雑用付与術師が自分の最強に気付くまで

登録日:2023/05/18 Thu 16:18:40
更新日:2025/03/11 Tue 08:48:18
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「出てけ」
「もうお前はいらないんだよ」


概要

「雑用付与術師が自分の最強に気付くまで」とは、カクヨムおよび小説家になろうにて2020年9月より連載されているWeb小説である。
正式タイトルは「雑用付与術師が自分の最強に気付くまで ~迷惑をかけないようにしてきましたが、追放されたので好きに生きることにしました~。長すぎる。

タイトルからして分かる通り、「元居たパーティのリーダーに長年いじめを受けてすっかり卑屈になってしまった主人公は、実は最強でした」という、「追放もの」系列の作品である。


ちいふよ」をはじめとした追放モノ作品とは異なる点として、

  • 主人公の付与術師が不遇職と呼ばれているが、それにはちゃんとした理由がある
  • 主人公は後継者がドン引きする学者レベルの非常に高い能力を誇るが、初対面の女性と満足に会話が出来ず「フヒヒ…」が口癖でついついニヤけ顔してしまうコミュ障の社会不適合者
  • 追放時点で周囲が理解していなかった主人公の能力を高く評価していたのがヤンデレストーカー女
  • 完全に共依存でDV彼氏な元パーティのリーダーから受けた壮絶ないじめ描写や、主人公がそれを長く引きずるトラウマ描写
  • 物語冒頭からところどころ見え隠れする主人公の狂気
  • 2000年代ラノベに強く影響を受けているのかルビ付きの漢字がやけに多い。

などが特徴的である。

2021年9月に書籍化、挿絵は白井鋭利 (シライエイリ)氏。1巻発売から長らく間が空いたが2巻が2023年5月30日発売予定。
2021年12月には漫画化、作画はアラカワシン氏。既刊7巻。特に漫画版は高い作画力に加え主人公の狂気を見事に描き切っているので必見である。



あらすじ

〝付与術師〟としてサポートに徹する非戦闘員のヴィムは、仲間の危機を救うために立ち上がり、単独で階層主を倒すことに成功する。
しかし、手柄を横取りされたと激昂したリーダーのクロノスによって、パーティーから追放されてしまう。
途方に暮れるヴィムだったが、幼馴染のハイデマリーによって見出され、最大手パーティー「夜蜻蛉(ナキリベラ)」の勧誘を受けることになるのだが……。
自身の能力に無自覚な〝雑用係〟がその真の力に気付くとき――世界は震撼することになる。
(公式サイトより引用)


登場人物

ヴィム

「ふひひ」
少数精鋭のパーティ「竜の翼(ドラハンフルーグ)」に所属していた青年。
…公式では青年呼ばわりではあるが、童顔で冒険者にしては細身で小柄な体格をしている関係上、一部の人物たちからは少年呼ばわりされている。

自分が嫌われることを何よりも恐れる性格。
言葉に詰まると目上の人が相手でも逃げ出すし、嫌な時や追い詰められたとき、または良いことがあった時は気持ち悪い笑顔で「ふひひ…」と漏らす
自信こそ無いが確かな努力家であり、前衛職でもないのにトレーニングに打ち込んだりしている。
自分の価値の無さを全面的に自認している一方で自分を認めてもらいたいという承認欲求は強い。
そこを漬けこまれて「竜の翼(ドラハンフルーグ)」ではパワハラというかDVのような境遇を与えられていた。
それ故、自分が全否定され追放された際には死にたいと漏らす、追放された時のことで悪夢にうなされるなどずっと引きずっている。
平たく言えばコミュ障で面倒くさい奴である。

ちなみに後衛職で戦闘向けではないが、山刀(マチェット)での自衛を行っている。

ちなみに竜の翼(ドラハンフルーグ)に所属していた時の月給は20メルク。*1
1メルクは2000~3000円であり、命を懸ける冒険者が貰っていい給料じゃない*2


使用スキル

  • 付与済み(エンチャンテッド)
武器や防具、対象の身体に強化(バフ)を施す魔法。
一方で、制御が上手く行かないと骨が折れてしまう、前振りありとはいえ身体の制御が効かなくなる、やたらめったら属性を付けられて剣盾が持ちにくくなるなどの弊害が生まれるため嫌う人も多く、「付与術師」が不遇職であり敬遠される理由にもなっている。
そのため、ヴィムは対象を良く観察した上で、骨、筋肉、神経、関節に初歩的で精密な付与を施すスタイルにしており、
「歴戦の老兵が全盛期の動きが出来る」「体が気持ちよくて強化(バフ)がかかっていることを忘れてしまいそう」というレベルに抑えていた
追放した竜の翼(ドラハンフルーグ)がその後どうなったかなど聞かれるまでもないだろう。
リスクが高くて彼は行いたがらないが、強化対象からの許可さえ下りれば「それ以上」も可能である。

