富永研太

登録日:2024/01/28 Sun 23:58:56
更新日:2025/01/12 Sun 12:19:14
所要時間:約 4 分で読めます







西海大学から村の診療所に派遣されました!!

富永研太と申します!! よろしく!!



富永研太とは「K2」に登場するキャラクターである。

【概要】

『K2』1話から登場する若い医師。西海大出身であり前作『スーパードクターK』『Doctor K』における高品龍一ポジション。
2004年3月に前任者が辞任して無医村状態となっていたN県T村の診療所に赴任してきた*1

村行きのバスで偶然出会った岡元刑事からT村での無免許医の話を聞き、最初は無免許医は許せないと無医村に尽くそうと意気込んでいた。
当初は実家の病院を継げるお坊ちゃま扱いを否定したい思いも強く*2、岡元刑事の皮肉も通じないほどであったが、
自分の腕では手に負えない重傷者にうろたえ、凄腕の無免許の神代一人(かみしろかずと)と非合法の塊ながら高い医療の仕組みを持った村の姿に困惑しつつも、
一人(かずと)から突き付けられた「命を救う努力を放棄した瞬間から、お前は医師ではなくなる」の言葉を胸に、一人(かずと)に鍛えられながら経験を積み一人前の医師となっていくことになる。

連載初期は一人前とは言えずに情けない姿を晒しており、身の程知らずなところもあったとはいえ、何もない無医村に身一つで向かおうとする程の熱意のある男である。
さらには患者の命を救うために法を犯してまで手術に参加したりしたほか、一人(かずと)の診療を患者や一也(や読者)に対して解説・フォローを立派に務めるようになり、医師としての素質は十分に持っていたようである。
12話「死角」のころには若先生として外部含めた村の関係者から信頼を獲得しており、32話「血」ではK先生がいなくても安心とも称されていた。
その序盤も外科技術が足りなかったり診断に迷ったりする場面もあったが治療法は即答できており、赴任当初の彼に足りなかったのは「研修を終えたとはいえ医師としては新人であることを知らない己の過信と場数の少なさ」であったと言えるだろう。

自分よりはるか高みにいる一人(かずと)や年下ながらも才能あふれる一也に憧れと劣等感を抱くこともあるが、持ち前の真面目で向上心の塊と称される精神力で、一人(かずと)の下で修業していく中で医者として鍛えられていく。
診察能力の方は出会った人物の不調の原因を見抜いて症例確認や精密検査といった裏取りで確定させた場面が数度あり、医学部の同期が感嘆するほどの腕前を身につけた。
外科技術の方も序盤はその未熟さを村の老人たちに怒られていたが、中盤には周囲が驚くほどに高まっており、周囲のサポートありとはいえ困難な脳外科手術を2度執刀した他、世界的に有名な医学教授からスカウトを受けたことも*3

同年代のため一人(かずと)のことは「K」と呼び捨てにすることも多く、診察だけでなくプライベートで一緒に出掛ける場面もあった。

もうひとりの主人公の一也が村で生活し始めた際には、一緒に村の往診に赴いたり、二人で協力して診断し病名を確定させたりするなど、可愛い弟分として接しており、一也も兄のように慕っていた。
しばらくして一也を狙うクローン臓器組織の一員が医者と偽って村にやってきた際に、一也がKAZUYAのパーフェクトクローンと発覚しても変わらず兄貴分としてあり続けた。
またクローン臓器組織の一員が医者と偽った際にもあちらの些細なミスから彼らが医者でないと見抜いたりもしている。
ちなみにその回では即座の判断で停電を装い一也を連れて脱出したり、その組織の言い分に医者として反論したり瓦礫に潰されかけて無傷だったりと大活躍していた。
なお一也が明るい好青年に成長したのは富永がそばにいたからではないかと想像する読者もいる。

実家は町で大きな総合病院を経営しているが、厳格な父とその後継者とされることにプレッシャーを感じていた。
しかし、父の重病を聞いて帰郷した際に父を慕う患者と接し自分が医者としての父親と向き合っていなかったことを反省、また父の手術を自ら執刀しやり遂げたことを経て和解した。

