あの夏のルカ

登録日:2021/07/12 Mon 22:41:52
更新日:2025/03/13 Thu 23:35:18
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あの夏、僕らには知りたい世界があった



どんなに禁じられても




大切な何かを失っても…








秘密を抱えたあの夏、僕たちは少し大人になった…




概要


『あの夏のルカ』(原題:Luca)は、2021年6月18日より「Disney+」にて配信されているディズニー/ピクサー・アニメーション・スタジオ製作のCGアニメ映画。
また、2021年にアメリカ国内で最もストリーミングされた映画でもある。*1

監督は本作が長編デビュー作となるエンリコ・カサローザ。
これまでも多数のピクサー映画のストーリー・アーティスト*2として関わっており、監督初挑戦の『月と少年』は第84回アカデミー賞の短編アニメーション賞にノミネートされた。
日本版エンドソングは井上陽水の名曲『少年時代』のアレンジ版。歌うのはヨルシカのボーカルを務めるsuis。
イメージにぴったりの選曲だが、実際に監督自身がこの曲を希望したという背景がある。*3

監督本人の少年時代の経験や、海の怪物にまつわる故郷の伝承*4をベースに作られた作品で、意外にもピクサー作品で「夏」がテーマになったのは初のこと。
個人的な経験がモチーフになったためか、物語の舞台は海の中と一つの町の中のみという、かなり小さなもの。
その分メインテーマは「ひと夏の冒険」と「子供たちの成長」という身近なものなので、親しみやすい。
世界観もまた、優しく温かな色合いを基調とした牧歌的なもので、特に科学とアートを融合させた水の表現は見どころの一つ。
ピクサー前後作『ソウルフル・ワールド』と『私ときどきレッサーパンダ』が異色の作風だとしたら、こちらは王道の作風といったところか。

一方で、子供たちの心理描写は極めてリアル。
何にでもワクワクしたり感動できた瑞々しい感性だけでなく、自我の目覚めに伴い表れる葛藤や心の闇も生々しく描かれる。
この辺りは、特に子供時代に周囲との関係に悩んだ人には色々と思い当たる節があるはず。
終盤手前に至っては怒涛の修羅場ラッシュとなるため、その突き落としっぷりは相当なもの
さらに子供たちの物言いは無邪気かつストレートなので、観る側の精神にも強烈に響いたり刺さったりする。
また、シー・モンスターの設定は「素性を隠しながら生きる人々」そのものであり、様々なマイノリティを象徴していると言っても過言ではない。
当然差別問題にも触れているが、この件はかなりの変化球で描かれるので衝撃的な展開が待っている。
それだけに、自らの弱さを乗り越えて奮闘するクライマックスは大変熱く、その結末には一陣の風が吹き抜けたような爽やかさと、包み込まれるような優しさを感じることだろう。

また、監督は大のジブリファンであり、あちこちに散りばめられたオマージュを探すという楽しみ方もできる。*5
他にも様々な名作映画のオマージュも込められているので、探してみよう。
スタンド・バイ・ミー』やフェリーニ映画、ネオレアリズモ映画*6などを観ておくと雰囲気がつかみやすくなって、時代背景の理解が深まるかも。

元々は全世界での劇場公開が予定されていたのだが、2021年3月にDisney+のサービス対象国に関しては配信のみで展開する方針に変更され、日本も例外なくそれに準じることになった。*7
この方針が最初に適用された『ムーラン』(実写映画版)で、ディズニー配給映画の全世界の公開方式の決定権をアメリカ本国のディズニーが握っているという実情が浮き彫りになり、
同作や『ソウルフル・ワールド』を一部の国では配信のみに移行したことを巡っては、コロナ禍でアメリカの映画館が長期休業を余儀なくされたという事情を考慮しても賛否両論が相次いだが、
本作に関しては制作に携わったスタッフからも苦言を呈されている。
Disney+が展開されていない国々では普通に劇場公開されているため、「本作を含めた配信限定作品を大スクリーンで観る機会があってほしい」という声は少なくなかった。

しかしその後、同じく劇場未公開だった『ソウルフル・ワールド』や『私ときどきレッサーパンダ』と共に劇場公開されることが決定した。
本作の日本での公開日は、2024年3月29日となる。

