劇場版 BLUE GIANT

登録日:2023/04/22 (土曜日) 22:52:30
更新日:2024/06/12 Wed 21:48:41
所要時間:約 20 分で読めます





二度とないこの瞬間を全力で鳴らせ


『劇場版 BLUE GIANT』とは、2023年に公開されたアニメ映画である。



【概要】

2013年にビッグコミック(小学館)で連載開始された石塚真一先生原作の、ジャズを題材とした漫画『BLUE GIANT』シリーズの初映像作品。本編約120分。
このシリーズは日本の『仙台』と『東京』を舞台にした第1部『BLUE GIANT』の他にも、ヨーロッパが舞台の第2部『BLUE GIANT SUPREME』、アメリカを舞台とした第3部『BLUE GIANT EXPLORER』、そして現在連載中の第4部『BLUE GIANT MOMENTUM』と続いているが、本作は第1部後半の『東京編』のストーリーを上映時間に合わせて再構成された作品となる。

監督はアニメ映画『名探偵コナン ゼロの執行人』やテレビアニメ『モブサイコ100』シリーズを手がけた立川譲氏。
脚本は『BLUE GIANT』第1部からの担当編集者であり、第2部途中から「story director」として著者名に併記されているNUMBER 8氏が脚本を手掛ける。

本作の映画化企画がスタートしたのは2017年。
初の映像化に際し、立川監督は「原作の魅力的なエピソードを活かす」ためにTVシリーズも考えていたそうだが、石塚先生の「実際のライブのように大音量で、熱く激しいプレイを体感してもらえる場所は映画館しかない」という考えから、アニメーション映画としての制作が決定。

本作で最も重要とされる“音楽”については、全編の約4分の1を占めているだけあって、特に力を入れている。
劇中曲も含めた作品全体の音楽製作及びピアノ演奏は、グラミー賞の受賞歴もある世界的ジャズ・ピアニストの上原ひろみ氏が担当。
サックスは国内外の有力奏者を集めたオーディションから選ばれた、アメリカで活躍する超実力者のサックス奏者である馬場智章氏
ドラムは上原氏から推薦された若手最高峰のドラマー、石若駿氏が担当。
錚々たるメンツのジャズトリオによる最高の演奏、「演奏者の感情を乗せた演奏に見えている景色」をイメージした*1映像演出、そしてその二つを映画館の身体を震わせるほどの大音響と大スクリーンで味わった時に伝わる感動は大きく、映画を観た人々が「頼むからこの映画は映画館で観てくれ」と口々に叫ぶのも納得の作品である。
また、「ライブシーンで拍手したかった」という意見が多かったことから、少なくとも4月以降の上映では、本編開始前に「拍手歓迎のお知らせ」という旨の説明が追加されることとなった。

【あらすじ】



「オレは世界一のジャズプレーヤーになる。」

ジャズに魅了され、テナーサックスを始めた仙台の高校生・宮本大(みやもとだい)
雨の日も風の日も、毎日たったひとりで何年も、河原でテナーサックスを吹き続けてきた。

卒業を機にジャズのため上京。
高校の同級生・玉田(たまだ)俊二(しゅんじ)のアパートに転がり込んだ大は、ある日訪れたライブハウスで同世代の凄腕ピアニスト・沢辺(さわべ)雪祈(ゆきのり)と出会う。
雪祈をバンドに誘う大。はじめは本気で取り合わない雪祈だったが、聴く者を圧倒する大のサックスに胸を打たれ、二人はバンドを組むことに。
そこへ大の熱さに感化されドラムを始めた玉田が加わり、三人はジャズバンド「JASS」を結成する。

性格もジャズとの関係性もバラバラなトリオの目標は、
日本最高のジャズクラブ「So Blue」に出演し、日本のジャズシーンを変えること。
不可能と思われる目標に、必死に真摯に、激しく挑む――。

【登場人物】

本作の主人公。宮城県仙台市出身。扱う楽器はテナーサックス。
情に厚くバカ正直で大らかな、朴訥でポジティブ思考の持ち主。一方、夢を目指すことをどんなに否定されても、恐れずまっすぐに己の道を貫ける芯の強さを持つ。