お調子者なところもあるが*4、この手のキャラにありがちなトラブルメーカーになる展開は未熟だったころから存在しない。

根っからの医療バカで、久々の休暇で友人との飲み会を楽しみにして誘われた合コンでは相手の病気が気になってつい診察を始めたり、同窓会でも恩師の診療を始めてしまうほど。あの、そろそろ結婚しないと富永病院の後継ぎがいなくなるんですが…
医療以外でおちゃめなシーンがあったのは売れっ子女優に熱中した回や村出身の世界トップサーファーに影響されてボードを衝動買いした回くらい。
高品程ミーハーではないが有名人の事はある程度把握しており、各ゲストがそのジャンルでの有名人だという説明役をこなすこともあった。

他、世界的に有名な医師である「氷室俊介」の事は同じ医者として尊敬していたがKの手術を受けた後も必要もないのに村に居座り勝手に患者を見るなどしていた為「いつアメリカに帰るんすか~」と言い放つなど完全に幻滅していた*5


【来歴】


ここからは作中の時系列などに沿って富永研太の成長や詳細について記していく。



【家督】


オヤジが背負ってきたもの……
これからはオレが代わって背負うから!

富永が村にやってきて3年が経過して村にもすっかり馴染んだ頃に、母から父の進太郎が倒れてしまったという電話がかかって来る。
症状はかなり深刻であり急いで帰った富永がカルテを確認すると脳腫瘍であり、無理に手術をして周辺が傷つくと手足に重大な後遺症が残る可能性があった。
病院の院長を務めている進太郎がそれに気がつかないはずがなく、彼は後遺症を恐れて手術を拒否してしまう。
その理由は「オペを受ければ手足に後遺症が残る可能性があり、そうなると医者を引退するしかないから」だった。
だが事は命の問題なので富永は「手術を受けるべきだ」「病人なんだから病院の事なんかじゃなく自分の身体の事を考えろ」と二人の意見は真っ向から衝突。
元々二人の親子関係は上手くいっていなかった事もあり富永は病室を飛び出してしまう。
この際の富永は「後遺症が残ったとしても生きている方がいいに決まっている」「父が倒れても医者などいくらでも雇えば済む」と考えていた。
命が失われる事と比較すればこの考えも決して間違いとは言えないのだが、彼は病室から出た先で会ったのは富永総合病院に昔から通う大勢の患者だった。
彼らはみんな院長が倒れた事を、そしてこの病院が無くなってしまうのではないかと心配していたのだ。
大病院もいいけど何時間も待たされるしよそよそしい。それに比べるとここの病院は昔からみんな顔見知りだし院長も自分たちのことをわかってくれている。
その言葉を聞いて富永はようやく進太郎の気持ちを理解する。
元々富永が進太郎に反発していたのは父親のレールに敷かれた人生を歩むのが嫌だったからだった。
その気持ち自体は否定できるものではないのだが、患者たちにとって富永総合病院は生活していくうえでかけがえのないものであり、進太郎はたった一人でそれを守ってきたのだという事も理解したのだ。
それ故に彼は父親の後を継いで新しい院長になることを一人(かずと)に連絡すると、父親の手術を行う事を決意。

しかし手術自体は賛成だが万全を期すならもっと設備の整った病院でやるべきという当然の意見も出てきたのだが富永はそれを拒否。
病院にやってきた一人(かずと)や凄腕の麻酔医である道尾の力を借りて富永が執刀を行うことで覚醒下手術を行う事になった。

今までこの人から数え切れない程のことを教わった……
今日がKとの最後のオペだ!!
全力を尽くすぞ!!

そして彼は父親を助けるために一人(かずと)と最後のオペに臨む。
覚醒下手術はオペの最中でも患者が話すことができるので、進太郎は手術の前に言えなかったことを話す。
医者になって幸せなのか。本当は他にやりたい事があったのではないか。自分はなんと傲慢な父親だったのだろう悔やんでも悔やみきれないという本心を。
それに対して富永は医者になって本当に良かったと思っている事とその理由をいくつも伝えた。