あらすじ


1950年代の北イタリア・リグリア州の港町ポルトロッソ。
そこの住民は海の怪物シー・モンスターを恐れ、一方のシー・モンスターも人間を恐れていたため、両者の世界には大きな隔たりがあった。

ある日、シー・モンスターの少年ルカは海底に沈んだ人間世界の品々に興味を持ち、それがきっかけで陸で暮らすシー・モンスター、アルベルトと出会う。
この出会いで禁断の領域である地上に初めて足を踏み入れたルカは、アルベルトと共に人間世界の乗り物「ベスパ(イタリアを代表するスクーター)」に憧れるようになる。
しかしこのことが両親に知られ、深海のおじのもとに預けられそうになったルカは家出を決行。
かくしてルカとアルベルトの二人は、ベスパを手に入れるべく、ポルトロッソの町に足を踏み入れるのだった。

───これは、二人の人生と二つの世界を大きく動かした、“ひと夏の奇跡”の物語。

登場人物


(CVは原語版/吹き替え版)


シー・モンスター

海の中に生息する、半魚人を思わせる姿をした種族。
作中の描写を見る限り、海草を育てる農業や牧畜の魚版で生計を立てている模様。カニのコンテストも行われているらしい。
他にも料理や読み書きの概念はあるが、学校や貨幣制度など人間世界にごく普通にある制度は持っていない。
最大の特徴は、体が乾くと人間の姿になり、水にぬれると元の姿に戻るというもの。アリエル涙目。
しかし地上の人間を「陸のモンスター」と恐れるあまり、陸に上がることやその正体を見られることは最大の禁忌として扱われている。
そのため、この体質については彼らの間でもあまり知られていない模様。
なお、姿や生息地以外は人間と何一つ変わらない
この設定こそ、本作のテーマの一つである「相互理解」を象徴していると言えるだろう。
また、監督によると、代を重ねるごとに怖さが薄れていくようにデザインされたという。*8
この辺にも、歩み寄りのメッセージが込められているのかもしれない。

ちなみにファミリーネームはすべて、魚介類で統一されている。
小説版では「○○のシー・モンスター」と表記されているので、見た目ではわからなくてもその生物の性質を持っていると思われる。
(パグーロ…ヤドカリ、スコルファノ…フサカサゴ、ブランジーノ…スズキ、アラゴスタ…ロブスター)

※小説版限定*9
(ガンベレット…エビ、メルルッツォ…タラ)

主役二人の由来であるヤドカリには「臆病者」、フサカサゴには「危険な魚」「醜い人」というニュアンスが含まれている。*10
……これを見て嫌な予感がした方も多いだろう。その予感は正しい。

  • ルカ・パグーロ
CV:ジェイコブ・トレンブレイ/阿部カノン

本作の主人公。12歳。11月20日生まれ。*11
内気で臆病な性格だが、無邪気で好奇心旺盛で頭の回転が速く、思ったことはハッキリと主張するタイプ。そしてある意味トラウマメーカー。
空想癖があり、新しい物事を知るたびに空想の世界に入りこんでしまう。
これらは知ることの喜びがイマジネーションあふれる映像で描かれ、微笑ましくも大変美しい。
また、その洞察力の高さから相手の弱みを見抜く能力に長け、煽りスキルも何気に高い。
臆病さばかりが強調されがちであるが、実際はかなりのハイスペックキャラだったりする。

羊飼いのようにヒメジの群れを管理する仕事をしながらも薄々海の上に憧れていたが、アルベルトとの出会いをきっかけに、初めて陸地に上がる。
彼と一緒に遊んだり、手作りのベスパ開発*12にハマったりしているうちにだんだんと帰りが遅くなり、おじの元に預けられそうになる。
が、すでに陸地を知った彼にとって暗く単調な深海の生活は耐え難いものだった。
家出を決行し、アルベルトと共にポルトロッソへ足を踏み入れる。
そこで出会ったジュリアと知り合い、ポルトロッソカップでは自転車レースを担当することに。*13
彼女との交流を通じて学校へ憧れるようになるが、それはアルベルトとのすれ違いを意味していた。