  • 索敵、伝達
パーティの雑用係として身に付けたもの。
この世界では「覚えようと思えば」誰でも使える基本魔術に分類されているが、
基本魔術を極めているヴィムの場合は索敵だけでなくトラップの発見、傾斜や起伏まで事細かにマッピングすることが可能であり、広く出回った地図ですら破格の価値を付与することが可能になる。
お約束というか、竜の翼(ドラハンフルーグ)メンバーは誰一人出来ない癖に「誰かがやってくれるだろう」状態でダンジョンに潜ったため、袋小路でけが人を抱えたままモンスターと戦う羽目に。

  • 雑用、事務能力
パーティーハウスの補修計画、収支領収書、迷宮突入計画管理、全階層の地図マップにモンスターの特徴の詳細、など各書類を専門職レベルでみっちり書き上げる能力。
当然ファンタジー世界が舞台なので手書きである。
竜の翼(ドラハンフルーグ)の後継者は「これで雑用?」「逆にリーダーのクロノスさんは何をしていたの?」と疑念を上げることとなった。
この書類処理能力が功を奏してか、竜の翼(ドラハンフルーグ)が引き起こした面倒事に巻き込まれることはあっても深入りすることはなかった。


+ ※ネタバレ
「フヒヒ」

  • 移行:『傀儡師』(ペプンシュピーラー)
通常の身体への強化(バフ)は骨と筋肉、更には心臓に与えることで収束するのだが、彼はさらにその上、「脳」への強化(バフ)への敢行を奥の手として隠している。
付与術師でも禁忌でありまともな実績も残っていないこの技だが、承認欲求を拗らせながらも虐められ続けて自棄になっていた彼は自分自身を実験台に脳への付与術を研究。
試行錯誤の末に脳に1.00001倍の強化を掛ける付加術を完全させた。
倍率があまりにも低いように見えるが、曰くこの倍率がすぐに何乗にもなり脳の処理能力を大幅に上げるらしい。
しかしこの倍率を上げると脳がオーバーフローし気絶する。また、あまりにも繊細な術のため他人の脳を強化することは不可能。
この状態になると筋繊維1本1本の動きを1000分の1秒単位で自覚し最適な強化(バフ)をかけ続けて机上の空論を全て可能にする。

「あれ? 俺今、すっげえ生きてる?」

この状態になるとヴィムはキモイ笑いと笑顔を隠そうともしないほどハイになってしまうと同時に、自分の死をも観測対象扱いで他人事となる。

脳に負担を掛けるため副作用があり、彼は味覚障害を患い味付けの濃ゆいモノを食べるようになった他、記憶障害で他人の事をよく忘れるため自分のノートに夜蜻蛉(ナキリベラ)100人全員分の似顔絵を貼り付けている。

この副作用は物語が進んでから明かされるが、序盤に一度会った夜蜻蛉(ナキリベラ)の団員の顔を忘れているシーンがある。
ただし夜蜻蛉(ナキリベラ)は大人数であり、団長のような目立った人物ではなく名有りモブレベルだったため仕方がないというさりげない伏線となっている。



ハイデマリー

「ヴィムのことはなんでも知っているから」
希少職である「賢者」の74代目の少女であり、夜蜻蛉(ナキリベラ)の次期幹部候補。
第一話以前からヴィムの異常性にいち早く気付き、病的な執着を見せてストーカー行為を行っていたストーカーのスーちゃん
実力は折り紙だが上記のストーカー行為が周囲に広まっている関係上、対人関係は壊滅的。
ヴィムが彼女の紹介で夜蜻蛉(ナキリベラ)の門を叩いたときは「ハイデマリーさん友人!?」と驚かれた。
ヴィムの食事内容までストーキングしていたことがきっかけで、移行:『傀儡師』(ペプンシュピーラー)の使用で壊れていることに気付くことになる。

使用スキル

  • 氷の槍(イース・スピア)
相手の頭上に氷の槍を生成、そのまま質量兵器的に叩き落す。
「賢者」は索敵などの基本に加え、戦士・魔術師・神官・付与術師全ての職の魔法が使える上で、さらに新たな魔術を生み出すことが出来る。
それに加えヴィムの付与魔術により強化も乗れば、軽い戦略兵器級の威力となる。