これからはたくさん話そう
父さん

オペの最中に二人は完全に和解することができ、さらに腫瘍の摘出にも成功。
万全を期すために一人(かずと)に後を託したが富永は最後まで立ち会った。
進太郎の手術の成功だけではなく覚醒下手術を行えるほど見事な腕前を持っている富永が帰ってくることで院長も富永総合病院も安泰だと事務長だけではなく患者も大喜びだった。
富永に周囲は3日後に一人(かずと)が挨拶をしに来た際に進太郎は息子をここまで鍛えてくれたことに頭を下げるほどだったが、一人(かずと)は自分は何もしていないと答える。
富永が成長したと見えたのならばそれは彼自身が努力し勉強したからだと。
感激のあまり言葉も出なくなった富永は、目に涙を浮かべながら一人(かずと)に深々と頭を下げる。

【岐路】


オレ……

全然 成長していないんじゃないかな

富永研太という男にとってまさしく人生の岐路となった出来事が起きたのは村に来て8年目の事だった。
その間一人(かずと)の神業のようなオペを数えきれないほど見ており、最先端と言える場所で自分も成長したと思っていたのだが、指の接合手術の際にパニックに陥りかけたことで自分は全く成長していないのではないかと感じてしまう。*7
そして、久しぶりに休みをもらって大学に戻ってきた際には見知らぬ後輩で溢れており、そこに自分の居場所を見つけることができなかった。
自分はどこに帰ればいいのだろうという感傷に浸りながら実家に帰ろうとした際に重症の患者が運ばれてくるが、今は研修医だらけで受け入れることなど不可能だった。

だったらオレがやるよ!!

オペ室開けて! 大至急CTを!!

オレは外科の富永だ!!

助手は研修医だけという状況にもかかわらず見事にオペを乗り切り*8偶然視察に来ていた世界的外科医のキューザック博士からスカウトを受ける。*9
これは日本の医学界にとってかつてない名誉と言われるほどであり、将来は教授になることもあり得ると期待されるほどのことである。
しかし富永はキューザックに返事をするよりも先に富永総合病院のかかりつけ患者への治療を優先。
その患者は進行性のグリオーマであり最も難しい手術の一つとされるものだった。
オペに踏み切ろうとしている富永を止めるために院長であり父親でもある進太郎は一人(かずと)に連絡して事情を話すと、富永を止めてほしいと頼み込む。
しかし……

富永ができると言ったのなら――

絶対にできます

現代のドクターKは止めるどころか彼を信頼してサポートするべきだと伝える。
話を聞いていた一也は息を呑み麻上もK先生が手伝ってあげなくていいのかと言っても一人(かずと)は動かない。

あいつの診断とオレの診断は変わらん
やろうとしている事も同じだ
俺が行っても事態は変わらん
俺があいつにしてやれることは
何もない

一人(かずと)は家督のエピソードの際には富永の元に駆けつけている事を踏まえるとどれほど富永が成長したのか、そして一人(かずと)がどれほど富永を信頼しているのかがわかる言葉である。
そして一人の判断は正しく富永は執刀医として出術を成功させたのだった。
手術の後に富永は富永総合病院こそが自分の居場所であると気付き、スカウトを断って村と大学を離れる事を決意する。
最先端という言葉を嫌うキューザックとお互いに最前線で生きる医師としての健闘を讃え合って握手を交わした。
この際のキューザックは自分の目が正しかったことと惜しい人材を失った事を残念に思っていた。
大学に辞表を提出して一人(かずと)にも連絡を入れる。8年も世話になりつつ電話一本で申し訳なく思いつつも、自分を育て上げてくれた恩人に感謝の言葉を伝えるために。

せ…先生…! 今まで本当にあり…

水くさい話はやめろ


お前と俺は共に研鑽を高め合った戦友だ

その最大級の賛辞に富永は言葉を失ってしまい、周囲の目もくれずに号泣してしまうのだった。
自分の遥か高みにいると思っている一人(かずと)に戦友とまで言われた富永の気持ちを考えれば仕方のないことだろう。
その後は実家の勤務医として新たな一歩を踏み出すことになる。

さァ始まるぞ

ここがオレの居場所だ!!

8年間一人(かずと)と共に研鑽を積んできた富永は今まで学んだ全てをかけて一人(かずと)のように患者と付き合っていく決意を固めていた。

最初の患者さん――

お入りください!