レース前日、苦手な坂道下りの練習の際、アルベルトに危険を顧みない無謀なやり方を押しつけられ、崖から海に転落という事故に遭う。
幸い無傷で済んだものの、それだけの事故に遭っても口を開けば言い訳ばかりというアルベルトの無責任さに、ルカはついに激怒。
さらに学校への憧れを否定され続けたことから大喧嘩になってしまう。
しばらくして心配したジュリアが駆けつけてきたが、いつもと明らかに違う二人の様子に戸惑うばかり。
その中で、ルカは出し抜けにジュリアに尋ねる。
「君がどう思うか聞きたいんだけど、僕たち、君と……同じ学校へ行けないかなぁ?」
この期に及んでも、彼女にべったりで学校に行くことに固執するルカ。失望したアルベルトはついに一線を超え、二人の仲を引き裂くべくジュリアの前で自身の正体を暴露。
アルベルトの目論見通り、異形と化したその姿を見て怯えるジュリア。
今まで築き上げてきた信頼関係をすべて破壊する、親友の正気とは思えない行動を目の当たりにしたルカは……


モデルは監督の少年時代。
ちなみに原語版の声優を務めたジェイコブ・トレンブレイ君は『ワンダー 君は太陽』でも、他とは違う外見を持つ子供を演じている。

  • アルベルト・スコルファノ
CV:ジャック・ディラン・グレイザー/池田優斗

地上を禁忌とするシー・モンスターでありながら、無人島「イソラ・デル・マール」に住む少年。14歳。9月25日生まれ。*16
服装が某未来少年っぽい。
ルカとは対照的に活発かつ大胆不敵で、自由に憧れる享楽的な性格。そして本作の鬱要員。
父親は出かけることが多いらしく、廃墟化した塔の中で一人暮らしをしている。

ルカを地上に導いた張本人で、地上の物事や、勇気が出るおまじない「シレンツィオ・ブルーノ(黙れブルーノ)!」を伝授する。
彼によるとブルーノとは頭の中の否定的な声であり、つまり臆病な感情などを表しているらしい。
地上の品々をコレクションするする趣味があり、中でもベスパに興味津々。これを手に入れて、ルカと二人だけの旅をするのが夢。
ポルトロッソカップではパスタの早食いを担当することに。

が、ルカとジュリアが親密になったり、夢への方向性が違ってきたことから溝ができ始め、ルカとぶつかり合う。
指図されることを嫌っていたはずなのに、ルカの変化を受け入れられず指図ばかりするようになっていくのは中々皮肉な光景。
さらに学校に行きたがるルカに対し、シー・モンスターと人間の平和的な共存が不可能だと証明すべく、ジュリアの前で自らの正体を暴露してしまう……
という具合に、後半では頼れる兄貴分から一転、嫉妬をはじめとしたあらゆる精神的な弱さを見せるようになっていく。*17
ちなみに彼の瞳の色はだが、英語圏で「Green eyed monster」「嫉妬深い人」を表す慣用句である。

一方で、現実でも自分にとって一番大切な親友が他の子と仲良くしていたり、後輩が急成長していく姿を見たりして、置いて行かれたような気持ちになったことのある人も多いはず。
そういう意味で、共感しやすいキャラと言えるだろう。
ただし監督による解説動画『‘Luca’ Director Enrico Casarosa Breaks Down a Scene | 94th Oscars』では、彼のファンにとってはかなりショッキングな内容も語られている
そのため、視聴する際にはある程度心の準備をしておいた方がいいかもしれない。


モデルは監督の親友。さらにイタリア語版ではご本人が漁師役でカメオ出演している。
現在はイタリア空軍のパイロットを務めているのだとか。
大変好奇心旺盛な方だったらしく、監督は「彼のおかげで僕も色々なものにチャレンジすることができました」と語っている。


  • ダニエラ・パグーロ
CV:マーヤ・ルドルフ/高乃麗 
  • ロレンツォ・パグーロ
CV:ジム・ガフィガン/磯部勉

ルカの両親。
パワフルだが過保護な母と、尻に敷かれっぱなしの父というテンプレのような組み合わせ。
地上へ家出したルカを心配するあまり、こちらも地上に上がって探し始める。
しかし変身後の息子の姿を知らなかったため、町中の子供たちを海や噴水に突き落としたり、頭上に水風船を落とすなどして探していた。
なお、その際にダニエラはしれっとサッカーの才能に目覚めていた。
また、ロレンツォの方は吹き替えでは中の人つながりで、『フォースの覚醒』ネタがある。
ポルトロッソカップでは給水所のボランティアとして潜り込むが、参加した子供たちに顔を覚えられており全員から拒絶されてしまった