中学卒業前に出会ったジャズに心を打たれ、世界一のジャズプレーヤーになることを決意。高校は最後の半年を除いて、ほぼ独学でサックスを吹き続けた。
高校卒業と同時に単身で上京。地元から大学進学のために上京していた玉田のアパートに居候し、解体工事のアルバイトで生計を立てながら、演奏活動の場を模索。
同学年の天才ピアニストである雪祈と、ドラムを始めたばかりの玉田を加え、トリオのジャズバンド「JASS」を結成してライブ活動を展開。
技術は荒削りだが、中学・高校の6年間バスケに打ち込んだことで得た体力と、情熱溢れる大音量の演奏が持ち味で、人々を虜にしていく。

  • 沢辺雪祈(CV:間宮祥太朗 / 演奏:上原ひろみ)
上京した大がジャズバー「JAZZ SHOP 二五一」で出会った大と同い年の凄腕ピアニスト。長野県松本市出身。
音楽に対する情熱は確かだが、自信家で軽薄なところがある。上から目線で皮肉が多く、言いにくそうな事もはっきり口に出し、自分にとってどうでもいい案件については邪険に扱う面もある。
優雅な生活をしているように見えるが、実際の住居は電子ピアノしか置いていない狭いアパートで、交通誘導のアルバイトで生計を立てている苦労人。*2

実家がピアノ教室だったことから4歳でピアノを始め、小学校からジャズを始めた。中学の時に母に連れられた「So Blue」の演奏に魅せられ、10代で「So Blue」のステージに立つことを目標としている。
「JASS」の中では音楽理論や楽曲構成技術を持つ唯一の人物であり、オリジナル曲の編曲、譜面起こしなども担当する。
一方、「ジャズで勝つ」ために論理を重視するため、大から「お前のソロ、なんかいつも似てねえか?」と指摘されることも。

  • 玉田俊二(CV:岡山天音 / 演奏:石若駿)
大の高校時代の学友。やんちゃで激しい性格だが打ち込めるものには一途で、仲間想い。
「仲間と共に何かに打ち込むこと」が好きで、高校時代のサッカーは誰よりも熱心に練習していた。

「花のキャンパスライフ」を求めて東京の大学に進学するが、上京直後に大に頼み込まれ、一人暮らしをしていたアパートに大を居候させる事に。
熱のないサークルメンバーとのズレを感じてサークルを脱退、大のサックス練習を手伝ったことがきっかけで、ドラムに興味を持つ。
初心者であったために当初は雪祈から加入を反対され、ちょっと演奏しただけで追い出されるも、子供向けのドラム教室に通い、消音機能付きのエレキドラムを購入するなど、初心者なりに練習を積んで再チャレンジ、併せで大が玉田を気遣う事で暴走気味の演奏が収まったことから、当初は暫定で、後に正式にドラマーとして迎え入れられる。
「天才」二人に対して自身の未熟さを幾度も痛感しながらも、「二人と一緒に演奏する」ために恐れを乗り越え突き進み、雪祈だけでなく「So Blue」の平も認める奏者となっていく。

  • 宮本雅之(まさゆき)(CV:近藤雄介)
大の兄。大の愛用するテナーサックスは彼からの贈り物。
夢に挑戦するため上京する大を送り出している。

  • 宮本彩花(あやか)(CV:須田美玲)
大の妹。上京する大にツンケンする態度をとっていた。
一方、夢に向かう大がもう故郷に戻ってこない事も察しており、大が行ってしまった後、雅之の前で涙を見せた。

  • アキコ(CV:木下紗華)
大が上京して初めて立ち寄ったジャズバー「JAZZ TAKE TWO」の店主。ショートカットのアンニュイな雰囲気を持つ女性。
大学を中退してジャズシンガーになった過去がある。道半ばで辞めたが、ジャズを好きな気持ちは今も変わらず、店の一角には膨大な数のジャズレコードがびっしりと並んでいる棚がある。
立ち寄った大に聴かせたレコードを選んだ理由が今日の天気であることを当てられ、その日に生のライブ演奏を行っているジャズバーを紹介。
のちに雪祈と大がジャズバンドを結成してからは、練習スタジオとして店を使用させるようになった。
誰よりも「JASS」のメンバーを近くで見守り、彼らの成長と苦悩を見届けている。

