登録日:2021/12/02 Thu 03:51:23
更新日:2025/04/05 Sat 23:03:32
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シミズトヨマツ アナタハ、ホリョヲコロシタ
ダカラ、Aノモンダイニユウザイ
絞首刑
【概要】
『私は貝になりたい』とは、元陸軍中尉かつ戦争犯罪者(戦犯)であった加藤哲太郎の獄中手記である『狂える戦犯死刑囚』の遺書の部分を基に作成されたフィクション作品。
1958年10月31日にラジオ東京テレビ(現:TBSテレビ)にてドラマが放送(この放送のVTRが現状TBSに残る、最も古い放送番組のアーカイブ映像である)され、その後大反響を呼び。翌年の1959年4月12日に劇場版が公開された。
さらに、リメイク作品として1994年10月31日にドラマスペシャルが、そして2008年11月22日に劇場版が公開された。
【ストーリー】
時は、第二次世界大戦真っ只中の1944年。
高知県土佐清水市で、散髪屋を営む清水豊松は妻・房江、息子・健一の3人で平凡な生活を送っていた。
ところが戦争は日に日に激化していき、遂に豊松にも赤紙(召集令状)が届き、徴兵されることになった。
中部軍 第三方面・尾上部隊に配属された豊松は過酷な訓練の中、元々の気弱な性格が災いし、失態を犯してばかりで、上等兵から暴力を振るわれる日々を送っていた。
ある日、撃墜された
B-29の搭乗員が、大北山に降下したという情報の元、『搭乗員を確保し、適当な処置をせよ』という命令が尾上部隊に下った。
そして捜索の末、既に瀕死状態であった搭乗員を発見。豊松は中隊長から捕虜を銃剣での刺殺を命じられた。だが気が縮み上がってしまい、実際は捕虜の右腕に傷をつけただけに終わってしまった。
終戦後、無事帰還した豊松は再び散髪屋を経営していた。
だがある日、特殊警察によって豊松は戦犯容疑で逮捕されてしまう。
そして理不尽にもほどがある裁判によって、豊松は死刑宣告をされてしまうのだった…
【登場人物】
●清水豊松
演:フランキー堺(1958年版&1959年版)/所ジョージ(1994年版)/中居正広(2008年版)
本作の主人公。
土佐清水市で散髪屋を営んでいる。気弱だが純粋な心を持ち、家族を何よりも愛している。
赤紙で戦争へ駆り出されるも気弱な性格が災いし、部隊の中でも落ちこぼれとして見られていた。
戦後に捕虜を処刑した罪で、死刑判決を受けたが自分以外の減刑を求めて再審を求めた矢野や助命嘆願書を集めて回る房江、そして西沢の朗報のおかげで希望を見出していく。
「あなたたちは一体、どこの国の話をしてるんですか!? 日本の軍隊では、二等兵は牛や馬と一緒なんですよ!?」
●清水房江
演:桜むつ子(1958年版)/新珠三千代(1959年版)/田中美佐子(1994年版)/仲間由紀恵(2008年版)
豊松の妻。豊松とは対照的に活発で強い心を持っている。
豊松とは高知で出会い、彼と同じく散髪屋に勤務していた。
小宮からの手紙で豊松が死刑判決を受けたことを知り、彼を救うために200人の助命嘆願書を
埋めるべく奔走していく。
●矢野正弘
演:佐分利信(1958年版)/藤田進(1959年版)/津川雅彦(1994年版)/石坂浩二(2008年版)
第二次世界大戦中、中部軍管区司令官であった男で豊松の上官。
戦後、大北山事件に関する全ての罪に問われ、絞首刑となった。自身のあやふやな指令により豊松たちを絞首刑にしてしまったことで責任を感じており、豊松のことを気かけている。
『自分以外の者の罪を軽くしてほしい』という再審を提出しており、それまで距離を置いていた豊松もこのことを知ってから距離を縮めた。
その後は最期まで『自分以外の者の罪を軽くしてほしい』という想いを告げ、処刑された。
なお矢野の処刑シーンがあるのは2008年版のみで、それ以外は処刑されたということが示唆されるだけであった。
●日高
演:南原伸二(1958年版&1959年版)/春日純一(1994年版)/片岡愛之助(2008年版)
尾上部隊の中隊長だった男。
発見した捕虜がすでに虫の息ということで連行も尋問も不可能ということを悟り、矢野からの処置を処刑ととらえ、突撃訓練と題して豊松と滝田に捕虜の処刑を命じた。
終戦後、大隊本部からの命令により訓練所にて割腹自殺した。
上記の通り、ある意味全ての元凶ともいうべき人物である。
●滝田
演:熊倉一雄(1958年版)/佐田豊(1959年版)/桜金造(1994年版)/荒川良々(2008年版)
尾上部隊の二等兵だった男。