  • リベラ・パグーロ
CV:サンディ・マーティン/青木和代

ルカの祖母。
劇中に名前は出てこないが、監督のツイートで明かされた。*25
地上を訪れた経験があるらしく、孫が陸の世界に興味を持ったことに理解を示し、かばってくれる。
そして本作屈指の名言を残した人格者である。
週末はたいてい地上に来ているらしい。後述の余談も踏まえると、地上や人間に対するスタンスは世代によって違うのかもしれない。

  • ウーゴおじさん
CV:サシャ・バロン・コーエン/落合弘治

ルカのおじで、ロレンツォの兄。
深海に生息しており、体は半透明で内臓が透けて見えるという不気味な姿。
ルカに深海生活の素晴らしさを説くが、地上の素晴らしさを知ったルカには通じなかったのであった。というか露骨に嫌われている。
ぶっちゃけエンドロール後のオマケ要員。
ちなみに裏設定によると、地上に上がったために殺されかけ、以降禁欲的な深海生活に移ったのだという。*26
人間と良好な関係を築き、広い世界を知ったルカと対照的な存在と言えるだろう。



ポルトロッソの人々

ポルトロッソはイタリア北部にある港町。
温かなムードが流れる田舎町で、毎年夏に子供たちによるトライアスロン大会「ポルトロッソカップ」が開催される。
このレースの優勝賞金でベスパを購入するため、ルカとアルベルトはジュリアとチームを組んでこの大会に参加することに。*27
しかし、この町でシー・モンスターは敵視されており、彼らを狩る絵やオブジェがあちこちにある
つまり、正体バレが冗談抜きで命の危機に直結する環境なのである。
おかげで、水が少しでも体につくだけで化けの皮が剥がれてしまう体質の二人は、必死に正体バレを回避しながら暮らすことに。
こうして見ると、シー・モンスターは人間からの差別と偏見の被害者のようだが……
冒頭でアルベルトが漁船から盗みを働いていたことを考えると、割とシー・モンスター狩りが正当化されてもおかしくない理由がついてしまっている*28

モデルになったのは世界遺産チンクエ・テッレ。名前の由来はポルトヴェーネレ+モンテロッソ。あるいは『紅の豚』のポルコ・ロッソから。*29
二人が世話になるマルコヴァルド家の名前の由来は、イタリアの文豪イタロ・カルヴィーノの『マルコヴァルドさんの四季』からと思われる。



  • ジュリア・マルコヴァルド
CV:エマ・バーマン/福島香々

魚売りの少女。13歳。3月18日生まれ。*31
服装が某飛行クラブの少年っぽい。
勝気な性格で汗っかき。驚くたびにチーズの名前を出す癖がある。
ポルトロッソカップの優勝を目指しているが、毎年エルコレに負けている。
さらに自転車レースの途中で吐いてしまうらしく、下り坂まで行けたことがない模様。おまけに泳ぎもぶっちゃけ上手いと言いがたい。*32
エルコレ一味に因縁をつけられたルカとアルベルトを助けたのをきっかけに、三人でチームを組むことに。水泳の担当は彼女となった。
大会の常連だが、ポルトロッソにいるのは夏の間だけで、それ以外の時期は母と共にジェノバで暮らしている。
彼女もまた、ポルトロッソ内ではよそ者なのである。そのためか、シー・モンスターの実在を信じていない。
これらから考えると、毎年よそ者扱いされる環境で働きながら優勝目指してトレーニングに励むという、かなりハードな夏休みを過ごしているようである。
さらにチームを組んで参加するのは初めてらしいので、それ以前は体質の件も含めて不利な条件で戦い続けていたことになる
読書家の一面もあり、ルカに星や宇宙の知識を教え、本までプレゼントするという気前の良さを見せた。
天文学の発展クラスへの進学を希望する発言をしているが、イタリアでは14歳で高校生となる。
さらにイタリアでは得意分野を伸ばすことに重きを置いているので、高校は専門分野ごとに細かく分かれている……という具合に、文化の違いを感じさせるキャラである。