  • 由井(ゆい)(CV:乃村健次)
独学でテナーサックスを吹いていた大が、高校3年生の時に半年ほど師事した恩師。
知り合った当時の大の音色を振り返り、「ヘタクソだったが、恐れを知らぬ音」と振り返っている。
今作では「JASS」と接する機会はほぼないものの、未来のインタビューによる回想シーンで幾度か登場する。

  • 望月(もちづき)(CV:高橋伸也)
大が東京で初めてバンドを組んで演奏するライブを訪れたサラリーマン。
路上で大からチラシを手渡され、なんとなく気になって来店するが、そこから「JASS」の音楽に魅せられていく。

  • 五十貝(いそがい)(CV:加藤将之)
「21ミュージック」の社員。新しいレーベルを立ち上げるために「新しい音」を出すアーティストを探している。
「カツシカジャズフェスティバル」で「JASS」の演奏を聴いて心に震えるものを感じ、大たちに声をかけている。

  • 川喜多(かわきた)(CV:青山穣)
国内外でツアーを行い、数々のアーティストをプロデュースした実績もあるプロのジャズギタリスト。
サポートに雪祈を起用して以来、正式なツアーメンバーとして勧誘するも断られている。
その後「カツシカジャズフェスティバル」でライブを行う雪折に呼ばれ、「JASS」の演奏を知ることになる。

  • 天沼(あまぬま)(CV:木内秀信)
Act(アクト)」という日本国内で有名なジャズバンドのピアニスト。評論を書いたり、テレビやラジオ等のメディアにも出演している。
「カツシカジャズフェスティバル」で「Act」がトリを務めるにあたり、「若い人のジャズバンド」としてたまたま名前が挙がった「JASS」を自身の前座としてフェスティバルに招待する。
ジャンルを特化させたことでジャズファンのニーズを得た経緯から、ジャズのジャンルを特に決めていない「JASS」を「10代マン」と揶揄するも、本番の演奏では衝撃を受けることになる。

  • 内山(うちやま)(CV:四宮豪)
「So Blue」の音響スタッフ。
事業部の平とよく話しており、相談を持ちかけられることもある。

国内最高峰のジャズライブハウスとして雪祈が憧れる「So Blue」の事業部担当者。


【地名・用語】

  • ジャズバー「TAKE TWO」
大が初めて立ち寄ったジャズバーであり、後に「JASS」の練習場となるバー。
繁華街の真ん中にありながら、演奏しても周囲から怒られることはないため、最高の練習場として幾度となく登場する。
今作では新橋にある演出になっている。

  • ジャズクラブ「So Blue」
日本ジャズの最高峰と呼べるジャズクラブ。正式名称は「So Blue Tokyo」。
モデルとなったのは南青山にある実在のジャズクラブ「ブルーノート東京」。後ろに「東京」とあるのは、本店がニューヨークにあるため。

  • カツシカジャズフェスティバル
地元の町興しのために開かれたジャズのイベント。会場はカツシカ区民ホール。

  • ジャズクラブ「THE COTTON’S」
原作漫画には登場していない「So Blue」の姉妹店。
モデルとなったのは東京都千代田区にある実在のライブハウス&レストラン「コットンクラブ」

【音楽】

  • FIRST NOTE
「JASS」のオリジナル曲の一つ。作中で何度も登場する「JASS」の代名詞といえるナンバー。
ライブハウス「Seven Spot」で行われた「JASS」の初ライブで披露された。

  • N.E.W.
「JASS」のオリジナル曲の一つ。呼び方は「エヌ・イー・ダブリュー」。
劇中では「カツシカジャズフェスティバル」で演奏された。
原作漫画8巻に譜面が描かれているが、パンフレットによるとこの譜面はアニメ化決定のはるか前、本作に感銘を受けた上原ひろみ氏が「心の中にパッと聞こえてきた音」を譜面にして原作者に送ったもので、この映画で本格的に演奏される事となった。