自分の居場所を見つけた富永が迷いのない表情で最初の患者を迎え入れる場面で岐路のエピソードは幕を下ろす。
これ以降富永はレギュラーから外れてしまう事になるが村を出てからも一人(かずと)との交流は続いており、未経験の難手術の場合は執刀を依頼することもある。
その際には地方の個人病院でやれることは限られるが、医療機関が疲弊しないよう町医者としてできる限りのことをして食い止めようという決意を語っていた。富永総合病院はどんどんそんなレベルでなくなっていくが
そして正確な時期は不明だが、一也が医学部に合格した際には既に院長になっていた。



【一也放浪編】


一也くん!!

お……大きくなったなァ…

一也が大学を離れて放浪の旅に出ら終わりの際に久しぶりに登場した*10
久しぶりの再会に思わず涙を流して抱き着いてしまい人間的に大きくなったことを喜ぶ。
同時に麻上から事情を聞いており力になるからいくらでもここにいてくれていいと語るも、その一也がオレはもう大丈夫ですと言うとポカンとしていた。
というもの一也はすでに立ち直っており村に帰ろうとしたのだが「その前にどうしても会わなければいけない人がいる」「もう大丈夫だという事をまずは富永先生に報告したいと思った」という理由で会いに来たのだ。
一也にとって富永がどれほど大きい存在であるかがわかる言葉であるが本人はおそらく気付いていない。
その際にスチューデントドクターとして手伝いたいという一也の提案を了承、二人で手術に挑んだ際には抜群のコンビネーションを見せた。

村を離れてからも研鑽を積んでおり、「院長は専門でやってる者がビビるくらいなんでもやる」「院長の手術は一見の価値がある」と専門医が手術の腕を認めるほどになっており、その人柄ゆえに勤務医から患者まで広く慕われている。
一也も気づかなかった患者の症状の原因を見抜いたりと、7年間で800ほどのオペを経験した現在は村にいた頃とは別人と称するほど医者として成長していた。

また研修医を預かる立場にあり、様々な問題や悩みを抱えている研修医をフォローしたり導いている院長らしい面も見せている。
だが当然ながらすべてが上手くいくはずがないので、とある出来事が起きた際に父であり元院長でもある進太郎に上立つ者の苦しみもわかってきたかと言われている。
この時の進太郎が息子に投げかけた「見守るしかない」という言葉は厳しさを含みながらも人の上に立ってきた人物だからこそ言える重みがある。

そうだな……

今は見守るしかないんだな……

その後富永がとある患者に対して言った「自分にはあと何年の人生が与えられているのか改めて考えたからこそ後悔しない道を選ぼうとした」という言葉を聞いた一也は富永総合病院を去る。
一也は去り際に兄のような存在である富永に何も言わずに頭を下げると、富永も何も言わずに一也を見送った。
黒須一也がどんな医者になるのかを彼はこれからも見守っていくのだろう。

ちなみに冒頭の「大きくなったなァ」と言うセリフだが、一也本人も言う通り2人の見た目自体は別れた頃から変わっていない。
だが前述の通り彼が内面的に大きく成長したことを、再会してひと目見ただけで見抜いたのである。
そういう意味でも、別れて久しいがやはり一也の兄なのは変わらないのだろう。

【バディ】


お元気そうで

お前もな

一人(かずと)が一也の様子を見に高品総合病院に行った帰りに富永にも会いに行った際にも登場。
この時の二人は顔を会わせるなり上記の言葉と共に腕を合わせて一緒に歩きだしている。
それを見ていた研修医の川田は思わず「な…何? このバディ感……」とポカンとしており牧村は頬を染めている。
夕食の後に一人(かずと)を飲みに誘ったが「柄ではないがお前と飲むのは悪くない」とそのまま二人で飲みに向かった。*11
その際に富永は一人(かずと)の事を先生や師匠と表現してもしっくりこなかったが「とにかくオレを一人前の医者にしてくれた一番大切な人なんだ」と話している。

この際にこっそりついてきていた心臓外科医の瀬戸も飲みに参加するのだが、彼が一人(かずと)に対して「いったいどんな経験を積めばうちの富永院長はあんなすげぇ医者になれたのか」と質問されたことで一人(かずと)が富永をどう思っているのかが語られる。