このように色々苦労人かつ応援したくなるキャラであるが、アルベルトから見ると違う種族出身の女の子の上に、気が強くて教え上手と性格が似通っており、ライバルに近い相手と言える。
おまけに人間なので、地上の知識の精度も段違い……
彼女の登場で、ルカとアルベルトの関係は大きく揺らぎ始めるのだった。

ちなみに、制作段階ではクィアとして描く構想もあったらしい。*33

  • マッシモ・マルコヴァルド
CV:マルコ・バリチェッリ/乃村健次

ジュリアの父で漁師兼シー・モンスターのハンター。
かなりの大柄で、生まれつき右腕がなく、左腕にシー・モンスターを狩る刺青が入ったいかつい姿。
ルカとアルベルトは、漁の手伝いをするという条件でこの家に居候することに。
経済的にかなり苦しいらしく、ポルトロッソカップの参加費の支払いにも事欠いていたが、二人のおかげで大漁となり無事調達できた。
二人にとって天敵のはずなのだが、上記のように居候の許可を出したり、アルベルトが姿をくらませたときには探しに行ったりと、何だかんだでかなりいい人。
というかルカのおばあちゃんに並ぶ、本作屈指の人格者
家ではマキャヴェリという、某野良猫にそっくりな猫を飼っている。
ちなみにマキャヴェリは、初めてルカとアルベルトの正体に気づいた存在である。

モデルは監督のデビュー作『月と少年』の父親。腕が欠損してないことを除けばほぼそのまんま。
また、初期案ではまったく違うデザインであり、腕も欠損していない。

  • エルコレ・ヴィスコンティ
CV:サヴェリオ・ライモンド/浪川大輔

本作のヴィランポジション。いつもチッチョとグイドという子分とつるんでいるチンピラ。
町の人々から嫌われ、子供たちからも委縮されているが、本人は皆から愛されるヒーローだと思いこんでいる。
ルカが蹴ったボールが偶然彼のベスパに当たり、倒してしまったことから二人に因縁をつけまくる。
この件で彼らの正体に薄々勘づいたのか、警察がシー・モンスターの目撃談を探しているのを知ると、しつこく付きまとうようになる。
また、5年連続ポルトロッソカップのチャンピオンで、ジュリアにとっては宿敵。
……なのだが実は年齢制限をオーバーしているのをごまかしている
前年から16歳と主張していたらしいので、少なくとも17歳、下手したらイタリアの成人年齢である18歳以上の可能性がある
というか監督が自身のツイッターで「18から19くらいだと思います」と発言している。*34
それ以外にも色々ルール違反しまくっているが、上記による当時の時代背景からかお咎めを受けている様子がない。もはや年長者に見放されてる可能性もあるが。
ちなみに小説版によるとカナヅチらしい。*35ルカたち同様チームで参加していたのもこのためだと思われる。


ファミリーネームの由来は、イタリア映画界の巨匠ルキノ・ヴィスコンティからか。
ちなみにヴィスコンティ監督は貴族の出身。名前負けしすぎだが、後述の没エピソードも込みで考えると、数多のルール違反が黙認されている背景もうかがえるネーミングである。*38

余談



〇本作は公開前から名作BL映画『君の名前で僕を呼んで』と比較され続けている。
確かに夏のイタリアが舞台、青少年の心の交流という共通点があるが、監督自身は想定外だったらしく「これはプラトニックな友情の話」と否定していた。
しかしLGBTQ+などマイノリティの共感を得たのは確かで、監督はその後「二人の関係については言えないが、LGBTQ+コミュニティにとって本作がそうである事は光栄に思う」とコメント。*39
また、原語版のアルベルト役のジャック・ディラン・グレイザーは続編の可能性について問われると、「僕たちがまた一緒になって、恋に落ちたらクールかもね」と語っている。*40
さらに彼はバイセクシャルであることを公表しており、『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督が手掛けたテレビドラマ『僕らのままで』の主人公を演じている。
ちなみに、日本版エンドソングの『少年時代』も、原曲が映画版主題歌となった同名作品は、一部ファンから好きな子に素直になれないBL要素を指摘されていたり……
なお、2024年になって本作のスタッフから「成長したルカとアルベルトがキスする」イラストや、「尻を出してケツキッスを披露するルカとアルベルト」のGIF*41が公開されている。