豊松同様気弱な性格で、彼以上に落ちこぼれとされていた。彼と同じく捕虜を殺した罪で絞首刑となった。
●大西三郎
演:内藤武敏(1958年版)/中丸忠雄(1959年版)/柳葉敏郎(1994年版)/草彅剛(2008年版)
豊松の最初の同居人。
東京の世田谷区出身で、妹以外の家族は東京大空襲で死亡した。妹が送ってくれた聖書を愛読している。
豊松に対して房のことを説明してくれていたが、豊松が収監された翌朝に執行命令が下った。
●西沢卓次
演:佐野浅生(1958年版)/清水一郎(1959年版)/矢崎滋(1994年版)/笑福亭鶴瓶(2008年版)
大西に代わる、豊松の新しい同居人。
英語が堪能であり再審書は勿論のこと、大統領宛てに直訴状も書いていた。
1958年版・1959年版・1994年版では比較的慎重な人物だったが、2008年版では演者が演者なだけあってコミカルな人物になっている。
●小宮
演:河野秋武(1958年版)/笠智衆(1959年版)/渡瀬恒彦(1994年版)/上川隆也(2008年版)
巣鴨プリズンに勤務する教誨師。
房江に対して何も言っていなかった豊松のために手紙を書いたりしてあげるなど、矢野同様豊松の人徳者である。
【主題歌】
1994年版
小椋佳『藍色の時』
【結末】
矢野の死刑執行後、処刑は一回も行われず何ヵ月も過ぎていった。
そして房江の必死の努力の末、遂に200人の助命嘆願書が完成した。世の中の情勢も豊松たち戦犯死刑囚に対していい方向に進んでいき、この嘆願書があれば鬼に金棒だと豊松は喜ぶ。
そして、近々近所で新しくできる散髪屋に負けないため新しい散髪屋用の椅子のカタログを2人で見つめながら、2人は嬉しそうに語った。
そして、3月のある日。
看守たちが豊松と西沢の部屋に訪れ、言った。
「シミズ チェンジブロック!」
なんと、房が変わることが告げられた。
それを聞き、西沢は水を得た魚のように喜んだ。房が変わるということだから、減刑になるのだと。
すると滝田を含めた他の房の仲間たちも、まるで自分のことのように喜びつつ豊松を祝福した。
歓喜の中で豊松は仲間たちに感謝を述べながら別れを告げ、去っていった。
そして豊松は所長室にて、所長から刑の内容を告げられた。
横浜軍事法廷の判決と、マッカーサー元帥の認定により、第八軍憲兵隊司令官と巣鴨プリズン署長に対し、定められた刑の執行が命令された
そこでその意味と内容を本人に伝達する
明3月26日、午前零時、当巣鴨プリズンにおいて、
絞首刑を執行する
豊松を待っていたのは減刑などではなく、絞首刑の知らせ。
矢野や房江、西沢の努力も一瞬で崩れてしまったのだった…
豊松は、ブルー地区の監房に移動させられた。
まるで抜け殻のごとく意気消沈した豊松に、小宮はさらに残酷な真実を突き付けた。
というのも、巣鴨から土佐清水まではとてつもない距離があるため最後の面会はできないだけでなく、遺体は遺族にも引き渡されない上に埋葬場所も教えてくれないそうだ。
夕方、豊松は仏間にて小宮と2人きりで晩餐会を行なった。
自棄酒と言わんばかりに葡萄酒を3杯飲み干した。
豊松「つまらん一生だったなぁ…。あっという間に、34年が過ぎちゃって…」
小宮「そこですよ清水さん。50年生きても100年生きても、死の間際には誰だって、自分の人生はあっという間だったって思いますよ。とにかく、来世を信じるより他にはないんですね…」
そして小宮は豊松に、来世に生まれ変われるとしたら何になりたいかと聞く。豊松は、お金持ちになりたいと答えた。
昔から貧乏だったから。
小学校を出てから散髪屋の勉強をしたが全然上手くいかず、免許が取れても店なんか持てない。
その後、高知の散髪屋で働く房江と出会い、あっという間に子供が出来、2人とも勤務先を追い出され、流れ着いた土佐清水市で有り金をはたいて店を開き、ロクなものも食べれずに、懸命に働き、何とか店も評判になり、子供も大きくなり、これからだという時に赤紙で戦争で引っ張り出され、最終的には…
せめて生まれ変われるのなら、億万長者の一人息子になりたいと豊松は告げた。
嗚咽を漏らす豊松を、小宮は慰めるしかなかった…
刑の執行までもう数時間もない。
レッド地区の監房と比べて一層暗いブルー地区の監房内で、豊松は遺書を書いていた…
房江、健一、直子。さようなら…
お父さんは、もう二時間ほどで死んでいきます。
お前達とは別れ、遠い遠い所へ行ってしまいます。
もう一度、会いたい。
もう一度、みんなと一緒に暮らしたい。
許してもらえるのなら、手が一本、足が一本もげても、
お前たちと一緒に、
暮らしたい。
豊松は処刑場に連行されていった。
そして小宮や所長たちに見守られながら、ふらふらと階段を上っていく。