一人(かずと)「富永は村に来た時から医者であり覚悟の決まり方も尋常ではなかった」と認めており、人を救いたい情熱に満ち溢れ、その眩しさは一人(かずと)も何度も救われたと話している。
そんな彼だからこそドクターKの元で成長できたのは間違いなく、富永は一人(かずと)が自分を一人前にしてくれたと言っているのに対して、一人(かずと)はあいつの実力は自分自身で勝ち取ったものであり、俺はただ見ていただけだ」と述べている。
当初こそ「お前にしては上出来だ」「(一也に対して)富永ともども鍛えてやる!」などと語ったこともあったが
実際、彼が医師免許を取得して正規の医者として活動し始め村を空けることも増えていた頃から、富永は周囲のサポートがありながらも村の診療を立派にこなしており強い信頼をしていることがわかる。

一人も研太も2人とも、(合法非合法の違いはあれど)医師の家系に生まれて親と同様に医師を目指した点で共通しつつ
  • 生まれ故郷でひっそり腕を磨き、20代そこそこの若年にして神業と言われるほどの腕を持ちつつも、一族の定めに従い陰の者として一生を終える覚悟をしていた一人
  • 医師になるよう親からの圧もあったとはいえ、一通りの過程を終えた後は親の反発も聞かずに自らの意思で無医村赴任を選んだ研太
研太が一人とK村から学び取ったものがあることは度々語られてきたが、一人の方も余所者であった研太の持つ「熱意」に何か動かされるものがあったのだろう。

一人(かずと)が若者の育成に悩んでいる際もそれにあっさりと気がつき「あなたは何もしなくてもいいですよ!俺がそうでしたもん!ドクターKのそばにいるだけでどんな医学書を何百冊も読むより勉強になるんだから!」と熱弁を振るう。
しかしそれは教えられる側がその事実に気が付いて自ら学び取る向上心を持っている事、なにより人を救うという事に熱意と誇りを持っているから成立する話という事に気付いていない。
それ故に一人(かずと)から「お前は自分の優秀さに気付いておらん」と言われた際も「今、ほめられたのか?」と耳の錯覚を疑っていた。
実際に自分を変えたい一心でドクターKに医学を教えてほしいと頼んできた譲介ですらそのことに気が付くのに半年ほどの時間を必要としており*12一人(かずと)が何も教えてくれない事に疑問と不安を感じていたが、村井の言葉でそのことに気が付いてからは医学的な面だけではなく人格的な面でも急成長を遂げている。

また一人(かずと)が自分は変わってしまった事、若い医師や未熟な研修医を見ると「力になりたい。その若者を富永や一也と同等にまで引き上げたい」と思っているように、富永も「ここに勤める医者は全てどこに出しても恥ずかしくないくらいの名医になってほしい」と感じるようになったことを吐き出した。

お互いトシをとったものだな……

……や やだなァ! そんな……

オレ達はまだまだ老け込むには早いっスからね!!

そう言いながら一人(かずと)の背中を叩いているが、彼にこんなことができる者はそういないだろう。
病院での手術が終わり一人(かずと)が帰る際には彼が全く変わっておらず以前よりも凄みが増していること、そして変わらなければいけないのは自分達であることを伝える。

これからはもっと頻繁に連絡を取り合いましょう!

オレはいつでも飛んでいきますから!

一人(かずと)の力になりたいと考える富永と握手をかわそうとした瞬間に救急から5分後に救急車が来ると連絡を受ける。
そして今度は一人(かずと)「行ってこい!」と背中を叩かれて富永は走り出し、一人(かずと)は頼もしき戦友の背中を見送った。

またいつかあの酒を飲もう!