〇冒頭の漁船には「ジェルソミーナ号」と名前がついている。
これはネオレアリズモ映画の名作『道』の主人公の名前から取られているだけでなく、イタリア語で「ジャスミン」を意味する。
また他には「エレナ号」も登場しているが、これは『リメンバー・ミー』のエレナばあちゃんが由来だろう。

〇ルカが世話していた魚は全部で24匹だが、これは本作がピクサーにとって24本目の長編であることを意味している。
その中から逃げ出したというエンリコという魚は、監督の名前が由来。

〇ルカが姿をコロコロ変えながら海の上をジャンプしていくシーンがあるが、これは『おおかみこどもの雨と雪』を意識しながら作ったものだという。
自身の能力を知ったルカの喜びが伝わるシーンだが、ストーリー進行に関わる場面でなかったため周囲からは相当な不評で、何度も「このシーンいる?カットしたら?」と言われたらしい。*42

〇ジブリ映画へのオマージュあふれる作品だけあって、本作は食事シーンが印象的。
作中特に印象的だった「トレネッテ・アル・ペスト」は、ピクサー公式インスタグラムにてレシピが紹介されている。*43
また、企画段階ではジェラートのシーンにかなり力を入れる予定だったらしく、ジュリアがジェラートを買おうとすると、店にエルコレのお気に入りが紹介されていたりする。

〇序盤ルカが海中でカードを拾う場面があるが、そのモデルはタロットカード小アルカナ「カップのペイジ(小姓)」だと思われる。
感性豊かで素直な若い心を表すカードで、この作品のテーマにぴったりと言える。
例として、正位置だと「愛嬌」「想像力」「柔軟性」など。逆位置だと「臆病」「依存心」など精神的未熟さを表す。

〇アルベルトの左腕には、よく見ると傷跡がある。
人間時はうっすら程度だが、本来の姿だと深くなっており、痛々しいものになっている。

〇元は映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネが音楽を担当する予定だったが、2020年7月6日に彼が死去したことに伴い変更された。
……と言われているが、これは監督直々に「ウィキペディアに勝手に書かれたもので、根も葉もない噂に過ぎません」と否定している。*44

〇シー・モンスターの少年たちは元は三人組で、チッチョが三人目になる予定だった。
しかしルカとアルベルトの関係性を描く上で邪魔になり、エルコレの子分に格下げされてしまった。
哀れな話だが、友達三人による人間関係の難しさを描いた作品になったのを考えると、ある意味象徴的と言える。
レースで水泳を担当していたのは、おそらく元の設定の名残なのだろう。
また、彼らがポルトロッソを訪ねるのは祭りの日という設定だったが、展開が複雑になるため廃止された。*45

〇没エピソードの中には、早い段階でジュリアに二人の正体が知られるという展開もあった。
その中でアルベルトは、自分たちのことをシー・モンスターではなく「sea folk(海の民)」と呼んでほしいという旨の発言をしている。
劇中で人間が「陸のモンスター」と呼ばれていたことを踏まえると、本作で「モンスター」という単語は蔑称や差別用語であることは明白である。
つまり、「シー・モンスター」という呼称は単なる種族名でなく、残酷な意味を孕んだ言葉ということになってくる。
一方で、本来人として認められたかったはずのアルベルトが後半ルカの成長を許せず、善意も信用もぶち壊す「モンスター」と化していく展開は皮肉としか言いようがない。
そう考えるとルカの爆弾発言もそっくりそのまま当てはまるため、ますますやるせない気持ちにさせられること請け合いである。

〇幻のOPでは、シー・モンスターたちは普段は本土から3キロ離れた小島で人間の姿で暮らし、本物の人間が近くにいなくなると本来の姿に戻り、海に帰るという生活をしている。
アルベルトが無人島に暮らしていたのは、この設定が下敷きになっているからと思われる。*46

〇終盤で正体を明かしたモブのおばさん二人組。実はこの二人にもちゃんと名前がある。
ピヌッチア(pinuccia)コンチェッタ(concetta)のアラゴスタ姉妹。*47
脚本のジェシー・アンドリューズ曰くモデルは大家をやっていたそうで、「無愛想で、3年間一度も笑顔を見なかった」らしい。*48
普段気づかないだけで身近にもマイノリティはいるというメッセージの象徴だが、この時見せた清々しい表情からは、長年差別の目から逃れる日々を耐え忍んできたことが偲ばれる。