  • So Will
「JASS」のオリジナル曲の一つ。
平が「JASS」の演奏を聞きに来た時に流れている。
理由は後述するが、演奏はサックスとドラムのみで構成されている。

  • BLUE GIANT
本作のオリジナル曲であり、エンディングを飾る曲。
それまでの音楽と違ってしっとりとした曲であるが、曲が進むにつれて壮大な広がりを感じさせてくれる曲。
パンフレットや舞台挨拶によると、「製作現場でオリジナル曲をレコーディングしている途中で上原氏が閃き、ミュージシャンがその場で軽い打ち合わせをして直ぐに出来た」との事。























以下本作のネタバレあり














「世界一のジャズプレーヤー」「ジャズで勝つ」「二人と演奏したい」
性格やジャズの関係性だけでなく、演奏する理由もバラバラの3人は、時にぶつかり合いながらも「バラバラでいい」と認めながら前に進み続け、結成2年目にして「So Blue」出演が決定。


だが、念願のライブ2日前に、雪祈がバイト中に交通事故に巻き込まれてしまった。*3
命に別状はないものの、ピアニストの命と言える右手が損傷、当日の演奏は不可能となってしまう。

雪祈の事故を知らされた大と玉田。雪祈の怪我の詳細を聴いた玉田はショックを受けるも、大は「止まっちゃダメなとこな気がすんだ。なんとなく」と言って、玉田と共に練習に戻る。
「So Blue」にも事故は伝えられ、平は出演の中止を考えるが、大は必死に「二人で演奏をしたい」と頼み込む。

そして、公演当日。ドラムとサックスのみという「So Blue」では前代未聞となるバンド構成で公演することを決定。

仙台から大の兄である雅之、大の師匠である由井が駆け付け、東京で出会ったJASSを応援する人々が演奏を待つ中、平から雪祈が事故で重体となったこと、サックスとドラムのみという超変則編成で執り行うことが告げられる。


「私事で恐縮ではございますが、」

「私はこのバンドの出演が決まった日から今日まで、心から楽しみにしてまいりました。」

「二人になってしまった、この瞬間も。」


「紹介します。テナーサックス、宮本 大。ドラムス、玉田俊二。」

「JASSです。」

遂に始まる、「So Blue」におけるJASSのライブ。大と玉田だけであったが、サックスとドラムだけのSo Willをはじめとして、最高のライブをやり切ってみせた。

演奏が終わってステージから退出する前、観客に対して大が挨拶を行う。演奏内容が変わってしまった事への謝罪と、演奏した自分と玉田の紹介、そして、演奏曲の作曲者として


「ピアノ、沢辺雪祈!!」

と、この場にいない雪祈の名を告げ、拍手喝采の中、ステージを退出した。




【余談】

本作の上映に合わせて、南波(なんば) 永人(えいと)*5による雪祈を主人公とした小説「ピアノマン ‐『BLUE GIANT』雪祈の物語‐」が発売されている。
雪祈の過去から東京編までを雪祈の視点でまとめられた物語だが、原作であまり深掘りされなかった雪祈の過去にガッツリ触れているほか、原作漫画とも映画とも違う展開になっている部分もあるので、『BLUE GIANT』に触れた人間であれば間違いなく面白いと思える一冊となっている。



追記・修正は、「自分の内臓をひっくり返すくらいに自分をさらけ出す」気持ちでお願いします。


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  • 2023年
最終更新:2024年06月12日 21:48

*1 客観的なライブ映像と主観的なイメージ映像を重ね合わせることで表現している

*2 原作では更にデパートの紳士靴店のバイトも掛け持ちしており、その苦労して稼いだ金も、「So Blue」で生の音楽を聴くために当てている。

*3 居眠り運転をしていたトラックの交通事故に巻き込まれた。ただ、事故に巻き込まれる直前、バイト中に雪祈は上を向いてこれまでを振り返って心ここにあらずの状態であり、よけられたかもしれないと工事現場の責任者は大と玉田に語っている

*4 原作では「大と玉田の演奏で「So Blue」の演奏をやりきり、演奏後に雪祈の病室へ見舞いに向かい、そこで雪祈の口から解散が告げられる」という展開だった

*5 脚本を手掛けたNUMBER8氏の別名義