【普通の医者?】

この記事にも記したように初登場時はお世辞にも一人前とは言えなかったが、長い年月をかけて医者として大きく成長している。
それは一人(かずと)も認めており明らかに他の医者より高い水準にいながら、冨永は自分のことを一般的な医者と思っている節がある。
作中での彼の経歴を簡単にまとめると

  • 初登場の時点では技術などは未熟ではあるが患者の命を救うために法を犯してまで手術に参加する。*13
  • 村に来て3年目に一人(かずと)や道尾のサポートを経て覚醒下手術の執刀を行い成功させる
  • 村に来て8年目に「自分は全然成長していないのではないか」と思い悩んでいたが、実際は自分以外は全て研修医*14という状況で執刀を行い成功させ、世界的な医学者のキューザックにスカウトされるほどの腕を持つ。この時点でもう普通ではない。
  • そして最も難しい手術の一つとされているグリオーマ摘出術を成功させる。やはり普通ではない
  • 村を出てて役7年後には800ほどの*15オペを経験し、一也に村にいた頃とは別人という印象を与える。
  • 恐ろしく切れる心臓外科医に「いったいどんな経験を積めばあんなすげぇ医者になれたのか」と疑問に思われている。

このように明らかに普通の医者ではない。
富永の性格上天狗になるのはありえないと思われるが、もう少しくらい自分を褒めてあげてもいいのではないだろうか。

実際「帰路」のエピソードでは前述の通り「研修医だらけ」であるが、彼らは腕もだがその精神も医者としては未熟であったが、「地方に飛ばされた」富永の医療技術と精神性を見て大きく衝撃を受けた。
特にキューザックのスカウトを断った事を聞いて「あんな医者にならない」と言った後、患者の親に感謝の言葉を述べられて言葉を詰まらせた医者がいた。
彼の名前は白石、価値観は大きく乱され精神状態もグチャグチャであり医者というものがわからなくなっていたが、後に意外な再登場をすることとなる*16

だがKの存在が富永に衝撃を与えたように、富永の存在もまた若い医者たちを悩ませたのも事実。
Kが言う通り「自分がどれだけ優秀な医者かわかっていない」のは彼の弱点とも言える。
謙虚なのは美徳ではあるが、自分の身の程を知るというのも大切なのだが、果たして……。

【富永総合病院】

S県の台悠参駅を最寄りとする総合病院。
進太郎、研太の院長親子への信頼は厚く、2人の真摯な人柄により「院長に言われちゃ仕方ない」と矛を抑えてくれる人も。
やらかしたスタッフに激怒した患者も「こいつの治療は受けねえぞ!」と病院全体の非難でなく個人への糾弾に留めているあたりも病院としての信頼がうかがえるだろう。

あくまで地方の一総合病院のため高難易度の治療は専門病院を紹介しているが、病院としてはそれを当然とせず設備投資とスタッフの能力研鑽を進めて高度な治療ができる体制を整えようとしている。

なお、第1話の段階では研太の祖父も現役だと説明されていたが、本人の描写がないため詳細は不明である。

富永 進太郎

富永研太の父。S県にある富永総合病院の院長。
初登場で既に60を超えた老齢ながら部下に慕われており、度々患者となる町の人達からも信頼厚い頼れる医師。
しかし頭が固く若干融通が利かない部分もあり、研太が子どもの頃から医者への道を強制して勉学を強制し、無事医師となった彼が無医村赴任を選んだ際にも「まだなにもできないくせに」「医者として無駄な時間を過ごしているだけ(意訳)」と決めつけていた。
とはいえ自分のミスはしっかり認めるタイプであり、自身が大手術を受ける際には万が一言い残したくないこととして研太に医師への強制と無医村赴任への反発を傲慢な父だったと謝罪している。
一人のことも最初は軽んじていたが、息子の執刀による脳外科手術を受け、息子がたった3年で脳外科手術を執刀出来る腕になったのも彼の教えのおかげと深く感謝している。
研太の方も父に反発したことがあったとはいえ、医師を選んだのは父進太郎への憧れと敬意があったからと語り、和解に至った。

患者のためなら食事もとらずに手をつくし、時に頭を下げることができる人であり、特に息子の師に等しい一人へは年齢も気にせず相当な敬意を示して対応している。
登場序盤は頭の固い頑固おやじとしての登場であったが近隣住民からの医師としての信頼は厚く、慎重寄りだが理にかなった適切な助言もしている。
  • 息子である研太の無医村赴任を咎めているが、その真意の一つは「医師としてまだ未熟だから若い内は腕を磨くことも考えろ」という、言葉は荒いものの医師として先人として真っ当な言葉でもあった
実際、赴任当初の研太は僻地での想定外の重傷者にうろたえ適切な処置ができなかったのは上述の通りであり、父の懸念も合っていたと言えよう。Kの一族の村でなければ研太も今ほどの腕があったか微妙なのは確かである。*17