〇当初の構想によると、終盤アルベルトはクラーケンに変身してしまい、ルカが彼を守ろうとする展開になる予定だったらしい。*49
さらに『ロミオとジュリエット』のような展開が用意されていたことも示唆されているが、子供の世界を描く上でマッチしなくなったという。
これらが実現していたら、さらにハードな作風になっていたことは間違いないだろう……。

〇「主人公の夢のために犠牲となる親友」という展開から、『泣いた赤鬼』との類似点が指摘されることもある本作。
アルベルトの役回りを見てると確かに青鬼っぽいが、脚本が変更された経緯を知ると、むしろルカの方がそれっぽかったりする。

〇エンドロールでは登場人物たちのその後が描かれているが、これは『となりのトトロ』のオマージュ。
楽しそうに過ごしている彼らの姿は必見。また、本編で出てこなかったジュリアの母もここで登場する。
さらにクレジット内には「私たちを水の中から引き上げ、道を見つける手助けをしてくれたすべての友人たちへ」という、本作になぞらえたメッセージが見られる。

〇2021年11月12日より、Disney+にてスピンオフ短編アルベルトの手紙』(原題:Ciao Alberto)*50が配信された。
同サイトでは他にも、スタッフインタビューやプロトタイプ版の映像等が公開されている。監督の後ろにある「カリオストロの城」のポスターがすごく目立つ。

〇2021年11月26日に公開されたディズニー作品の『ミラベルと魔法だらけの家』で、同じ名前を持つキャラが二名登場する。
ブルーノは本作ではあくまで架空の存在だが、不吉な者として扱われているところが共通している。
フリエッタは綴りと発音が違うがジュリアと同じ由来の名前。さらに小説版でジュリアは「ジュリエッタ」と呼ばれる場面が存在する。

〇若槻千夏は本作を8回観ているほどの大ファン。
2023年7月18日、朝の情報番組『ラヴィット!』内で本作が紹介された時は、
「めっちゃ編集が上手い!こんなに上手く伝えられるって編集力がマジですごい!『あの夏のルカ』は編集できないよ!」
と、番組スタッフの編集力を絶賛していた。



ピアチェーレ・ジローラモ・トロンベッタ!

ねえ、それって、どういう意味なの?

わかんない。調べて追記して!

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最終更新:2025年03月13日 23:35

*1 https://deadline.com/2022/01/nielsen-streaming-top-shows-of-2021-lucifer-1234914241/

*2 ピクサーでは脚本家をこう呼ぶ

*3 https://realsound.jp/2021/07/post-809941.html

*4 実際は、絶好の漁場を独占するための方便として作られたものだったらしい

*5 ちなみに監督は他にも、湯浅政明監督作や『新世紀エヴァンゲリオン』、『フリクリ』、『ハイキュー!!』のファンであることを公言している

*6 1940~50年代に盛んになったイタリアの社会問題を描いた映画

*7 本作自体、新型コロナウイルスの影響で約1年分はリモートワーク製作となり、ショットの作成やレコーディングなど様々な過程がリモートで行われたことが明かされている。このような制作状況になったのはピクサー初のことである

*8 https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1623817022&p=2

*9 小学館ジュニア文庫版P11~P13

*10 https://twitter.com/sketchcrawl/status/1412553375430844417

*11 https://twitter.com/sketchcrawl/status/1500986177549074440

*12 ミラー部分に貼られていた写真に写っていたのはイタリアの名優、マルチェロ・マストロヤンニである

*13 この時アルベルトと彼女のやり取りを見て、貨幣制度の仕組みを一発で理解しベスパ入手の糸口を見つけるという、洞察力や地頭の良さを発揮している。それ以外にも蓄音機を初見で動かしたりするなど、勘の良さや判断力の高さが見える場面はいくつもある

*14 有志の検証によると刻まれた印の数は383。つまり、少なくとも1年以上戻っていない

*15 アルベルトの要領についてはルカとは対照的に、「ハンマーの持ち方が逆さ」「せっかく作ったベスパを地上に降ろす手段を見つけられず、塔から落としてわざわざ一から作り直した」「舟を漕ぐ時、ルカはオールの特性を理解し向きを考えて漕いでいるのに、アルベルトが闇雲に漕ぐせいで進まない」など、兄貴分気取りの割にはかなり疑問符がつくものとなっている