綱の前に立たされた豊松は、布を顔にかぶせられ、綱を首にかけられ…
落下していく豊松の身体。そしてそのまま身体は動かなくなってしまった…
翌朝、土佐清水市では房江が一人で散髪屋を営んでいた。
知り合いの男が、駅前に散髪屋ができるみたいだねと心配そうに尋ねてきた。だが、
「なぁに、豊さんさえ戻ってくれば、1軒や2軒新しいのができたって…あんたも、もうちょっとの辛抱だよ」
房江「えぇ!」
そう言い、房江は空を見上げながら主人の帰りを待ち続けた…
その主人はもうこの世にいないということも知らずに…
【余談】
原案者である加藤哲太郎は豊松と同じような罪状と流れで一度は絞首刑を命じられたが、
家族が判決を不当とする証拠や証言をかき集めたり、マッカーサーへ直訴したりと尽力した結果、再審請求が通り、
最終的に死刑から終身刑、即日禁錮30年に減刑され1958年に残りの刑期を(約20年)免除されて出所している。現実の方がまだ救いがあった
そもそも本来二等兵は「上官に逆らえなかった被害者でもある」と見られていたため減刑されるケースが殆どで、実際には死刑にされた者はいなかったそうな。
ただし加藤に限って言えば、彼の最終階級は陸軍中尉であり、俘虜収容所の管理を任されていた(命令する立場にあった)ので上述の二等兵とは立場も状況も違う上、
終戦後は俘虜の好意で逃がしてもらったが、その際に部下たちには「全て自分のせいにして、君たちは助かれ」と言いつけており、実際部下たちはそれもあって減刑されたため、
捕まって裁判にかけられた時点で、全責任を負わされて宣告通り絞首刑となってもおかしくない状況であった。
原案となったのは加藤が書いた『狂える戦犯死刑囚』の遺書の部分であるが、これは赤木曹長という架空の人物が書いたとするフィクションである。
ただし、この遺書は加藤の経験と彼が精神病院で同室だった人物の言動を元にして書いたといい、完全に創作
というわけではない。
最終的に処刑された赤木(豊松)は、再審請求や減刑が叶わなかった加藤のifであり、そうなり得た存在なのだ。
それだけにリアリティも強く、ドラマの脚本を書いた橋本忍は週刊誌で見かけたこの「遺書」を本物だと思い込み、そこから構想を膨らませたといい、
当然加藤の著作物だとは知らなかったのでドラマ放送時点でも彼には何の連絡も行かず、知人から聞いた加藤は橋本や放送局に著作権法違反を申し立て、
著作権協議会の仲裁により、加藤の名前がクレジットに表記されることになった。
2008年版の主演だった中居正広と仲間由紀恵は後に『第59回NHK紅白歌合戦』のMCを担当しており、時折本作をネタに出していた。
私は、追記・修正をしたい…
- うたばん内で中居君が大野君にこの映画のタイトルを聞いたら、「私はアサリを掘りたい」と答えて抗争勃発したのが印象的。 -- 名無しさん (2021-12-04 08:26:50)
- ↑もし桝太一アナに聞いたらアナウンサーなので正解を答えてくれるけどそこから貝トークが始まりそう -- 名無しさん (2021-12-04 09:04:13)
- 天敵多くたって、そもそも貝クラスの生物になると自我や性格が存在するかも分からんからなあ。死にたくないとかお腹減ったとか考えずにほぼ本能と反射だけで暮らしてるかもしれん。 -- 名無しさん (2021-12-04 09:23:33)
- そもそも「もう戦争は嫌だ。こんな思いをするくらいならもう人間に生まれない方がいい」と絶望したという話がキモなのであって「貝のような生物がどれだけ過酷な生活をしてるかを考えると人間の生き方は十二分に恵まれてる」って根本からズレてるでしょ。記事全体から見ても浮きすぎてる -- 名無しさん (2021-12-04 09:50:52)
- ノンフィクションだったら立ち直れないので心の底からフィクションで良かったと思いました -- 名無しさん (2021-12-04 10:52:32)
- ↑2 個人的には「貝なら戦争もなく静かに暮らせる」→「生存競争舐めんな」と一周回って皮肉が利いててそれはそれでアリと思うけどね。 -- 名無しさん (2021-12-04 12:50:15)
- ↑生まれ変わり云々以上に悲しいエピソードに対して「人間に生まれただけ生物の中では幸せな部類なんだからまだいいでしょ」という言葉をかけるのは皮肉じゃなくて空気読めてないだけだよ。「鳥みたいに空を自由に飛んでみたいな」と語る人に「鳥が空を飛ぶために一体どれだけの犠牲を払ってると思ってるんだ?」みたいな雑学語って越に浸ってるのと同レベル。 -- 名無しさん (2021-12-04 13:18:27)