  • 盗聴石(アブホレン)、発信紋
ヴィムの上着に取り付けており、彼の会話を盗み聞き(録音機能あり)、現在位置もまるわかり
マッドサイエンティストですら使用を躊躇うヤバい品物であることが後に判明する


カミラ

「10倍だ 10倍底上げしたい」
夜蜻蛉(ナキリベラ)の団長、銀髪の長髪がトレードマークの美しい女性。
弱きを助け強きを挫くその人柄からか、彼が率いるパーティ夜蜻蛉(ナキリベラ)は諍い事が起こらない完全ホワイト企業である。
非常に高いリーダー資質と事務処理能力に対し、戦闘は身の丈もある大剣による攻撃特化の脳筋。「筋トレとタンパク質だ!!」
国内で最強クラスの実力を持っておりながらも向上心も強いが、いくら鍛えても自分の殻が超えられない、強さが頭打ちになったことに強い焦りと焦燥感を抱いていた。
そんな自身の上限を打ち破ったヴィムに対しては病的なまでに期待を寄せている。
また、当のヴィムからは強化(バフ)のリスクを伝えられ3倍が限界と聞かれた直後に、実戦で10倍の強化を頼む、模擬戦後に抱きしめるといった距離感の無さから苦手意識を持たれている。

使用スキル

  • 【倍加】
魔剣「大首落とし」に自身の魔力を纏わせ、ただえさえ長い大剣の刀身を数倍にも延長する奥義。
自分の数倍以上の体躯の怪物の首を落とす。

  • 巨人狩り
上記の倍加より、ヴィムのちゃんと事前練習ありきの強化(バフ)も受けて発展させた大技。
ライザーソードばりの超大剣で敵をぶった切る。


クロノス

「お前の代わりはいくらでもいるが お前を雇ってくれる所なんか他にないんだ」

少数精鋭のパーティ竜の翼(ドラハンフルーグ)のリーダー。
雑用係以外のヴィム以外は女性で囲っているが、その実DV気質のパワハラ男。ブラック企業というかいじめっ子のような手法でヴィムを支配していた。
ヴィムの追放理由も「97階層の階層主(ボス)へのトドメを持っていかれたことへの逆恨み」という実に子供じみたもの。

お約束というか、ヴィムが抜けてから竜の翼(ドラハンフルーグ)は急速に失速。
彼のささやかな強化、索敵、マッピング、収支管理、モンスターの生体把握など全力の後ろ盾無しでは基本戦法が剣技と魔法の力押し以外の戦術を取ることしか出来ず、35階層の怪物を相手取るのがやっとである。
後に連携等を磨き50階層の怪物と戦えていたが、ソフィーア曰くクロノス、ニクラ、メーリスは光る物はあるので中堅パーティーくらいでならやっていけるとの事。(逆に言えばそれ以上は実力不足で無理という分析。)

+ ネタバレ
ヴィムの虚偽報告によってBランクパーティからAランクパーティに昇進したはいいものの、99階層に大勢の新参を連れて行った結果、マッピングや連絡など全くできない杜撰さを大勢の人間に披露した挙句、階層主(ボス)に出くわしてワンパンKOされてしまった。

後述の闇地図に手を付けてからは順調に99階層の冒険を進めるも、周囲の疑惑の目線を嫉妬と割り切るほどの自惚れっぷりを晒してしまう。
証拠さえ揃えば、ギルドと憲兵がすぐにでもクロノスを取り押さえるよう準備を進めていたことは知らずに。


ニクラ、メーリス

竜の翼(ドラハンフルーグ)のメンバー。クロノスと同じく実力だけは本物だが、35階層からは連携が取れなくなってまともに戦えなくなるのも同じ。
クロノスとは仲間や恋人というよりは共依存の関係であり、時に泣き、時にヴィムに全責任を押し付けることで正気を保っていた。

ソフィーア

追放されたヴィムに代わって竜の翼(ドラハンフルーグ)加わった長耳族(エルフ)の女性。
かなり早い段階でパーティの実力と人間関係に違和感を覚えたと共に、ヴィムがやっていた、索敵やマッピング、収支管理などにドン引きした。
そして初陣となる35階層での探索により、それは確信へと変わるが…

+ ネタバレ
パーティー間の移動は本来もっと慎重に、かつ評価されていれば周りを巻き込んで行うものと物語初期の段階で触れられていた。

そんな彼女がなぜ竜の翼(ドラハンフルーグ)に所属出来たかということ、そして初陣からズタボロの内情を知った後もパーティから抜けなかったことにはちゃんとした理由があった。