*16 https://twitter.com/sketchcrawl/status/1500990457672728578

*17 ざっと挙げただけでも疎外感、劣等感、依存心、慢心、頑迷、上から目線、煽り耐性ゼロetc……

*18 ルカが自分の両親が探しに来ているのに感づきそのことを伝えても、彼は全く聞く耳を持たなかった。その境遇故に、わが子を想う親心というものが理解できなかったのだろう

*19 良く言えばどんなことをしてもルカがついて来てくれると信じていた、悪く言えばルカをナメ切っていた

*20 小学館ジュニア文庫版P78

*21 一応小説版では、レースを放棄した後それを悔やむ心理描写が挟まれているのだが……

*22 現実でも、トラブルを起こしがちな子供は「問題児」のレッテルを貼られ、背負っている背景を鑑みられないまま一方的に責められたり嫌われたりしやすいことを考えると、大きな一歩と言えるだろう

*23 このベスパの値段は9000リラ。当時の為替が1ドル=625リラ、1ドル=360円だったことを考えると、大体5000円ちょっと。現在の物価だと3万円くらいか

*24 ちなみにこの切符に、ピクサー作品でおなじみの隠しメッセージ「A113」が書かれている

*25 https://twitter.com/sketchcrawl/status/1506296402921537538

*26 https://twitter.com/sketchcrawl/status/1442633963344838659

*27 ちなみにジュリアの方は賞金への関心は全くなく、あくまでも打倒エルコレが目的。彼女が名誉を重んじるタイプだったからこそチームを組めたと言える

*28 もっとも、育った環境が環境なだけに、ルカと出会う以前は盗んだ品々が唯一の心の拠り所だったのかもしれないが……

*29 ちなみに監督は娘の名前に、この作品のヒロイン由来の「フィオ」と名付けている

*30 社名の由来はシー・モンスター退治の英雄から。さらに社章にもシー・モンスターを狩る男性が描かれている

*31 https://twitter.com/sketchcrawl/status/1500990788431335425

*32 フォローしておくと、泳ぎに関しては出遅れながらもトップで通過できたのが分かるほどに上達している

*33 https://variety.com/2022/film/news/pixar-lightyear-same-sex-kiss-1235209179/

*34 https://twitter.com/sketchcrawl/status/1412285723072339973

*35 小学館ジュニア文庫版P181

*36 愛用のセーターと共に噴水に投げ込まれているが、イタリアでタートルネックのセーターは「dolcevita(甘い生活)」と呼ばれている。冬でも温かく自由に暮らせる人を意味するが、この敗北や仕打ちはまさに、好き勝手し放題の「甘い生活」の終焉を表していると言える

*37 https://twitter.com/sketchcrawl/status/1426297492283424769

*38 「親父の銛を持って来い」の台詞から考えると、実家は漁業関係者っぽいが

*39 https://www.thewrap.com/luca-enrico-casarosa-is-luca-gay/

*40 https://www.cinematoday.jp/news/N0124582

*41 https://www.tumblr.com/tekkoman/741749127587708928/various-gifs-found-on-the-archive-drive

*42 https://www.cinematoday.jp/news/N0124212

*43 https://www.instagram.com/p/CQR3k28LRvI/?utm_source=ig_embed&ig_rid=fd8ecfbe-e161-470e-97c6-8fab6a92a360

*44 https://news.yahoo.co.jp/articles/c5e87d30a55f37a43284a8af27a8de983f99e3de

*45 https://www.youtube.com/watch?v=OlmPV3H5VZw

*46 https://www.youtube.com/watch?v=ssNp52hOTKQ

*47 冒頭でアラゴスタさんというシー・モンスターが登場しているが、関連は不明

*48 https://twitter.com/_jesse_andrews_/status/1387482556963061760

*49 https://www.slashfilm.com/the-original-ending-of-pixars-luca-involved-a-giant-kraken/

*50 エンドロールでもルカから送られた手紙を読んでいるカットがあるが、その挨拶が「CARO ALBERTO」となっている。CAROとは「親愛なる」という意味