  • 研太が恩師の診察にあたり、病名まで自力で見出した首の異常に手術が必要性なことを知って「お前にはまだ早い」と自身での執刀を避けるよう勧める。
首は重要な神経血管も通る繊細な部位の一つであり、万が一を考えれば慎重な意見を出すのも当然のことだろう。
もっとも今回の件は研太の方も自身の手に及ばない内容であることを自覚しており、父親の助言の前から執刀をせず一人に依頼することを決めていたという。
身内だからと冷静さを失わず、見栄を張らずに自らの力量を把握したその行動を見て以降、進太郎は息子を一流の医者として認めることとなる。

  • 脳腫瘍グリオーマ(神経膠腫)の患者の今後を食事も飛ばして検討し、こっそりカルテを見ていた研太が手術を決断すると一人に止めてくれるよう依頼する。
しかし一人が研太を信頼して手術の決断を支持すると覚悟を決めて自身も手術に同席。
繰り返しMRIを撮って進捗を確認する手術の中で造影剤の増量を進言したり、長時間のオペで気力が落ちかけた息子に檄を飛ばす等、院長の貫禄を見せた。


研太が故郷に戻ってから5~6年が経過する間に院長を退いたが「やりたいことがある」と訪問医療部門を立ち上げ、在宅療養の人々の元を訪れて回る形でなおも町の人々に医師として尽くしている。
このときは生意気な鼻っ柱を折られて凹む研修医に元院長の立場を隠したまま近づき内緒で自分の仕事に連れ出すという、初登場時からは想像もつかない茶目っ気も見せた。

ちなみに過去回想からかなり昔から白髪かつ老け顔だった様子。

瀬戸

ワイルドな風貌の心臓外科医。
一度手術を見学した一也が「富永総合病院には恐ろしく切れる心臓外科医がいる」として一人に紹介しており、対面した一人も「腕前を持つ医者というのは独特の匂いを持っている」と手術を見る前から評価した。
(このとき一人から一也の紹介を聞かされた瀬戸は伝説の医師の言葉に照れ焦るような姿を見せた)
研太については「院長の若い頃の話が聞きたい」と一也に軽口を叩きつつも大きな信頼を寄せており、カンファレンスに参加していた研修医が院長の判断に疑問を呈した際はそれを遮って院長が専門外の分野もこなす凄腕であることを紹介*18しつつ責任者としての役割を説いた。
「院長の若い頃の話が聞きたい」もただからかっているだけでなく、専門外分野の腕も見事な院長の修行話と人間味あるエピソードの両面を求めてのものである。

457話では研太と一人見つけると勤務を終えた2人をこっそりと追跡し、上司である研太院長におごらせつつ伝説のドクターKと対面会話する機会を得るちゃっかりした姿を見せた。

堀田

循環器内科医。
心臓疾患の患者の治療方針を巡り瀬戸と対立する形で登場。手術を急ぐべきとする瀬戸に対し、合併症の症状を抑えてからでないと予後に影響が出るとして内科治療の優先を主張した。
意見が対立したとはいえ外科を嫌悪・軽視しているわけではなく、根治治療には手術が必要な病があることを重々把握した上で患者の負担を減らせる策を考えているのだと研修医に語っている。

後に一人が富永総合病院を訪れた際も登場したが
「瀬戸先生…あなたはひどい人だ!」と凄い剣幕で人聞きの悪い言葉を放つ形で登場。瀬戸は困惑。
だがその内容は「院長とドクターKと飲みに行ったのに、なぜ私も誘ってくれなったのですか!?私だって話聞きたいんですよ!」
と抜け駆けを羨むものであった。

