樽を運ぼうとする→バランスを崩し、助けようとしたマッシモは海に転落
  • 夜こっそり漁に行こうとして、いつの間にか舟にいた猫のマキャヴェリにびっくりする→ランタンを壊し、燃え移った火により舟はほぼ全焼

ただでさえ失敗続きの上に、漁師の命と言える大切な商売道具まで燃やしてしまったアルベルト。
あまりの罪悪感に耐えかねて、ついにマッシモの元を去ろうとする。


辞めるよ……俺には無理だ。失敗してばっかりで。なれないんだよ俺、いい従業員には


マッシモは止めようとするが、


ほっといて!俺のこと好きじゃないんだろ?!話もしないんだから


アルベルトは、かつて自分の行き過ぎた行動が原因で一度ルカに見捨てられたときと同じく、すべてを拒絶し自己嫌悪に走るようになってしまった
それでもマッシモはアルベルトを引き止めようとするのだが……




放してよ、父さん!




……思わずハッとし、スーツケースを落とすアルベルト。
彼は実の父親が蒸発しており、ルカと出会うまで孤独に生きていた過去を背負っていた。
それだけ彼にとって「父親」はデリケートな存在でありながら、マッシモを「父さん」と呼んだ、ということは……
マッシモは自らの過去をとつとつと語り始める。



俺も昔、親父をひどく怒らせたことがあったんだ……親父は壁を殴って、穴を開けた
……ホントに?……で、どうなったの?
直したんだ。二人で一緒に


手を差し出すマッシモ。それに対してアルベルトは……思いっきり抱きついた!
そしてマッシモは、アルベルトを優しく抱きとめるのだった……

孤立から脱しても、大切な存在から見捨てられる恐怖に悩まされていたアルベルト。
それ故に、認められたい、役に立ちたいという焦りから、やることなすことが空回りしていた。*1
ルカに出会えたのも、マッシモに迎えられたのも奇跡が重なった結果なのに、結局その幸運を活かせず周りに迷惑をかけてしまう。
そんな彼を、広い心で受け入れたマッシモ。
この瞬間、アルベルトはまさに呪縛や未練を断ち切ったのだ

翌日、アルベルトとマッシモは仲良く舟を修理していた。
この日のマッシモはいつもの寡黙な姿から想像できないほど陽気で饒舌だった。



この舟、色が剥げちゃってかわいそうだね
いや、もっとひどい目に遭ってるよ
火事よりひどい目に?
ああそうとも。大嵐だ。うちよちも高い高い波だった!


アルベルトが逆さまにハンマーを持っているのを見て、正しい持ち方を教えるマッシモ。*2


ねえ、波の話だけど、今までで一番すごい嵐ってどんなの?
ああ、二つのハリケーンに同時に巻き込まれたことがあるぞ
うそ……何それ、詳しく聞かせて!


たとえ実の親との縁が切れても、何をやっても上手くいかなかったとしても、必ずどこかに優しく受け入れてくれる場所はある。
大切なものが壊れてしまったとしても、また共に直せばいい。
そして血のつながりがなくても、家族の絆を結ぶことはできる。
───アルベルトとマッシモの関係は、こうして上下関係から親子関係へと変わったのだ。

大きな雲と小さな雲が、二人のように寄り添い並ぶカットで本作はエンディングを迎える。
エンドロールでもマッシモの写真に「Dad」と書かれているあたり、その絆は確固たるものとなっているようだ。


ルカとは反対に働く道に進んだアルベルトだったが、彼もまた、大切なことをしっかりと学んでいたのだった。


追記・修正は、温かく受け入れてもらえる居場所を見つけた方がお願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

最終更新:2025年07月10日 18:39

*1 実際彼の失敗はどれも「確認不足」「指示を守らない」ことから起きている。もっとも、彼が大切な存在から尽く見捨てられ続ける人生を送ってきたことを考えると、人の話を聞けなくなるのも無理はないのかもしれないが……

*2 アルベルトは前作でベスパを自作するシーンでも、ハンマーを逆さで使っていた