タクシー運転手(閃光のハサウェイ)

登録日:2023/06/20 Tue 01:33:10
更新日:2025/05/18 Sun 22:05:51
所要時間:約 8 分で読めます






ケへへへッ……暇なんだね?




タクシー運転手とは、小説『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』に登場したキャラクター。
小説中では個人名は明かされておらず、「運転手」という名称で登場し、後年に製作された劇場アニメ版でも同様の表記であった。
本記事のインスパイア元となったニコニコ大百科の項目名に倣って、タクシー運転手とする。

CV:本多新也

【概要】

東南アジアの都市ダバオで暮らしているアースノイド(地球居住者)で、タクシー運転手の男性。

原作小説では容姿に関する描写は存在しておらず、劇場アニメ版で初めてデザインが描き起こされ、さびしうろあきの漫画版でもデザインが輸入されている。その容姿は、多くの歯が欠けて碌に口腔メンテナンスもされていないラフな出で立ちであり、歯の治療費にさえ回す金がないのかというのは定かではない。

マン・ハンターと不法居住者の争いから離れるためにタクシーに乗り込んできたハサウェイ・ノアを当初は拒否していたもの、その後は飄々と世間話をするなど基本的には気の良い男性のようだが、政治に関する知識は貶しいのでマフティー・ナビーユ・エリンの主張や地球連邦政府の問題点についてはあまり深く理解していない。
ただ、地球連邦政府自体にも良い印象は持っていない為、マフティーが連邦政府の要人を暗殺してくれることに関してはおおむね受け入れている。
人狩りと呼ばれるを進めるマン・ハンターには嫌悪感は抱いているようで、マフティーがマンハンターを直接攻撃しないことに疑問を抱いていた。

マン・ハンターによって宇宙に追放されないためにも、日々大金を地球連邦政府に納めることで居住権を確保(例外規定の拡大)してもらっている身分。
今日や明日の生活に必死なので環境問題にも関心はなく、汚染されてもダバオに暮らす人々の範囲内なら魚を獲って食べていけるという感覚である。
生活に大変なようだが宇宙世紀0100年代の時点でまだ地球にいるため、空気や水を自分達で作り出す必要のあるスペースノイドと比べれば、彼のような立場でも恵まれた部類に入る。

【劇中の描写】

地球連邦政府の要人の暗殺を行っているハサウェイ・ノアが正体を隠し、ダバオを訪ねた際に巻き込まれたマン・ハンターと不法滞在者の銃撃戦から逃れようと飛び込んだタクシーの運転手として登場。
当初はハサウェイの搭乗を拒否しようとしていたが、タクシー乗り場がマン・ハンターに占拠されていたことを知ると彼を乗せることにする。

ハサウェイと他愛のない雑談を繰り広げる中で、マフティー・ナビーユ・エリンやマン・ハンターに対する不満や疑問などを述べ続ける。
客のハサウェイは話題のマフティーのリーダーだったことから雑談の中でやんわりと環境汚染などに対するツッコミを受けるのだが、実際の生活の状況を引き合いに否定し続けた。
やがてハサウェイは「マフティーは1000年先のことを言っている」とマフティーの大義を持ちだして質問をするが…

ケへへへッ……暇なんだね?その人さ?暮しってそんな先 考えている暇はないやね

運転手はマフティーの目的や行動について「暇な人」という感想に辿り着いた。
何故ならば運転手からすれば、地球で暮らすための金を稼ぐ日々に追われているので、マフティーの考えるかなり先の未来の話どころか明後日のことなどに思考を巡らせる暇などはないからだった。

運転手との会話は、客であるハサウェイとのちょっとした雑談でしかないのだが、運転手の様子はハサウェイにとっては大きな衝撃を与えた。
小説上巻では、既にギギ・アンダルシアとハウンゼンの搭乗客との会話で説明されている通り、スペースノイドはマフティーをアムロ・レイシャア・アズナブルが生き返って正しい事をしているのだと熱狂的に支持していたのに対し、アースノイドであるタクシー運転手の姿勢はマフティーに懐疑的で、連邦政府の差別意識を合法化するためのアデレート会議が迫る事態の深刻さを理解していない様子だったからだ。
ハサウェイ自身はタクシー運転手の感覚を理解してはいたが、テロでしかこの状況を変えられないと考えているのだった。
アニメ版では運転手と別れた後もハサウェイが運転手の発言を回想しており、運転手との会話がハサウェイに大きな印象を与えたことが強調されている。

【劇場版公開後の反応】

運転手は劇中でわずか数分の出番であるモブキャラクターではあるが、ハサウェイとの会話の流れは、ハサウェイと同様に劇場アニメの視聴者に大きな印象を与えた。
その理由としては、環境や人類の未来を考えている過激派のマフティー及びハサウェイと実際の平凡な地球市民のズレの象徴とも言える場面であるためだろう。