彼女は冒険者相手に詐欺を行う詐欺師だった。いつから異世界もので出てくるエルフが善玉だけだと思った?
彼女は竜の翼(ドラハンフルーグ)が闇地図の作成、運用に関わっていることと、ヴィムが無関係ではないことを引き合いに出して、ヴィムに落とし前として竜の翼(ドラハンフルーグ)が保有している全財宝の所有権譲渡の押印を迫った
なお、ヴィムが追放された後でさえクロノスかヴィムのどちらかの血液があれば財産の譲渡が可能な状態になっていたのは、書類関係全部丸投げしていたクロノスのミスである。


ゴットヘルフ

冒険者ギルドのマスターであり、かつては偉大な冒険者として名を残している。
雰囲気だけでヴィムをビビらせるほどの威圧感があるが、それは迷宮(ラビリンス)の危険を知り幾度も修羅場をくぐった結果なので、彼自身は決して悪人ではない。
むしろ、報告書と証言が一致すればそれ以上深入りすることはできないという大人の事情に対してNOを突きつける公明正大な人物である。
…のだが、漫画版単行本4巻のラスト、及び5巻発売の予告で悪人っぽく描かれてしまった。


リタ

黄昏の梟(ミナーヴァ・アカイア)のリーダー。
見た目は背丈の低いロリだが、その実態は迷宮(ラビリンス)研究の自称第一人者。
ヴィムが竜の翼(ドラハンフルーグ)に所属していた時に書いていた論文染みた報告書の関係で、お互い面識は無いが名前だけは知っている状態である。
漫画版では彼女との出会い、慣れ始めに関して大幅に着色した結果、新興宗教のような悪辣さと気持ち悪さが生々しく描かれた
また後述の闇地図の作成の元締めでもあるが、その目的はあくまでも迷宮(ラビリンス)研究のためというマッドサイエンティストでもあり、彼女の知的好奇心を満たすために散った人達は万を超えるとも言われている。
あまりにも広く暗い連絡網を持っているため、下手に殺したら虐殺が起こると言われており、国も手が出せずにいる。


用語

迷宮(ラビリンス)

小説家になろうのファンタジー世界によくある、お宝とモンスターがはびこる地下迷宮、もといダンジョン
階層主(ボス)が倒されると国を挙げてお祭りを行ったり、中で発見された鉱脈を報告する義務があるなどの世界観を見るに、迷宮(ラビリンス)の攻略は国の産業として発展している模様。
各階層ごとに階層主(ボス)が存在し、それを倒すことで次の階層に進めるようになるとともにダンジョン内に転送陣が出現、ダンジョンの深層に潜る際はこの転送陣を複数経由して潜っていく。
第一話にて、竜の翼(ドラハンフルーグ)が97層の階層主(ボス)を倒し、冒険者たちが98階の探索に挑めるようになったところから物語は幕を開ける。
転送陣の場所はパーティごとに秘匿されており、実力が足りないパーティが深層に向かうことへの足切りとして機能している。だが…

闇地図

迷宮(ラビリンス)内にて、使い捨ての人員に強固な伝達魔術をかけてできるだけ遠くまで行ってこさせ、伝達された情報を地図に落とし込ませる方法。
これにより、階層ごとの地図作成というパーティの実力の足切りを無視して最下層への転送陣への道をたどることが可能となるが、地図作成担当者はほぼ確実に死亡する。
あまりに非人道的なため冒険者ギルドでは、作るのも利用するのも固く禁止されているが、一方で莫大な利益を生むために蔓延っているのが現状である。

踏破祭(ディヒブライナヘン)

新たな階層が開拓された際に行われる、迷宮(ラビリンス)の探索によりもたらされる富と技術の発展に感謝するべく行われる大規模な祭り。
特に階層主(ボス)を倒したパーティは主役として祭り上げられる。
次いつ行われるかもわからない不定期的に行われる分、前日祝いの時点で皆は酒を飲み祝い散らすため、祭りの日までにはすっかり顔を赤くして出来上がってしまう。
作中では97、98階層の階層主(ボス)が大して間を置かず倒されたため2階分の踏破祭を行う事になり、史上最大規模の祭りになるようだ。




追記、修正は肉離れが起きない程度にお願いします。

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最終更新:2025年03月11日 08:48

*1 夜蜻蛉(ナキリベラ)が最初に提示した月給は500メルク。

*2 前述通り夜蜻蛉(ナキリベラ)が最初に提示した月給は500メルクであり、何ならヴィムが2000メルクを要求した際も許容範囲と思う程の能力をヴィムは所持している