- フレーズだけ知ってたがこんな話だったのか -- 名無しさん (2021-12-04 14:42:15)
- ↑2 北朝鮮の学校で生徒達に外国の暮らしと称してアフリカ等の飢餓地帯の様子ばっかり見せて『だからわが国は地上の楽園なのである』と刷り込むのに似ているな -- 名無しさん (2021-12-04 23:39:45)
- 尽力が及ばなかったらそのまま死刑だったのだろうか -- 名無しさん (2021-12-05 00:01:10)
- 余談の貝の部分は消えたのね。雑学としてはまあ面白かったけど、流石に本筋と関係無さすぎるというか完全別個の主張が紛れちゃった感じだから仕方ないな。 -- 名無しさん (2021-12-05 23:32:30)
- 私は貝になりたいの別バージョンで「静寂な海の底」ってくだりがなかったっけ? しかしこれも雑学になるが実際の海底はマントル層に近いので結構やかましいそうだ。 -- 名無しさん (2021-12-06 07:42:16)
- ほんと日本の警察ってろくなもんじゃねえな…なんで存在してるのかわからんわ -- 名無しさん (2022-02-02 08:26:45)
- ↑フィクションだぞ。 -- 名無しさん (2022-05-19 23:22:50)
- 貝についての、空気を読まない余談は多分本『へんないきもの』のツメタガイの項目のせい。「私は貝になりたくない」 -- 名無しさん (2022-05-25 13:11:20)
- 主題歌のミスチルの曲が本当に良い。 -- 名無しさん (2022-08-19 22:23:48)
- これって奥さんが必ず戻ってきてくれるって信じてるのに対して、清水は家族のことなんてもうどうでもいいからもう人間になりたくないって言ってるんだよね。人間への絶望が家族への愛を上回ったっていう、二重の意味での救いがない結末だって思う。 -- 名無しさん (2022-10-26 14:50:36)
- 正直言って、記憶から消したくなる作品。役者陣の演技は素晴らしいものがあったが、強引にフィクション話に持ち込んだおかげで物語全体の整合性が取れてない印象。この作品のテーマは「理不尽」なんだけど、それを追求しすぎてシナリオ全体が狂ってしまった印象。映画としてはハッキリ言って駄作。役者陣の演技はだけなら◎なんだけどね… -- 名無しさん (2023-04-25 01:29:01)
- 貝になりたいだなんて…はっきりいって自然界舐めとんかワレってなった -- 名無しさん (2023-11-12 10:45:30)
- 悲劇的作品って意味では名作にも…やっぱり救いの無い話は大嫌いだ 実際の本人はかだ救いがあったから幸いにも…これがもう一つの可能性だったなんて… それでも貝になりたいなんて自然の世界を舐め腐ってやがるよ -- 名無しさん (2023-12-09 10:06:18)
- ↑及び↑↑絶望の中で抱いた願いに対して、自然界舐めてるはちょっと違うとしか… -- 名無しさん (2023-12-28 06:40:10)
- ↑↑↑と↑↑はこの記事を読んで趣旨が分かってないんだろ。 -- 名無しさん (2024-01-01 00:51:00)
- 「戦犯ちゃん」ネットミーム化が飛び火してヤベーヤツ疑惑がかけられてる件。記事にもあるけど二等兵のやらかしは通常上官の責任だからなあ。 -- 名無しさん (2024-01-08 20:25:49)
- すごく良い内容なんだけど二等兵がこの罪状で処刑!?ってなってしまうのが気になるんだよな そこら辺もうちょっと設定練ってほしかったところ -- 名無しさん (2024-08-05 10:13:09)
- コメントのログ化を提案します。 -- 名無しさん (2025-01-17 00:36:00)
- ↑×2アメリカを悪者にすればウケるというだけだろう。 -- 名無しさん (2025-01-19 17:21:32)
- 史実を元にしたフィクションでは -- 名無しさん (2025-01-19 18:07:42)
- すまん途中送信。史実が元のフィクションではよくあることで、たとえば塩狩峠なんかも元の事件にはない設定を主人公に追加したせいで色々おかしくなってる。 -- 名無しさん (2025-01-19 18:09:16)
- 私和解になりたい -- 名無しさん (2025-01-30 12:50:11)
- ログ化しました。 -- (名無しさん) 2025-02-02 22:53:33
最終更新:2025年04月05日 23:03