ハサウェイなりに必死にやってきていることが、本質では理解を得るどころか理解する努力すらされていないという(主人公的には)悲しき場面とも言えるかもしれない。
劇中の結末に直接的に大きく影響を与える場面ではないが、演者にもインパクトは絶大だったようで、アニメ版でハサウェイを演じた小野賢章は『アキバ総研』のインタビューにおいて、キャラを掴むことにおいて印象的だったシーンとしてタクシー運転手とのやり取りを挙げていて、この場面での演技については「あの表情に合わせて台詞をしゃべると素が出てきてしまうけれど、そこをぐっと抑えてハサウェイ・ノアとしてふるまう。個人的に、あの微妙な感じはすごく好きですね。」と振り返っている。


【他のアースノイド】

ハサウェイとアースノイドとの交流については運転手の描写が挙げられやすいが、ハサウェイをクルーザーに届けたカヌーの少年などとも政治に関する雑談をしている(アニメ版ではほぼカットされてしまった)。

こちらは文化に関わる家系を理由*1に運転手とは異なって地球に正式に居住し続けることが可能であり、「地球連邦政府を嫌ってマフティーの行動を理解しながら賛同しているが、観光産業だけは維持して欲しい」という、運転手とは共通する部分を持ちながらも異なる思想を語っている。彼は地球連邦政府の要人が自分達を見下していることを理解しながらも、あえて知らないことは知らないままで生きているという、独特のインテリジェンスを持ったキャラクターであった。

【タクシー運転手の行く先】

運転手の何気ない雑談は劇場版を見た視聴者にインパクトを与えたこともあり、マフティーという秘密結社やそのリーダーであるハサウェイを扱き下ろすために引用されることが多くなってしまったが、マフティーが敗北したことでタクシー運転手を含めたアースノイド一般市民(本当の意味での一般市民と言えるかは怪しいが)の未来は明るくなってはいない。

作中終盤、マフティーの抵抗も虚しく、地球連邦政府が『地球帰還に関する特例法案』を可決させてしまう。
この法案は正規の居住許可証所持者からでも土地を接収することが可能となり、マン・ハンターの行為がほぼ無制限化してしまうというものである。しかも法律の文章上では一見すると理解しにくいように仕込まれている。法律は可決施行され後々にならないとその重要性や危険性は伝わらない為、一般人達がそれに気付いた時点で手遅れ。
法案を(暴力という許されない形ではあるが)何とか止めようと行動に動いていたのはマフティーであり、それもハサウェイの敗北でその希望は完全に断たれた。
地球に留まる官僚とて運転手のような「一般市民」がある程度必要になるのは明らかなため、今日明日彼が住み家を追われるということは考え難い。しかし、元々金を受け取って居住許可証を与えるのも、警察に地球からつまみ出させるのも官僚の意向次第だった中、後者のハードルが低くなってしまった。少なくとも法案が運転手のようなグレーゾーンの居住者にとって不利な結果なのは間違いない。

運転手はマフティーの支持者ではないが、マンハンターにある程度の不満を持っているようであり、マフティーに襲われることを望むような感情も見せていた。
ところが居住許可証という特権を得るために、お金を地球連邦政府へと注いでいるため、それが不満や殺意を持っている相手の懐を潤わせながら自分に不利な政策を通すことに貢献しているという矛盾や想像力の欠如を抱えている。
また彼に限った話ではないが、そもそも宇宙世紀の移民は「地球の環境悪化と人口増加がヤバイので全地球人類は宇宙のコロニーに移住しなければならない」という歴史の背景がある為、地球に残るという選択をした時点で彼の嫌う偉い人(政府の高官)と同じく当事者の一人であるにも関わらず「宇宙に出ようというのがわからない」「ダバオは別に環境汚染されていない」と言うなど何故宇宙移民をしなければならなくなったという事実の認識も欠如している。

運転手はこのような矛盾を抱えながら連邦政府の統治下で一市民として生きていたが、結果として生活を一層自分に不利になるように苦しくされる(なのにそのことには気が付いてすらいない)という救いのないオチである。

……まあ20年程後にはコロニーからこっそり移住してきたパン屋の夫婦だの木星帝国から脱走して居着いたコックだのがいたりするので、彼も何やかんやで地球で元気に暮らしたという可能性もある。少なくとも1000年先のことを考えていたハサウェイより長生きしており、これも一つの皮肉と言えよう。

追記・修正? ケへへへッ……暇なんだね? その人達さ? インターネットの暮しって、そんな先、考えている暇はないやね

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最終更新:2025年05月18日 22:05

*1 環境保全の他に「人種固有の文化を保全維持する人」という宇宙移民法の特例の条件