高木、牧村、木暮、川田

354話から富永総合病院での研修が始まった研修医。高木、木暮、川田は男性、牧村のみ女性。
川田は地方とはいえ思っていたほど寂れていない町を見てやる気に燃えていたが、他三人は地方なんてレベルが低いと見下しやる気がなく、早々に外来を担当した小暮は雑な診察と失礼な言動で患者を怒らせる始末であった。
だが高木が雑な診察で致命的疾患の症状を見逃してしまい、それを一也と富永院長含む先輩スタッフに奇跡的に救われたことを機に心を入れ替え、以降は真剣に研修に取り組み様々な壁にぶつかっていく。
研修に行く途中で出会った一也を当初は自分たちと同じ研修医と思っていたが、まだ医学生の後輩と知った後も嫉妬対立せずにその腕前を認めており、緊急時に指示を出された際は素直に従っている。

後に富永総合病院が再登場した際も研修医として所属しており、このときは牧村と川田のみ登場。一人を見つけるなり2人でボディランゲージを始めた院長の普段見ない姿に困惑していた。
高木と木暮は一度大学に戻ったが来年再び訪れる予定であるという。


【余談】

  • 名前の由来は明言されてないが、作者の真船一雄先生が特撮ファンでいくつも特撮ネタを盛り込んでいることから、仮面ライダークウガなどのスーツアクターとして知られる俳優の富永研司という説が有力視されている。

  • 劇中で年齢が明言されておらず、台詞から推測される年齢もブレや矛盾が散見されるが、開始時点で24~26程度と思われ、一人(かずと)とそれほど歳は離れていない模様。
    一也放浪編(2018年)では38~40前後のれっきとしたアラフォーで、457話(2023年)では43~45歳となるが、見た目には一人(かずと)以上に老化の気配が見られないことはネタにされている。


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最終更新:2025年01月12日 12:19

*1 なお、Kの方の診療所に出入りするようになったためか、前任者がいた本来の診療所の描写はほとんどない。

*2 1話の段階では祖父も現役だったと語られている。

*3 未熟な研修医を励ましつつ長時間の手術をやりきった人格面を加味してのスカウトではあるが、自分のチームメンバーとして相応しいだけの医療技術は持っていると教授は評価していた

*4 お調子者なところは村の診療所の面々が過去に暗い部分を持っている人が多いために、それをフォローするために過剰に明るく振舞っていたりする。実際彼がいないと一也がだいぶ静かになったと感じるほど

*5 メタ的には一人(かずと)の父親の手術痕を幼馴染として説明する為に少しの間残っていたのだと思われる

*6 富永も言っているが万全を期してのことで医者としての判断は間違っていない

*7 なお富永は2時間で指を1本繋げているのだがこれもとんでもないスピードだという事に本人は気付いていない

*8 なお助手の二人はこんなスピードのオペは見たことがない。僻地の村でどんな経験を積んできたのかと驚いている

*9 この時は冷静な診断、卓越したメススピード、5時間を越えるオペにも余裕なタフネス、特に未熟な研修医の助手二人を導きながら手術を成功させたリーダーシップを評価された

*10 紙面掲載時には聴取というタイトルだったが単行本掲載時には変更されている。聴取からラストインターンまでを含めて富永総合病院編とまとめている読者も存在する

*11 初期の一人(かずと)は初対面の大垣に朝から飲みに誘われた際にはノリ気だったのだが、年を重ねて考えが変わったのかもしれない。仮にそうだとすれば考えが変わっても一緒に飲むのは悪くないと思えるのが富永なのだろう

*12 最も譲介はまだ医者どころか医学生ですらなかったことに加えて境遇なども富永と違っていたことも原因だと思われる

*13 手術に参加すると決めた時から警察に捕まる覚悟はできていた

*14 しかも手術は初参加なので指示なども全て富永がだした

*15 開腹手術が450で鏡視下手術が350ほど

*16 なお、正式に再登場する前にも彼らしき人物が21巻のエマージェンシーのエピソードの中におり、Kと行動をしている場面もあった。

*17 研修医制度は連載開始と同時に始まっているため、研太は該当していない。

*18 なおこの際に脳外科や消化器、整形など様々な外科分野が挙げられる中で心臓外科は挙がらなかった。実際劇中で描かれた内容としても序盤の心臓移植に居合わせたのみで直接対応した場面が他になく、心臓だけは専門医に任せているのかもしれない。